女子のショートはすさまじかった。ジュニアの宮原知子が高得点を
たたき出した時点から、それは始まっていた。有力選手全員がジャンプを
決め、ほとんどノーミスで来ていた。小さい宮原のあとに見た今井遥の滑りは
異常に速かった。スピードスケートか、というほどに。これで60.63を出しても
6位だから表彰台をねらうには厳しいだろう。
最後から2番目に滑った村上佳菜子の演技で感動は頂点に達した。
実況の場違いなコメントがそれを物語っている。
「渾身のショートプログラム。佳菜子スマイルはどうなんでしょうか。
涙とともに、微笑み返し。」意味が分からん。
泣きながら戻って山田コーチに抱き付く。この泣き顔が埼玉スーパーアリーナの1万人の
観客の笑いを誘った。おそらくスクリーンに大写しにされているのだろう。
決してバカにした笑いじゃない、温かい笑いだった。
キスアンドクライでは自分の映像が流れ、それを見ていた自分に切り替わると
再び笑いが起こり、村上佳菜子は笑ったり泣いたり、とにかくクシャクシャだ。
点数が出るとコーチに祝福されながら今度は大泣き。「ウーッ、ウーッ」と声に出して
泣きながら山田コーチに抱き付く。「泣いているんだか、笑っているんだか」と実況。
はっきり泣いているじゃないか。この場面はキスアンドクライの名場面として永久に
残るだろう。佳菜子クライとして。
そのあとの鈴木明子もまた冷静だった。どうしてみんながみんな、こうも自己ベストの
滑りができるのだろう。それは各自のコメントにも表れていた。
ここが最高の舞台だからだ。
最高の舞台で、最高の観客に囲まれて演技ができる。
できる場に居合わせた幸運がそうさせたのだと思う。
ただひとり、高橋大輔だけはステージに立てる状態ではなかった。
結果はどうあれ、この最高の舞台で踊れたことに
彼もまた満足していることだろう。
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