ローリング・ストーンズのドラマーであるチャーリー・ワッツが8月24日に亡くなった。80歳だった。
「ローリング・ストーンズのドラマー、チャーリー・ワッツさんが80歳で死去」
派手なプレイは無かったが、実に音楽的でグルーヴする8ビートを演奏するドラマーであった。
筆者は以前に「バンドのセンターはドラムである」という趣旨の記事を記した事がある。ローリング・ストーンズに於いては正にチャーリー・ワッツこそがバンドの核心であったと断言できる。派手で目立つミック・ジャガーやキース・リチャーズといったフロント・メンバーの陰に隠れがちではあったが、実はローリング・ストーンズの真の魅力はチャーリー・ワッツが叩き出す8ビートのリズムにあった、と言っても過言ではないだろう。ミックのヴォーカルも、キースのギター・プレイも、実はチャーリー・ワッツのグルーヴするドラムの上で初めて輝きを得ることが出来たのである。
ギターのキース・リチャーズは1979年に次のように語っている。
「みんなミックとキースがストーンズだと思っている。でも、チャーリーのドラムがなかったらバンドは成り立たない。チャーリー・ワッツこそがストーンズなんだよ」
正にその通りである。ローリング・ストーンズの音楽の核心はチャーリー・ワッツのドラミングにあったのだ。(*1)
元ビートルズのポール・マッカートニーも追悼コメントを出しているが、その中でポールは「チャーリーのドラムは岩のように安定していた」という趣旨のコメントをしている。「岩のように」というのはロックバンドであるストーンズだけに洒落っ気を入れたのかもしれないが…それはさておき、チャーリー・ワッツのドラムがいかに安定したグルーヴ感を持っていて、しかもそれがアンサンブルを共にする仲間達にとっては心から安心できる上にバンド全体を鼓舞するような素晴らしいリズムであった事を物語っていると言えよう。
「Charlie Watts / Jumpin' Jack Flash」
↑この演奏などは典型的なローリング・ストーンズ・ミュージックだが、チャーリー・ワッツのドラミングだけを映した珍しい映像である。(ちなみに映像はマーティン・スコセッシが撮っている)2拍目と4拍目に入るスネア・ドラムの抜けの良いサウンドが心地良く素晴らしい。チャーリーが作るリズムのグルーヴ感の核になる部分がここにある。その2拍目と4拍目にスネアが打たれるタイミングが絶妙に素晴らしいのだ。リズムに於いて1拍分の時間の長さは実は結構長い。長いと言っても一瞬のことだが。その1拍分の長さの何処(前寄り・真ん中・後寄り)でスネア・ドラムを打つのか、そのタイミングはドラマーによって異なる。チャーリーのスネアは1拍分の時間の後ろ寄りのタイミングで打っているので、リズムとして聴いた時に一種の「ゆったり感」のある心地良い8ビートになるのである。また、スネア・ドラム自体も良いチューニングがされており、リムショットも使って抜けの良い爽快なサウンドが生み出されていた。ストーンズのようなシンプルなフォーマットのロック音楽の場合は特にドラムが生み出すグルーヴ感が決め手になるのだ。
もう一つ付け加えるなら、右手が叩くハイハット・シンバルにも特徴がある。普通に8ビートを演奏するならば右手は1小節に8分音符を8回打つ事になるが、チャーリー・ワッツの場合は2拍目と4拍目(=スネアを打つタイミング)はハイハット・シンバルを打たない事が多い。その分、打ち込まれるスネアのサウンドがよりクリアに響くからである。これも彼の個性というか特徴の一つと言えよう。チャーリーの演奏ビデオを見ていると、ハイハットを刻む右手の動きが止まる瞬間が定期的に訪れる事に気づくと思う。それはこうした理由に依るものである。
ローリング・ストーンズは1990年に初来日(*2)して、東京ドームで演奏したのだが、その時の演奏も良かった。この公演はNHKで放送されたが、チャーリー・ワッツのが醸し出すドラムのグルーヴ感が最も印象的だった事をはっきり記憶している。
やんちゃで不良的なイメージのあるミック・ジャガーやキース・リチャーズとは違って、バンドの中で一人だけイギリス紳士然とした風貌のチャーリーだが、実はジャズも演奏していた。この世代のロック・ドラマーの多くがジャズ出身であるように、チャーリーもまたジャズを敬愛するミュージシャンの一人であった。トリオやクインテットなどのコンボ演奏もビッグバンドでの演奏もある。ローリング・ストーンズでの演奏とは違って、自分の好きな世界を心から楽しむ風情が感じられる演奏であった。チャーリー自身の言葉からもそれは読み取れる。
「今でも自分はジャズ・ドラマーだと思っている。ジャズ・ドラマーがたまたま世界一のロックバンドに入ってるってことだよ」チャーリー・ワッツ
「Take The 'A' Train - Charlie Watts And The Tentet」
↑10人編成のバンドで演奏するデューク・エリントンでおなじみの「A列車で行こう」である。ここでも決して派手なスタイルではないが、しかし音楽全体を支える心地よいリズムはそのままであり、音楽を演奏する喜びが彼のプレイにはある。
また、このようなアルバム↓もある。ビッグバンドでの演奏である。
「CHARLIE WATTS ORCHESTRA (Live At Fulham Town Hall)」
改めてチャーリー・ワッツに感謝と哀悼の意を表したい。
RIP Charlie Watts.
---------------------------
(*1)
また、キース・リチャーズは次のようにも語っている。
「もしかしたら俺は最もドラマーから影響を受けたギタリストかもしれない。チャーリー・ワッツからね」
(*2)
本当は1973年に初の日本公演が予定されていた。しかし、当時の外務省がメンバーの過去の大麻使用歴を問題視して入国を拒否した為に中止になっている。
「ローリング・ストーンズのドラマー、チャーリー・ワッツさんが80歳で死去」
派手なプレイは無かったが、実に音楽的でグルーヴする8ビートを演奏するドラマーであった。
筆者は以前に「バンドのセンターはドラムである」という趣旨の記事を記した事がある。ローリング・ストーンズに於いては正にチャーリー・ワッツこそがバンドの核心であったと断言できる。派手で目立つミック・ジャガーやキース・リチャーズといったフロント・メンバーの陰に隠れがちではあったが、実はローリング・ストーンズの真の魅力はチャーリー・ワッツが叩き出す8ビートのリズムにあった、と言っても過言ではないだろう。ミックのヴォーカルも、キースのギター・プレイも、実はチャーリー・ワッツのグルーヴするドラムの上で初めて輝きを得ることが出来たのである。
ギターのキース・リチャーズは1979年に次のように語っている。
「みんなミックとキースがストーンズだと思っている。でも、チャーリーのドラムがなかったらバンドは成り立たない。チャーリー・ワッツこそがストーンズなんだよ」
正にその通りである。ローリング・ストーンズの音楽の核心はチャーリー・ワッツのドラミングにあったのだ。(*1)
元ビートルズのポール・マッカートニーも追悼コメントを出しているが、その中でポールは「チャーリーのドラムは岩のように安定していた」という趣旨のコメントをしている。「岩のように」というのはロックバンドであるストーンズだけに洒落っ気を入れたのかもしれないが…それはさておき、チャーリー・ワッツのドラムがいかに安定したグルーヴ感を持っていて、しかもそれがアンサンブルを共にする仲間達にとっては心から安心できる上にバンド全体を鼓舞するような素晴らしいリズムであった事を物語っていると言えよう。
「Charlie Watts / Jumpin' Jack Flash」
↑この演奏などは典型的なローリング・ストーンズ・ミュージックだが、チャーリー・ワッツのドラミングだけを映した珍しい映像である。(ちなみに映像はマーティン・スコセッシが撮っている)2拍目と4拍目に入るスネア・ドラムの抜けの良いサウンドが心地良く素晴らしい。チャーリーが作るリズムのグルーヴ感の核になる部分がここにある。その2拍目と4拍目にスネアが打たれるタイミングが絶妙に素晴らしいのだ。リズムに於いて1拍分の時間の長さは実は結構長い。長いと言っても一瞬のことだが。その1拍分の長さの何処(前寄り・真ん中・後寄り)でスネア・ドラムを打つのか、そのタイミングはドラマーによって異なる。チャーリーのスネアは1拍分の時間の後ろ寄りのタイミングで打っているので、リズムとして聴いた時に一種の「ゆったり感」のある心地良い8ビートになるのである。また、スネア・ドラム自体も良いチューニングがされており、リムショットも使って抜けの良い爽快なサウンドが生み出されていた。ストーンズのようなシンプルなフォーマットのロック音楽の場合は特にドラムが生み出すグルーヴ感が決め手になるのだ。
もう一つ付け加えるなら、右手が叩くハイハット・シンバルにも特徴がある。普通に8ビートを演奏するならば右手は1小節に8分音符を8回打つ事になるが、チャーリー・ワッツの場合は2拍目と4拍目(=スネアを打つタイミング)はハイハット・シンバルを打たない事が多い。その分、打ち込まれるスネアのサウンドがよりクリアに響くからである。これも彼の個性というか特徴の一つと言えよう。チャーリーの演奏ビデオを見ていると、ハイハットを刻む右手の動きが止まる瞬間が定期的に訪れる事に気づくと思う。それはこうした理由に依るものである。
ローリング・ストーンズは1990年に初来日(*2)して、東京ドームで演奏したのだが、その時の演奏も良かった。この公演はNHKで放送されたが、チャーリー・ワッツのが醸し出すドラムのグルーヴ感が最も印象的だった事をはっきり記憶している。
やんちゃで不良的なイメージのあるミック・ジャガーやキース・リチャーズとは違って、バンドの中で一人だけイギリス紳士然とした風貌のチャーリーだが、実はジャズも演奏していた。この世代のロック・ドラマーの多くがジャズ出身であるように、チャーリーもまたジャズを敬愛するミュージシャンの一人であった。トリオやクインテットなどのコンボ演奏もビッグバンドでの演奏もある。ローリング・ストーンズでの演奏とは違って、自分の好きな世界を心から楽しむ風情が感じられる演奏であった。チャーリー自身の言葉からもそれは読み取れる。
「今でも自分はジャズ・ドラマーだと思っている。ジャズ・ドラマーがたまたま世界一のロックバンドに入ってるってことだよ」チャーリー・ワッツ
「Take The 'A' Train - Charlie Watts And The Tentet」
↑10人編成のバンドで演奏するデューク・エリントンでおなじみの「A列車で行こう」である。ここでも決して派手なスタイルではないが、しかし音楽全体を支える心地よいリズムはそのままであり、音楽を演奏する喜びが彼のプレイにはある。
また、このようなアルバム↓もある。ビッグバンドでの演奏である。
「CHARLIE WATTS ORCHESTRA (Live At Fulham Town Hall)」
改めてチャーリー・ワッツに感謝と哀悼の意を表したい。
RIP Charlie Watts.
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(*1)
また、キース・リチャーズは次のようにも語っている。
「もしかしたら俺は最もドラマーから影響を受けたギタリストかもしれない。チャーリー・ワッツからね」
(*2)
本当は1973年に初の日本公演が予定されていた。しかし、当時の外務省がメンバーの過去の大麻使用歴を問題視して入国を拒否した為に中止になっている。