田中川の生き物調査隊

平成12年3月発足。伊勢湾に注ぐ田中川流域の自然と生き物を調べ、知らせる活動をしています。三重県内の生き物も紹介します。

シモフリシマバエ越冬中

2010-01-31 | ハエ目(双翅目)
シモフリシマバエ
シマバエ科のシモフリシマバエ Homoneura euaresta (Coquillett, 1898)

小岐須渓谷で集めてきた落ち葉をフルイにかけていると,ほんの少しだけ動くハエを発見。
体長は3~4mmくらい。小雪舞う山岳地帯で越冬中のシモフリシマバエだと思う。

北海道,本州,四国,九州に分布し,3月から10月末頃に山間部の林床の植物上で出会える。
Homoneura属は,わが国では33種が知られている。代表的な種はシモフリシマバエ(体に褐色の不規則模様があり,翅に透明紋があるタイプ)とヒラヤマシマバエ(体は黄褐色で光沢を持ち,翅には中央と翅端に暗色の帯状紋をもつタイプ)。

3種のシマバエ科を載せている原色日本昆虫図鑑(下)によると,シモフリシマバエは「体長3.2㎜,翅長3.5mm。頭部は灰黄色で前額中央に八字形の黒色紋がある。胸部背面は灰青色剛毛と黒色短毛があり,それぞれの基部には小黒色紋があって,互いに不規則に連続する。翅は黒褐色で水玉模様がある。腹部の基部は黄褐色,以後は灰黒色で各節前縁には灰青色粉よりなる1対の倒三角形紋が並ぶ。」などとある。

新訂原色昆虫大図鑑Ⅲには,シマバエ科は2種しか載っていない。シモフリシマバエも載っていない。こんな状態だから,ハエの世界に入ろうとしても迷うばかりだ。

『鈴鹿市の自然』によると,シマバエ科はヒラヤマシマバエが野登山で採れている。

2010.1.23
シモフリシマバエ

干潟のタシギ

2010-01-29 | 
タシギ
シギ科のタシギ Gallinago gallinago

ここ田中川干潟では毎年のように出会っているような気がする。冬が来ると,またタシギに会えるぞと思う。
主に夕方から活動すると図鑑に書いてあったが,この日は昼過ぎに見た。食性は「ミミズ類,魚類,甲殻類,貝類昆虫類」とこれも図鑑に書いてあった。残念ながら,この日,タシギが何を食べていたのかは確認できなかった。
1月中旬に見かけてから,その後会えていない。会えないと寂しいもんだ。

2010.1.15
タシギ

タシギ

チャバネアオカメムシ越冬個体

2010-01-25 | カメムシ
チャバネアオカメムシ
カメムシ科のチャバネアオカメムシ Plautia crossota stali Scott

鈴鹿市の小岐須渓谷に仲間と出かけた。山に着くと,小雪が舞っていた。
石起こしと落葉ふるいで甲虫探しだ。
見つかったのは石の裏で越冬中のチャバネアオカメムシと数種の貝だけで,甲虫は見当たらなかった。後日,持ち帰った落ち葉の中から何種類かの甲虫は出てきた。
この時期,越冬中のチャバネアオカメムシはどれもこんな色をしている。体長は10ミリを少し超えたくらい。
持ち帰った落ち葉の中からも1個体が出てきた。捕まえようとしたら,飛んで行った。
2010.1.23

小岐須渓谷
小岐須渓谷の滝ケ谷コースの川原にて石起こしをして,虫を探す

小岐須渓谷
小岐須渓谷 椿岩から南の方角を望む 向こうの山は野登山
この場所はロッククライミングで有名らしい。岩のあちこちに金具が打ち付けてあった。

文献から

2010-01-11 | 田中川
田中川干潟
2009.11.15の田中川干潟

40年以上前の文献を見つけた。1967年の11月に当地を訪れた筆者が,この地の植物を紹介しているので,以下に書き写しておく。「東千里海岸の景観(安芸郡河芸町)」の小見出しの後に

「近鉄千里駅の東に広い海岸湿地帯があり,11月16日浜を歩いてみると,直径3cmぐらいの黄色い花をつけたハマニガナが砂浜をはっていた。ハマサジも小さな花をのぞかせていた,海水の浸入する湿地帯ではハママツナ,オニシバ,ホソバノハマアカザが大群落をつくっていた。ハママツナの肉質の葉は美しい赤紫色に染まっていた。
 その他ハマエンドウ,ホソバノハマアカザ,ハマヒルガオ,カワラナデシコ,ハマアオスゲ,ハマボウフウ,ケカモノハシ,コウボウムギなどがみられた。」

これらの植物の中で,カワラナデシコはもう何年も見ていない。
この日,一人の男性が干潟や砂浜を歩き回って植物を調べていた。干潟に生えているアカザの仲間について種名を尋ねると,「アカザは難しい」と言って,標本を採集していた。そして,砂浜を南へ南へと歩いて行った。豊津海岸や白塚海岸でも歩いている姿を見かけた。どこのどなたかは知らない。

文献
小林秀樹(1968)三重県の海岸植物(その2).三重生物,19,32-40.
ハマニガナ
2009.11.15のハマニガナ

ハラグロランプカミキリモドキ三重県初記録

2010-01-06 | 甲虫
ハラグロランプカミキリモドキ
カミキリモドキ科カミキリモドキ亜科フトカミキリモドキ族のハラグロランプカミキリモドキ Eobia florilega Lewis, 1895

標本写真で恐縮だが,生時の写真は無い。採集は2002年7月13日の夜。当時はマリーナ河芸の観鳥台(展望タワー)がライトアップされていて,たくさんの数の昆虫たちが集まっていた。いくつか有った照明灯は何度も何度もならず者達に壊されて,最近は全くライトアップされていない。
このカミキリモドキは,当時同定していただいた今は亡き市橋甫先生から「この標本は珍しいですよ」と聞かされていた。市橋先生からそんなことを言われたのは後にも先にも無い。
先生からは事あるごとに「Sさんはいろいろ調べられていますが,記録に残してくださいね」と言われ続けていた。

最近になって,昔の標本箱を覘いてみたら,蓋がしっかり閉まっていなくて,カビは生えているわ,虫に喰われているわで,半分は廃棄せざるをえない。そんな中に,ハラグロランプカミキリモドキの標本は破損も無く残っていた。
県内のカミキリモドキ科を調べてみると,本種の記録が見当たらなかった。おそらく三重県初の記録であろう。この記録により,三重県産のカミキリモドキ科は26種となる。

黒佐和義(1958)によると,「日本・沖縄島・宮古島・台湾・支那より知られた種で,本邦では神戸と愛媛県鹿島に産する記録があるのみ。筆者は神戸と大分県佐伯市で夜間灯火に飛来した成虫を採集した他,高松市と対馬佐須奈から得られた成虫を検した九州及び対馬からはこれが最初の報告である。本種は判明した産地が現在のところ未だ少ないので,確実なことは判らないが,本邦では比較的温暖な地方にのみ分布するものと考えられる。毒性については未調査である。」

秋山秀雄(2000)によると,「体長10.5-14.5㎜。小あごひげ,各付節,腹部は暗色,黒褐色でそれ以外は黄褐色。(中略)5~6月に灯火で採集される。分布:本州,四国,九州,三宅島,八丈島,対馬,男女群島,種子島,奄美大島,沖縄本島,加計呂間島,台湾,中国。」

原色日本甲虫図鑑(Ⅲ)によると,「7月に出現,灯火にくる。」

市橋先生から言われ続けていた記録は,ようやく一つ残されることになる。この標本はもう自分の手元に置いておくことは出来ない。近いうちに県立博物館に寄贈しようと思っている。

参考文献
I Lobl・A Smetana(2008)Catalogue Of Palaearctic Coleoptera, Volume 5: Tenebrionoidea,670pp.Apollo Books, Denmark.
秋山秀雄(2000)日本産カミキリモドキ科図解解説.神奈川虫報132:1-53,神奈川昆虫談話会.
黒佐和義(1958)カミキリモドキ類とこれによる病害について : 有毒甲虫の研究, I.衛生動物 9(3) :130-148,日本衛生動物学会.
黒澤 良彦ほか(1985)原色日本甲虫図鑑(Ⅲ).保育社,500pp.
生川展行(2006)三重県のカミキリモドキ科.ひらくら, 50(5):67-77.

ハラグロランプカミキリモドキ

キバネカミキリモドキも毒がある

2010-01-04 | 甲虫
キバネカミキリモドキ
カミキリモドキ科ナガカミキリモドキ亜科のキバネカミキリモドキ Nacerdes (Xanthochroa) luteipennis (Marseul, 1876) 

豊津海岸のマサキの花にカミキリモドキが居た。種名はようやくキバネカミキリモドキと判明した。海岸には居たものの,この種は海浜性ではない。成虫は花が好きらしい。

原色日本甲虫図鑑(Ⅲ)によると,「9-13mm。体,触角,肢が黒く,上翅のみ黄褐色で赤銅光沢を帯びる。♂の第5腹板は三角形に深く切れ込み,♀では先端が小さくえぐられる。」又,同書によると,カミキリモドキ科は「幼虫は主として針葉樹の朽ち木中に生活し,成虫は花に集まり,蜜や花粉を食べると考えられる。夜間灯火に飛来するものには,しばしばその体液中のカンタリジンによって人体皮膚に炎症を起こさせる衛生害虫が含まれる」

黒佐(1958)によると,「本邦では全土に亘って広く分布し,平地及び山地にかなり普遍的に棲息するが,西日本よりは東日本に於いて特に豊富に産するように思われる。東京付近の平地に於ける筆者の観察によれば,成虫は5月下旬から8月上旬に亘って出現し,アオカミキリモドキに混じって灯火に飛来するが,個体数は極めて少ない。実験的には毒性が認められた。」

『鈴鹿市の自然』によると,山地の灯火採集で良く採られている。
生川ほか(2006)をみると,大紀町,尾鷲市,熊野市などで良く採られている。

参考文献
I Lobl・A Smetana(2008)Catalogue Of Palaearctic Coleoptera, Volume 5: Tenebrionoidea,670pp.Apollo Books, Denmark.
黒佐和義(1958)カミキリモドキ類とこれによる病害について : 有毒甲虫の研究, I.衛生動物 9(3) :130-148,日本衛生動物学会.
生川ほか編(2006)熊野灘沿岸照葉樹林の昆虫, 285pp,三重昆虫談話会.

海浜性のハイイロカミキリモドキ

2008.6.26

キバネカミキリモドキ
キバネカミキリモドキ

海浜性のハイイロカミキリモドキ

2010-01-03 | 甲虫
ハイイロカミキリモドキ
カミキリモドキ科カミキリモドキ亜科のハイイロカミキリモドキ 
Eobia cinereipennis cinereipennis (Motschulsky, 1866) 

河芸町の豊津海岸。潮風を受けて何本かのネムノキが育っている。
そのネムノキの葉上にカミキリモドキ科を見つけた。このほど種名が確定したので紹介する。
その名は海浜性のハイイロカミキリモドキである。

原色日本甲虫図鑑(Ⅲ)によれば,「7-12㎜。頭部が黒く,上翅が暗緑色を帯びて,前胸背板と色彩を異にする点で識別は容易であるが,触角,肢などの色彩には個体変異がある。海岸地帯に多い。」

黒佐(1958)によると,「本邦では全国的に海岸にそって広く分布するものと考えられ,特に島嶼に多産する傾向が見られる。」また,「平地に豊富に産し,特に海岸に近い地域に多く見出され,成虫は6月下旬から8月中旬に亘って出現し,夜間灯火に飛来する。」さらに,実験的にハイイロカミキリモドキの毒性を確認することが出来たとし,皮膚炎の被害を受ける可能性を指摘している。

秋山(2000)によると,「頭部は黒色。触角,前胸,脚は通常は黄褐色。上翅は暗緑色。体下面は大部分暗色で灰色の毛を装う。頭部の点刻は密。6~8月に灯火で採集される。」などとある。

『鈴鹿市の自然』には,1995年7月に北若松町の海岸地帯で灯火採集された記録がある。
『熊野灘沿岸照葉樹林の昆虫』には,紀北町や尾鷲市などの海岸地帯での記録がいくつもある。

2009.7.1

参考文献
秋山秀雄(2000)日本産カミキリモドキ科図解解説.神奈川虫報132:1-53,神奈川昆虫談話会.
黒佐和義(1958)カミキリモドキ類とこれによる病害について : 有毒甲虫の研究, I.衛生動物 9(3) :130-148,日本衛生動物学会.
生川ほか編(2006)熊野灘沿岸照葉樹林の昆虫, 285pp,三重昆虫談話会.


ナデシコタネコバンゾウムシ

2010-01-01 | 甲虫
ナデシコタネコバンゾウムシ
ゾウムシ科ゾウムシ亜科コガタゾウムシ族コガタゾウムシ亜族の
ナデシコタネコバンゾウムシ Sibinia sp. =Sibinia viscariae:Hirano,1993 (non Linnaeus,1761)

三重県のカワラナデシコ群生地。花の中にゾウムシを見つけた。
このほど,三重県のゾウムシ屋二人の力で種名が明らかとなった。カワラナデシコの種子に棲息するゾウムシという。
     
参考文献によると,和名とともにタネコバンゾウムシ属という属名も新称となっている。分布は日本だけのようである。

和名は新称となったが,学名がspのままなので発表は控えたほうが好ましいとの連絡を受けた。三重県では初の発見となる。T君が生きたナデシコタネコバンゾウムシに会いたいと呟いていた。

参考文献
小島弘昭・森本桂,2004.日本産ゾウムシ上科のオンライン目録とデータベース.九州大学総合研究博物館研究報告,2:33-147.

2009.6.30

ナデシコタネコバンゾウムシ