田中川の生き物調査隊

平成12年3月発足。伊勢湾に注ぐ田中川流域の自然と生き物を調べ、知らせる活動をしています。三重県内の生き物も紹介します。

ヒラタムシヒキ覚書

2010-08-06 | ハエ目(双翅目)

ムシヒキアブ科のヒラタムシヒキ Clinopogon sauteri Bezzi, 1910

津市北部の砂浜海岸。スナガニの巣穴が見つかるような高潮線あたりの海岸線を歩き回った。海浜植物は生えていなくて,貝類や海藻類が打ちあがり,流木など漂着物が多い,そんなところばかりを何日も歩き回った。狙いはヒラタムシヒキである。

三重県レッドデータブック2005では,ヒラタムシヒキは「海浜性の種で,自然度の高い海岸に局所的に生息するが,生息地は極めて少ない」として,絶滅危惧Ⅱ類に選定されている。
また,同書によると,「体長14~17㎜程度。体は黒色で灰白色の微粉に覆われる。翅は透明,成虫は捕食性,海浜のゴミや藻類の上に見られる。幼虫の生態は不明だが,捕食性で砂地に生息すると考えられる。ムシヒキアブのうちで最も海水に近い波打ち際に生息する特徴的な生態の種。年1化,初夏に出現。」

大石久志・乙部宏(2003)によると,2000年7月27日に津市の町屋浦で7個体を見つけている。それから10年が経ち,私は今年,津市の白塚海岸と豊津海岸で見つけた。
7月初旬頃から歩き回って,何度も何度も空振りが続いた。そして,ようやくにして7月20日,22日と31日に1個体ずつ見つけたのである。もう二度と探したくない。さすが,絶滅危惧種だけのことはある。7月31日に出会った雄は,炎天下この場所でこの姿勢のまま30分間ほど全く動かなかった。根負けした。私は日射病が気になって,砂浜を後にした。

春沢 圭太郎(2004)によると,沖縄県西表島では6月27日に河口の汀線付近で採集されている。
祝輝男(2008)によると,福岡県では7月中旬に見つけている。
別府隆守(2009)によると,7月初旬に高知県土佐清水市の海岸では「波打ち際と草地の間で」見つけている。

ヒラタムシヒキが図鑑に出てくるのは1950年(1932年の同図鑑に出ているようだが,私は見ていない)の日本昆虫図鑑だけである。その後の改訂版ではなぜか消えてしまっている。O氏によれば,津市の海岸で見つかったヒラタムシヒキは「図鑑の記載と合致します。標本は油が浮いてきて,やがて真っ黒になります,どうしようもないです。生時の美しさを記録しておくには,生態写真または採集後の早い時期に標本の写真撮影しておくことですね」とのことである。

1950年の日本昆虫図鑑によると,「中形,灰黒色。頭は胸部より狭く,額は幅広く,灰白粉及び白毛で被われ,頭幅の1/3より広く前方に狭まり毛が少ない。顔面は多少下方に広がり,白粉で被われ,下方に向かう白毛顕著。触角は黒色,第1,2両節は甚だ短く等長,第3節は細長,前2節の和の2倍強長,末端棘毛は甚だ短かく,その末端に微棘を有する。胸背は比較的大,中央に太い白色粉からなる縦帯を有し,その末端は2分する。側縁も白色粉で不規則に被われ,全面に白色微毛を生じ,側縁に白色の3長棘毛を生ずる。小楯板は中庸大。翅は殆んど無色,比較的短く,m3とCu1とは1点で接合する。腹部は太く,尾端に至るに従って細まり,雄では著しく長い。体長15(雌)-20(雄)㎜。本州・沖縄・台湾に産するが,稀な種類である。[素木]」

大石久志・乙部宏(2003)によると,「♂♀:身体は黒色で,全体に灰白色の微粉に覆われ,砂地の色彩に適応したやや青みを帯びた灰白色を呈する。♂外部生殖器は小さい。♀第10背板には5対の刺状突起がある。」

文 献
大石久志・乙部宏(2003)三重の海浜性ムシヒキアブ.はなあぶ,16:49-52,双翅目談話会.
春沢 圭太郎(2004)ウミアメンボを狩るヒラタムシヒキの記録.はなあぶ,17:75,双翅目談話会.
大石久志・蒔田実造(2006)ヒラタムシヒキ.三重県レッドデータブック2005動物:288,三重県環境森林部自然環境室.
祝輝男(2008)九州における海浜性双翅目について -2007年,ヒラタムシヒキ,ハマベコムシヒキ,ハネボシスナニクバエ,ホリホソニクバエ,ゴへイニクバエ,ハマベニクバエの確認状況-.はなあぶ,25:49,双翅目談話会.
別府隆守(2009)ヒラタムシヒキがハマベコムシヒキを狩る.はなあぶ,27:33,双翅目談話会.


ヒラタムシヒキ雄 2010.7.31 豊津海岸


ヒラタムシヒキ雌 2010.7.22 豊津海岸


ヒラタムシヒキ雌 2010.7.20 白塚海岸


日本昆虫図鑑 (1950年) に図示されたヒラタムシヒキ雌
雌の腹部末端には黒く太い毛(この図では8本)が生えている。砂浜で産卵するときに,この毛が有効に働くのであろう。


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2 コメント

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Unknown ($4)
2010-08-07 01:49:05
ちょい昔は地元でも海岸沿いに雑魚をばら撒いてて、それにハエやアブがたかってたと聞いた気がします。

前から思ってたんだけど、図鑑などは写真が見やすいけど体の構造を見るのはスケッチがすごいと思う。
これってよく書きますよね。
後世に役立ちます。
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スケッチ (田中川)
2010-08-08 09:50:40
こんな描画が新種記載論文に載っていたら,さらに後世の役に立つと思います。
画ける人が居ないから,今後の図鑑には描画が使われることは無いんでしょうね。
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