9月25日(火)
朝から雨。激しくないのだが、一面のガスの中で登山しようかどうかとまごつく。時折カミナリの音。それでも、登山者の姿を見る。雨具を着ては、登山口へと消えて行く。
できれば雨の日の山登りはしたくないなと思う。今日は山小屋泊まりだから夕方までに小屋に着けばいい。ガイドブックによれば、高谷池ヒュッテまで約3時間だ。天気の回復を待つこととして「下界」に下りてみることにする。妙高高原駅まで下り、観光案内所で町の説明を聞き、温泉に向かう。
土産物店の中にあるお風呂に入る。こ
こで大変なことをしてしまった。めがねを掛けたままサウナに入ったのがいけなかった。眼鏡の表面の膜がサウナの熱で変化してしまい眼鏡を掛けても前がよく見えなくなって、一瞬頭の中が真っ白になった。
初めは、自分の目がおかしくなったのかとも思った。強度の近眼なので、視力が出なければどうすることもできない。眼鏡を冷やしたり、拭いたりあれこれしてみるのだがどうしようもない。薄い雲の掛かったような状態の「ないよりましな眼鏡」を掛け、笹ヶ峰キャンプ場まで戻ることにする。
午後2時20分、よく見えない眼鏡を掛け、登山開始。天気は嘘のように回復し、青空が広がる。登山道入り口からしばらくは木道が続く。緩やかな登りの後、道は水量のある沢とぶつかる。橋を渡ると間もなく、12曲がりの急登が始まった。急登ではあるが、直登でないからその分だけいくらかは楽だ。穴の中から抜け出したような地点が、12曲がりの終点。さらに登りは続くが、全体として緩やかな登りとなり、富士見平に着く。ここは、高谷池ヒュッテと黒沢池ヒュッテとの分かれでもある。どちらに行っても時間的な差はないが、真っ直ぐ高谷池ヒュッテに向かう。
天気はすっかり回復し、夏を思わせれような青空が広がる。視力は低下しているが、心持ち気分も晴れる。5時10分、高谷池ヒュッテ着。
若い管理人から小屋のルールを聞き、久しぶりの山小屋泊まりに幾分安堵する。何パーティーかの先着者は既にご機嫌のようで、聞くとは無しに聞いていると、やはり午前中の登山は雨の中大変だったようだ。
(駐車場2:20~高谷池ヒュッテ5:10)
高谷池ヒュッテ
9月26日(水)
昨夜、右ヒザに違和感を覚え、心配していたことが今朝になって現実のものとなってしまった。年甲斐もなく無理をしたためだろうか、ヒザ関節が痛み出し小屋の階段の上がり下りすらままならなくなっていた。眼鏡の件といい、またヒザの故障といい、良いこと無しだ。天気は素晴らしく、昨夜の放射冷却のせいだろうか外は薄氷が張っている。小屋のすぐ前にテントが2張り、湿原の池の脇に寒そうに張ってあった。
天狗の庭 から見る火打山
6時20分、ストックを頼りに歩き始める。高層湿原と池塘は、全国各地にあるのだが、ここのそれは火打山を背景にこじんまりとまとまっている。花の季節は既に過ぎて、紅葉の時期には幾分早すぎるという中途半端な季節の火打山ではあるが、高原の牧歌的な雰囲気が何とも言えない。まだ早いからなのだろうか、こんなに良い天気なのに誰一人見えない。緩やかな登りの後、天狗の庭に出る。もう目の前に火打山が早く来いと待ちかまえているように見える。雷鳥広場から最後の登りに掛かる。足は痛いのだがとにかく頑張って歩く。7時50分 火打山登頂 2462m。
周囲の山々の写真を撮り、記念撮影をする。焼山の方に向かうパーティーもあり心ひかれたが、妙高山への時間配分もあり下山することとする。痛む足を引きずりながらやっと天狗の庭まで下りる。改めて見上げる火打は、夏の終わりのけだるい青空の下に、孤高を保つかのように静かに横たわっていた。「百花繚乱、花の火打」の季節にもう一度やって来たいものだと思いながら次の目的地妙高山へと向かう。
妙高山
茶臼岳への緩やかな登りを終えると、眼下に黒沢池ヒュッテが見えてくる。妙高山を後ろに控えさせ、湿原を前にしたこの山小屋の佇みが美しい。高谷池ヒュッテもそうなのだ自然との絶妙なバランスが何とも言えない。今はシーズンオフなので人影もまばら。この素晴らしい景観に静かに浸れる幸せをかみしめながら山小屋に向かう。
11時、黒沢池ヒュッテ前に荷物を置き妙高山に向かう。火打とは違い、登り道はゴッゴツした岩や石コロで歩きずらい。途中、燕温泉の方から登ってきたと思われる登山者の群れと出会う。大倉乗越にさしかかると、長助池の近くに青い小さな建物のようなものが見る。初めはよく分からなかったが、後でテントらしいと分かる。ガイドブックにはないテント場なのだろう。長助池分岐より急登となる。荷物は置いてきたあるのでいくぶん楽だ。あえぎながらも順調に頂上に着く。誰もいない頂上に、大岩がどっかりと座している。何万年、何十万年の時を経た「妙高の骨」だ。
今日は眺望抜群。遙かに北アルプスの山々が見えているようだ。一人だけの眺望を満喫して下山にかかる。明るい中に笹ヶ峰まで下りなければいけないのだが、膝の調子が悪くどれくらい時間が掛かるのか見当も付かず気が急く。しかし、こんな体調でよくここまで来たものだと我がことながら感心したりもする。
妙高頂上
黒沢池ヒュッテまで下りると、ベランダの前で景色を見ながら悠々と酒を飲んでいる年配の男性に声を掛けられる。話すと、かってはある県の山岳会の会長を務めたりもした経験のある山の大ベテランとわかった。70も後半なのだが、テントを担いでの単独行とのことだ。おもしろいお話を聞きながらも帰りの時間が気になりだした。そわそわし出したのが分かったのか、「5時半を過ぎると暗くなるからそれまでに下山せよ」とのご指示を頂いた。別れ際に、妙なお話を聞いた。一瞬耳を疑った。