田中川の生き物調査隊

平成12年3月発足。伊勢湾に注ぐ田中川流域の自然と生き物を調べ、知らせる活動をしています。三重県内の生き物も紹介します。

メスアカケバエの群飛

2016-01-16 | ハエ目(双翅目)

ケバエ科ケバエ属のメスアカケバエ Bibio japonica (Motschulsky,1866)

An observation on the aerial swarm of Bibio japonica (Motschulsky,1866)(Diptera:Bibionidae)

2015年の春,三重県津市河芸町の豊津海岸でメスアカケバエの群飛を観察した.

三重県ではこれまで津市内から5個体の標本が記録されているだけで,レッドデータブック2015では絶滅危惧Ⅱ類(VU)に選定されているほどだから,まとまった数を採集できていないどころか,多数の個体が飛び交う様子は見たことがなかった.同県の10年前のレッドデータブックでは情報不足種としていたが,10年間の調査を経ても,なかなか新産地を発見できなかったことと既産地の環境変化も見られたため,ランクが上がったのである.

かつて,Bibio rufiventris Duda の学名で記録されることが多かったが,最新の昆虫目録ではBibio japonica (Motschulsky)となっている.

メスアカケバエは,体長11mmほど.雄は全体が光沢のある黒色で,体表の毛はすべて黒色である.普通種のハグロケバエと紛らわしいが,ハグロケバエの胸部側面と腹部の毛は褐色であり,また胸部背面がつや消しなので区別できる.翅の脈にも違いがあって,ハグロケバエのRsはr-mの約2倍長で,本種は約4倍長.雌は中胸背と腹部は淡赤褐色で腹部第1背板には一対の黒点を持つ.成虫は3~6月に出現と図鑑類には載っているが,三重県内の採集記録や私の目撃メモを見る限り,4月19日から5月6日までであり,3月や6月に出現するなんて当地では考えられない.Hardyほか(1960)は奄美大島などから3月に採集し,北海道や東京などから6月に採集している.成虫の寿命は,長くて2週間くらいなものだろう.

メスアカケバエは日本各地の普通種で,幼虫は土中の腐植質を食し群生するが,茨城・愛知では農業構造改変にともなって減少傾向にあるという。(日本野生生物研究センター,1980)






メスアカケバエ♂

参考文献
堀野満夫,2008.近畿地方におけるメスアカケバエの記録.はなあぶ,25:60-61.
柿沼進,2013.山口県のケバエ類の記録(1).はなあぶ,35:15.
吉田浩史・八木剛,2012.兵庫県の注目すべき双翅目.きべりはむし,34(2):12-25,兵庫昆虫同好会・NPO法人こどもとむしの会.
吉田浩史,2015.兵庫県の双翅目8.ケバエ科・トゲナシケバエ科.はなあぶ,39:77-84.
三重県,2015.三重県レッドデータブック2015-三重県の絶滅のおそれのある野生生物-.758pp,三重県農林水産部みどり共生推進課.
中村剛之,2009.栃木県のケバエ(双翅目,ケバエ科).栃木県立博物館研究紀要 自然,26:15-20,栃木県立博物館.
靭公園自然研究会,2012.いのちの森・生物多様性公園をめざして-大阪都心・靭公園の自然と歴史-.303pp.,大阪自然史センター.
日本野生生物研究センター,1980.第2回自然環境保全基礎調査 動物分布調査報告書(昆虫類)全国版.財団法人日本野生生物研究センー.
近藤繁生・高崎保郎・浅井弘三・久野武顕,1990.愛知県の双翅目.愛知県の昆虫(上),169-197,愛知県昆虫分布研究会.
鈴木裕・脇一郎・久保浩一,2004.ハエ目Diptera.神奈川県昆虫誌Ⅲ,845-906,神奈川昆虫談話会.
内田正吉,2009.白井市の双翅目昆虫.白井市生物多様性調査報告書,609-630,白井市,千葉.
鶴崎展巨・林成多・宮永龍一・一澤圭・川上靖,2012.鳥取砂丘の昆虫類目録.山陰自然史研究,7:47-82,鳥取県生物学会.
Hardy, D. Elmo & Mitsuo Takahashi, 1960. Revision of the Japanese Bibionidae (Diptera, Nematocera). Pacific Insects, 2(4): 383-449.


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