鳥キチ日記

北海道・十勝で海鳥・海獣を中心に野生生物の調査や執筆、撮影、ガイド等を行っています。

海鳥を読む⑫「The Auks」

2014-08-07 22:23:14 | 海鳥
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NPO法人日本野鳥の会十勝支部報「十勝野鳥だより184号」(2014年3月発行)掲載記事「海鳥を読む」を分割して掲載)


「The Auks」(Anthony J. Gaston and Ian L. Jones著、245×190mm、349ページ、Oxford University Press、1998年)
 世界の鳥の科ごとのモノグラフの一冊で、絶滅したオオウミガラスを含む23種のウミスズメ類を扱っている。現在では別種とされることの多いマダラウミスズメとアメリカマダラウミスズメ、セグロウミスズメとスクリップセグロウミスズメは同種としている。全体の3分の1ほどを占める総論は7章から成り、分類や進化、分布、食性、繁殖生態などが詳述される。Ian Lewington氏による8枚の美しいカラープレートに続く各論は、測定値や形態、生活史、音声などが種ごとに解説される。ウミスズメ類、特に太平洋にしかいないエトロフウミスズメ属やウミスズメ属に関する書籍は非常に少なく、何か調べようと思ったら個別の論文を当たらなくてはいけないので、1990年代までの情報を網羅してくれている本書は本当にありがたい存在だ。部数が少なかったのか現在は絶版らしく、たまに出る中古も数万円の値段で手軽に購入できないのが何とも残念。15年以上を経た今、その後の新知見と、デジタル時代で格段に増えただろう写真を追加して再販して欲しいものである。北太平洋のウミスズメ類のモノグラフとしては他に「Diving birds of North America」(292ページ、Paul. A. Johnsgard著、California University Press、1987年)がある。アビ類やカイツブリ類を含む北米の潜水性鳥類の生物学に関する集大成で、野外での使用には向かないが総論、各論とも読み応えのあるボリュームだ。嬉しいことに2007年に全文が電子化され、webページで無料公開されている。インターネットの弊害がニュースを賑わす昨今だが、文献の入手に関してはネットの普及で本当に便利になった。それまでは大学や研究機関に足を運んで、煩雑な複写手続きを経ないと入手できなかった学術雑誌が家で仕事をしながら、100年以上前の「IBIS」や「CONDOR」誌の記事だって簡単に見られるのだ。国内誌でも「鳥(現在の日本鳥学会誌)」や「山階鳥類研究所報告」が電子化され、直近のもの以外は無料でダウンロードできるので、興味のある方は活用されると良いだろう。


(2014年3月   千嶋 淳)



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