エッセイ:メダカ
今年は厄年なのだろうか、階段から落ちたり、ムカデに刺されたり、何度も風邪を引いてこじらせ、挙句に入院もしたりした。
普段風邪を引くと、近くの医院で薬をもらいそれを飲んでいると大体治まった。だが先日に引いた風邪はそうはいかなかった。
夕方から夜にかけて熱が出、食事も食べられなくなった。
高熱が4日も続いている、ただの風邪とは思われず、夫が入院できる病院を探した。
大きな病院は紹介状が必要だと言うが、それをもらっていたら今日の外来には間に合わない。行ったことはなかったが、介護施設もある古い大きな病院に電話をした。
交通の便が良くないせいかいつも静かだ。症状が落ちついた長い療養生活の人の病院だと思っていたが、一般の患者も診てくれると言う。
私は座ることも億劫な状態だったので、夫が症状を話した。血液検査や尿検査、CTなどの検査をし、すぐに結果が出た。
膀胱炎の為の高熱だと分かった。医師の説明の途中で、私は早くこのめまいを何とかしてほしいと訴えた。
入院が決まった。それから直ぐに点滴が始まり、次の朝、39度近い熱が2度ほど下がった。悪夢から覚め、やっと普通の朝がきたような、そんな気分だった。
日に日に熱は下がり、6日目には退院することになった。
家に戻ったら一番にしたいことがあった。それは、一匹だけで1年半近く生き残っているメダカの世話だ。毎日餌をやり、夏中、水が汚くならないように見守ってきたが、この10日余り水を変えていない。
病院から帰ってまっ先に水瓶を覘くと、さっきまで生きていたような姿で淀んだ水の中に浮いていた。
そっと指で触ったが呼吸をしていない、やっぱり、と力が抜けた。
すくって見ると3センチほどのメダカは、目の周りが白い輪の可愛い魚の顔をしている。
よく頑張ったね、としばらく見ていたが、ツツジの根元にそっと埋めた。
寿命なんだ、私もいつかは来る。その間に何度病気になるのだろうか。
課題 【行く・戻る・逃げる】 2013・10・25
先生の講評
伏線を張り、メダカの死に落とし込むレトリックが巧い。
その作意を感じさせない、おだやかな筆致だ。
今回は嬉しい講評を頂きました。 (つつじ)