エッセイ・友人宅のリビング
古い友人達と、年に一、二度、誰かの家でお昼の食事会をする。
昨年は、三月のお節句の日に集まった。
友人は、「久しぶりにお雛様を出したの、見て」と、お座敷に案内してくれた。
ひな壇の小さなお人形を見てると、その可愛らしさに、自然と顔がほころんで
くる。
リビングのテーブルには、持ち寄りのお菓子やお惣菜、五目御飯とお吸い物
も並ぶ。
席に着き、久しぶりの顔合わせに、静かだったのは、ワインで乾杯までだった。
お箸を持ったころから、何時ものおしゃべりが始まる。2~3人が同時に話し、
それに合づちをうちながら次の話を始めるので、しばらくは何が何だか分から
ない会話が続く。
テーブルの先の、大きなテレビもついていて、賑やかというより、うるさいリビン
グだ。
目の端にテレビを見てると、女優の藤村志保が出て何か話をしている。朝の
連続ドラマで祇園の女将の役をしていたので、その事らしかった。黒の和服
に水色の帯を締め、背筋をピンと伸ばして、にこやかに受け答えをしている。
みんな気がついた。急に会話が途絶え、静かになった。
「あ~この人好き、藤村志保よね」
「ドラマの中で、座っている所から、立ち上がるときの姿は、舞い始めるような
綺麗な身のこなしをするのよ」
「あの帯見て、ハマグリの柄よ、お雛様って事を、さりげなく見せてる」
やっぱり和服はいいわねとか、優雅な身のこなしには日本舞踊よと、また話が
尽きない。
誰かが持ってきた真っ赤な苺も、いつの間にか食べ終わって、そろそろお開き
になる。分厚いコートやマフラーに手をのばす。
友人宅のリビングは、寒さをよける植物が、ガラス戸越しの日差しを受けて、
のどかである。
もう直ぐ、静かになる。
※課題【優雅・粗野】
先生の講評 動(軽)と静の対比が良い。
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