「古草に うす日たゆたふ つくしかな」龍之介
「前垂れの 赤きに包む 土筆かな」漱石
「妹よ 来よここの土筆は 摘まで置く」虚子
植物形態上は胞子茎と呼ばれ、花ではないが、ツクシ(ツクシンボウ)も春を告げる風物詩の一つである。春の季語であり、「ツクシ」を詠んだ句は数知れない。また、絵手紙でも格好の素材となっている。
拙宅の隣は永く空き地になっているが、今年も4月下旬に「土筆が原」と化した。何百本という土筆が朝陽に背伸びしている。夕日に映えている。この空き地の所有者は毎年2回ほど除草剤を散布しに来るが、ツクシはその除草剤にも耐えて春になると元気な顔を見せる。
ツクシはスギナの胞子茎である。筆状で淡褐色、高さは10-30cm、円筒状で先に長楕円状の胞子穂をつける。節には袴(はかま)と呼ぶ葉が茎を取り巻いている。胞子が成熟するとツクシは枯れ、濃緑色の栄養茎が伸びてくる。この栄養茎はスギナの名前で多くの方に認知されている。
栄養茎は多数の枝を輪生し、30-60cmになる。茎は円柱状で中空、縦に数本の溝があり、質感は堅い。トクサに比べ茎は細いが、茎の材質は似ている。小枝は四角柱状で節に鞘状の葉をつける。枝と葉の形状が杉(スギ)に似ていることからスギナと呼ばれるようになったと言う。
スギナ(英名:Field horsetail、学名Equisetum arvense L.)は、トクサ科、トクサ属、スギナ種の多年生植物。地中に地下茎を伸ばし、節々から芽を出して繁殖するので畑地では極めて厄介な雑草として知られる。畑地、樹園地、土手、空き地などに生え、全国に分布する。
ツクシは昔から春の山菜として食べる習慣があった。近頃は野原で土筆を摘む姿を見かけなくなったが、インターネットには多数のレシピが紹介されている。袴を取って灰汁を抜き、お浸し、卵とじ、天ぷら、油いため、土筆ご飯などで食べる。また、スギナを乾燥したもの(スギナ茶)を伝承生薬として利用されている。
なお、ツクシはワラビ、ゼンマイなどの山草と同様にチアミナーゼを含んでいることも指摘されている。チアミナーゼはチアミン(ビタミンB1)を分解する酵素で、多量摂取を続けるとビタミンB1欠乏症を起こす恐れがあるとか。春の山菜として味わう分には気にすることもあるまい。