豆の育種のマメな話

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パラグアイの大豆,日本の技術協力と栽培実態(栽培実態)

2014-09-21 18:05:58 | 南米の大豆<豆の育種のマメな話>

(2011.5.19の続き)

2. 大豆栽培の実態

1)肥沃なテラ・ロサ土壌

パラグアイ東部の農耕地帯は赤い大地(テラ・ロサ土壌)である。玄武岩由来のこの土壌は有効土層が厚く,赤色細粒質の肥沃土壌で,ブラジル及びアルゼンチンとの国境を流れるパラナ河沿いに分布している。大豆栽培は,この土壌を覆っていた亜熱帯多雨林を焼畑により開墾することから始まった。開拓当初は無肥料でもかなりの収量を得ていたが,最近は土壌保全の必要性が指摘され,冬作への緑肥導入等が進められている。

2)高位安定生産に寄与した不耕起栽培

パラグアイに定着した画期的な栽培技術に不耕起栽培がある。播種前に行なう耕起,砕土等の整地作業を省略し,前作物の残渣が残る畑に直接播種する栽培法である。この栽培法は,1980年代初頭にブラジルからパラグアイへもたらされ,現在では日系移住地の95%以上(パラグアイ全体で76%,2002年パラグアイ穀類油脂会議所調べ)に導入され,今や大豆栽培の基本技術として定着している。

不耕起栽培導入の目的は,土壌侵食の防止であった。パラグアイの大豆栽培地帯は緩い起伏のある波状丘が連なる地形のため,大型機械による大豆栽培が恒常化するにつれ土壌流亡が顕著になり,パラナ河は赤い大河と化していた。雨が降るたびに大きく削り取られる表土をみて,イグアス地区の深見明伸らは「このままでは,農業が出来なくなってしまう」と強い危機感を持ったという。1983年に彼らが不耕起栽培を始めてから20年,この技術はパラグアイ全土へ拡大し,パラナ河は昔のとおり悠久の流れを取り戻している。

統計を見ると,不耕起栽培の普及によってパラグアイの大豆収量は3 t/ha近い高水準で安定するようになった。これは,不耕起栽培により作業時間が短縮され作業が天候に左右されなくなったため,適期に播種作業が終わるようになったことが大きく影響していると考えられる。ちなみに,播種は南部では11月上~中旬,東北部では10月中~下旬に行なわれるが,晩播すると現在の品種では減収が大きい(12月中旬播種で83%,1月上旬70%,1月下旬36%,土屋2002)。

一方,不耕起栽培が継続するにともない収量増加の伸びが止まり,低下傾向も見られる。この原因は,不耕起栽培では土壌の攪拌がないので肥料や有機物が土壌表面に集積することにより根系分布が浅層化し,旱魃害を受けやすくなったためと推察され,対策試験が実施されている(関1999)。

3)新たな病害虫の発生

一方,大豆に偏った経営は国際価格の変動や気象災害など不安定な要素を抱えている。また,大豆の栽培歴が新しいため顕著な病害は比較的少ないが,今後は新たな病害虫の発生,被害の増大を予想しなければならない。

ダイズシストセンチュウについては,2003年CETAPARの研究者及び清水啓専門家らによって存在が始めて報告された(なお,ブラジルでは1991年,アルゼンチンで1997年に発生している)。報告を受けた農牧省植物防疫局は汚染地域を植物防疫隔離地域に指定するとともに(写真1)発生実態調査を実施し,ブラジルに近い北部や東部の県でも発生を確認した。JICAプロジェクトでは,この日を予測して抵抗性品種の育成を進めていたので,発生が確認された2003年には有望系統が選抜されており,タイミングよく成果を示すことが出来た。

また,2001年にはYorinori博士によってアジア型病原体による大豆さび病(Phakospora pachyrhizi)の発生が確認された。本病は東南アジア等で大きな被害をもたらしている重要病害であるが,南北アメリカではこれまで報告されていなかった。翌年にあらためて実態調査を行ったところ,ほぼパラグアイ全土で発生を確認した。その後の情報によれば,ブラジル,ボリビアでもかなりの被害が出ている。

4)遺伝子組み換え大豆

当時パラグアイでは,農牧省・厚生省・環境保全局・自然保護団体間の合意が得られず,またブラジルとの足並みを揃える必要から商業栽培を認めていなかったが,アルゼンチンから国境を越えてGMOが進入し,「もぐり栽培」が増加していた。当初は気象条件に適応せず低収であったが,パラグアイに適するGMOが作付けされるようになると面積は急激に増え,2004年には南部で85-90%,東部で75%がGMOであるという(注,2004年10月20日農牧大臣署名を受けて商業栽培が認可された)。

大型機械を駆使した畑作経営は面積拡大の方向にあるが, GMO大豆の導入によりこの傾向はますます顕著になっている。ジェルバ・マテ(マテ茶の原料となるモチノキ科の常緑低木)畑が大豆に替わるなど小農の畑を圧迫して土地なし農民を生み,さらには小農の雇用機会を奪うなど治安の悪化が囁かれている。一方,非GMOを分別流通する動き,有機栽培大豆や高蛋白大豆にプレミアをつけようとする試み,バイオジーゼルの話題も新聞を賑わせているが,流れはまだ小さい。

CRIAのエントランスホールには「日本とパラグアイの関係者が共に力を合わせ献身したことにより,パラグアイ農業発展に寄与し,パラグアイ国民にとって価値ある成果が結実した(西語)」と刻まれたプレートが填め込まれている。プロジェクトによって実をつけた果実が,パラグアイ研究者の手によって大きく成熟することを願って止まない。

参照-土屋武彦2005:農林水産技術研究情報28(5)42-45

参考文献

1)JICA(2003):パラグアイの農業発展を支えたJICA技術協力の23年史,JICA,58pp.

2)丹羽勝(2004):農業技術59(8):371-375

3)関節朗(1999):農業および園芸74(10):1080-1084,74(11):1187-1190

6)土屋武彦(2002):大豆育種専門家業務完了報告書JICA,29pp.

5)土屋武彦(2003):パラグアイで何故大豆育種を行うか(西語)JICA,51pp.

4)土屋武彦(2004):農業および園芸79(1):23-30,79(2):256-262,79(3):358-365

7)土屋武彦(2005):北農72(1):101-106

 

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