Altered Notes

Something New.

気象専門家の驕りに思う

2021-08-27 02:50:05 | 気象・地震
一つの道を極めた専門家というのは、その道を深く知らない一般人をついつい下に見てマウンティングしたがるものである。だが、そもそもそのような人は専門家以前に人として至らない、と認識せざるを得ないものだが。

何のことか?

つい先日(8月24日)のテレビ番組「林修の今でしょ講座」(EX)に於いて各局で活躍する気象予報士が集って、気象情報のあれこれについて一般人にわかりやすく講釈する、という企画があった。TBSに出演している森田正光氏、日テレに出演中の木原実氏や他の局に出ている予報士、そして俳優・タレントで気象予報士でもある石原良純氏などであり、比較的ベテランというか、気象の道を極めたような人たちが中心になるキャスティングであった。

番組はほぼこの予報士たちを中心に進行していったのだが、後半になってもう一人の気象予報士が登場した。ウェザーニューズ社の山岸愛梨氏である。



山岸愛梨氏


ご存じない方の為に簡単に説明するが、ウェザーニューズ社は民間としては最大規模の気象予報会社である。一般人が視聴できる気象情報は24時間放送されていて、YouTubeかニコニコ動画にて視聴可能である。ウェザーニューズのアプリケーションソフトからも視聴可能だ。前述の山岸愛梨氏も気象予報士であると同時に、この気象情報番組のキャスターの一人である。

ウェザーニューズでは気象情報・予報の素材データとなる観測機器を設置した場所が全国に約13,000箇所あり、これは気象庁が持つ観測ポイント数の10倍になる。また、ウェザーニューズには一般人がサポーターとして参加しており、その人達が毎日日本全国各地の気象状況について画像や映像付きでウェザーリポートと呼ばれる報告をウェザーニューズに送っている。

気象状況の把握・認識・今後の予想については、もちろん気象庁からの情報や正規の観測機器から得られるデータは重要だが、それだけでは把握しきれない詳細かつ具体的な情報、例えば現地の肌感覚も含めた情報は普通の観測機器では得られないものであり、気象の予測をする上でサポーターからの情報はかなり重要なポジションを占めているのが実態である。

そうなると、中には「嘘の情報を送ってくる不埒な一般人も居るのではないか?」という疑問を持たれる方も居るかもしれない。実はサポーターの皆さんは有料会員であり、ウェザーニューズ社にわざわざ会費を払って参加している人たちなのである。気象については人一倍意識の高い民間人たちなのだ。虚偽のリポートを送る動機などそもそも無いし、仮に嘘の情報を送ったとしても、そんなものはすぐにバレるのであり、ナンセンスであることを理解している人々なのだ。


話を戻す。

番組で、山岸愛梨氏が登場してからはウェザーニューズの活動などを紹介していったのだが、その途中で日テレ news every. で長年に渡って天気予報を担当している木原実氏が上述のウェザーリポートについて次のような発言をした。



木原実氏


木原氏は自身も
「視聴者からのウェザーリポートを時々覗いて参考にしている」
とのことで、
「レーダー観測では本当に地面に雨が降っているかどうかはわからない」
「雨雲を電波で捉えて降水強度に換算している。なので本当に雨が降っているかどうかは(現場を)見てみないとわからない。それを(一般の)サポーターが代わりに見てくれているのは助かる」
などと好意的な感想を述べた。

木原氏は続けて
「ただ、文章が『土砂降りだー!』という投稿だと実際に何mm降ったのかは、ちゃんと計測していないのでわからない」
「意外と民間の人って凄く過剰に表現するんですよ」
「『ゲリラ雷雨だ!』と言っても実際はそれほど強い雨じゃないケースもあるので、そこをちゃんと読み解かないとミスリードされちゃうかな、ということもある」
などと述べた。

木原氏の言葉は丁寧だが、これは一般人サポーターに対して失礼な物言いであろう。一種のマウンティングと捉えて間違いないと思う。言葉にそこはかとない悪意が感じられたからである。長年気象で飯を食ってきた専門家としてのプライド(と言うより過剰な自意識か)が民間人のリポートを下に見ているような印象…上から目線、というやつだ。この発言に筆者は「棘」を感じた。ここで木原氏は明らかに民間人を見下した感情を言葉に込めたのだと筆者は思ったのである。(*1)

この発言に対して特に山岸愛梨氏からの反論としての補足説明は無く、番組はこの直後に林修氏の「(木原氏は)ちゃんと他社を牽制することも忘れないのですね」という言葉でこの場面を締めた。


木原発言を受けての山岸愛梨氏からの補足解説が無かったのには理由がある。


山岸愛梨氏は自身のTwitterで「(昨日の放送について)私は1点めちゃくちゃ反省した点がありぜんぜん眠れませんでした。悔しい。今日の番組で補足させてくださいー」
と記している。

どういうことであろうか。

その説明は山岸愛梨氏自身がキャスターとして出演した8月25日放送のウェザーニュースLIVE(気象情報放送)の中で為された。その内容をベースに記していく。


番組を収録したスタジオは広く、他の気象予報士たちはひな壇型の座席に座っていたのだが、途中から出演した山岸氏だけは少し離れた位置に立った。そして、ここが重要なポイントだが、他の予報士たちと山岸氏の間にはコロナ対策用の大きなアクリル板が立っており、姿は見えるが声は聞き取りにくい、という状況になっていたのである。あのアクリル板は思いの外、人の声を遮断してしまうものなのだ。

山岸氏は番組放送を視聴して初めてあの時に木原氏が何を言っていたのか把握し理解したのだ。「こんなこと言われてたのか!」と衝撃を受けた、ということである。
木原氏が「ウェザーリポートを見て参考にしている」と言ったことで、あたかもウェザーリポートを高く評価しているのかと思いきや、続けて「ウェザーリポートは素人さんが報告しているので信憑性が低い」という趣旨の話になっていたので喫驚したのである。

山岸氏は正にその発言の時に、アクリル板のせいでうまく聞き取れずに内容を聞き逃していたのだ。なので、放送を視聴した山岸氏は「あー、ちょっと補足すれば良かった、と思った」そうである。

山岸氏が最も引っかかった部分は木原氏の「それほど大した雨ではないのに”土砂降りです”ってリポートされちゃうので、素人さんだからミスリードされる可能性があるので気をつけなくてはいけないんです」という部分であり、筆者が引っかかった部分と同じである。

山岸氏は「仮にスタジオでこの(木原氏の)発言をちゃんと聞き取れていたら、私は絶対(相手と)戦ったのに」と思い、「(一般人の)リポーターのみんなを地上波で守れなかった…と思ったら悔しくなった」と述べている。山岸氏は一般利用者からのウェザーリポートにはいつも感謝しており、「そんな皆さんの為に私は戦いたかったのに…なんか悔しいな」と述べ、落涙しそうなほど悔しさの感情がこみ上げる表情で率直な気持ちを吐露したのであった。



上で説明したように、ウェザーニューズの一般サポーターの人々は進んで会費を払ってでも自ら参加し、気象状況等の報告を送っているのであり、その気象に対する意識の高さは普通の市井の人々とは明らかに異なるであろう。その人達が専門家のプライドに依って見下された(馬鹿にされた)事に山岸氏は憤りを感じたのだ。

山岸愛梨氏は言う。
「やっぱり専門家の人はどうしても『定義はこうだから』とか『専門的にはこうだから』となりがちだけど、(そもそも)「誰のための天気予報か」というところは(我々は)忘れちゃいけないと思っていて、天気を見る人ってほとんどの方が気象予報士ではないですし、お天気のことを知らない方も見ていますし、そういう方が『今、雨強いです』と言ったら、『いやいや、アメダスは(それを)全然観測してないよ』…じゃなくて、やはりその方にとっての捉え方や感じ方があるんだな…という、そういう情報をちゃんと伝えることも大事だし、天気の感じ方も気温の感じ方も人それぞれあるのは当然だから、そこが一緒じゃなくてもいいわけです。伝える側はリポートしてくれた人の貴重な情報を届けなくてはいけない使命感を持っていないといけない。その意味で『素人だから駄目』ということではなくて、そのような捉え方・感じ方もあるんだ、という事を理解した上で情報を伝える事は凄く大事なことだと思う。一方通行の天気予報になってしまうのは良くないので、私達は毎日皆さんからいただくコメントやレポートなどをたくさん見て、皆さんに今必要な情報とは何か、を考えながらお届けしている。専門家になればなるほど、情報を受け取る側を想像するのが難しくなったり認識のズレが生じる事もあると思いますが、やはり私達は皆で一緒に天気予報を作っているので、ひとりひとりに合った情報、皆さんが必要とする情報を届けたいと思って毎日24時間頑張っているのです」

そして山岸氏は続けて
「もちろん(木原氏は)リポートを毎日見ている人ではないので、実態をご存知ではないと思う」と述べて、一般のサポーターのレベルや意識の持ち方を知らないが故の誤解がそこにはあった、という事を示唆しているのである。

さらに続けて
「そのような誤解を持つ人も多いと思う。だから、私は皆さん(一般サポーター)を守れなかったな、と思って悔しかったし悲しくなった」と述べている。専門家に依る一般サポーターへの見下し(マウント)に対して戦えなかった(訂正できなかった)事を山岸氏は深く後悔しているのであった。


要するに一般人が「土砂降りだー!」と報告したならば、それは日本全国各地で実際に生活している人々に依る現地の気象に対する肌感覚も含めた真摯な報告なのであって、そうした主観的な部分も大いに参考情報として評価に耐えうるものなのである。確かに一般人サポーターは木原氏のような専門家ではないので、使う言葉は一般的な口語を使ったものになるだろうが、元々気象に対して意識の高い人々であるが故に的外れな表現はしないであろう。しかも、そのリポートには情報を補強する画像やビデオ映像が付加されている場合がほとんどだ。また、市井のリポーターの報告だけでなく、ウェザーニューズが収集している各種の情報と照らし合わせて最終的に判断してゆくのであり、ミスリードされる余地は無いと言っても過言ではないだろう。
様々な情報を参考にしてウェザーニューズの気象情報は作成されていくのだが、最終的にアウトプットされる気象情報の精度の高さは既に各方面で実証済みなのである。そこを木原氏に代表される専門家たちは理解しようともせず、一般人の報告を軽んじた上で無意識的に自分自身を一種の権威と見做して上から目線の姿勢になってしまうのであろう。仏教で言うところの『増上慢』ということであり、実に残念である。木原氏には「謙虚」という言葉を思い起こしていただきたいものである。



筆者は気象予報士である山岸愛梨氏の気象情報に賭ける情熱と一般サポーターの皆さんへの信頼の高さをひしひしと感じることが出来て感動している。山岸氏には今後より一層のご活躍を期待するものである。



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(*1)
百歩譲って木原氏の言わんとすることは理解できなくはないが、それならば、あのように言うべきではなかったのは確かだ。表現方法が間違っていたと言えよう。