エッセイ ご飯
友人が実家から送ってきたと、渋い紙袋に入った新米を持ってきてくれた。
友人の実家は老舗の呉服屋さんでお米は作っていない。
お母さんの古い友人のお米屋さんが、その年一番おいしい新米を届けてくれると言う。
友人だって娘さんの家庭が二つあるのに、私に持ってきてくれたことが嬉しく、丁寧に研ぎ、言われた通りの水加減で炊いた。
折角なので、おかずはシンプルに、お味噌汁と漬物はきちんと用意をした。
昨年から曲げわっぱのお櫃を使っている。
電気釜からお櫃に移して十分ほど置くと、余分な水分が取れてお米の味が一段と違う、違うような気がする。
食卓は夫とふたり、会話がずっと少なくなった。
お茶碗に軽くご飯をよそった。
怪訝な顔の夫が箸をつけて二口、三口「美味しいね」と言った。
今日一番聞きたかった言葉だ。
テレビで美味しいお米のことを放送していた。
無農薬、有機栽培で作ったとても美味しい米だと言う。
渋谷のデパートで普通の六倍以上の値段がついて売っているそうだ。
どんなものだろうかと、その話をした。
私もご飯が大好きなので、お米にはこだわっている。
頼んでいるお米屋さんは、電話を受けてから精米をしてくれるので、搗きたてが届く。
その米を痛めないように手の腹で何度も研ぐ。
栄養が無くなると言うが、美味しいのが一番なのだ。
夫が日本橋の鰹節の老舗で、削り節を買ってきた。
「ごはんにかけるかつおぶし」、袋を開けると、ぷーんといい香りがするピンクの削り節だ。
そして、何とあの有機米を買ってきたと言う。
「勿体ない」と思ったが、言葉を飲みこんだ。
確かに小さな粒がそろった、綺麗な米だった。
炊き上がりも光っている。
「ごはんにかけるかつおぶし」をかけ、少しのお醤油をたらしてかき回す。
今夜は豪勢なねこご飯だ。
課題 【聞こえる・みえる】
先生の講評 静かで穏やかな文体、生活の些事、
細部をていねいに みがいている。
ここに小宇宙がある。
つつじのつぶやき・・・ 少し褒めていただいた作品です。