エッセイ 「しっー」
文学散歩というサークルで、作家や作品にゆかりのある処を見つけ出かけている。
文学と言っても、誰でも知っているような、読んだことはないけど「聞いたことがある」くらいのノリなので、最近は脱線ばかりしている。
人形町に行った時は、「甘酒横丁はこっち」、「明治座では何を演っているのかしら」「お昼はどこで食べるの」、文学には全くつながらない歩きに、さすがに誰かが「これでいいの」と言ったその時、小さなプレートを見つけた。「谷崎潤一郎生誕の地」、このくらいで納得をしてしまう。
東京を中心に歩いているが、文豪と言われる人は戦前に活躍した人が多く、史跡が当時のままに保存されているのはとても少ない。区によって観光課にボランティアガイドの制度があるので案内をお願いするが、時々思わぬことに出会う。
樋口一葉の「たけくらべ」のコースは、下谷龍泉寺町の旧居跡の碑や、投げ込み寺と呼ばれた浄閑寺やお歯黒ドブ、吉原の大門の跡などを見、遊女の日常のつらさを知らされる。
途中、千束という名の一角を通った。
昼間だと言うのに「角海老」等とネオンがついた派手な店がずーと続いている。
ガイドが急に足を速める。
各店先に髪をきちんと整え、黒服を着た男達が厳しい顔をして立っていた。
私語もなく、張りつめた雰囲気の店の奥には、何人の女性がいるのだろうと思いながら、何気ない振りをして歩いた。
又ある時、昔玉乃井と言った「東向島」のガイドをお願いした。
戦後派作家たちも沢山訪れたと言う「鳩の街」もコースにあった。
この街の店舗は、カフェー風に作られたそうだが、今は商店街になっている。裏に入ると色タイルを貼った娼家風の建物が少し残っていた。
「今、生活をしている人がいます、大きな声を出さないでください」ガイドの声に「しっー」と顔で合図をした。
地図の上で東京は狭い、だけど人が大勢いる。
見たいこと聞きたいことが沢山あるが、見ない振りの「しっー」もしなければいけない。
課題 【広い・狭い】2013.11.22
先生の講評
「しっー」の件も含めて後半、(途中、千束・・・から結語まで)の
部分の描写が生き生きとしている。
サークルの人たちの顔が浮かぶ。
少しだけ書けたかな~と実感。 つつじ
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