山上俊夫・日本と世界あちこち

大阪・日本・世界をきままに横断、食べもの・教育・文化・政治・歴史をふらふら渡りあるく・・・

オンライン学習で市長に提言した校長を処分するな

2021年06月17日 17時10分43秒 | Weblog
 緊急事態宣言中に松井市長がオンライン学習を押し付けたことに対し、市立木川南小学校の久保敬校長が5月17日市長に提言書を出した。その内容は教育の条理に立ったもっともなものだ。
 ところが松井市長は「違う形で学校運営をするならルール違反。辞めてもらわな」「組織で決まったことを覆そうというなら、自らそういう公約掲げて市長にならないと変えれませんよ」と提言をくみ取るどころか、処分をちらつかせた。
 大阪の学校は教育委員会からではなく、市長のテレビでの指示で教育方針の変更を知るという異常な状態だ。松井指示にもとづいて市教委がすすめたのは1・2時間目は自宅でオンライン学習、3限に登校し4限目は授業、昼食は全員で摂り、5限以降は自宅オンライン。久保校長はこれでは子どもの教育によくないと判断して全員集団登校して朝から授業した。松井市長には従わず、子ども第一で対処したのだ。同様の学校は相当数あった。松井市長は3月に全員分タブレットがそろったののお目見えの機会としてぶち上げたのだが、まともな教師はこんなことはしない。案の定、双方向のオンラインといいながら、ひとつの学校に割り当てられたのは1週間で40分のみ。それ以上はつながらないのだ。クラスはいくつあるのか、1・2・5・6時限オンラインといいながら、1週間40分だと。こんなものをおしつけた責任者の教育破壊の責任を厳しく問わなければならない。ちなみに大阪市以外の他市では、授業をおろそかにするような馬鹿なことはしていない。5月27日に全国学力テストがあるので大阪市は不発に終わったオンライン学習なるものを止めた。
 まともな判断をして子どもの学習が遅れないように授業を継続し、教育の条理に立った提言をした校長が処分されようとしている。権力に歯向かったものは許さないというのだ。市長は教育委員会に指示命令をする権限はなく、したがって市教委は市長に媚びる必要はないにもかかわらず、久保校長を呼び出し事情聴取をした。ここでの事情聴取と処分の決定は司法手続きとはかけ離れた一方的なものだ。うむをいわさない。
 6月2日、自由法曹団大阪支部と民主法律協会の法曹2団体が山本晋次教育長に久保校長の懲戒処分をしないよう求める要請書を提出した。要請書は、「市教委は松井市長の発言に左右されることなく、独立して、教育行政を公正かつ適正に行うべきである」と求めた。
 松井氏に始まったことではないが維新政治家は橋下氏以来、選挙で当選したらその権力者の考え、行うことが民意だというとんでもない「民主主義論」をふりまいてきた。当選した政治家にはすべてが委任されるというのはヒトラーの独裁と同じ地平だ。「覆そうというなら、そういう公約を掲げて市長にならないと変えれませんよ」という。権力者は何をやってもいいが、その間違い、不備を正す意見には、文句があるなら選挙で決着をつけてみろという。こうして多くの意見を踏みつけにしてきた。
 思い起こせば、橋下氏が知事になったころ、私学助成を訴えた女子高生に橋下氏は、知事の考えが民意、文句があるならあなたが知事になって変えるか、日本から出ていくしかないと脅したことがある。選挙のみが民主主義というおどろくべき民主主義論。思想的にも学問的にも最低のレベルだが、維新政治家は平気でこれをくり返す。
 だが、大阪市を廃止しない、大阪府に権限財源を移譲しないと決めた単一課題の住民投票の結果に維新松井・吉村氏は従ったか。選挙で当選したから大阪市を廃止するということまではさすがにできない、法的に無理なために、大都市法という法律に従って住民投票を行った。結果は松井・吉村氏らが負けた。圧倒的に有利な情勢の下で、5年前よりも差をつけられて負けた。しかし彼らは、法に基づく住民投票を平気でくつがえした。なにおかいわんやだ。
 こういう人を相手にしているということを久保校長は当然わかっていただろう。腹をくくって提言を出した。その勇気・見識に敬意を表する。広範な市民・国民世論で久保校長を応援しよう。人権侵害拡大の新入管法も廃案にできた。理不尽なことは許さない世論を広げよう。


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姜徳相(カン・ドクサン)さん死去

2021年06月12日 21時10分45秒 | Weblog
 朝鮮近現代史研究者の姜徳相さんが、2021年6月12日亡くなった。一橋大学教授、滋賀県立大名誉教授だった。関東大震災時の朝鮮人虐殺関連資料の発掘で知られる。
 わたしがお世話になったのは、1997年岩波書店発行の『朝鮮人学徒出陣』だ。北野定時制の廃校に際し、最後の1クラスの担任をしていた2008年から09年、『北野定時制72年史』を書いた。そのひとつの中心テーマが戦時下の学校だった。校史資料のなかから、憲兵隊が朝鮮人生徒の思想調査を学校に求めた一連の文書を発見した。そこから朝鮮人生徒の動向と学校の対応が浮かび上がってきた。5人の朝鮮人生徒は、本来なら卒業を許されるはずなのに、民族運動をしているとの嫌疑で取り調べ中を理由に落第扱いとなった。のち5人とも学校を去った。姜徳相さんの『朝鮮人学徒出陣』は朝鮮人を軍に志願させるためにありとあらゆる手段、脅し、脅迫で追い込んだ実態が詳述されている。とうぜん抵抗が激しくなる。北野の朝鮮人生徒5人は強制的な志願を忌避すべく帰省したが、朝鮮の方がむしろ圧迫は厳しかった。5人のうち何人が特別志願したかはわからないが、韓国の国立公文書館で調べたところ、1人が1944年11月入営し各地を転戦した軍歴を確かめることができた。
 『72年史』のあと、『おおさかの子どもと教育』(大阪教育文化センター発行)59号2009・9に「発見された資料 憲兵隊による朝鮮人生徒の思想調査」と『大阪の歴史教育』(大阪歴史教育者協議会発行)第43号2010・5に「北野夜間中学とアジア太平洋戦争——朝鮮人生徒の思想調査など――」を書いた。姜徳相先生の研究に導かれて深めることができた。
 あらためて姜徳相先生に感謝したい。
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