エッセイ 遠泳(1)
梅雨空を眺めていると、十年以上前の寒いプールのことを思い出す。
真夏、千葉県館山海岸で一泊二日の遠泳合宿があった。
その事前練習はきつく、思い出してもよくやったなと思う。
夜間の野外プール、梅雨時とあってよく雨が降り、寒い日が続いた。
最後の日は曇り空だったが、始まってすぐに霧のような雨がライトにけむる。
練習は四列になって進む。
一番前は四人のコーチ、その後を2メートル開けて続く。
足が届かない五〇mプールを何周もする。
角を曲がる時、外側の人は早く泳がないとついて行けない。
「横の人も見て、隊列がずれないように」
「次は1時間でーす」
「声を出しましょう、エンヤコーラ」
遠泳の泳ぎは、常に顔を水面に出した平泳になる。
私は、競泳のスタイルを覚えたので、頭が一掻き毎に水に入る。
遠泳の泳ぎ方では進まず、最後の方は苦し紛れにいつものスタイルでついて行った。
休憩をとる時の立ち泳ぎも練習する。
充分出来たと言う実感もなく終わった。
営業時間外だったのでシャワーのお湯は出ず、灯りも最小限、長雨でぬめっとした床に足がすくんだ。
合宿の初日に、波の静かな湾の中で三十分のミニ遠泳がある。
前回はここで失敗した。
泳ぎ出してすぐに大きな波がきた。
足がつかない、パニックになり浮き輪につかまってしまい、本番の遠泳には参加できなかった。
今回は絶対泳ぎきりたい。
水底から足の離れる怖さを耐えた。
さあ本番、鏡が浦は快晴だった。
館山湾の外から海岸に向かって泳ぐ。
バスを降りると、もう伴走する船が二艘待機している。
遊泳禁止の所を泳ぐから海上保安庁に届けを出し、万が一の事を想定している。
いつも冗談を言うコーチも真剣な顔だ。息が胸元に上がってくる。
後には引けない。
ぬるぬるした岩から海に入る。
足がつかないあの瞬間を必死にこらえて泳ぎ出した。
課題 【乾く・濡れる・潤う】 2016年7月22日
先生の講評・・・連作もの。事前練習、初日のミニ遠泳、本番という
時間の流れをおう。
今後(2)の展開に興味を持たせる書き方だ。