田中川の生き物調査隊

平成12年3月発足。伊勢湾に注ぐ田中川流域の自然と生き物を調べ、知らせる活動をしています。三重県内の生き物も紹介します。

イツモンヒメガガンボ

2009-03-28 | ハエ目(双翅目)
イツモンヒメガガンボ
これまでの学名Erioptera(Erioptera)elegantura Alexander, 1913  現在の学名Erioconopa elegantula (Alexander, 1913) イツモンヒメガガンボ
かつてはガガンボ科 (Tipulidae)ヒメガガンボ亜科に分類されていたが、現在はヒメガガンボ科(Limoniidae)に属しているそうだ。

私の部屋の中、窓ガラスに止まったガガンボの類。
湾曲した短いA1脈が無いので、ガガンボダマシではないことは確実。翅の斑紋も特徴的、翅の縁には軟毛がたくさん生えている。
ガガンボの研究者にお尋ねしたら、「Erioconopa elegantula だと思う」ということだった。
しかし、この学名で検索しても日本語のサイトでは何一つ出てこなかった。
属名が変更されていることを別の研究者が教えてくれた。何時変更されたのかは誰も教えてくれなかったし、自分で調べる能力も無い。

ガガンボ関連は,Catalogue of the Craneflies of the Worldという外国のホームページが詳しい。

北隆館の古い図鑑にイツモンヒメガガンボは
「体長5~7ミリ。翅長7~8ミリ。翅に5個の褐紋を前縁部に有する種類で、秋期や早春に多く発見される。体は灰黒色で、中胸背の中央に濃色の1縦条を有する。脚は暗褐色で、腿節の基部は淡色。」とある。
2009.3.23

イツモンヒメガガンボ

イツモンヒメガガンボ

イツモンヒメガガンボ


クロバヌマユスリカ雌

2009-03-27 | ハエ目(双翅目)
クロバヌマユスリカ雌
ユスリカ科 モンユスリカ亜科(Tanypodinae)のクロバヌマユスリカ Psectrotanypus orientalis Fittkau, 1962

庭の小さな池にメダカとホテイアオイが入れてある。
この池で見つけたこの小さな生き物はハエのようにも蛾のようにも思えた。翅に鱗粉があるように見えたが、どうも細かい毛のようである。翅が2枚なので双翅目だろうと研究者にお尋ねした。

クロバヌマユスリカの雌に類似しているとユスリカの研究者が教えてくれた。
「この種は日本でもかなり普通に見られます。溜め池などで発生することもありますが、私の経験では山あいの細流の溜まり(泥が比較的深くたまった場所)で幼虫が見られます。雌雄で色彩は基本的に同じです。が、雄の方が明るくて、黄緑色味を帯びます。大変きれいなユスリカです。複眼もきれいに輝いています。」
と言うので、綺麗に輝く複眼を確かめたくなった。

6日間机の上に置いて美しい複眼を観賞した。赤みのあるオレンジ色の複眼は私を虜にした。水を含ませたティシュをビニール袋に入れておいただけで6日間元気で居てくれた。

保育社の原色日本昆虫図鑑(下)に
「体長5ミリ、翅長3.5ミリ。淡褐色。♂の触覚はみごとな羽毛状で褐色。胸部背面には3条の褐色毛列がある。翅には暗色の雲状紋があり、その部分の細毛は黒色。各あしの腿節と脛節とは褐色で毛深い。各腿節の末端の直前には淡褐色輪がある。幼虫は山間の池沼に発生し、自由生活をして巣をつくらない。」

クロバヌマユスリカ雌

クロバヌマユスリカ雌

クロバヌマユスリカ雌
水面に落ちたのを助けてあげたら、翅がくしゃくしゃになってしまっていた。この後、彼女がどうなったのか知らない。2009.3.25

クロバヌマユスリカ雌
レースのカーテンに止まってもらい撮影。2009.3.19

コカスリウスバカゲロウ幼虫

2009-03-26 | 田中川
コカスリウスバカゲロウ幼虫
アミメカゲロウ目(脈翅目) ウスバカゲロウ科 コカスリウスバカゲロウ 小絣薄羽蜉蝣 Distoleon contubernalis (MacLachlan, 1875)

田中川干潟に近い芦原海岸で、イネ科植物の株元に何か居ないかと探していると、砂の中からウスバカゲロウ科の幼虫が出てきた。いわゆるアリジゴクの仲間である。今まで見たことが無いアリジゴクだったので、いろいろと調べてみた。

学研の『日本産幼虫図鑑』にウスバカゲロウ科5種の幼虫の頭部斑紋が図示されている。ウスバカゲロウ科の幼虫は頭部の黒褐色の斑紋の違いによって種が同定できるという。頭部は背面も腹面も種によって斑紋が異なる。絵合わせにより、コカスリウスバカゲロウの幼虫であることが判明した。

ある図鑑によれば、「成虫は7~8月に現れ、砂中に20卵ほどを産み、幼虫は海岸の松の稚樹の下など砂地に棲み、噴火口のような孔をつくらず、前後に進むことができる。本州、四国、琉球に分布」

松良俊明著『砂丘のアリジゴク』によれば、
コカスリウスバカゲロウは「巣穴をつくらずに砂の表層部に潜むタイプのアリジゴクである。」
「頭部の形がかなり異なっている。四角張った頭部の先に集眼が飛び出たように付き、大顎はややスリムでそこには剛毛がほとんど生えていない」
砂丘性のアリジゴクには、オオウスバカゲロウとコカスリウスバカゲロウが巣穴を作らないタイプで、ハマベウスバカゲロウとクロコウスバカゲロウが巣穴を形成するタイプ。オオウスバカゲロウは大型種で終齢幼虫の体長は2センチを越え、海浜植物が疎らに生えている辺りに幼虫がくねくねと動いた跡が砂上で見られるという。クロコウスバカゲロウは小型種、コカスリウスバカゲロウは中型種。
「ハマベウスバカゲロウの全国的な分布は、現在のところ新潟県を中心とした海岸砂丘と鳥取砂丘に限るとされている」
コカスリウスバカゲロウを一回り大きくしたような灰褐色のアリジゴクにカスリウスバカゲロウ(3齢幼虫の体長15~17ミリ)もいて、巣穴を持たないタイプで乾燥した砂原にいると思われている。
アリジゴク時代のウスバカゲロウ類の幼虫はウンコをしない。羽化のとき、翅を完全に伸ばしきった成虫の尾端から、長細い一つの固まりが落とされる。アリジゴク時代に溜め込んだ宿便である。

京都府では要注目種とし、「幼虫は海岸砂丘や砂原などの日当たりの良い砂地の表面下で餌を待ち伏せしている非営巣性アリジゴクである」と解説している。
福井県のレッドデータブックでは県域準絶滅危惧とし、「河川や海岸の砂地特有の種で,幼虫は徘徊型の生活をしており,ほかの昆虫類などを捕食する」などと解説している。

次の文献はPDFファイルで読める。
田中俊彦(1979) リュウキュウホシウスバカゲロウ Glenuroides okinawensis OKAMOTO の幼虫について,昆虫,47:213-221.
この文献によれば、
リュウキュウホシウスバカゲロウは, 瀬戸内海の沿岸の砂の中にも生息することが明らかになった.
1. 幼虫の形態および生息場所は, コカスリウスバカゲロウのそれと類似する.しかし, これらの両種は, 大顎の鈎と体の色, 頭部の側縁紋, 腹部下面の紋から区別できる.
2. 幼虫は瀬戸内海沿岸の自然海岸のマツ, ススキ, ヨモギなどの植物の根の周辺の砂の中に局所的に分布する.ときどき, コカスリウスバカゲロウのそれとの混交がみられるが, 両種問にはすみわけが認められる.
3. 幼虫は, 前進および後退運動によって移動し, 巣穴をつくらず, 砂の中で餌動物を待ち伏せしている.外的刺激にたいしては, コカスリウスバカゲロウの幼虫より強い擬死反応を示す

先の『砂丘のアリジゴク』では、リュウキュウホシウスバカゲロウ=ホシウスバカゲロウとの同種説を唱えているが、未確定要素もあるようだ。

なお、『砂丘のアリジゴク』の著者である松良俊明先生が「アリジゴクの世界」というホームページをつくっているが、大学の先生のこのようなホームページは退官されると消えてしまう可能性が高いので、今のうちに名前をつけて保存しておこう。

さて、私たちの海岸には何種類のウスバカゲロウ類が生息しているのであろうか。調査はこれからだ。楽しみはいくらでも湧いてくるが、とりあえず2年間は頑張ろうと思っている。
2009.3.24

コカスリウスバカゲロウ幼虫

コカスリウスバカゲロウ幼虫

コカスリウスバカゲロウ幼虫

コカスリウスバカゲロウ幼虫

コカスリウスバカゲロウ幼虫
吸収顎(きゅうしゅうがく)は大顎(おおあご)と小顎(こあご)が癒着して管構造となったもので、獲物に刺して体液を吸う。背面からでは小顎は見えないので、一般的に大顎と呼んでいる。前脚は最も短く、中脚は最も長い、後脚は腹の下に隠れて見えない。眼は7個の単眼が集まった集眼と呼ばれるもので、光量の差を感知して、獲物の動きを捕らえることが出来ると考えられている。

松樹皮下にキハダエビグモ

2009-03-25 | 蜘蛛
キハダエビグモ
田中川干潟に近い芦原海岸で、松の木が何本か枯れている。この辺りは次から次へと新しい松が生えてくる。土質は砂地ではあるが少し硬く締まった感じがする。ペットを埋めた墓標もある。

枯れた松の樹皮を剥いでみた。
黒っぽい小さな蜘蛛を見つけた。上の写真の左下に居る。
体長は雌が6~7ミリ、雄が5~6ミリ。徘徊性の蜘蛛。
エビグモ科のキハダエビグモ Philodromus spinitarsis(Simon, 1895)  木肌蝦蛛
成虫の出現期は4~8月。5月から10月と紹介しているサイトもある。夏に樹皮に産卵し、卵のうにおおいかぶさって保護する。
刺激を与えるとキハダエビグモは腹部背面の後端3分の2ばかりが,瞬間的に真っ黒に変色することが知られている。
この個体は樹皮下で越冬していたのだろう。しばらくじっとしていたが、この後、すばやく動いて樹皮下へ隠れた。
小雨がぱらついてきたので、私も砂浜から退散した。
2009.3.25

キハダエビグモ

3月のヒメフンバエ

2009-03-23 | ハエ目(双翅目)
ヒメフンバエ雌雄
海岸に大量のカニ殻が捨ててある。ハエたちで大賑わいである。
そんな所に一人で座り込んでいる私がいる。
目の前にヒメフンバエのペアーが居た。

体長は約10ミリ。雌雄ともに複眼間は広い。
幼虫は糞食性。越冬は蛹態。成虫は早春3月頃から出現し、夏期には姿を消すが、11月頃まで牧場、山林、畑地などで普通に見られる。(改訂新版世界文化生物大図鑑昆虫1)

左が雄、右が雌。仲が良くて結構なことだ。

元々、人付き合いは上手ではないが、近頃はひどい。先日、母親に連れられた小学生の男の子が「ありがとう」と声をかけてきた。何度もありがとうと言ってくる。何で自分に礼を言ってくるのか判らないので、「何だ、貴様は」というような感じでにらみ付けてしまった。男の子は怪訝そうに私を見つめながら不機嫌になってしまった。後で気づいたことだが、彼は地元の小学3年生かもしれない。最近、総合学習で講師をしてきたばかりだ。

自分が納得できない時に、相手にきつく当たってしまう。誰に対してもつっけんどんに応対してしまう。相手の心を傷つけたかもしれないのに。困ったもんだ。
ヒメフンバエのペアーのように、仲良くしていれば、いいこともあろうに。

腐った汁が運動靴にしみ込んで来た。片膝ついていたのでズボンにも汁が付いた。そのまま、大型店に買い物に出かけたら、臭いが私の後をついてくる。ますます、苛ついてしまった。
2009.3.17

二月のヒメフンバエ

ヒメフンバエ雌雄

河芸の薄墨桜

2009-03-23 | 樹木
薄墨桜
津市河芸町の中央公民館で「しぜん文化祭inみえ」が開催された。
わが田中川の生き物調査隊も出展した。実行委員長をはじめ、ほとんどの実行委員とは顔馴染みなので、また地元での開催ということもあり、出展申込は一番早かったのではないかと思う。
会場となった河芸中央公民館の中庭にサクラが咲いていたので、何人かに声をかけて近寄って眺めた。
25年以上も前に岐阜県根尾村から送られた薄墨桜であると案内板に書いてあった。
植物に詳しい博物館学芸員がいろいろと教えてくれた。
薄墨桜は種名ではありません。このサクラはエドヒガンと言います。
樹皮は縦にひびが入ります。幹の下のほうに良く見られ、サクラらしくない幹の様子です。
ガク筒が丸くふくれているのが一番の特徴です。がくや花柄には細かい毛がいっぱい生えています。
なるほど、なるほど。
2009.3.21

薄墨桜

薄墨桜

薄墨桜

薄墨桜

アオオビハエトリ

2009-03-22 | 蜘蛛
アオオビハエトリ
庭のプランタの縁を徘徊するアオオビハエトリを見つけた。
アリを専門に襲うクモで、第1脚を上げたまま獲物のアリを探し回る。たまにはアリ以外のものを食べることもあるようだ。頭胸部の周辺部が青く、ハエトリグモの仲間ではなかなかの美しさである。この個体は青い帯の上に赤い帯がある。クモの先生にお尋ねしたら、色には変異があり、個体差の範囲内とのことであった。
成体は6~9月に見られると図鑑に書いてあるが、3月の今日でも見られた。4~11月と紹介されていることもある。
体長は5~6ミリほどで、雌雄で大した差は無さそう。雌雄で触肢の様子が異なるようだが、私には良く分からない。雄は腹部の帯が不明瞭と図鑑に書いてあった。この個体は明瞭なので雌ではないかと思われる。しかし、雄の色彩や斑紋は変化が多いそうだから、雄のようにも思えてくる。私には断定できない。

ある知人に「あなたは雌雄の区別も判らないまま、いつも生き物の名前ばかりにこだわって紹介している」と言われた。
判るに越したことは無いが、いろんな生き物の雌雄差なんて判らないことばかりだ。特定の生き物を追いかけている人たちはその雌雄差なんて自明のことなんだろうけど、初めて出会う生き物を調べていることの多い私には雌雄の差を調べる前に種名を知りたいと思う。
その知人はきっと「私は生き物の雌雄差や形態や生態やらを人に説明できるように努めている。種名などはどうでもいい。形や機能、行動の不思議さを人に考えさせるように心がけている」と言いたいのだと思う。
実際、自然観察会なんかでたくさんの生き物と出会ったときに、たくさんの種名を教えられてもなかなか覚えていないものだ。形の面白さや行動の不思議さなどは結構覚えているけど。それは分かっているつもりなのだが。
ある観察会で、自然観察指導員が植物の方言名とその植物を利用する人々の関係などを長々と説明を始めた。聞いていた私はその植物の本当の名前は何なのか早く教えて欲しいとイライラしてしまった。その植物ばかりでなく、周りに見える植物のほとんど全ての名前が判らなかった私は、早くそれらの名前が知りたくて仕方が無かった。その人は、観察会の参加者の多くが生き物の名前を早く知りたがっていることを承知の上で説明を続けた。名前を覚えることよりも、生き物の形態や人々との関わりなどを覚えて欲しいのですと力説していた。その日以来、私は自然観察指導員たる人のことが嫌いになってしまった。
私の知人も立派な考え方でお説ごもっともだが、私には「押し売り」に聞こえてしまう。

2009.3.21

アオオビハエトリ

アオオビハエトリ

カバエ科のマダラカバエ

2009-03-18 | ハエ目(双翅目)
マダラカバエ
マダラカバエ Sylvicola japonicus (Matsumura, 1915)

軒下に置いてある簡易流し台で野菜を洗ったり、根や古葉を取り外したりしている。野菜クズはバケツに放り込んでいる。当然、いろんなハエたちが集まってくる。
バケツの地上10㎝ほどの高さに止まるマダラカバエを見つけた。

保育社の図鑑ではハエカ科(カバエ科)のマダラハエカ(マダラカバエ)として扱われているが、通常はカバエ科のマダラカバエとして扱うことが多いという。
「体は灰褐色。頭部は灰黒色で顔面は灰白色を装う。触覚は暗褐色で基部の2節は淡色。腹部背面は黒褐色で各節末端細く灰褐色。春に多く、森林や林周辺に住み、木の幹の低い部分に静止しているのが見られる」という。体長は5mmほど、分布は日本全国。

マダラカバエは松村松年が1915年に昆虫分類学下巻のp.52で記載した種である。この中で,「胸背ニ三個ノ黒縦條アリテ,中央ニアルモノハ太ク後縁ニ達セズ,両側ニアルモノハ少シク細ク,前縁ニ達セズ」とある。

Sylvicola属はスイーピングで採集される個体の多くは雌。雌は野菜などの腐敗物に簡単に産卵するそうだ。

三枝豊平先生の「日本産Sylvicola属の種の雄の検索表(雌にもほぼ使える)」からマダラカバエの形質部分を判りやすく色づけすると

1.翅の中央室端から派生する箇所で,M1脈とM2脈は基部が相互に著しく接近するので,両脈の基部の間隔はM2脈とM3脈の基部の間隔よりはるかに短い;翅端部は全く暗色にならない.........2
  翅の中央室端から派生する箇所で,M2脈の基部はM1脈とM3脈の基部のほぼ中間に位置する;翅端部には暗色部があるが,まれにこれがほとんど消失することもある......3 
2.r1室の斑紋はR2+3脈を越えない...S. fuscatus (Fabricius, 1775)スカシカバエ
  r1室の斑紋はR2+3脈を越えて,R4+5室に達する...S. punctatus (Fabricius, 1787)クロテンカバエ
3.後腿節は一様に黄褐色..........4

  後腿節は中央ないしやや先の方に幅広い暗色環をもつ.....7
4.中胸楯板には明瞭な縦の暗条がある.......5

  中胸楯板はほぼ一様に暗色で,明瞭な縦の暗条を欠く ......未同定種1
5.中胸楯板には幅広い3本の暗色帯があり,中央の暗色帯には,その幅の1/2より狭い極めて細い淡色条が中央を縦走することもある.....6
  
中胸楯板は密に灰褐色の粉で覆われ,4本の暗色条がある.内側の2暗条はこれと同じ幅の灰褐色条で明瞭に分離される......未同定種2
6.r2+3室端の翅端暗紋の内縁は判然とした境界となり,これと縁紋下の暗紋との間は明瞭な透明紋を形成する;r2+3室端の暗紋はR4+5脈を越えてr4+5室の前半部に拡大する......S. japonicus (Matsumura, 1915)マダラカバエ  
r2+3室端の翅端暗紋の発達は悪く,その内縁は極めて不明瞭であるために,この内側に顕著な透明紋を形成しない;r2+3室端の暗紋はR4+5脈を越えないか,越えても極めて不明瞭である........S. matsumurai (Okada, 1935)キイロカバエ
7.翅端部は広く顕著に暗色化し,r2+3室とr4+5室の亜端部には顕著な透明紋を現す;第1-3腹節は暗褐色;後腿節の暗色環は節のほぼ中央に位置する;雄の両複眼は合眼的,額で密着する......S. suzukii (Matsumura, 1916)スズキカバエ
  翅端部は前部がやや暗化する程度であり,r2+3室の透明紋はかなり明瞭であるが,r4+5室には顕著な透明紋を現さない;第1-3腹節は黄色で,背板中央には暗縦条を現す;後腿節の暗色環は中央より先に位置する;雄の両複眼は額で細く分離される......未同定種3

未同定種は東南アジアから記載されている多数の本属の種の検討を終えないと,学名が決定できないものです.

三枝先生は次のような指摘をしている。
「日本昆虫図鑑および原色日本昆虫大図鑑のS. matsumuraiはS. japonicusの誤同定,後書のPhryne japonicaは前述の検索表の未同定種種2に相当します.極東ロシアのKrivosheinaによる本科の部分で,S japonicusは上記未同定種種2に相当し,S. suzukiiの同定は正しく,S. matsumuraiは上記未同定種種1に相当します.S. matsumuraiの雌は雄よりも胸部が黄色くなる傾向が強いのですが,かなり暗色の個体もありますので,この形質はあまり当てになりません.
このような次第ですから,本属の同定に既刊の図鑑類を用いるのは不適切です.」

さて、わが庭のマダラカバエは野菜クズに産卵にやってきた雌であったのだろうか。確認が取れぬうちに、どこかへ飛んで行ったが、低いところを飛んでいったのは見届けた。それにしても、ガガンボダマシに雰囲気が似ているなあ。
2009.3.18

マダラカバエ

マダラカバエ
マダラカバエ雌

マダラカバエ♂
マダラカバエ♂
複眼は合眼的、触角は黒色、長さは頭長の2倍強。腹部は暗褐色、基部がやや淡色になる個体もある。体長3.5~5.8mm。
2009.4.18夜間 我家の玄関灯にやってきた。高さ2メートルほどの所で埃まみれになっているのを見つけて、室内に入れて撮影した。

マダラカバエ♂
マダラカバエ♂


イソガニ雌

2009-03-16 | カニ
イソガニ雌
モクズガニ科Varunidae イソガニ属のイソガニHemigrapsus sanguineus(De Haan,1835)

田中川のカキ礁でヒメケフサイソガニを探していたら、イソガニ雌を見つけた。
タカノケフサイソガニとケフサイソガニは相変わらず数が多いがヒメケフサイソガニはなかなか見つからなかった。
これら同属の4種が同所的に見つかるのを三重県内のいくつかの河川で確認している。

イソガニは岩礁海岸に普通に見られるカニで、砂浜海岸でもテトラがある波打ち際付近で見かける。河川河口部のカキ礁や転石の隙間でも見つかる。しかも、何個体かが集まっていることが多い。
かつてはイワガニ科モクズガニ亜科に分類されていたが、イワガニ科の亜科がすべて科に変更されたので、現在の分類体系ではモクズガニ科のイソガニ属となっている。
イソガニの抱卵期は4月下旬から8月とある図鑑に書かれているとおり、この雌は抱卵していなかった。ただ大変大人しく、腹部を確認しようとする私に向かってハサミだけをゆっくりと動かしていた。
2009.3.16

イソガニ雌
甲は平滑で光沢があり、前側縁には3歯がある。斑紋の変異が少ない。
雌雄とも左右の鉗脚の大きさは同じで、毛は無い。雄のみに、鉗脚の付け根に白いキチン質の袋がある。

イソガニ雌
額は広く張り出し、中央部がわずかにくぼむ。

ツチイナゴ雌

2009-03-14 | バッタ類
ツチイナゴ雌
バッタ科ツチイナゴ属のツチイナゴ Patanga japonica
庭のハランにツチイナゴを見つけた。お腹周りに太さを感じた。
性別をチェックしようと追いかけて捕まえた。やはり雌だ。
お腹を見られるのは嫌とみえて、あばれる。結構な力強さを感じた。
産卵の時期は何時なのか、見たことが無い。
「九州以北に分布するバッタでは、唯一、成虫越冬する種」と図鑑に記述されていた。
また、「後腿節や大顎で発音することが観察されている」とのこと、一度は聞いてみたいものだ。
2009.3.10

ツチイナゴ雌

ツチイナゴ雌

ツチイナゴ雌

庭にキタキチョウ

2009-03-12 | チョウ
キタキチョウ
庭にキタキチョウが飛んできた。近づこうとしたら、すぐに我家の庭から出て行ってしまった。落ち着きの無いチョウだと思った。

いつの間にかキチョウの名前がキタキチョウに変わった。学名も変わった。この辺りのキチョウはみんなキタキチョウだという。
詳しくは次の参考文献をご覧になってください。日本語の論文で、PDFファイルで公開されています。論文は日本語に限る。
加藤義臣・矢田脩(2005),西南日本および台湾におけるキチョウ2型の地理的分布とその分類学的位置,蝶と蛾 56(3)

2009.3.10

ウスモンガガンボダマシ

2009-03-03 | ハエ目(双翅目)
ウスモンガガンボダマシ
ガガンボダマシ科(Trichoceridae)ガガンボダマシ属(Trichocera)のウスモンガガンボダマシ
 Trichocera maculipennis Meigen,1818

庭の隅で堆肥作りをしている。ヒノキの間伐材を組み合わせて、高さ120cmほどの箱型の野菜クズ捨て場が作ってある。
そのヒノキの丸太に止まる翅端まで約1cmほどのガガンボを見つけた。
研究者の方々にお聞きしたところ、一見体形が似ているもののガガンボではなく、ガガンボとは類縁性が遠いガガンボダマシの一種だと言う。
翅後縁基部近くに湾曲した短いA1脈(伝統的A2脈)がはっきり写っている、これがガガンボダマシ科Trichocera属の重要な特徴だと言う。
また、このように翅に顕著に発達した斑紋を持つ種はT. maculipennis群に属するものだと言う。
あるガガンボの研究者は「翅の模様からウスモンガガンボダマシそのものと思います。畑の周りや公園、庭、墓地などで見られるものです。」と教えてくれた。

ガガンボダマシなんて、何の予備知識も無かったので、少し調べた。
ガガンボのことを英語ではcrane fly(鶴ハエ)と言う。そしてガガンボダマシはwinter crane flyと言う。その英名から推測できるように、冬の間に見られる仲間らしい。4月あたりまでは普通に見られるらしい。
「晩冬の夕暮れ,軒先や枯れ木の枝先の下で群飛しているガガンボダマシ」が目撃されている。

ある外国の検索表に
Three ocelli present; wings with second anal vein (A2) short and strongly curved at apex and bent suddenly towards the wing margins.. Family Trichoceridae (Winter crane flies)
とあった。
保育社の「原色日本昆虫図鑑(下)」にはウスモンカガンボダマシの和名で
 体長6㎜、翅長8.5㎜、体は黒褐色、頭頂に3個の単眼がある。
 成虫は晩秋から早春にかけて現れ、群飛して蚊柱をつくる。
 北半球に広く分布する。
などと記述されている。

北隆館の「原色昆虫大図鑑Ⅲ」(s40初版)にはウスモンカガンボダマシの和名で
 「体長5~6.7mm。日本に産する同属の種類のうち翅に数個の斑紋を装うのは本種だけである。」などと記述されている。

ガガンボダマシ科はガガンボよりも脚が取れにくいので標本にしやすいらしい。
九大目録ではガガンボダマシ科は14種。その内Trichocera属が12種。
2009.2.23

ウスモンガガンボダマシ
2009.2.28 トキワマンサクの幹にて

日本昆虫図鑑1950によると,「腹部は一様に黒色,産卵管は比較的細長い.本種は北半球の寒冷の地に広く分布し,北海道・本州に多く,成虫は冬期及び早春に森林に多く出現し,平穏な日には地上2,3mの高さで群飛する.又往々人家内に入り,窓硝子・障子等に静止する場合を目撃する.」
ウスモンガガンボダマシ
日本昆虫図鑑1950のウスモンガガンボダマシ

ハマベバエ科のハマベバエ

2009-03-03 | ハエ目(双翅目)
ハマベバエ
庭で一匹の見慣れぬハエを見つけた。赤みのある6本の脚を広げて止まっている様子から逞しさを感じる。
研究者の方々にお聞きした。
後脚の第1付節が細長いので、Sphaeroceridaeではないと言う。
seaweed flyとかKelp flyと呼ばれているハマベバエに間違いないとのことである。
Coelopa属には数種あり、日本産に用いられているC. frigidaはおそらく適当ではないのだろうと言う。
ハマベバエは海岸に打ち上げられた湿った海藻に依存していて、幼虫は腐敗しつつある海藻類を食べて育つと言う。
それを聞いて思い出した。去年の夏にビニール袋いっぱいの海藻を採集してきて、標本にし切れなかったのを洗面器に入れたまま庭に放置しておいたことを。きっと、この海藻が腐敗してハマベバエがやってきたのではないかと合点した。

参考文献を拾い読みしたら、
「海水苦汁(にがり)より臭素を製造する際に副生する油状の高沸点部分が,ある種のハエに強い誘引作用を示すことを見出し,後にこのハエは,農技研・福原楢男氏によりハマベバエCoelopa frigida Fab.と同定された。ハマベバエは海岸の海藻・貝類死骸堆積物等に発生し,近年とくに一部のカキ生産地帯では,その大発生が公害問題にまで発展している。」

「海岸に打ち寄せられた海藻で繁殖し、潮の干満に従って集団として移動し、時に冬季~春季に市街地、灯火に飛来することはヨーロッパで古くから知られている。そして、芳香族の有機化合物トリクロルエチレンに強く誘引され、海岸付近の工場に進入して被害をもたらすことも報告されている。」

また、有明海に面した造船所で塗装中のペイントに飛来して、そのままくっついて死んでしまい、作業に障害を及ぼしたとの報告がある。
海岸から20km離れた大学で、クロロホルムを使用する研究室へ多数の成虫が飛来して進入した報告がある。
海岸から6km離れた印刷工場のトルエンに多数飛来した報告がある。
養殖のノリ網に付着する多量の腐敗ノリで大発生する報告がある。
風の流れに向かって集団的に動くことが観察されている。
などを知った。

上宮氏の論文は冒頭に「ハマベバエ Coelopa (Fucomyia) frigida (Fabricius),(after Gorodkov,1985)」と書き出されている。

『世界文化生物大図鑑 昆虫1』では学名がFucomyia frigida Fabriciusとしてあり、「体長5~5.5mm、体は褐色、背腹に扁平で腹部、脚などに強剛毛がある。日本全土に分布し、北日本に多い。」と解説している。

九大目録ではハマベバエ科(Coelopidae)はハマベバエの一種のみで、学名はCoelopa frigida (Fabricius.1805)となっている。

参考文献
上宮健吉(1987):有機化合物のハマベバエに対する誘引性.衛生動物Vol.38, No.3 pp. 179-186.
松本義明,西川 周,田中康雄(1966):ハマベバエの誘引物質について.日本応用昆虫学会大会講演要旨,26.
宮武頼夫,馬野正雄(1978):船をおそうハマベバエ.Nature Study,24(6):10-11.

2009.2.26

ハマベバエ
ツツジの葉上にて

ハマベバエ
アジサイの茎にて

ハマベバエ


マエアカスカシノメイガ

2009-03-01 | 
マエアカスカシノメイガ
2009.2.26 ツトガ科ノメイガ亜科のマエアカスカシノメイガ Palpita nigropunctalis (Bremer, 1864)

我家の庭。晴天のお昼時、気温は約13℃。
足元から白い蛾が飛び出して夾竹桃の葉に止まった。
隣にはキンモクセイがある。マエアカスカシノメイガ幼虫の食樹だ。
成虫雄の尻尾には黒い毛束があるらしい、この個体には見られないから雌だと思う。
成虫で越冬するらしいが、この個体は羽化後間もないようなみずみずしさが感じられた。