OLD WAVE

サイケおやじの生活と音楽

ザ・バンド with ボブ・ディラン

2010-02-16 14:39:36 | Singer Song Writer

Planet Waves / Bob Dylan (Asylum)

だいたい私の世代の洋楽ファンがボブ・ディランを意識したのは、モダンフォークのPPMやフォークロックのザ・バーズ、そして例の「バングラ・デシのコンサート」だったと思います。

あるいは昭和40年代の我国におけるフォークブームからボブ・ディランに入った皆様も大勢いらっしゃるでしょう。

しかしそんな頃、肝心のボブ・ディランは何をしていたかというと、個人的なリアルタイムでは最初に買ったLP「新しい夜明け」がアメリカでは1970年の発表で、これは相当に聴き易い仕上がりだったんですが、続く「ディラン」というアルバムが、以前に他人の曲をメインに歌った2枚組「セルフ・ポートレイト」からの余り物としか思えない内容だったのと、自身も脇役で出演した映画「ビリー・ザ・キッド」の疑似サントラ盤ぐらいしか、纏まったレコードを出していなかったのですから、???

まあ、シングルカットされ、ヒットした「天国への扉」は良かったですが、それだって今ではエリック・クラプトンの代名詞のひとつになってしまった……。

ですから昭和49(1974)年になってから伝えられたボブ・ディランの新作と久々のコンサートツアーに、ザ・バンドが全面的に共演しているという報道は、それこそ伝説の復活として血沸き肉躍るものがありました。

それはなにしろ、現代と違って洋楽の情報が極力限られ、しかも遅いという時代です。

ザ・バンドを従えてボブ・ディランがライプの現場で作り上げた黄金期のハードなフォークロックは、その後のボブ・ディランのバイク事故による隠遁生活と所謂「地下室」からレコーディング流出音源によって、まさに神聖なものへと昇華されていたのですから、とうとうそれが再び姿を現すという期待は膨らむばかりだったのです。

もちろんそれまでも公式盤ではボブ・ディランとザ・バンドの共演が、例えば「セルフ・ポートレイト」に収録されたライプ音源の4曲等々、極僅かですが出回っていたのですが、正式なスタジオセッションによる作品は無かったはずでした。

そしてついに発売されたのが、本日ご紹介のLP「プラネット・ウエイヴ」でした。しかも驚いたことに、それまでのCBSコロムビアから、アサイラムという新興レーベルに移籍しての制作だったのです。

 A-1 On A Night Like This / こんな夜に
 A-2 Going, Going, Gone
 A-3 Tough Mama
 A-4 Hazel
 A-5 Something There Is About You / 君の何かが
 A-6 Foerver Young / いつまでも若く
 B-1 Foerver Young / いつまでも若く
 B-2 Dirge / 悲しみの歌
 B-3 You Angle You / 天使のような君
 B-4 Never Say Goodbye / さよならと言わないで
 B-5 Wedding Song

まずA面冒頭、何気なくかき鳴らされる生ギターのイントロから歌い出されるディラン節、それへ瞬時に合わせるザ・バンドのタイトな演奏! もうこの瞬間だけで歓喜悶絶しましたですねぇ~~♪ 確か、この「こんな夜に」はシングルカットもされ、同年春先からラジオでは流れまくっていた記憶も鮮烈ですが、実際、ウキウキするような曲メロを歌い流すボブ・ディランの存在感は、まさにこちらが思っているとおりイメージでしたし、全くザ・バンドでしかありえない演奏パートのナチュラルなグルーヴもたまりません。おそらくはガース・ハドソンによるアコーディオン、ヘヴィなビートで軽やかにリズムをキメるリヴォン・ヘムの匠の技のドラミングが特に印象的ですねぇ。

本当に何時までも聴いていたい気持良さなんですが、僅か3分に満たずに終わるのが悔しいほどの気分を、続く「Going, Going, Gone」が思いっきり泣きの世界へ誘うのですから、たまりません。

じっくり構えて凄みを滲ませるボブ・ディランの歌いっぷり、相変わらず分かりにくい歌詞を含んだ曲の作りもなかなか熱く、それを彩るザ・バンドの演奏ではロビー・ロバートソン独得のカキクケコギターが、こんな泣き方もあったのか……!? と感動させられる名演を聞かせてくれるのです。

さらにファンキーロックな「Tough Mama」は、ザ・バンドとの共演でなければ決して作れなかったヘヴィフォークでしょうし、実際、ここではザ・バンドが完全に主役かもしれませんよ。

しかし流石はボブ・ディラン! 続く「Hazel」は完全に「美メロのディラン」が堪能出来る、実にせつないラヴソング♪♪~♪ ザ・バンドの控えめな伴奏も結果オーライだと思いますし、後にはあの「ラストワルツ」で両者の共演が残されているのも興味深いと思います。

そして続く同系の「君の何かが」から、いよいよ出るのが、今やボブ・ディランの作った歌の中では最も有名なもののひとつとなった「いつまでも若く」で、この哀愁三連発ともいうべき流れは、歌詞の中身は分からなくとも、曲メロを活かしきったボーカルと演奏の説得力の強さによって、忘れられない印象になるのです。

いゃ~、実際、このA面の美しき流れはクセになりますよねぇ~♪

こうしてレコードをひっくり返したB面では、なんとAラスに入っていた「いつまでも若く」がアレンジどころか曲メロまでも自己編曲されて歌われますが、そのAラスのバージョンが所謂アンプラグドでシミジミと、そしてシンプルに力強く歌われていたのに対し、こちらはどっしり重心の低いスワンプ系ゴスペルロックでありながら、意外にあっさりしたボブ・ディランの節回しが微妙な位置づけかもしれません。

ただし、それもおそらくは計算づくだったの思わされるのは、続く「悲しみの歌」のせつせつとした雰囲気の濃さでしょう。おそらくはボブ・ディランのピアノ弾き語りにロビー・ロバートソンの幾分ジャズっぽい生ギターだけで演じられる悲壮な決意表明! なんともシンプルでヘヴィな歌だと思います。

ちなみにこのアルバムセッションは、後に知ったところによると、ほとんどが一発録りの短期決戦だったとか!?! それゆえに切迫した内容の歌ではギスギスしたものが剥き出しになり、反面、楽しさや甘さが表出される演奏ではノリが良く纏まっているのかもしれません。もちろんそれはザ・バンドという、熟練の集団と相互の固い信頼があってのことだと思います。

そのあたりが如実に感じられるのが、「天使のような君」や「さよならと言わないで」という、失礼ながら、このアルバムの中ではそれほどの冴えも感じられない歌で、結局はちゃ~と収まるべき場所を見つけたという仕上がりになっているのは、ザ・バンドの存在証明じゃないでしょうか。

そしてオーラスの「Wedding Song」に至り、ついにボブ・ディランが生ギターだけで歌い、ハーモニカを吹いてくれれば、そこは恒久的なディランの世界という、素晴らしきワンパター!!! 全て分かっている楽しみが心地良いんですねぇ~♪

ちなみに各々の歌の歌詞の内容は、聴いていてすぐに分かるものではないでしょう、特に日本人には。しかしそこから伝わってくる説得力はボブ・ディランならではの強さが確かにありますから、耳で覚えた曲メロと歌詞のフレーズを口ずさんでしまうほど、このアルバムはある意味で聴き易く仕上がっています。

もちろんスピーカーの前でじっくり聴くのも最高の時間でしょうし、カーステレオやロック喫茶の店内、あるいは気の合う仲間との飲み会で、涙しつつ楽しむことも可能だと思いますから、やはり人気盤♪♪~♪

また当然というか、我国のフォーク系ミュージシャンに与えた影響も相当にあり、このアルバムで聴かれるサウンドをモロにパクッたレコードを幾つか聞いたこともありましたが、まさかそれが例えばユーミンあたりの所謂ニューミュージックに取って代わられようとは、知る由もありませんでした。

実は告白しておくと、リアルタイムでのサイケおやじは最初、ラジオのFM放送で丸ごと流されたこのアルバムをテープにエアチェックして聴いていたんですが、ついに4日目には我慢出来ず、輸入盤のLPを買ってしまったほどです。そして実際にアルバムを手にとってみると、ボブ・ディラン本人が書いたとされるジャケットのヘタウマな絵や手書きのアルバムクレジットから、妙な親近感を覚えたのも懐かしい思い出です。

ご存じようにボブ・ディランとザ・バンドは、このアルバムの発売に合わせて北米巡業を敢行し、そこからはこれも私が愛聴して止まない2枚組のライプ盤「偉大なる復活」が作られたわけですが、今になっての客観的な視点では、このふたつの共演作はファンが望んでいた「1960年代中頃のディランのイメージ」を増幅したサービスだったのかもしれない……、と不遜なことまで思ったりします。

お叱りは覚悟していますが、それでも私のような古い人間が長く今日まで愛聴出来ているのは、そんなところにも要因があるのかもしれません。

極言すれば、このバックがザ・バンド以外のメンツだったら……? なんてことを想像するだけで、ちょいと悪い予感に満たされるのです。

ただし、個人的には「いつまでも若く」よりは、「昨日よりも若く」と歌ったボブ・ディランに共鳴する部分が多いのも確かです。

それと最後になりましたが、ボブ・ディランはこのザ・バンドとの「プラネット・ウエイヴ」と「偉大なる復活」を作った後、古巣のCBSコロムビアと再契約し、その2作品も同レーベルから再発され、今日に至っていますが、以前友人から聞かせてもらったCDに顕著なように、アサイラムでプレスされていたレコード、つまりオリジナル盤に比べると、音が些か痩せているのが気になります。

このあたりは現行のリスマターCDでは未確認ですから、最新盤を買ってみようかなぁ~。そんなことを思っているのでした。

コメント (4)
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