鳥キチ日記

北海道・十勝で海鳥・海獣を中心に野生生物の調査や執筆、撮影、ガイド等を行っています。

150924 十勝沖海鳥・海獣調査

2015-12-11 16:37:42 | 海鳥

Photo by Chishima, J.
海上でマミチャジナイを襲うウミネコ 2015年9月 北海道十勝沖)


 午前6時前、朝のすっかり遅くなった漁港で調査用具を積み込んでいると、なんとGPSを忘れて来たのに気付きました。GPSに記録された時間と位置の情報から、動物たちの分布と水深、陸岸からの距離などが明らかにできるため、これは痛手です。幸い、船に装備されたGPSから水深や大まかな航跡を残すことができ、事なきを得ましたが、フィールドワークにおいては一つの忘れ物や確認ミスが致命的となることがあり、大反省。

 海は若干うねりがあったものの穏やかで、水深400m以上まで行くことができました。鳥は概ね少なめで、主なものとしては沿岸の水深20~40mでオオミズナギドリの中規模な帯が見られ、水深200m以深でミズナギドリ類やアホウドリ類2種が散発的に見られた程度でした。まき網船団が厚岸方面の海域に集中しているとの情報があり、アホウドリ類やカモメ類、トウゾクカモメ類などはそちらに分布しているのかもしれません。イカ船団は反対に広尾・えりも沖を目指しているようで、水深100m付近では青森や岩手、道南などからの多くの船とすれ違いました。調査捕鯨のキャッチャーボートが操業していた海域では、実際にミンククジラと何度か出会いました。様々な漁が道東一帯を慌ただしく遊動しながら、冬を前にした海からの恵みを追いかけています。

 全般には低調ながら、当然、興味深い事象もいくつもありました。その一つは7月に引き続き、これまでほとんど観察されなかったコシジロウミツバメが何度も現れたこと。水深40m付近の比較的沿岸域でも見られ、中には着水して羽づくろいらしき行動を示す個体もいました。潮目沿いでは多くのアカエリヒレアシシギ(大部分が幼鳥)も見られました。

 最大のイベントは復路の水深80m前後で起こりました。水平線高くを小刻みな羽ばたきで飛ぶ鳥に「小鳥!」と思ったのですが、数段階かけて降下するとそのまま着水してしまいました。飛び方がウミツバメ類とは異なるし、ヒレアシシギ類にも違和感を覚えながらゆっくり船を近付けて行くと、驚いたことにマミチャジナイ!! 両翼を半開きにして、逃げる気配がありません。明らかに衰弱しているようなので魚釣り用のタモ網で捕獲しようとすると、鳥は水面から飛び立ちました。しかし、100mも飛ばないうちにまた着水してしまいます。これを2度繰り返し、3度目の着水直後、上空からウミネコの成鳥が襲いかかって来ました。ウミネコはまずマミチャジナイの頭をくわえましたが失敗し、次いで尾羽付近をくわえ、尾羽や上尾筒の羽毛をごっそり抜き取りました。自然の成り行きに任せるという手段もあったのですが、ひとまずは捕獲し、港に連れて帰りました。帰港時には羽毛も乾き、かなり元気を取り戻していましたが、尾羽付近の羽毛をごっそり抜かれていて、白昼の港周辺での放鳥はカラスやカモメに捕られる可能性が高いため、参加者の一人の獣医師がひとまず保護しました。

 そのしばらく後、今度はさらに小さな鳥が船の周囲を数度飛んだ後、舳先にいた私の目の前に降り立ちました。わずか数秒の出会いでしたが、黄緑色みの強いムシクイ類でエゾやセンダイとは明らかに異なり、分布や時期を考慮してオオムシクイと判断しました。こちらはその後も数度、船に短時間の止まりを行いましたが、じきに飛び去りました。同様の行動をシマセンニュウで観察したことがあり、フェリー航路では長時間乗船していたやはりシマセンニュウがいたこともありました。降りる場所の無い海上を渡るのが、陸の鳥たちにとってはどれほど体力を消耗させ、また危険であるかを思い知らされるエピソードたちです。

 下船後は番屋で今が旬のサケのチャンチャン焼きを囲んで話に花を咲かせ、一部の有志はその後、十勝川河口で多数のセグロカモメに混じる’taimyrensis’の観察に向かいました。参加、協力いただいた皆様、どうもお疲れ様でした。

確認種:シノリガモ クロガモ アビsp. コアホウドリ クロアシアホウドリ フルマカモメ オオミズナギドリ ハイイロミズナギドリ アカアシミズナギドリ コシジロウミツバメ ヒメウ カワウ ウミウ アオサギ アカエリヒレアシシギ ハイイロヒレアシシギ ウミネコ ワシカモメ セグロカモメ オオセグロカモメ アジサシsp. オオトウゾクカモメ カンムリウミスズメ トビ ハシボソガラス ハシブトガラス オオムシクイ マミチャジナイ ハクセキレイ タヒバリ 番外:ミンククジラ サメ類 シロザケ


(2015年9月24日   千嶋 淳)

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