高知大学地域協働学部教員の
森明香です。
アニマルウェルフェアと「土といのち」~コラム
土といのちの生産者さんや食材を見ると、
グローバルスタンダードになりつつある概念や
在り方を先駆けたものが散見される。
「アニマルウェルフェア」(AW)もその一つだ。
ジャーナリストの枝廣淳子さんによれば、
AWとは、「生まれてから死ぬまで
その動物本来の行動をとることができ、
幸せ(well-being)でなければならない」
とする考え方だ。
家畜をめぐっては、
ストレスが少なく行動欲求が満たされた
健康な生活ができる飼育方法や屠畜が
実現されていることが、
AWに叶う畜産ということになる。
始まりは1960年代、
いちはやく近代畜産が進んでいたイギリスで
ルース・ハリソンが『アニマル・マシーン』を著し、
工業的な畜産の虐待性や
薬剤多投などによる汚染が
大きな社会問題となったことによる。
イギリス政府は、
後にAWの基本原則「5つの自由」に連なる基準を提唱した。
*5つの自由とは
飢え・渇き及び栄養不良からの自由、
恐怖及び苦悩からの自由、
物理的、熱の不快さからの自由、
苦痛、傷害及び疾病からの自由、
通常の行動様式を発現する自由
その後、
世界を震撼させたBSE
(狂牛病、草食動物である牛に
未処理の肉骨粉を飼料として与えた影響による
ことが指摘されている)等を経て、
消費者の食の安全を希求する声が
AWの広まりに繋がった。
ベルギーやスウェーデンでは、
コストが取り組みの阻害要因とならぬよう、
AWに取り組む農家に
政府が補助金を出すなどして、
AWの普及を支えているという。
一方で、日本では
AWは普及も浸透もしているとは言い難い。
たとえば採卵鶏をめぐって
日本では最もAWに反した
バタリーケージ
(1羽あたり平均で
20cm×21.5cmの約B5サイズのケージで
何段にも重ねて飼う方法)を
92%の採卵養鶏場が採用し、
83%以上がヒナのうちに
くちばしを焼き切られている(2015年3月)。
AWにかなった平飼い(屋内の地面に放し飼い)や
放牧(屋外にも出られる)はごくわずかだという。
欧米のように法的拘束力のある
ルールもなければ補助金もなく、
多くの消費者や市民の
関心も薄いことの表れだろう。
そうした中、「土といのち」では
AWに叶う畜産を経た食品を取り扱ってきた。
6月のイベントでお邪魔した
奥田養鶏場さんもその一つ。
平飼い鶏とケージ飼いのおばあちゃん鶏とは、
卵の価格に差をつけて販売している、
とも教わった。
(平飼い卵の奥田養鶏場)
イベントに参加し
通信に寄稿なさった斉藤牧場さんも、
AWに叶う畜産をされている。
(山地酪農牛乳の斉藤牧場)
食の安全を希求した
地域の生産者と消費者とがつながり、
生態系の一存在のヒトとして
食や農や環境と向き合い、
「土といのち」は細々と地道な活動を続けてきた。
気候崩壊や食糧危機への懸念が
現実となりかねない今日こそ、
その活動や実践に
最先端の知恵が在るのかもしれない。
※ この記事は、NPO法人土といのち『土といのち通信』2022年10月号より転載しました。