エッセイ かき氷
ミンミンとセミが鳴いている。真っ青な空に入道雲、首筋に汗がでる。
かき氷が食べたくなった。時々「氷」と書いた小さな旗を見かけるが、大体冷
房の効いた店の中で出している。
子供の頃、おシンさんの店の葭簀の影の縁台で食べたかき氷が懐かしい。
私の育ったところは、周りが山に囲まれたのんびりしたところだった。国道と
は名ばかりの砂利道が町の真ん中を走っている。たまに車が通ると、乾いた
土埃がたった。
夏休みになると遠くの方から、鐘の音をならしながら自転車に乗ってアイスキ
ャンディーを売りにくる。大人の話ではここまでくるうちに、半分も解けている
から損だといっていた。
お盆になると、お客さんが来て少し賑やかになる。
大人たちも仕事が休みになるから、、おシンさんの店に買い物をにいく。
おシンさんの店は何でも売っていた。
鍋や麦わら帽子などが天井近くにぶら下がり、蚊取り線香やハエ取り紙もあ
る。
棚には茶碗やしゃもじなどが埃を被って並んでいる。
土間には近くの人が持ち込む野菜もあったし、祭りに使うものや盆飾りなども
売っている。もちろん飴やせんべいもガラスケースの中に納まって、駄菓子の
ハッカや籤もある。
おシンさんはごちゃごちゃした店の中の一番目立つところにかき氷の器械を
出し、手まわしでひっきりなしに氷をかく。
足の付いた乳白色のガラスの器に、うず高く氷を盛ってシロップをかけ、「シャ
ジは自分でとって」という。スプーンのことをシャジという。
おシンさんはケチで氷を細かくかくので,スプーンを入れシャキシャキとかき回
すとぐに溶けてしまう。
子供のいないおシンさんは、背の小さい夫と二人で暮らしていた。いつも地
味な着物に黒い前掛けをかけ、あんまり笑わない。
男の子達はおシンさんの店に行くとき、「オシンツクツクに行く」と言っていた。
「夏 」
四季の素材 十五夜 さんのイラスト です。