10月24日(2019)、野党が共同して「大学入試への民間英語試験の導入延期法案」を衆議院に提出した。民間試験というのは、来年4月から7つの民間英語試験を2回受けた成績を大学入学共通テストの英語成績にするという重大な制度変更だ。大学入試センターが責任をもって試験をやるのではなく、ベネッセなど営業拡大を狙う業者を含む民間試験に丸投げする。11月から受験に必要な共通ID発行が始まるが、開催場所や日程、大学の活用方法も不明ということがあまりに多い。
この入試制度変更の問題の中心は、試験制度で最も大切にすべき公正、公平が保障されていないことだ。文科省は口で公正公平だというが、口ほど信用できないものはない。なにしろその口は加計学園問題での疑惑の張本人萩生田なのだから。7つの異なる試験の成績をどうして一つの物差しに統一するのか。できるはずがない。公正、公平が保障されない試験制度は試験としては失格だ。検証がすすんでいる公立高校の入試では、丁寧にやっても1点、2点のミスはありうる。発覚すれば公表する。それで処分された入試責任者がどれだけいることか。丸投げの試験の採点はミスの点検はしない。些細なミスのレベルからみれば、ちがう試験を一つのものとして扱うことなど、途方もない間違いを内包している。同じ試験でも回によって問題の難易度が異なる。これはセンター試験でも年によって同一科目で平均点が異なることで実証済みだ。同一試験でも平均点が大きく変動するのに、異なる試験間での得点の違いをどう統一的に把握するのか。試験というのは1点、2点で順位が入れ替わり、不合格になることがあるのだ。だから特別な配慮、厳格な公正さが求められる。ところが秘密の物差しをつくったといいながらその物差しは誰も見たことがない。信用しろというだけだ。人をだますのもいい加減にしてほしい。各試験の問題をすべて公表し、採点結果は本人に開示することを保証しない限り信用は一歩もすすまない。
お金の問題、家庭の経済力による不公平、受験機会の不公平の問題も大きい。ベネッセの試験GTECは9900円で金がかかりすぎる。通常のTOEFLは235ドルで25600円もする。ベネッセは各県ひとつの会場だから、北海道など大変だ。離島の生徒含め、泊りがけで受験する。大学の本入試なら泊りがけはありうるが、一科目を2回受けるのに泊りがけは負担が多すぎる。地方の受験生を不当に差別する最悪の制度改変だ。英検(S-CBT)は230会場でやるが、他の試験は全国23、あるいは10会場ということで都会の受験生にだけ有利になっている。裕福な家庭の子は、早い段階からIDを取らずに、練習受験をすることができる。
全国高校長協会は9月に、試験の延期、見直しを文科相に申し入れたが、文科省は問題点はなんとかするというごまかしで、つきすすんでいる。高校長協会はこの21日、東京でシンポジウム「英語4技能の民間資格試験は、混乱なく実施できるのか」を開いた。学校に相当食い込んでいる、教育を金もうけの道具にする点では天下一品のベネッセは、シンポジウムに欠席しトンズラをかました。
校長協会とは現場の代表者の集まりではあるが、現場の中ではもっとも文科省に近い、普通は文科省に盾つくことはない。それが一致団結、抗議しているのは前代未聞だ。受験の公正・公平が確保されていないと、最も事情を知る関係者がそろって声を上げているのに、文科省は「会場の追加を実施団体に要請したい」という程度のごまかしでかわそうとしている。生徒が不安に駆られ、教員がこんな制度改変は見直せと道理を尽くして言っているのに聞く耳もたない教育行政とはいったい何者か。経団連のいうことが教育行政にそのまま流し込まれるいまの安倍政治は間違っている。狂っているとしか言いようがない。