田中川の生き物調査隊

平成12年3月発足。伊勢湾に注ぐ田中川流域の自然と生き物を調べ、知らせる活動をしています。三重県内の生き物も紹介します。

ヤマトイソユスリカ

2009-04-02 | ハエ目(双翅目)
ヤマトイソユスリカ
2009.3.10 津市の豊津海岸にて ヤマトイソユスリカ Telmatogeton japonicus Tokunaga
交尾したペアに他の雄たちがまとわりついている。

干潮時の海岸。海藻の付着した岩場に体長約4ミリ程度のハエがたくさんいる。
彼らのほとんどは忙しく歩き回っている。人が近づいても飛んで逃げていくようなことはあまり無い。浅い水溜りも平気で歩き回っている。
ときどき5個体くらいが絡み合うように団子状になっていることもある。
ムラサキイガイに脚を挟まれて、必死に逃れようとしている個体も見かけた。
鈴鹿市内の海岸でも2月に、海藻が生えているテトラ周辺で彼らを見ている。

このハエは何者か。二人の研究者に教えてもらった。

三枝豊平さんは
「海岸の磯に生息するTelmatogetonイソユスリカ属の1種でしょう.脈相が不明瞭にしか写っていないので,私には種の同定はできません.本属には場所によっては渓流性の種もあります.しかし,渓流に生息し,Telmatogetonに形態や行動がよく似ているのがDiamesaヤマユスリカ属です.早春から羽化しますので,渓流のぬれた岩の表面を走り回って雌を探している雄を観察できます.
 Telmatogetonは海生のユスリカの1群で,成虫は飛翔可能ですが,われわれが観察するのはもっぱら磯を走り回っている姿です.かたまりになっているというのは交尾したペアにほかの雄がまとわりついている状況ではないでしょうか.
 ほかに海生のユスリカはClunioウミユスリカ属がありますが,これはずっと小型で,雌は翅を欠き,雄はオドリバエ科のミナモオドリバエ属Hilaraの種のように水面を滑走するように飛翔して,雌を探します.凪いだ磯近くの海岸の海面を凝視して,白い微小な昆虫が水面を流れるように滑っている(実際は飛んでいる)のが観察できたら,それはおそらくClunioの雄です.ただし,Hilaraの中には海面で求愛餌の捕獲行動をとるものがあるので,Clunioと間違えるかもしれません.
 さらに,海生のユスリカにはPontomyiaオヨギユスリカ属があり,これも雌は無翅蛆状で,雄は翅が飛翔には適さない特殊な形に変形し,著しく長い脚を持っており,おそらくこれらを用いて海水面を滑走するのでしょう.この仲間は日没後に潮溜まりなどに現れるとのことですが,私は残念ながら観察したことがありません.紀州の沿岸にぎょう産するとの記述があります.」

エリユスリカさんは
「Telmatogeton(イソユスリカ属)の一種です。この属は日本から2種、T. japonicus(ヤマトイソユスリカ)とT. pacificus(ミナミイソユスリカ)が知られています。紀伊半島ですとこの2種が混生している事があります。翅脈が判れば種の判定は可能です。
一般にjaponicaに比べてpacificusは見た目、かなり小さく感じられます。また、紀伊半島ならイソユスリカ属の仲間であるハマベユスリカThalassomya(T. japonica:ヤマトハマベユスリカ)も見られるかも知れません。
イソユスリカは岩に付着した藻の中で、ハマベユスリカは潮溜まりの中で幼虫を見いだすことが出来るかも知れません。ハマベユスリカはしっかりと空間を確保できる容易な岩の隙間などで沢山の雄が集合して群飛します。」

翅脈が分かる写真を撮り直して再質問すると。

三枝豊平さんは
「翅のいわゆるCu fork(翅の後方に位置する二分岐した脈)の分岐点がr-m crossvein(Cu forkの分岐部の前方,翅の前縁に近くボヤーと暗色に見える斜めの短い帯に相当)とほぼ同じ位置ですから,ヤマトイソユスリカTelmatogeton japonicus Tokunaga でしょう.
 なお,Cu forkの分枝の前の脈はM4脈,後の脈はCuA脈です.これらは従来伝統的にそれぞれCuA1, CuA2脈と同定されていた脈です.」

エリユスリカさんは
「三枝先生がオヨギユスリカPontomyiaのお話をされていました。海浜性のユスリカには色々なものが知られています。
イソユスリカはイソユスリカ亜科というまとまった群となっています。また、ウミユスリカClunioはかつてはウミユスリカ亜科と言う一群が認められていたこともあります。現在はエリユスリカ亜科に包含されており、ニセビロウドエリユスリカ属Pseudosmittiaに近いとされています。エリユスリカ亜科の中にも幾つか、海岸で見られる種がいます。
オヨギユスリカはユスリカ亜科、ヒゲユスリカ族に含まれています。また、ヒゲユスリカ属の中にも海浜性の種がいます。多岐にわたって海への進出が見られます。

オヨギユスリカ属は日本から2種が知られています。紀伊半島なら、セトオヨギユスリカPontomyia pacificaでしょう。私は、この種は観察したことがありませんが、西表島でおそらくサモアオヨギユスリカP. natansだと思うのですが、この種については実際に採集しております。時期は2月中旬でした。新月の夜8時ごろ、星砂ビーチです。真っ暗な中、懐中電灯を頼りに採集をしました。潮溜まりでは見ることは出来ませんでした。波打ち際で盛んに海水面を走り回っているのを見ています。極々狭い範囲を活発に動いていました。残念ながら、雌を採集することは出来ませんでした。紀伊半島なら成虫を観察することが出来るかも知れません。ただ、大変小さい、1ミリちょっとの大きさですので、注意しなければ見逃すかも知れません。幼虫は昼間、潮溜まりで採集致しました。ですから、潮溜まりでも活動しているのかも知れません。」


北隆館の原色昆虫大図鑑第3巻(S40初版)にヤマトイソユスリカTelmatogeton japonicus Tokunagaは
「体長は2.2~4.3mm。脚は長く,丈夫で,雌雄共に触角は7環節よりなり,小顎鬚は2環節のみ。翅の横脈r-mはほぼ翅の中央に,fMCuはr-mの直後に位置する。日本産の他の1種pacificus Tokunaga ではr-mは翅の基部に近く,fMCuはr-mより先方に位置する。分布:太平洋沿岸・日本海沿岸の岩礁地。」とある。

ヤマトイソユスリカ
2009.3.14 ヤマトイソユスリカ 海藻に産卵しているように見える。満潮時には海の中。波も結構強く打ち付けるような場所である。
日本の岩礁海岸でもっとも普通に見られる種で、幼虫は海藻を食べて成長する。
メス成虫には翅が無く蛆状であり、オスから蛹の殻を脱がせてもらうという。

ヤマトイソユスリカ
2009.3.14 ヤマトイソユスリカ

ヤマトイソユスリカ
2009.3.11 ヤマトイソユスリカ


イソユスリカ翅脈比較図
イソユスリカ2種の翅脈比較図(エリユスリカさん提供の参考図を加工したもの)

ヤマトイソユスリカ
2009.5.13 ヤマトイソユスリカ


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