三ツ又・中澤家の納経禄から見つかる
今から243年前の明和5年に採取されたと思われる植物の葉が魚沼市で見つかった。江戸時代の植物の葉が残されていることは極めて珍しく、明和期のものであれば貴重な?葉標本となる。
この葉が見つかったのは同市三ツ又の中澤重郎さん(82)の家に遺されていた「全国納経禄」の中。「納経」は写経を納めたり経典を読んだときにお寺などが発行してくれる証明書。「納経禄」は布の袋に入れられ、口を縫って封をして土蔵に遺されていた。
長く民生委員を務め、地域の年寄りと話す中で地域の歴史に関心を持つようになった中澤さんが土蔵の古文書を調べていく中で見つけたもの。
納経禄は江戸期の中澤家の当主・中澤重松氏が全国を回って遺したもので、6冊からなり、訪れた寺社の数は実に510か所、北は青森、南は鹿児島にまで及ぶ。
「よくこれだけ足を伸ばして全国を回ったもの。家族の協力がなければできなかっただろう」と関心を持った中澤さんが、知人で、「魚沼歴史・民俗の会」の会員でもある同市沢田の清塚正伸さんに納経禄を見せたところ、500か所にものぼる納経禄がきちんと残されていたことに感銘を受け、4年前から納経禄を全部読み解いて本にまとめる作業に取り組んできた。
植物の葉は、その作業の中で見つかったもので、四国88か所、72番札所「我拝師山延命院曼茶羅寺」と73番札所「我拝師山求聞寺院出釈迦寺」の間に挟まれていた。日付は明和5年(1768年)9月25日。
葉は、後代の人たちにより挟まれたかも知れず、何より植物の名前がわからなかったため、公表されることはなかったが、今年になって清塚さんが、高知県立牧野植物園に写真を送り名前を問い合わせたところ、関東以西の山野にはえる「トキリマメ」という植物の葉であることが判明した。
トキリマメはこの地域では珍しい植物で、後代の人が挟んだとは考えにくく、同植物園からの返答には「9月下旬といえば、トキリマメの黒い実が、赤いガクに抱かれている風情のある時期ですので、師(重松氏)が思い出に採集されたかも知れませんね」と添えられていたことなどから、にわかに240年前の葉である可能性が高まってきた。
「江戸時代に全国を回ったという事例は珍しく、その記録がきちんと残されてことは奇跡」(魚沼歴史・民俗の会会員)と言われる中澤家の納経禄とともに、このトリキマメの葉に関心が寄せられている。