OLD WAVE

サイケおやじの生活と音楽

ロック喫茶でボビー・チャールズ

2010-02-15 14:39:43 | Singer Song Writer

Bobby Charles (Bearsville)

1970年代の日本ではジャズ喫茶がそれでも元気だったように、ロック喫茶やソウル酒場なんていう店も沢山ありました。

それはだいたい学生とか自由業の連中が客層で、同じ若者といっても所謂ネクタイ族は些か居心地の悪い世界でしたから、店内で鳴らされるレコードも決して流行物ではなく、シブイ好みが反映されていました。

ですから、そこで出会う歌と演奏、隠れ名盤の数々こそが、ある意味では青春の思い出にもなっていて、本日ご紹介のアルバムも、サイケおやじにとっては、そのひとつです。

ちなみにこれまでも度々述べてきたように、サイケおやじは体質的に酒に酔うことがほとんどありませんから、仲間内でそういう店に集まってウダウダと飲み食いし、盛り上がっていても、妙に客観的になって浮いてしまうことを自覚するがゆえに、流れている音楽に逃避するという悪いクセがあります。

つまり酒よりも音楽に酔う雰囲気なんですが……。

それにしても、このアルバムはシブイ! その一言です。

なんというか、ザ・バンドっぽい演奏パートとR&Bやカントリーロックをハートウォーム優先主義でスワンプロック化したような、つまりは如何にも1970年代前半のアメリカ系シンガーソングライターがイブシ銀にやってしまった地味な作りです。

もちろん派手なギターソロも出ませんし、大仰な力みや開放的な曲メロも無く、それでいて琴線に触れるシミジミとした情感や懐かしい雰囲気が滲み出た歌ばっかりなんですねぇ。仄かなジャズっぽさも良い感じ♪♪~♪

 A-1 Street People
 A-2 Long Face
 A-3 I Must Be In A Good Place Now
 A-4 Save Me Jesus
 A-5 He's Got All The Whiskey
 B-1 Small Town Talk
 B-2 Let Yourself Go
 B-3 Grow Too Old
 B-4 I'm That Way
 B-5 Tennessee Blues

まずA面初っ端から重いビートとイナタイ雰囲気、ファンキーグルーヴさえ秘めたリズム隊とアコースティック&エレキのギターが絶妙のスパイスを効かせる「Street People」では、それがイキそうでイカない曲メロを彩るという、実に思わせぶりな展開です。

ちなみにモロにザ・バンドしている演奏を作るメンバーは、リック・ダンコ(b)、リチャード・マニュエル(p,ds)、ガース・ハドソン(key,sax)、リヴォン・ヘルム(ds) という、本物のザ・バンド! そしてエイモス・ギャレット(g)、N.D.スマート(ds)、ジェフ・マルダー(g)、ドクター・ジョン(p)、ベン・キース(stg) 等々、今となっては多士済々の顔ぶれが名前だけですが、裏ジャケットに記載されています。しかしこのアルバムを初めて聴いた1974年の私は、ザ・バンドのメンバーしか、その正体を知らなかったのが本当のところです。

もちろん主役のボビー・チャールズにしても、ジャケ写から白人だと知れるぐらい……。そして自作自演のシンガーソングライターらしい……。

ですから、次にその店に行った時、サイケおやじはこのアルバムをリクエストし、ジャケットを見せてもらいながら、マスターにいろいろと教えを請うたのです。

で、そのボビー・チャールズは1950年代からニューオリンズ周辺のR&B系歌手に曲を提供する裏方であり、1960年代には自身もシングル盤を出していたようですがパッとせず、しかも悪いクスリに溺れてキャリアを台無しに……。

そして1970年代に入り、ニューヨーク郊外のウッドストックという小さな町に拠点を移し、ちょうどその頃、当地とも因縁浅からぬザ・バンドやボブ・ディラン等々のマネージメントをやっていたアルバート・グロスマンが設立したベアズビルレコードと契約し、1972年に制作発売されたのが本日の1枚だったのですが、前述のセッション参加メンバーも、そのコネクションで集められたのでしょう。

ですから、ボビー・チャールズが本来持っている南部系R&B風味、ニューオリンズ特有の陽気な哀愁がゴッタ煮となったソウルジャズ、さらに白人が自然に歌えるカントリーロックの雰囲気、おまけに当時の最新流行だったザ・バンドに影響されたシンプルで力強いグルーヴが、シブイ情感を滲ませるのは必然でした。

ローリングするピアノと味わい深いオルガンが印象的な演奏パートをバックに、それこそホノボノとせつなく歌われる「Long Face」は、これぞニューオリンズスタイルのR&Bが白人的に解釈された決定版♪♪~♪ もちろん「ニューオリンズスタイルのR&B」なんていう言葉は、このアルバムを聴いて以降に私が勝手に使っているわけですが、それでも続けて興味を持ったファッツ・ドミノ等々のオールディズR&Bには、同じ味わいがあってシビレましたですねぇ~♪

同様に「I'm That Way」は、もう後のリトル・フィートに直結していきそうな真性ファンキーロックのニューオリンズ的味わいが全開! このスライドギターとローリングするピアノの楽しさは、幾分ネバネバしたボビー・チャールズのボーカルを見事に盛り上げていますし、タメが効いてタイトなドラムス、躍動するベースもたまりません♪♪~♪

またジャズスタンダード曲のようでもあり、地味なAORバラードとも言うべき「I Must Be In A Good Place Now」での、そこはかとない泣き節の上手さは絶品ですし、この曲メロのせつない甘さは忘れられませんよ♪♪~♪ ボビー・チャールズは失礼ながら、決して歌の上手い人ではないと思うのですが、それゆえに朴訥としたリアルな心情吐露が、実に良いんです。

同系の歌では本当にシミジミした曲メロとサウンド作りの中、辛辣な歌詞がちょっとイヤミな「Small Town Talk」が、これまた絶品♪♪~♪ 今日まで、けっこう多くの歌手に好まれているのもムペなるかな、これぞっ、ボビー・チャールズの代表曲のひとつです。そしてオーラスに置かれた「Tennessee Blues」もまた、せつない悔悟と新しい明日がホロ苦く歌われた名曲名唱ですよ。

一方、ゴスペルロックのイナタイ解釈が素敵な「Save Me Jesus」も個人的には大好きですし、ちょいとライ・クーダーあたりがやりそうな「He's Got All The Whiskey」でのオールドジャズとカントリーブルースの素敵な結婚も魅力的♪♪~♪ ちなみにここでバリトンサックスを吹いているのはデイヴィッド・サンボーンだと言われていますが、テナーサックスはガース・ハドソン? リズム隊が少しずつファンキー化していくのも流石でしょうね。

しかし正統派カントリーロックのスロー曲「Let Yourself Go」では、逆に白人ジャズっぽい歌唱を聞かせてくれたり、ブルースロックに接近しつつ、結局はホノボノ路線に入ってしまう「Grow Too Old」の不思議な味わいは、メインでブロデュースを担当したジョン・サイモンというアメリカ大衆音楽の隠れた鬼才の企みによるものでしょうか……。個人的には???なんですが、LP片面を通して聴くと、これが妙に納得される流れなんですよ。おそらくはデイヴィッド・サンボーンと思わせるアルトサックスも泣いていますし♪♪~♪

ということで、これまたサイケおやじが棺桶盤の1枚なんですが、現在はCD化もされ、容易く聴ける状況も、当時は日本盤も無く、入手に苦労させられました。

そして聴くほどに魅せられたサイケおやじは、裏ジャケットにクレジットされたメンツの名前を頼りに、同系の味わいを求め、レコード探索の奥の細道を歩んで行くのですが、ハッと気がついてみると、私の大好きなトッド・ラングレンのソロアルバム群が、このペアズビルレコードから出ていたり、また所謂ウッドストック人脈の例えばドラマーのN.D.スマートが初期マウンテンのレギュラーだったとか、私の好みの各所に共通する存在感を示していたことも意味深でした。

それとザ・バンドの4作目のアルバム「カフーツ」やライプ盤の「ロック・オブ・エイジス」あたりから顕著になったニューオリンズR&B味が、実はボビー・チャールズを通じてコネクションが出来たアラン・トゥーサンという偉人の影響という真相も意義深いところだと思います。

ちなみにザ・バンドのリック・ダンコが、このアルバムのもうひとりのプロデューサーとして、縁の下の力持ちを務め、さらに前述の名曲「Small Town Talk」の共作者だったことも要注意でしょうね。

正直、滋味豊かなれど、シブ味も強いアルバムですから、決して万人向けではないんですが、これもまたロック喫茶があった時代の空気にはジャストミートしていたのです。それが後にカフェバーとかいう、お洒落優先主義の流行に取って代わられると同時に、そこで流れる音楽もAORや都会派フュージョン等々になりましたから、もって瞑すべしかもしれませんね……。

コメント
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