田中川の生き物調査隊

平成12年3月発足。伊勢湾に注ぐ田中川流域の自然と生き物を調べ、知らせる活動をしています。三重県内の生き物も紹介します。

ブナハウラカイガラフシ

2010-12-31 | 虫こぶ


青山高原には伊賀市側だけでなく津市側にもブナの木が有る。植物に詳しい方にこれがブナの木ですと教えてもらった,その株元にブナの葉がたくさん落ちていて,よく見ると虫こぶが付いている。葉表に付いているのは別物かもしれないが,葉裏にくっついている虫こぶはおそらくブナハウラカイガラタマバエによる葉の裏面にできるブナハウラカイガラフシと思われる。
虫こぶ内で越冬し、春に直接虫こぶから羽化し,6月には新しい虫こぶが見られるという。

遊歩道の脇に苔むした説明板があって,「今から数千年前ブナ林地帯は日本中に分布し,歴史的文化を形づくって来ましたが最近,ブナ林がなくなり,近くの里山では見られなくなりました。ブナの材の持つ公益的機能と生産力の豊かさを知り,Mother of Forest(森の聖母)と呼ばれる」などと書かれているが,全文は解読できなかった。「ブナ林を造り」の文字もかろうじて読み取れたので,この辺りのブナは天然のものではないのかもしれない。

2010.12.11





スジチャタテ

2010-12-27 | 三重の生き物

チャタテムシ科のスジチャタテ Psococerastis tokyoensis

津市河芸町上野の円光寺を訪ねた。
古いお寺の本堂の外周をうろつく。寒い日で,会えたのは白壁にいたスジチャタテ1頭のみ。
新訂原色昆虫大図鑑Ⅲによると,「前翅長♂4.5㎜内外,♀6㎜内外。♂は前翅斑の黒色部(特に中室)がせまく,条状を呈する。樹幹,岩石,墓石等の表面の不完全地衣類を食する。普通種であるが,成虫の羽化は一斉に行われ,その出現期間は短い。東京付近では年1回,6月中旬に羽化する。」などとある。

2010.12.15


ヒキガエルの置物

2010-12-23 | 三重の生き物

神社に奉納されたヒキガエルの置物

伊賀市の山奥。青山高原から長い階段を3キロ余りも下っていくと,ようやく奥山愛宕神社にたどりつく。神社の周辺はブナの原生林で,県の天然記念物に指定されている。許可無くして,生物の採集は出来ない。

神社にカエルの置物がたくさん奉納されている。ほとんどのカエルが子供を背中に乗せている。カエルに詳しいU女史に,このカエルの種名を尋ねると,ヒキガエルだという。この辺りなら,おそらくニホンヒキガエルかなとも言っていた。

長い階段を登って駐車場までたどり着いたとき,私の膝は熱を持っていた。
2010.12.11

あの長い石段を降りてきて,ようやく奥山愛宕神社にたどりついた。


ブナの原生林に包まれる奥山愛宕神社

テンの糞

2010-12-23 | 三重の生き物

青山高原の尾根周辺の散策路を歩いていると,何度もこの糞と出会った。哺乳類に詳しい人の話では,テンの糞だという。おそらく,アケビを食べていたものと思われるとも言っていた。
この日は参加していなかったが,T氏なら糞を調べて何を食べていたのか解明してもらえると聞いている。哺乳類や爬虫類が食べる生物について幅広い知識を身につけているとも聞いた。食べられた生物の破片から,その生物の種を同定できるなんて,すごい。

2010.12.11

和歌山産ヒメタイコウチ

2010-12-20 | カメムシ

カメムシ目タイコウチ科のヒメタイコウチ

奈良県で開催されたシンポジウム紀伊半島の野生生物というイベントに参加した。その会場で和歌山県産のヒメタイコウチを見せてもらった。プラスチックケースの中,ミズゴケの間に隠れていた。

奈良県では,平成22年4月1日に奈良県希少野生動植物の保護に関する条例に基づき,12種の「特定希少野生動植物」を指定している。12種の内の一つがこのヒメタイコウチである。
奈良県のヒメタイコウチ保護推進指針によると,「本種はタイコウチ科の昆虫類である。体色は光沢が鈍い黒褐色で、体長は20mm程度である。尾端にある呼吸管は3㎜程度で,タイコウチほど長くないために水中生活には適していない。湧水のある浅い湿地や休耕田に生息し,昆虫などを捕まえて体液を吸う。」

三重県レッドデータブック2005では絶滅危惧ⅠB(EN)類に選定されていて,「北勢地域で記録されているだけである。生息面積は極めて局所的であり,四日市市の垂坂町では1970年以降の記録を見ない。生息地はいずれも人為的影響を受けやすい脆弱な環境下にあり,土地改変および丘陵地の荒廃とそれにともなう湧水の枯渇などが減少要因となっている。」という。

三重県桑名市ではヒメタイコウチを天然記念物に指定し,行政と地域が一体となって保護活動を展開している。桑名市での保護活動を参考にして,奈良県では今後ヒメタイコウチの保護活動を進めていこうとしているという。

三重県津市の白塚海岸での松植樹についても,参加者から多くの意見が出た。砂浜の生きものについて,1種だけでなく他の種についても調査して,さまざまな生きものへの影響を訴えたほうが良いのではという声もあった。

希少な昆虫類も,一般の人たちにとっては「虫けらのようなもの」にしか映らないことも多いですよ,と言う人もいた。

2010.12.19

ケバエ科の一種

2010-12-19 | ハエ目(双翅目)

ケバエ科のBibio gracilipalpus Hardy et Takahashi,1960

津市美杉町の君ケ野ダム。レークサイド君ケ野の建物外壁に止まっている小さなケバエを見つけた。12月中旬にケバエと出会えるなんて。
Bibio gracilipalpus ではないかと思う。

新訂原色昆虫大図鑑Ⅲによると,「10~11月に成虫出現」するウスイロアシブトケバエに「近似のアシブトケバエBibio gracilipalpusHardy et Takahashiは濃褐色の平均棍,ほとんど全体黒色の脚,胸背に黒色軟毛を有することによって異なる。」とある。

栃木県のケバエ(中村,2009)によると,Bibio gracilipalpus Hardy et Takahashi,1960 は「体長,雄6~6.5㎜。雄は全身黒色,脚も黒色だが,弱く赤みを帯びることがある。体を覆う体毛は黒色。(中略)M2脈とM3+4脈は翅の縁に届く。平均棍は黒色。秋から初冬に出現し,個体数は多い。」

なお,秋に出現するケバエは他に数種いるようである。
また,栃木県のケバエ(中村,2009)に載っている「日本産ケバエ科の属の検索」によれば,前脚の脛節の先端に一対の棘をもつが,中央部には棘を持たないのが,ケバエ科のBibio属の特徴だという。

今回見つけたのは雄1頭だけ,雌にも会いたいなあ。

2010.12.12


文献
Hardy, D. Elmo & Mitsuo Takahashi, 1960. Revision of the Japanese Bibionidae (Diptera, Nematocera). Pacific Insects, 2(4): 383-449.
中村 剛之, 2009.栃木県のケバエ(双翅目,ケバエ科).栃木県立博物館研究紀要, 自然 (26): 15-20,栃木県立博物館.

シダクロスズメバチ

2010-12-18 | ハチ目(膜翅目)

スズメバチ科シダクロスズメバチ Vespula shidai Ishikawa,Yamana et Wagner

津市美杉町の大洞山,標高700m付近のキャンプ場あたり。草地にハチが止まった。こんな高所の寒い日に飛ぶ蜂がいたのに驚いた。シダクロスズメバチではないかと思う。

ウィキペディアに,「シダクロスズメバチは海抜約300m以上の山林や高地に好んで生息し,クロスズメバチよりもやや大きく、巣は褐色で形成するコロニーもやや大型になることが多い。」と書いてある。

新訂原色昆虫大図鑑Ⅲによると,クロスズメバチの近縁種シダクロスズメバチは「働きバチ,女王バチの頭盾の縦黒条が頭盾の前縁に到達すること,複眼凹部の白斑が強くえぐれること,♂大腮の基部に三角形の黒斑があることでクロスズメバチから区別できる。」

『札幌の昆虫』によると,シダクロスズメバチの体長は女王で16~19㎜,働きバチで10~14㎜,♂で14~16㎜という。

2010.12.12

シロモンヒラタカメムシ

2010-12-16 | カメムシ

ヒラタカメムシ科のシロモンヒラタカメムシ Aradus honshuensis Heiss et Shono, 2005

津市美杉町の大洞山へ生物の調査に出かけた。
鼻水をすすりながら,標高700mほどのところで朽ち木の樹皮剥がしをしていると,見たことの無いカメムシを見つけた。体長は8ミリ。真横から見ると,体が薄い。ヒラタカメムシの仲間だと思ったが,手持ちの図鑑に載っていない。
カメムシBBSという画像掲示板へ投稿して教えてもらった。

2005年に新種記載されたばかりのシロモンヒラタカメムシであった。

触角の第2・第3節の中央に白い斑紋があって,そこが少しくびれている。幼虫にもこの特徴が有るという。また,体のあちこちに綺麗な白い斑紋や模様がある。ネット検索してみると,どうも比較的標高の高いところや寒冷な地域で採れているようである。
樹皮下に潜んでじっとしていたから,このまま成虫越冬するのではと思われる。
三重県下の記録は,これまでたぶん無いと思われる。

2010.12.12

記載論文を見ると,京都府舞鶴市養老山で1995年6月に採集された体長7.5mmの雄をHolotypeとし,青森県,岩手県,栃木県,長野県,和歌山県,高知県の各県で採れたものをParatypeにしている。Paratypeの中には1934年とか1989年に採れていたものもあるから,古くから未記載種として知られていたのであろうと察せられる。体長は雄のパラタイプで6.6-7.5mm,雌のパラタイプで7.7-8.2㎜の範囲である。分布は日本(本州と四国)。

12月のウリハダカエデ

2010-12-15 | 樹木

カエデ科カエデ属のウリハダカエデ Acer rufinerve

青山高原の山頂一帯を何人かで生物の調査をした。
一人の若い調査員が斜面に生える1本の落葉木から茶色の種子を取ってきた。ウリハダカエデのものだという。2枚のプロペラ状の種子をバラして,1枚ずつ飛ばして見せてくれた。ひらひらと花びらのように舞うように落ちていく。

ウリハダカエデの花は5月に咲く。茶色の種子は何時風に飛ばされて落ちていくのだろうか。

2010.12.11




安濃川にホソバトビケラ

2010-12-15 | 三重の生き物

ホソバトビケラ科のホソバトビケラ Molanna moesta Banks

安濃川の中流部,川岸の湿ったところにホソバトビケラが何頭も飛んだり歩き回ったりしていた。静止してくれないので満足な撮影は出来ていない,どうにか紹介できるのはこの1枚だけ。同定はM氏にお願いした。

新訂原色昆虫大図鑑Ⅲによると,ホソバトビケラは「成虫の体長8~9㎜。開翅長17~30㎜。頭部は黒色,他の体部は黒褐色。前翅は灰褐色で前縁は濃く半透明,これに数個の黄白色の紋をもつ個体が多い。後翅は半透明で灰色。成虫は4~5月頃から8月にわたって出現し,灯火にもよく飛来する。普通種。幼虫は蚕児形であって,河川の中・下流部や湖沼の緩流部にすみ,砂粒をもちいて楯状の翼部のある筒巣をつくる。」

普通種でも11月中旬の出現は珍しいかも。
2010.11.17

中ノ川河口周辺

2010-12-13 | 風景

津市河芸町の海岸堤防は,鈴鹿市の中ノ川の数百m手前で通行止めになっている。ゴミの不法投棄を防ぐための対策である。ここ数年の傾向だが,とにかく車両の進入を止めることばかりやっている。
そんな訳で,しばらく車で乗りつけることが出来なかったため,久しぶりに中ノ川河口が見えるところまで歩いてみた。
堤防際に生えているセンダンがすっかり落葉して,青い実がびっしり付いているのが目立った。
堤防の西側には元養鰻池があって,例年ならこの時期はたくさんの冬鳥が訪れるのだが今年はちょいと事情が異なる。
連日,ダンプカーが次から次へとやってきて,この池を埋めているのだ。年明けには池は完全に姿を消してしまうのではと思われる。
この池にはきっと多くの水生昆虫たちが暮らしていることだろうに。
2010.12.10










テンダイウヤク

2010-12-10 | 樹木

クスノキ科クロモジ属のテンダイウヤク

津市河芸町赤部の里山。畑の横の通路沿いに何本かのテンダイウヤクが植えられてあるのを見つけた。市内にも何箇所かで見たことがある。尾鷲神社の裏山にもたくさん植わっているとか聞いたことも有る。何よりも近くの里山で出会ったことがうれしい。
『樹に咲く花』に,「植栽用途/薬用(根を健胃,腹痛,頭痛薬にする)として栽培されるほか,庭木や生け垣に使われる。」とある。

2010.12.6

葉の裏面は粉白色を帯びる。

ムラクモハマダラミバエ

2010-12-06 | ハエ目(双翅目)

ミバエ科ハマダラミバエ亜科のムラクモハマダラミバエ Staurella nigrescens Zia. 1937

鈴鹿市国府町の林縁で鉄柵に止まるムラクモハマダラミバエ雌を見つけた。
彼女は冷たい鉄柵を舐めていたが,いつの間にか小さなハチの仲間でも捕らえたようである。否,ハチではなくアブラムシの仲間(M脈の2番目の分岐が先端部付近にあるのは特徴的だけど、種類は不明)であると知見のある方から教えていただいた。どうやらアブラムシの甘露(おしっこ)を舐めていたようである。アブラムシのおしっこの量が少ないので舐め尽してしまったのか,すぐに離れて行ってしまった。

本州や九州に分布する。体長は7㎜。特異な斑紋により,同定できる。11月から3月くらいの間に見られるようである。

2010.12.6





ミスジハマダラミバエ

2010-12-05 | ハエ目(双翅目)

ミバエ科ハマダラミバエ亜科ミスジハマダラミバエ Trypeta artemisicola Hendel, 1923

2009.6.6に津市の芦原海岸で出会ったミバエがようやく同定できた。自己同定ではなく,ミバエに詳しい方によるものだから,間違いは無い。ミスジハマダラミバエで,北海道と本州に分布する。体長は4.5~6mm。

ミスジハマダラミバエの学名がよく判らない。
「皇居のミバエ科昆虫」では,Trypeta zoe Meigen, 1826(=Trypeta artemisicola Hendel, 1923)
「赤坂御用地と常盤松御用邸のミバエ科昆虫」では,Trypeta zoe Meigen, 1826
新訂原色昆虫大図鑑Ⅲでは,Trypeta trifasciata Shiraki


新訂原色昆虫大図鑑Ⅲには,「ミスジハマダラミバエとヨモギハマダラミバエの前翅斑紋は淡く,透明部との境界は不明瞭である。中胸後盾板が一様に黒色の個体がミスジ,中央に1条の黄褐色部が生じる個体がヨモギとされるが,変異が連続的で判別は困難である。両種とも北海道から九州まで分布し,幼虫はヨモギ類の葉に潜って成長する。」とある。

ミバエ科のVidalia accola(=Vidalia satae)

2010-12-04 | ハエ目(双翅目)

ミバエ科ハマダラミバエ亜科のVidalia accola(=Vidalia satae)

2010.6.9鈴鹿市国府町の自然豊かな公園の中,何かの樹木の葉裏に止まるミバエを見つけた。周辺で数拾個体を見かけたので,集団で暮らす習性があると思われる。
このほど,ようやく種名が判った。和名は無い,以前はVidalia sataeとされていたが,最近はVidalia accolaのシノニムとされ,赤坂御用地で採集されたミバエ科の報告書(2005)にはVidalia accola (Hardy,1973)の名で出ている。赤坂御用地では2002年11月25日に採集されている。
体長は6mmほど。R1室端に翅端の紋など他の斑紋と繋がらない孤立した斑紋がある。
分布は外国のサイトからの情報によると,India (Meghalaya), Myanmar, China (Sichuan), Japan (Shikoku, Kyushu)とあった。そして,本州も加わる。
同定はミバエの好きな人に厄介になった。ありがたい。