つつじの書・・

霧島つつじが好きです。
のんびりと過ごしています。
日々の暮らしを、少しずつ書いています。

エッセイ とんかつ

2020-06-07 09:29:50 | エッセイ

エッセイ とんかつ 課題【会う・別れる】 2013・6・28

駅前にある肉屋さんを、一時期よく利用した。
肉は生協の物を使うので買わないが、息子たちが好きな、とんかつやコロッケなどを揚げてもらう。
店主はいつも奥の方で肉を捌いている。
目が合うと少し微笑むが「いらっしゃい」の声を聞いたことがない。
小柄な奥さんはよくしゃべる。
特に料理の事を聞くと、直ぐに3つや4つの答えくれる。
「来客があるので、揚げ物を出そうかな」、などと言うと、じゃー何時までにいらっしゃい、家に帰ってすぐに揚げられるよう用意しておくからと言ってくれる。
「ポテトサラダもお願いね」と言うと、「分かった、分かった」と嬉しそうな顔になる。
家を空けた帰り、夕飯のおかずに「とんかつを揚げて」と店に寄ると「さっきご主人が買っていったわよ」と言われたことが何度かあった。

先日、久し振りに寄った。

ガラスケースの向こうから奥さんが振り向いた。
ひどく痩せていた。
痩せているというより何か病気の顔だった。
「元気」の言葉を飲み込んで、さりげなく「痩せたね」と言った。
いつもダイエットをしなきゃあと言っていた。
包みを渡される時、何の前置きも無く「お医者さんが、何でも好きなことしなさいっていうのよ」と小さな声で言った。
喉に固いものが上がってきた。
そばにお客さんが来たので声が出なかった。
曖昧に「体、気をつけてね」と受け取った。
すると、夫が、「ちゃんと治療すれば大丈夫だよ」と口を挿んだ。
大変な事を、そんな簡単に言っちゃいけないのにと思った。

奥さんは定休日になるとウオーキングをしていた。
会うといろいろな話をしたから、大抵の事は知っていた様に思っていた。
でも今、私の知らない、つらい時間を過ごしている、話をきちんと聞けばよかった。
それを思うと顔を合わせられない。
店の前を通る時、つい奥さんの姿を探してしまう。

 

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