tnlabo’s blog   「付加価値」概念を基本に経済、経営、労働、環境等についての論評

人間が住む地球環境を、より豊かでより快適なものにするために付加価値をどう創りどう使うか。

米朝問題か米中問題か

2018年07月08日 11時27分34秒 | 国際関係
米朝問題か米中問題か
 今回のポンペイオ国務長官の訪朝後のアメリカと北朝鮮の見解に、かなりの相違があるという事がマスコミ報道から窺われます。
 
 アメリカサイドの北朝鮮の非核化については着実に前進しているという見解に対し、北朝鮮サイドは、アメリカは非核化の要求を急ぐだけで、朝鮮半島の平和実現には言及しないのでは、シンガポールにおける米朝首脳会談の精神に合致しないという意見のようです。

 北朝鮮は「忍耐をもってアメリカの出方を注視してきたが、今回のアメリカ側の立場は遺憾極まりない」といった意見のようで、早くも米朝首脳会談の今後の進展に問題が生じる気配です。

 トランプさんとしては、最大限の圧力をかけて北朝鮮を追い詰めた後、宥和的な姿勢を見せて北の譲歩を引き出したつもりだったのかもしれませんが、金正恩さんの方は、立て続けに3回の訪中をし、中国の後立てを確認したうえで首脳会談に臨み、対等の立場での会談を実現したと考えているのでしょう。

 最終的に米朝会談の成果がどうなるかは、全く解りませんが、中間選挙を前に非核化を急ぐトランプさん、中国の後立てを得て、経済的圧力含めて、一安心と感じている北朝鮮の立場の変化が早くも表れたというような感じがします。

 トランプさんは対北朝鮮なら何とでもなると思ってやってきたのかもしれませんが、事態はその思惑とは違って、アメリカの対中国問題と重なってくるという事になるのではないでしょうか。

 今、米中は関税引き上げ戦争、貿易戦争に突入する気配です。互いに譲らぬ気配がどういう展開になっていくのかこれも全く解りませんが、世界としては、あまりひどいことにならないような良識を両国に期待するところでしょう。

 ただ問題は、アメリカが極めて短期的な視点を持たなければならない事情(中間選挙)を持っているのに対し中国では習近平さんの地位は終身で、超長期の構想を持って、政権をはじめあらゆる問題(一帯一路など)に取り組むことが可能という強みを持っています。

 少し長い目で見れば、今後は米中の覇権争いが、いろいろな面で出てくる時代なのではないかなどと思われるところですが、矢張り米朝関係もその中の問題の一コマとして動いていかざるを得ないのではないのでしょうか。

 どうも、対北朝鮮で点を稼ごうとしたトランプさんの短期的視点には誤算があったような気がしていますが、今後のトランプさんのディールの腕前はどうなのでしょうか。

「一専多能従業員」の育成:日本的経営の得意技

2018年07月06日 11時30分29秒 | 労働
「一専多能従業員」の育成:日本的経営の得意技
 最近あまり聞かれなくなりましたが、かつて日本経済の進展が世界から注目され、いわゆる日本的経営も欧米からアジアまで広く関心を持たれていた頃、この言葉が仕事の現場でよく使われていました。

 意味するところは、まさに読んで字の如しで「1つの専門領域を持っていて、その外にその専門領域を中心に多様な技能を持っている多能工」という事です。

 多能工というのは単能工に対置される言葉で、複数の仕事をこなせる能力を持つ熟練工という事です。
 欧米では、先ず仕事があって、その仕事の出来る人を採用するというのが一般的ですから、単能工が普通で、多能工はあまりいないという事のようでした。

 日本では、職長クラスの人は部下の仕事はすべてこなせ、偶々部下がいないと、「お前の仕事、やっといたぞ」などというのが当たり前などと言われました。
 日本企業と海外企業との接触が多くなり、欧米企業も多能工の有用性を認識し、multi-skilled worker が注目され、アジア新興国などではQC活動や5Sなどと一緒に日本式の多能工育成が流行していた時期もありました。

 前工程から後工程まで、多くの仕事の中身を知っていれば、どうすれば仕事がより効率的に流れるかアイデアも出やすいでしょう。
 事務部門でも、同じようなことはあります。労組の専従が異動で人事部に来て、労使の対立調整がより合理的になった、などいう話もありました。

 多能工を養成するためには人事異動が必要です。これは職務給のもとではうまく出来ません。異動のたびに賃金が変わったのでは(馴れない仕事に行ったら賃金が下がったりして)巧く行きません。

 日本の人事制度は、昔から社内ローテーションと言われますように、異動が盛んで、多能の人材を育て、その中での得意分野が「一専」となって「一専多能」の人間を育てて来ていたのです。
 「多能」の裾野が広いほど「一専」の能力も高まり重要な仕事に配置されて(昇進して)行くのです。

 政府は「同一労働同一賃金」を推進しようと言っていますが、これは見かけの労働が中心の話で、「一専多能」の多能の部分(これは日常業務では潜在していることも多いでしょう)をどう評価するかなど、欧米流の制度では測れない、幅も深さも違うといった問題をはらんでいます。 
 厚労省の「ガイドライン」の作り方が難しくなるわけですね。

「トランプ不況」の襲来:真夏の夜の夢?

2018年07月05日 14時34分43秒 | 経済
「トランプ不況」の襲来:真夏の夜の夢?
 トランプ大統領のアメリカが今やっていることは何でしょうか。恐らく北朝鮮の非核化が最重要の課題という事でしょう。

 当面のトランプさんとって最も必要なのは、11月の中間選挙で、圧倒的なトランプ支持を取り付けることでしょう。それには北朝鮮の非核化を確実のものにして、ノーベル平和賞候補などとはやされなければなりません。

 しかし、状況は決して順調ではありません。米朝トップ会談では金正恩さんの方が上手で、トランプさんは騙されたといった見方もあるようです。
 そんなことも意識したのでしょうか、トランプさんは、「私でなければ戦争になっていた」などと言っているようです。戦争にならなかっただけでも成功だというのでしょうか。

 改めてアメリカは北朝鮮に最大限の圧力をかける気でしょうか、そしてそれは可能でしょうか。
 アメリカが世界の十分な支持を得ていればそれも可能かもしれませんが、最大限の圧力を無条件で支持しているのは日本と、他には・・・・・。

 北朝鮮以外の問題では、アメリカは世界の反発を買っています。もともと「アメリカ・ファースト」ですから、他国に迷惑をかけることは前提なのでしょう。今日時点で焦眉の問題は関税引き上げ合戦の貿易戦争でしょうか。
 その後には決定的ともいえそうなWTO脱退論議が控えています。

 もともとトランプさんの経済政策は 矛盾だらけで、これまでのアメリカ中心に組み上げられてきた「自由化を進めることが世界経済の発展に貢献する」という思想から、「当面のアメリカの損得を中心に考える」という超近視眼的損得勘定に堕して、「それは少し長い目で見ればアメリカにとって大きな損ですよ」と言っても、「今損しているのは我慢できない」という事のようです。

 北朝鮮問題で成功すればすべて巧く行くと思っているのかもしれませんが、経済合理性を欠いた政策は、次第にアメリカの経済力を弱めるでしょう。それは急速に進む可能性すらあります。関税引き上げ合戦は当然世界経済にとっても大きな混乱要因で、トランプさんの言う「ポジティブ」ではなく「ネガティブ」な影響を齎す事になるでしょう。

 株式市場などはすでに先読みをして、至る所で結構な下げを演じています。
将来、「あの時はトランプさんの登場で、世界経済が混乱して酷かった」「あれはまさにトランプ不況だったよ」など言われることのないように願いたいものです。

やっぱり原子力発電のコスト計算が必要では

2018年07月04日 12時06分32秒 | 経営
やっぱり原子力発電のコスト計算が必要では
 2030年を目指す「第5次エネルギー基本計画」が閣議決定されたようです。
ヨーロッパ主要国などに倣って、再生可能エネルギー主体を目指すという事ですが、本気のほどはどの程度なのでしょうか。未だに原発に恋々としている様子が透けてみえます。

 計画というのは当然達成可能性を確り検討しながら、出来るだけ理想に近づくように考えられるものでしょう。そうした点から見ますと、どうもこの計画は、何となくおざなりで、基本計画としての説得力が弱いようです。

 国際的には、地球温暖化防止の「パリ協定」も踏まえ、日本の本気度を示す再生可能エネルギーの電源構成に占める比率は22~24%という事で、ドイツの65%、原子力発電主体でやってきているフランスの40%には遠く及びません。

 そしてその次に原子力発電の占める比率が20~22%と続きます。
 確かに僅差で再生可能エネルギーが主力という事になりますが、10年以上先においてもまだ原発依存が重視されているのです。

 東日本大震災の後、一時原発の電力供給はゼロになりましたが、その後も原発再稼働の方針は維持されて、現状9機稼働でしょうか。
 正式な電源構成は発表されていないようで、2016年で原発の比率は2%という推計がありますが、これを20%超にまでもっていこうというのには、矢張り原発は安定した(?)ベース電源でコストも安いという前提があるのでしょう。

 しかし「安定した」には各地で疑問符がついていますし、最も問題なのは「原子力発電のコスト計算は出来ていない」ところにあるのではないでしょうか。

 政府は電力会社に気を使っているのかもしれませんが、原発を再稼働すれば安価に電力が供給できるというのは「安全」と「当面」という条件付きです。
 以前から原発はトイレの無いマンションと言われてきていますが、原発から出る核の廃棄物処理に将来どれだけのカネがかかるかは全く計算されていません。

 コスト計算が出来なくて電力会社は経営が出来るのかというのが素朴な疑問ですが、電力会社の料金体系は、「コストプラス」という原則が電気事業法で認められているのです。
 つまりその時にかかったコストに電力会社への報酬を上乗せして電力料金を決めるのですから、将来かかるであろう廃棄物の処理コストはその時の電力料金に上乗せすればいいので、今の時点で処理コストを計算して経営計画を立てる必要はないのでしょう。
 
 つまり今日の電力会社の経営者も、政府も、電力の消費者である我々も、原発廃棄物や廃炉のコストは、われわれの子孫に任せるから「よろしく」という事になっているのです。
 しかしそれでいいのでしょうか。収支計算のできない電源(原発)を再稼働し、廃棄物を増やし続け、負担は子孫にお任せでは些か気が引けないでしょうか。

 やっぱりコスト計算を出来るだけキチンとやってみて、 多分そのコストの膨大さに気が付き、原発の電源構成比を低く抑え、再生可能エネルギーを一層重視する責任が、この基本計画には必要なのではないでしょうか。

国会議員の定数を増やすのは合理的か

2018年07月03日 17時12分38秒 | 政治
国会議員の定数を増やすのは合理的か
 参議院の定数を「6増」しようという案が自民党から出ているようです。理由は一票の格差を3倍以内にするためには人口の多い埼玉県などで定数数を増やすのがいいという事のようで、それに比例代表などについても理屈をつけて、合計6増になるようです。

 一票の格差の問題は、民主主義の原則から言えば、衆議院では特に重要でしょう。しかし良識の府と言われる参議院では、一票の格差より日本人全体の良識を代表出来るかどうかが重要なのです。

 参議院を良識の府というのも何となく違和感がある状態ですが、定数を増やせば良識が発揮できるのでしょうか。
 最近の参議院の論議でも、確かに参議院だ、発言に良識が溢れている、というより、衆議院と同じ党利党略や忖度の世界のようです。6人増やせばよくなるとは思われません。

 人口は減少しますし、国家財政は危機状態です。本来なら、衆議院も参議院も、もっともっと定数削減をして、少数精鋭にしてほしいところです(特に参議院は)。
 確か安倍さんは野田さんから政権を受け取る際、衆議院の定数是正を条件にという事でした。

 野田さんは今でも定数削減は不十分と言っていますが、安倍さんは衆議院の定数削減はやりました。しかし約束は衆議院で、参議院は約束していません。という安倍流「ご飯論法」を、ここでもお使いという事でしょう。

 議員定数が減れば日本がつぶれるわけでもないでしょう。『少数主義は精鋭をつくる』という名著(榎本隆一郎)もあります。
 難しい時期の政権担当者には、そんな気概が欲しいですね。

内憂外患で景気足踏みか:日銀短観

2018年07月02日 12時12分03秒 | 経済
内憂外患で景気足踏みか:日銀短観
 今朝、日銀は「短期経済観測(短観)」を発表しました。
 マスコミでは「大企業の景況感2期連続悪化」などといった見出しで、企業の景況感が少し変わってきたことを示唆しています。

 確かに景気を主導すると言われる製造業大企業の景況感は現状の国際情勢、国内状況を考えればある程度慎重になって当然と誰にも思われるような状態ですから、短観の調査結果には、ほとんど違和感はありません。

 数字を見ますと製造業大企業のDI (景気が「良い」と答えた企業の割合から「悪い」と答えた企業の割合を引いた数字)先の3月時点の調査で、昨年12月の26から24に低下、今回の6月時点では、更に21へと3ポイントの低下です。

 しかし製造業大企業のDIが20を超えたのは安倍政権になってからも昨年に入ってからの事で、昨年は殊の外景気が順調だったという事ですから、2期連続の低下と言っても、まだ日本経済は元気というところでしょう。

 今回の調査でも、製造業中堅企業は19から20へ1ポイントの上昇、非製造業大企業は23かあら24に上昇など活況を維持しているところもあります。
 総じてみれば、昨年来の日本経済の活況が、何時までも続くことはないわけで、この辺りで少し立ち止まって様子を見ようという所でしょうか。

 冒頭に内憂外患と書きましたが、内憂は長期にわたる国内政治の混乱で、これで良く経済が活況を維持できると思われる状態ですし、世界的にはトランプさんの世界経済秩序を破壊するような困った行動が続いているわけです。
製造業大企業のDIの低下も自動車大企業の心配の影響が指摘されているところです。

 売り上げや利益の計画の部分を見てみますと、2017年と2018年の対比では、売上高は伸びるが、伸び率は鈍化、経常利益は多少の減少を見るとしていまして。結果、売上高利益率は2017年の5.83%から2018年には5.45%に低下という事(製造業・非製造業・規模計)ですから、今年についても、企業は高原状態の収益を計画しているという事のようです。

 正直言って、トランプさんの貿易戦争好みの異常な政策をはじめとしたトラブルメーカ-的振舞いに困惑しながら、また国内では全く手が付かない財政再建や金融正常化、消費拡大政策など、難問山積ながら、日本企業はよく頑張っていると思うところです。

働き方改革の行方:法案は通ったが:2

2018年07月01日 10時39分08秒 | 労働
働き方改革の行方:法案は通ったが:2
 前回は「働き方改革」で日本経済の生産性が上がるかという点を取り上げましたが、どうもそうはならないようです。

 国民経済生産性が上がるには「経済成長」が必要です。今のアベノミクスでは、順調な経済成長は難しいでしょう。消費が伸びないからです。経済が伸びないで生産性が上がると雇用削減か時短かワークシェアリングで実質所得の低下になります。

本当は、消費拡大策を取り、経済成長を実現する中で、生産性を上げるべきでしょうが、アベノミクスにはそれがありません。

 逆に働き方を改革すれば経済が成長すると考えているのが「働き方改革」ですが、それは政策が逆で無理ですよと言わざるを得ません。

 「働き方改革」の基本理念は、 繰り返していますように企業と従業員の関係を人間中心の日本型ではなく、職務中心の欧米型にしようという事です。
 職務給や成果主義を取り入れ、正社員と非正規社員を同じ待遇にしようという事ですから、これは現実には、非正規を正規並にするのではなく、雇用スタイルを欧米型にして、日本型正規社員をなくすという方向なのです。

 雇用を流動的にし、何時でも誰でも適職を選べるようにしようと言い、兼業や副業も推進すれば、それが「働きやすい環境」だと言っているのです。

 日本人の好む雇用のシステムは、選択の自由ではなく、雇用の安定と企業内の豊かな人間関係です。これは日本的正社員制度でないとうまく行きません。新卒一括採用が、学生側からも、企業側からも、当然のこととされているのを見れば、それは明らかです。

 就職協定などというものが、こんなに問題になることは欧米ではあり得ません。そして若年層失業率は欧米では大抵平均の2倍と高いのです。
 
 これまでも書いてきていますが、いくら法律を作っても、現実の日本の産業社会では、法律の趣旨は換骨奪胎されて、日本型に改変されたものがだけが機能していくのでしょう。
 基本的には、戦後からあった 「職務給」導入の動きが、結局日本型職能資格給になっているというのが好例です。

 労働時間に関しては、最初は長時間労働をなくすという触れ込みでしたが、裁量労働は取り下げましたが、「高プロ」には固執し、さらに上記のように 兼業・副業の奨励など、本音は労働時間短縮ではなくて、もっと働けという事のようです。

 問題の「高度プロフェッショナル」については、恐らく普及はしないでしょう。社員でありながら、特技を生かして自分の裁量で働くという、社内請負型、社内契約社員型を支援しようという活動は、今迄もありましたが、結局は殆ど受け入れられていません。

 「高プロ」は本人の選択でという事ですから、会社が強制すれば別ですが(それではパワハラ、不当労働行為の恐れが出てきます)、現実の企業の場では普及はしないでしょう。
 結局ごく少数の例外的な人のために、膨大な時間とコストをかけ、成果の無い法律を無理して作ったという事になるのではないでしょうか。

 しかし、法律を作ったのですから、行政の方が何もしないわけにはいかないでしょう。日本の雇用システムには馴染まない邪魔な規制や行政指導が行われる可能性はあります。

 その点では誰もが「自分の望む働き方を確り考えなければならなくなる」という副次効果はありうるでしょう。これは良いことだと思います。
 一言添えれば、働き方・雇用問題で、今本当に必要なことは、不本意非正規を早急になくすという事でしょう。これは法律では出来ません。