山上俊夫・日本と世界あちこち

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映画「三島由紀夫VS東大全共闘」を観た。ヘイト右翼と三島との大きな違いを感じた。

2020年08月28日 14時30分01秒 | Weblog
 第7芸術劇場で「三島由紀夫VS東大全共闘」を観た。おもしろかった。1969年5月13日、東大駒場の900番教室といってもわたしには縁のない場所だが、そこで1000人ほどを集めていくらかの入場料を取って討論を行った。これをTBSが収録し保管していた。その時の討論に加え、出演?していた全共闘や、三島の同志・盾の会メンバー、平野敬一郎ら文化人がインタヴューに応じるという形でつくられたドキュメンタリー映画だ。監督豊島圭介。
 発言した全共闘のなかでは、芥正彦という人が一番目立っていた。他のひとはまだわかりやすい言葉であったが、彼は当時のそういった人の中ではとびっきりのカッコつけだと思われる。自分の小さい子供を肩車して登場し、たばこを常にくゆらせ(三島もずっとたばこを手にしていた)、難解で観念的な用語を操って、三島を挑発する。もっとわかりやすく言えと注文を付けてもいいのだが、論理的には成り立っているかのように思わせる言葉の飛躍に対しても、三島は怒りもせず、丁寧に答えた。
 わたしの心に次第に入ってきたのは、三島の態度と言葉だった。共鳴するわけではないが、おもしろかった。
 三島は超優秀な生徒、学生だった。しかし体は小さく、虚弱だった。終戦半年前に召集されるも、肺浸潤の誤診?あるいは疑いによって兵役を免れた。このこともあって、虚弱だったことがコンプレックスになっていたようだ。戦後10年ほどして、ボデイビルに力を入れる。小柄ではあったが筋肉を纏った体になった。彼は肉体を見せびらかすようになる。全共闘の討論でも学生は長袖、ブレザー姿なのに、三島は黒の半そでシャツで肉体を誇示した。
 三島には1966年公開の「憂国」という主演映画がある。自らの作品を映像化したものだ。2・26事件で反乱軍鎮圧に回らざるを得なかった軍人夫妻が悩んだ末に自殺する物語りだ。映画では三島はその裸をいやというほど披露し、自殺する前のセックスシーン、切腹シーン、おびただしい流血が描かれる。三島の美意識全面展開だ。高校を出た直後のわたしはこれを見て、嫌悪感をもった。三島は、全共闘との討論でも、エロチシズムを語り、エロスは肉体的緊縛を含む束縛にあるといっていた。暴力を肯定する点では全共闘と意見を共にしていた。
 三島は右翼学生らと結成した「盾の会」という武装組織をつくり、自衛隊の体験入隊をくり返した。1970年11月25日、自衛隊市谷駐屯地の総監室にのりこみ、総監を人質にとって、バルコニーから自衛隊員に決起をよびかけるビラをまいて、アジテーションをおこなった。しかし何ごとかと集まった隊員からは賛同の声は全く上がらなかった。クーデターのまねごとに終わった。まねごとで終わることは想定内で、総監室で切腹自殺をした。同行した盾の会4人のうち森田必勝が刀で介錯をした。三島の首は総監室に転がった。森田も切腹し、他の者が介錯した。ふたつの首が転がった総監室の写真が週刊誌報道された。
 この年は安保条約自動延長に反対する70年安保の年だった。その盛り上がりに危機を覚えた三島が起こした行動だった。日本国内のほとんどの人の感覚とはずれた行動だった。
 全共闘との討論では、若者の批判や挑発に感情的に反発することなく、しっかり受け止めて、まじめに答えようとする姿勢が目立った。相手の矛盾をついてやっつけてやろうという姿勢はなかった。正真正銘の右翼、天皇主義者だが、討論が成り立つ、言葉の世界に信頼をおいている人だと思った。
 これは、現在のヘイトスピーチ右翼にみられる討論や言葉の世界が成り立たないヒステリックな人々(杉田水脈に代表的な人格)とは、三島は全く違う。相手の言葉をうけとめて意見をのべるのが対話、討論だが、昨今のネット右翼や、ヘイト右翼はこれがまったく成り立たない。いちおう学者の藤岡信勝などもそうだ。いまの右翼は行きつくところまで行ったということなのか。わたしが三島を取り上げようと思ったのはまさにヘイト右翼との違いに注目したからだ。
 三島は、全共闘との厳しいが同じ地平で討論したその1年半後に、言葉の世界に見切りをつけクーデターのまねごとに身をゆだねた。1970年の時代の風景からは考えられない行動だった。異様な風景だった。三島は、切腹にエクスタシーと美を感じて「憂国」を実演した。しかしその現場はグロテスクなものだった。
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