ケバエ科ケバエ属のメスアカケバエ Bibio japonica (Motschulsky,1866)
An observation on the aerial swarm of Bibio japonica (Motschulsky,1866)(Diptera:Bibionidae)
2015年の春,三重県津市河芸町の豊津海岸でメスアカケバエの群飛を観察した.
三重県ではこれまで津市内から5個体の標本が記録されているだけで,レッドデータブック2015では絶滅危惧Ⅱ類(VU)に選定されているほどだから,まとまった数を採集できていないどころか,多数の個体が飛び交う様子は見たことがなかった.同県の10年前のレッドデータブックでは情報不足種としていたが,10年間の調査を経ても,なかなか新産地を発見できなかったことと既産地の環境変化も見られたため,ランクが上がったのである.
かつて,Bibio rufiventris Duda の学名で記録されることが多かったが,最新の昆虫目録ではBibio japonica (Motschulsky)となっている.
メスアカケバエは,体長11mmほど.雄は全体が光沢のある黒色で,体表の毛はすべて黒色である.普通種のハグロケバエと紛らわしいが,ハグロケバエの胸部側面と腹部の毛は褐色であり,また胸部背面がつや消しなので区別できる.翅の脈にも違いがあって,ハグロケバエのRsはr-mの約2倍長で,本種は約4倍長.雌は中胸背と腹部は淡赤褐色で腹部第1背板には一対の黒点を持つ.成虫は3~6月に出現と図鑑類には載っているが,三重県内の採集記録や私の目撃メモを見る限り,4月19日から5月6日までであり,3月や6月に出現するなんて当地では考えられない.Hardyほか(1960)は奄美大島などから3月に採集し,北海道や東京などから6月に採集している.成虫の寿命は,長くて2週間くらいなものだろう.
メスアカケバエは日本各地の普通種で,幼虫は土中の腐植質を食し群生するが,茨城・愛知では農業構造改変にともなって減少傾向にあるという。(日本野生生物研究センター,1980)
メスアカケバエ♂
参考文献
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Hardy, D. Elmo & Mitsuo Takahashi, 1960. Revision of the Japanese Bibionidae (Diptera, Nematocera). Pacific Insects, 2(4): 383-449.
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