エッセイ 贈り物
夫の長兄が八十歳になるので、お祝いをしようという事になった。
「疲れるよ」と言いながらも、シニアの野球チームではキャッチャーをし、役員も引き受けて活動的な生活をしている。
卒寿と言うのは何だかしっくりこないが、久しぶりに食事会をすることははすんなり決まった。
場所は実家のあった吉祥寺、時間はお昼の会食。
今回は兄弟だけではなく、長姉は亡くなったが、その子供の姉妹を含めた姪や甥達も参加をするとの事、賑やかになりそうだ。
夫は五人兄弟の末っ子、甥や姪たちとも歳が近く、兄貴分気取りになって幹事役を引きうける。
何度目かの連絡で、姪たちがプレゼントを用意した事を聞き、兄弟三人でも何か贈り物をしたいと考えたらしい。
長兄に「欲しい物ある?、花束なんかはどう?」と聞いたところ、「花なんかいらない、何にもいらないよ」と言ったという。
そうもいかないから何かいい物を考えてよと私に言う。
引受けては見たものの、とても難しいことに気がついた。
もう欲しい物は何でも持っているだろう。
夫は手袋かマフラー、カーディガンなんかはと言う。
手袋はサイズがあるし、マフラーは何枚も持っていそうだし、考え出すときりがない。
折角の物が仕舞いこまれても惜しい。
夫に「お兄さんは他の人の選んだものは欲しくないのでは」と言ってみた。
「君だったらどう?」
「私は自分で買いたいから商品券かな、一番好きなのは現金だけど」
「そうだろうな」。
そうだろうな、がどちらかは分からなかったが、悩んでいても仕方がない。
夫とデパートに行った。
一応無難にカーディガンを見て回ったがかさっぱり決まらない。
以前、一寸いいなと思った織田義郎の銅版画を思い出した。
スイスの風景が描かれて、小さくても本物だし、これなら戸棚の奥には仕舞われないだろう、値段も予算内だった。
当日義兄はジャケットの下にきれいなオレンジ色のセーターを着てきた。
ありきたりのカーディガンを選ばなくて良かった。
【冬・自由課題】 2017年1月13日
先生の講評 〇〇色の部分『以前、一寸いいなと思った・・・・・・・・』の文に
品位がありカラフル。
祝い会のビファーだが、その宴の様子も読みたくなった。
人間の人情の機微が描かれているから。
つつじのつぶやき・・・贈り物は難しいですね。