アイ・ラブ みどり

逆境にもめげず、けなげに生きるみどり達がいとおしくてなりません。

ブルネイの米蔵

2014年01月06日 | みどりの風景

 書斎の整理をしていると、ボルネオ島の一角を占める小国・ブルネイの米蔵の絵葉書が出てきました。私は1980年代に産油国のブルネイに数回、短期在外研究に派遣されたことがあります。豊かな原油・天然ガス資源の輸出で、とても裕福な国です。国民には自動車にかけられる道路税以外に税負担はなく、医療費・教育費なども国から支給されます。

 石油資源が開発させる前は、コメを主食とする農業国でしたが、現在は原油の輸出による豊かな経済事情で食糧はほとんど輸入に頼り、食糧自給率は20%程度に過ぎません。ブルネイの気候は年間通じて雨の多い熱帯雨林気候で、ネズミや害虫が一年中蔓延ります。その害で水田は荒らされ放題です。日本の水田のように穂が一斉に出そろうことはありません。実った穂だけを刈り取り、絵葉書にあるような米蔵に貯蔵しておいたのです。穂が出揃わないので、商業的稲作は難しく、小農による自給的稲作が行われていたのです。しかし豊かな石油マネーで潤ったブルネイでは稲作は放棄され、山岳民族・イバン族が原始的な稲作を何とか山間の狭い谷内田で細々と守っているに過ぎません。

 平地では稲作は廃れても、米蔵だけは数多く大切に保存されていました。中には崩れかけた米蔵も見られますが、いまだに補修しながら守られている米蔵が実に多いのです。高床式で、竹の編み物を壁にし、風通しを確保しています。屋根はヤシの葉で葺き、頂上にトタンの雨漏り止めを置き、木をX状に組んでトタンが風で飛ばされないように抑えています。このXが私には日本の神社の屋根を飾る千木に見えてくるのです。

 住民に大切に守られている米蔵は、先祖が血筋をつないできた掛け替えのないよりどころだったのです。ネズミが侵入しないよう掘立柱にはネズミ返しを取り付け、米蔵へ入るときに使う梯子(水牛の足元に置いてある段を刻んだ丸太)は常に外しておき、ネズミの足掛かりになる周囲の雑草を駆除してきたのです。事が起きれば農民たちは米蔵を必死に守ったのではないでしょうか。食糧貯蔵庫としての実質的役割は終わっても、米蔵は一族の精神的象徴として神聖化されて祀られているのです。私にはどうしてもこの米蔵が、稲作文化を築いた日本の神社の原型に見えてしまうのです。


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