竹取翁と万葉集のお勉強

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古今和歌集 原文推定 巻二

2019年12月15日 | 古今和歌集 原文推定 藤原定家伊達本
布多末幾仁安多留未幾
ふたまきにあたるまき
巻二

者留乃宇多之多
春哥下
春哥下

歌番号六九
多以之良寸
題しらす
題知らず

与三比止之良須
よみ人しらす
詠み人知らず

原文 者留可寸美多奈比久夜万乃佐久良者那宇川呂者武止也以呂可八利由久
定家 春霞たなひく山のさくら花うつろはむとや色かはりゆく
解釈 春霞たなびく山の桜花移ろはむとや色変はり行く

歌番号七〇
原文 末天止以不尓知良天之止万留毛乃奈良八奈尓遠佐久良尓於毛日万佐末之
定家 まてといふにちらてしとまる物ならはなにを桜に思ひまさまし
解釈 待てといふに散らでし止まる物ならば何を桜に思ひまさまし

歌番号七一
原文 乃己利奈久知留曽女天多幾佐久良者那安利天与乃奈可者天乃宇多礼八
定家 のこりなくちるそめてたき桜花ありて世中はてのうけれは
解釈 残りなく散るぞめでたき桜花有りて世の中果ての憂ければ

歌番号七二
原文 己乃左止仁多比祢之奴部之佐久良者那知利乃末可日仁以部地和寸礼天
定家 このさとにたひねしぬへしさくら花ちりのまかひにいへちわすれて
解釈 この里に旅寝しぬべし桜花散りのまがひに家路忘れて

歌番号七三
原文 可良世三乃世尓毛尓多留可者那左久良佐久止美之末尓可川知利尓个利
定家 空世三の世にもにたるか花さくらさくと見しまにかつちりにけり
解釈 うつせみの世にも似たるか花桜咲くと見しまにかつ散りにけり

歌番号七四
曽宇志也宇部无世宇尓与美天遠久利个留
僧正遍昭によみてをくりける
僧正遍昭に詠みて贈りける

己礼堂可乃美己
これたかのみこ
惟喬親王

原文 佐久良者那知良波知良奈无知良寸止天布留左止比止乃幾天毛美奈久尓
定家 さくら花ちらはちら南ちらすとてふるさと人のきても見なくに
解釈 桜花散らば散らなん散らずとて古里人の来ても見なくに

歌番号七五
宇里武為无尓天佐久良乃者那乃知利个留遠美天与女留
雲林院にてさくらの花のちりけるを見てよめる
雲林院にて桜の花の散りけるを見て詠める

曽宇久保宇之
そうく法師
承均法師

原文 佐久良知留者那乃止己呂者者留奈可良由幾曽布利川々幾衣可天尓寸留
定家 桜ちる花の所は春なから雪そふりつゝきえかてにする
解釈 桜散る花の所は春ながら雪ぞ降りつつ消えがてにする

歌番号七六
佐久良乃者那乃知利个留遠美天与三尓留
さくらの花のちりけるを見てよみける
桜の花の散りけるを見て詠みける

曽世以保宇之
そせい法し
素性法師

原文 者那知良須可世乃也止利者堂礼可之留和礼尓遠之部与由幾天宇良三武
定家 花ちらす風のやとりはたれかしる我にをしへよ行てうらみむ
解釈 花散らす風の宿りは誰れか知る我に教へよ行きて恨みむ

歌番号七七
宇里武為无尓天左久良乃者那遠与女留
うりむゐんにてさくらの花をよめる
雲林院にて桜の花を詠める

曽宇久保宇之
そうく法し
承均法師

原文 以佐々久良和礼毛知利奈武飛止佐可利安利奈者比止尓宇幾女美衣奈部
定家 いさゝくら我もちりなむひとさかりありなは人にうきめ見えなむ
解釈 いざ桜我も散りなん一盛り有りなば人に憂き目見えなん

歌番号七八
安比之礼利个留比止乃末宇天幾天可部利尓个留乃知尓与美天
あひしれりける人のまうてきてかへりにけるのちによみて
相知れりける人の参て来て帰りにける後に詠みて

者那尓左之天川可八之个留
花にさしてつかはしける
花に挿して遣はしける

徒良由幾
つらゆき
紀貫之

原文 飛止女美之幾三毛也久累止佐久良者那遣不者万知美天知良波知良奈武
定家 ひとめ見し君もやくると桜花けふはまち見てちらはちらなむ
解釈 一目見し君もや来ると桜花今日は待ち見て散らば散らなん

歌番号七九
夜万乃左久良遠美天与女留
山のさくらを見てよめる
山の桜を見て詠める

原文 者留可寸美奈尓可久寸良武佐久良者那知留万遠多尓毛美留部幾毛乃遠
定家 春霞なにかくすらむ桜花ちるまをたにも見るへき物を
解釈 春霞何隠すらん桜花散る間をだにも見るべきものを

歌番号八〇
己々知曽己奈日天和川良日个留止幾尓可世尓安多良之止天
心地そこなひてわつらひける時に風にあたらしとて
心地損なひて患ひける時に風に当たらしとて

於呂之己女天乃美者部利个留安飛多尓於礼留佐久良乃
おろしこめてのみ侍けるあひたにおれるさくらの
颪こめてのみ侍ける間に折れる桜の

知利可多尓奈礼利个留遠美天与女留
ちりかたになれりけるを見てよめる
散りかたになれりけるを見て詠める

布知八良乃与留可乃安曽无
藤原よるかの朝臣
藤原因香朝臣

原文 堂礼己免天者留乃由久恵毛志良奴末尓万知之佐久良毛宇川呂日尓个利
定家 たれこめて春のゆくゑもしらぬまにまちし桜もうつろひにけり
解釈 たれこめて春の行方も知らぬ間に待ちし桜も移ろひにけり

歌番号八一
止宇乃美也乃可為无尓天佐久良乃者那乃美可者美川尓知利天
東宮雅院にてさくらの花のみかは水にちりて
東宮の雅院にて桜の花のみかは水に散りて

奈可礼个留遠美天与女留
なかれけるを見てよめる
なかれけるを見て詠める

寸可乃々多可世
すかのゝ高世
菅野高世

原文 衣多与利毛安多尓知利尓之者那奈礼盤於知天毛美川乃安和止己曽奈礼
定家 枝よりもあたにちりにし花なれはおちても水のあわとこそなれ
解釈 枝よりもあだに散りにし花なれば落ちても水の泡とこそなれ

歌番号八二
佐久良乃者那乃知利个留遠与美个留
さくらの花のちりけるをよみける
桜の花の散りけるを詠みける

徒良由幾
つらゆき
紀貫之

原文 己止奈良波左可寸也者安良奴佐久良者那美留和礼左部尓志川己々呂奈之
定家 ことならはさかすやはあらぬさくら花見る我さへにしつ心なし
解釈 ことならば咲かずやはあらぬ桜花見る我さへに静心なし

歌番号八三
佐久良乃己止々久知留毛乃者奈之止比止乃以日个礼者与女留
さくらのことゝくちる物はなしと人のいひけれはよめる
桜の事と朽ちる物はなしと人の曰ひければ詠める

原文 佐久良者那止久知利奴止毛於毛本衣寸比止乃己々呂曽可世毛布幾安部奴
定家 さくら花とくちりぬともおもほえす人の心そ風も吹あへぬ
解釈 桜花疾く散りぬとも思ほえず人の心ぞ風も吹きあへぬ

歌番号八四
佐久良乃者那乃知留遠与女留
桜の花のちるをよめる
桜の花の散るを詠める

幾乃止毛乃利
きのとものり
紀友則

原文 比左可多乃飛可利乃止个幾者留乃比尓志川己々呂奈久者那乃知留良武
定家 久方のひかりのとけき春の日にしつ心なく花のちる覧
解釈 久方の光のどけき春の日に静心なく花の散るらむ

歌番号八五
者留美也乃多知者幾乃知无尓天左久良乃者那乃知留遠与女留
春宮のたちはきのちんにてさくらの花のちるをよめる
春宮の帯刀の鎮にて桜の花の散るを詠める

布知八良乃与之可世
ふちはらのよしかせ
藤原好風

原文 者留可世者者那乃安多利遠与幾天不遣己々呂川可良也宇川呂不止美武
定家 春風は花のあたりをよきてふけ心つからやうつろふと見む
解釈 春風は花のあたりを避きて吹け心づからや移ろふと見む

歌番号八六
左久良乃知留遠与免留
さくらのちるをよめる
桜の散るを詠める

於保可宇知乃美川祢
凡河内みつね
凡河内躬恒

原文 由幾止乃美布留尓安留遠佐久良者那以可尓知礼止可可世乃布久良武
定家 雪とのみふるにあるをさくら花いかにちれとか風の吹らむ
解釈 雪とのみ降るだにあるを桜花いかに散れとか風の吹くらむ

歌番号八七
飛衣尓乃本利天可部利末宇天幾天与女留
ひえにのほりてかへりまうてきてよめる
比叡に登りて帰り参て来て詠める

徒良由幾
つらゆき
紀貫之

原文 夜万堂可美々徒々和可己之佐久良者那可世者己々呂尓万可寸部良奈利
定家 山たかみゝつゝわかこしさくら花風は心にまかすへら也
解釈 山高み見つつ我が来し桜花風は心にまかすべらなり

歌番号八八
多以之良寸
題しらす
題知らず

大伴久呂奴之
大伴くろぬし
大伴黒主

原文 者留佐女乃布留者奈美多可佐久良者那知留遠於之万奴比止之奈个礼八
定家 春雨のふるは涙かさくら花ちるをおしまぬ人しなけれは
解釈 春雨の降るは涙か桜花散るを惜しまぬ人しなければ

歌番号八九
天以之為无乃宇多安者世乃宇多
亭子院哥合哥
亭子院の哥合の哥

徒良由幾
つらゆき
紀貫之

原文 佐久良者那知利奴留可世乃奈己利尓者美川奈幾曽良仁奈美曽多知个留
定家 さくら花ちりぬる風のなこりには水なきそらに浪そたちける
解釈 桜花散りぬる風のなごりには水なき空に浪ぞ立ちける

歌番号九〇
奈良乃美可止乃於保武宇多
ならのみかとの御うた
奈良帝の御哥

原文 布留左止々奈利尓之奈良乃美也己尓毛以呂者可八良寸者那八左幾个利
定家 ふるさとゝなりにしならのみやこにも色はかはらす花はさきけり
解釈 古里となりにし奈良の都にも色は変らず花は咲きけり

歌番号九一
者留乃宇多止天与女留
はるのうたとてよめる
春の哥とて詠める

与之美祢乃武祢左多
よしみねのむねさた
良岑宗貞

原文 者那乃以呂者可寸美尓己女天美世寸止者加遠多尓奴寸女者留乃夜万可世
定家 花の色はかすみにこめて見せすともかをたにぬすめ春の山かせ
解釈 花の色は霞にこめて見せずとも香をだにぬすめ春の山風

歌番号九二
可无部以乃於保无止幾々左以乃美也乃宇多安者世乃宇多
寛平御時きさいの宮の哥合のうた
寛平御時后宮の哥合の哥

曽世以保宇之
そせい法し
素性法師

原文 者那乃幾毛以万者保利宇部之者留多天者宇川呂不以呂尓比止奈良日个利
定家 はなの木も今はほりうへし春たてはうつろふ色に人ならひけり
解釈 花の木も今は掘り植ゑし春立てば移ろふ色に人ならひけり

歌番号九三
多以之良寸
題しらす
題知らず

与三比止之良寸
よみ人しらす
詠み人知らず

原文 者留乃以呂乃以多利以多良奴左止八安良之左个留左可左留者那乃美由良武
定家 春の色のいたりいたらぬさとはあらしさけるさかさる花の見ゆらむ
解釈 春の色のいたりいたらぬ里はあらじ咲ける咲かざる花の見ゆらむ

歌番号九四
者留乃宇多止天与女留
はるのうたとてよめる
春の哥ちて詠める

徒良由幾
つらゆき
紀貫之

原文 三和夜万遠志可毛加久寸可者留可寸美比止尓之良礼奴者那也左久良武
定家 みわ山をしかもかくすか春霞人にしられぬ花やさく覧
解釈 三輪山をしかも隠すか春霞人に知られぬ花や咲くらん

歌番号九五
宇利武為无乃美己乃毛止尓者那美尓幾多夜万乃本止利尓
うりむゐんのみこのもとに花見にきた山のほとりに
雲林院親王の許に花見に来た山の辺に

万可礼利个留止幾尓与女留
まかれりける時によめる
罷れりける時に詠める

曽世以
そせい
素性法師

原文 以左遣不者者留乃夜万部尓末之里奈武久礼奈者奈个乃者那乃加計可者
定家 いさけふは春の山辺にましりなむくれなはなけの花のかけかは
解釈 いざ今日は春の山辺にまじりなん暮れなばなげの花の影かは

歌番号九六
者留乃宇多止天与女留
はるのうたとてよめる
春の哥とて詠める

原文 伊川万天可乃部尓己々呂乃安久可礼武者那之知良寸八知世毛部奴部之
定家 いつまてか野辺に心のあくかれむ花しちらすは千世もへぬへし
解釈 いつまでか野辺に心のあくがれむ花し散らずは千代も経ぬべし

歌番号九七
多以之良寸
題しらす
題知らず

与三比止之良寸
よみ人しらす
詠み人知らず

原文 者留己止尓者那乃左可利者安利奈女止安飛美武己止者伊乃知奈利个利
定家 春ことに花のさかりはありなめとあひ見む事はいのちなりけり
解釈 春ごとに花の盛りはありなめどあひ見むことは命なりけり

歌番号九八
原文 者那乃己止世乃川祢奈良波寸久之天之武可之者万多毛加部利幾奈末之
定家 花のこと世のつねならはすくしてし昔は又もかへりきなまし
解釈 花のごと世の常ならば過ぐしてし昔はまたも帰り来なまし

歌番号九九
原文 布久可世尓安川良部徒久留毛乃奈良八己乃比止毛止者与幾与止以者万志
定家 吹風にあつらへつくる物ならはこのひともとはよきよといはまし
解釈 吹く風にあつらへつくるものならばこのひと本は避きよと言はまし

歌番号一〇〇
原文 末川比止毛己奴毛乃由部尓宇久日寸乃奈幾川留者那遠々利天个留可奈
定家 まつ人もこぬ物ゆへにうくひすのなきつる花をゝりてける哉
解釈 待つ人も来ぬものゆゑに鴬のなきつる花を折りてけるかな

歌番号一〇二
可无部以乃於保无止幾々左以乃美也乃宇多安八世乃宇多   布知八良乃於幾可世
寛平御時きさいの宮のうたあはせのうた   藤原おきかせ
寛平御時后宮の哥合の哥  藤原興風

原文 佐久者那者知久左奈可良尓安多奈礼止多礼可者々留遠宇良美八天多留
定家 さく花は千くさなからにあたなれとたれかはゝるをうらみはてたる
解釈 咲く花は千草ながらにあだなれど誰れかは春を恨みはてたる

歌番号一〇三
原文 者留可寸美以呂乃知久左尓美衣川留八多奈比久夜万乃者那乃可个可毛
定家 春霞色のちくさに見えつるはたなひく山の花のかけかも
解釈 春霞色の千草に見えつるはたなびく山の花の影かも

歌番号一〇四
安利八良乃毛止可多
ありはらのもとかた
在原元方

原文 可寸美多川者留乃夜万部者止遠个礼止布幾久留可世者者那乃可曽寸留
定家 霞立春の山へはとをけれと吹くる風は花のかそする
解釈 霞立つ春の山辺は遠けれど吹き来る風は花の香ぞする

歌番号一〇五
宇川呂部留者那遠美天与女留
うつろへる花を見てよめる
うつろへる花を見て詠める

美川祢
みつね
凡河内躬恒

原文 者那美礼者己々呂左部尓曽宇川利个留以呂尓者以天之比止毛己曽志礼
定家 花見れは心さへにそうつりけるいろにはいてし人もこそしれ
解釈 花見れば心さへにぞ移りける色には出でじ人もこそ知れ

歌番号一〇六
多以之良寸
題しらす
題知らず

与三比止之良寸
よみ人しらす
詠み人知らず

原文 宇久比寸乃奈久乃部己止尓幾天美礼盤宇川呂不者那尓可世曽不幾个留
定家 鶯のなくのへことにきて見れはうつろふ花に風そふきける
解釈 鴬の鳴く野辺ごとに来て見れば移ろふ花に風ぞ吹きける

歌番号一〇七
布久可世遠奈幾天宇良美与宇久比寸者和礼也者々那尓天多尓不礼多留
吹風をなきてうらみよ鶯は我やは花に手たにふれたる
吹風を泣きて恨みよ鶯は我やは花に手だに触れたる

奈以之乃寸个阿末祢以己安曽无
典侍洽子朝臣
典侍春澄洽子朝臣

原文 知留者那乃奈久尓之止万留毛乃奈良波和礼宇久比寸尓於止良万之也八
定家 ちる花のなくにしとまる物ならは我鶯におとらましやは
解釈 散る花のなくにし止まるものならば我鴬に劣らましやは

歌番号一〇八
尓无奈乃知由宇之世宇乃美也寸无止己呂乃以部尓宇多安者世々武止天
仁和の中将のみやすん所の家に哥合せむとて
仁和中将の御息所の家に哥合せむとて

之个留止幾尓与美个留
しける時によみける
しける時に詠みける

布知八良乃乃知可計
藤原のちかけ
藤原後蔭

原文 者那乃知留己止也和比之幾者留可寸美多川多乃夜万乃宇久日寸乃己恵
定家 花のちることやわひしき春霞たつたの山のうくひすのこゑ
解釈 花の散ることや侘びしき春霞龍田の山の鴬の声

歌番号一〇九
宇久日寸乃奈久遠与女留
うくひすのなくをよめる
鶯の鳴くを詠める

曽世以
そせい
素性法師

原文 己徒多部者遠乃可波可世尓知留者那遠多礼尓於保世天己々良奈久良武
定家 こつたへはをのかはかせにちる花をたれにおほせてこゝらなくらむ
解釈 木伝へば己が羽風に散る花を誰れに負ほせてここら鳴くらむ

歌番号一一〇
宇久比寸乃者那乃幾尓天奈久遠与女留
鶯の花の木にてなくをよめる
鶯の花の木にて鳴くを詠める

美川子
みつね
凡河内躬恒

原文 志累之奈幾祢遠毛奈久可奈宇久日寸乃己止之乃美知留者那奈良奈久二
定家 しるしなきねをもなくかなうくひすのことしのみちる花ならなくに
解釈 しるしなき音をも鳴くかな鴬の今年のみ散る花ならなくに

歌番号一一一
多以之良寸
題しらす
題知らず

与三比止之良須
よみ人しらす
詠みて人知らず

原文 己満奈免天以左美尓由可武布留左止者由幾止乃美己曽者那者知留良女
定家 こまなめていさ見にゆかむふるさとは雪とのみこそ花はちるらめ
解釈 駒並めていざ見に行かむ古里は雪とのみこそ花は散るらめ

歌番号一一二
原文 知留者那遠奈尓可宇良三武与乃奈可尓和可三毛止毛尓安良武毛乃可波
定家 ちる花をなにかうらみむ世中にわか身もともにあらむ物かは
解釈 散る花を何か恨みむ世の中に我が身もともにあらむものかは

歌番号一一三
遠乃々己万知
小野小町
小野小町

原文 者那乃以呂者宇徒里尓个利奈以多川良尓和可三世尓布留奈可免世之万尓
定家 花の色はうつりにけりないたつらにわか身世にふるなかめせしまに
解釈 花の色は移りにけりないたづらに我が身世に経るながめせしまに

歌番号一一四
尓无奈乃知由宇之世宇乃美也寸无止己呂乃以部尓宇多安者世々武止
仁和の中将のみやすん所の家に哥合せむと
仁和中将の御息所の家に哥合せむと

之个留止幾尓与免留
しける時によめる
しける時に詠める

曽世以
そせい
素性法師

原文 於之止於毛不己々呂者以止尓与良礼奈无知留者那己止尓奴幾天止々女武
定家 おしと思心はいとによられ南ちる花ことにぬきてとゝめむ
解釈 惜しと思ふ心は糸によられなん散る花ごとに貫きてとどめむ

歌番号一一五
志可乃夜万己衣尓遠无奈乃於保久安部利計留尓与美天徒可者之个留
しかの山こえに女のおほくあへりけるによみてつかはしける
滋賀の山越えに女の多くあへりけるに詠みてつかはしける

川良由幾
つらゆき
紀貫之

原文 安徒左由美者乃夜万部遠己衣久礼盤美知毛左利安部寸者那曽知利个留
定家 あつさゆみはるの山辺をこえくれは道もさりあへす花そちりける
解釈 梓弓春の山辺を越え来れば道もさりあへず花ぞ散りける

歌番号一一六
可无部以乃於保无止幾々左以乃美也乃宇多安者世乃宇多
寛平御時きさいの宮の哥合のうた
寛平御時后宮の哥合の哥

原文 者留乃々尓和可奈川万武止己之毛乃遠知利可不者那尓美知八万止日奴
定家 春のゝにわかなつまむとこし物をちりかふ花にみちはまとひぬ
解釈 春の野に若菜摘まむと来しものを散りかふ花に道はまどひぬ

歌番号一一七
夜万天良尓末宇天多利个留尓与女留
山てらにまうてたりけるによめる
山寺に参うてたりけるに詠める

原文 也止利之天者留乃夜万部尓祢多留与八由女乃宇知尓毛者那曽知利个留
定家 やとりして春の山辺にねたる夜は夢の内にも花そちりける
解釈 宿りして春の山辺に寝たる夜は夢のうちにも花ぞ散りける

歌番号一一八
可无部以乃於保无止幾々左以乃美也乃宇多安者世乃宇多
寛平御時きさいの宮の哥合のうた
寛平御時后宮の哥合の哥

原文 布久可世止多尓乃美川止之奈可利世者美夜万可久礼乃者那遠美万之也
定家 吹風と谷の水としなかりせはみ山かくれの花を見ましや
解釈 吹く風と谷の水としなかりせば深山隠れの花を見ましや

歌番号一一九
志可与利可部利个留遠宇奈止毛乃者那夜万尓以利天布知乃者那乃
しかよりかへりけるをうなともの花山にいりてふちの花の
滋賀より帰へるける女どもの花山に入りて藤の花の

毛徒尓多知与利天可部利个留尓与美天遠久利个留
もとにたちよりてかへりけるによみてをくりける
下に立ち寄りて帰りけるに詠みて贈りける

曽宇志也宇部无世宇
僧正遍昭
僧正遍昭

原文 与曽尓美天可部良武比止尓布知乃者那者比末川八礼与衣多八於留止毛以部尓
定家 よそに見てかへらむ人にふちの花はひまつはれよえたはおるとも家に
解釈 よそに見て帰らむ人に藤の花はひまつはれよ枝は折るとも

歌番号一二〇
布知乃者那乃左个利个留遠比止乃止万利天美个留遠与女留
ふちの花のさけりけるを人のとまりて見けるをよめる
藤の花の咲けりけるを人の泊まりて見けるを詠める

美川子
みつね
凡河内躬恒

原文 和可也止尓左个留布知奈美堂知可部利寸幾可天尓乃美比止乃美留良武
定家 わかやとにさける藤波たちかへりすきかてにのみ人の見るらむ
解釈 我が宿に咲ける藤波立ち帰り過ぎがてにのみ人の見るらん

歌番号一二一
多以之良寸
題しらす
題知らず

与三比止之良須
よみ人しらす
詠み人知らず

原文 以万毛可毛佐幾尓本不良武多知者那乃己之満乃左幾乃夜万布幾乃者那
定家 今もかもさきにほふ覧橘のこしまのさきの山吹の花
解釈 今もかも咲き匂ふらん橘の小島の崎の山吹の花

歌番号一二二
原文 者留佐女尓々保部留以呂毛安可奈久尓加左部奈川可之夜万布幾乃者那
定家 春雨にゝほへる色もあかなくにかさへなつかし山吹の花
解釈 春雨に匂へる色もあかなくに香さへなつかし山吹の花

歌番号一二三
原文 夜万不幾者安也奈々左幾曽者那美武止宇部个武幾三可己与日己奈久二
定家 山ふきはあやなゝさきそ花見むとうへけむ君かこよひこなくに
解釈 山吹はあやなな咲きそ花見むと植ゑけむ君が今宵来なくに

歌番号一二四
与之乃加者乃保止利尓夜万不幾乃左个利个留遠与女留
よしの河のほとりに山ふきのさけりけるをよめる
吉野河の辺に山吹の咲けりけるを詠める

徒良由幾
つらゆき
紀貫之

原文 与之乃加者幾之乃夜万布幾布久可世尓曽己乃可計左部宇川呂日尓个利
定家 吉野河岸の山吹ふくかせにそこの影さへうつろひにけり
解釈 吉野河岸の山吹吹く風に底の影さへ移ろひにけり

歌番号一二五
多以之良寸
題しらす
題知らず

与三比止之良須
よみ人しらす
詠み人知らず

原文 可者川奈久為天乃夜万布幾知利尓个利者那乃左可利尓安八万之毛乃遠
定家 かはつなくゐての山吹ちりにけり花のさかりにあはまし物を
解釈 蛙鳴く井手の山吹散りにけり花の盛りにあはましものを

己乃宇多八安留比止乃以者久多知者奈乃幾与止毛可宇多奈利
この哥はある人のいはくたちはなのきよともか哥也
この歌はある人の曰はく橘清友が哥也

歌番号一二六
者留乃宇多止天与女留
春の哥とてよめる
春の哥とて詠める

曽世以
そせい
素性法師

原文 於毛不止知者留乃夜万部尓宇知武礼天曽己止毛以者奴多比祢之天之可
定家 おもふとち春の山辺にうちむれてそこともいはぬたひねしてしか
解釈 思ふどち春の山辺にうち群れてそことも言はぬ旅寝してしか

歌番号一二七
者留乃止幾寸久留遠与女留
はるのときすくるをよめる
春の時過くるを詠める

美川子
みつね
凡河内躬恒

原文 安徒左由美者留多知之与利止之川幾乃以留可己止久毛於毛本由留可奈
定家 あつさゆみ春たちしより年月のいるかことくもおもほゆる哉
解釈 梓弓春立ちしより年月の射るがごとくも思ほゆるかな

歌番号一二八
也与飛尓宇久日寸乃己恵乃飛左之宇幾己衣左利个留遠与女留
やよひにうくひすのこゑのひさしうきこえさりけるをよめる
弥生に鶯の声の久しう聞こえさりけるを詠める

徒良由幾
つらゆき
紀貫之

原文 奈幾止武留者那之奈个礼者宇久日寸毛者天者毛乃宇久奈利奴部良奈利
定家 なきとむる花しなけれはうくひすもはては物うくなりぬへらなり
解釈 鳴き止むる花しなければ鴬も果てはもの憂くなりぬべらなり

歌番号一二九
也与日乃徒己毛利可多尓夜万遠己衣个留尓夜万加者与利
やよひのつこもりかたに山をこえけるに山河より
弥生の晦かたに山を越えけるに山河より

者那乃奈可礼个留遠与女留
花のなかれけるをよめる
花の流れけるを詠める

布可也不
ふかやふ
清原深養父

原文 者那知礼留美川乃末尓/\止女久礼者夜万尓者者留毛奈久奈利尓个利
定家 花ちれる水のまに/\とめくれは山には春もなくなりにけり
解釈 花散れる水のまにまに尋めくれば山には春もなくなりにけり

歌番号一三〇
者留遠於之美天与女留
はるをおしみてよめる
春を惜しみて詠める

毛止可多
もとかた
在原元方

原文 於之免止毛止々末良奈久尓者留可寸美可部留美知尓之多知奴止於毛部八
定家 おしめともとゝまらなくに春霞かへる道にしたちぬとおもへは
解釈 惜しめども留まらなくに春霞帰る道にし立ちぬと思へば

歌番号一三一
可无部以乃於保无止幾々左以乃美也乃宇多安者世乃宇多
寛平御時きさいの宮の哥合のうた
寛平御時后宮の哥合の哥

於幾可世
おきかせ
藤原興風

原文 己恵多衣寸奈遣也宇久日寸飛止々世尓布多々比止多尓久部幾者留可八
定家 こゑたえすなけやうくひすひとゝせにふたゝひとたにくへき春かは
解釈 声絶えず鳴けや鴬一年に再びとだに来べき春かは

歌番号一三二
也与日乃徒己毛利乃比者那川美与利加部利个留遠无奈止毛遠美天与女留
やよひのつこもりの日花つみよりかへりける女ともを見てよめる
弥生の晦の日花花摘みより帰へりける女ともを見て詠める

美川祢
みつね
凡河内躬恒

原文 止々武部幾毛乃止者奈之尓者可奈久毛知留者那己止尓多久不己々呂可
定家 とゝむへき物とはなしにはかなくもちる花ことにたくふこゝろか
解釈 留むべき物とはなしにはかなくも散る花ごとにたぐふ心か

歌番号一三三
也与飛乃徒己毛利乃比安女乃布利个留尓布知乃者那遠々利天
やよひのつこもりの日あめのふりけるにふちの花をゝりて
弥生の晦の日雨の降りけるに藤の花を折りて

比止尓川可八之个留
人につかはしける
人に遣はしける

奈利比良乃安曽无
なりひらの朝臣
在原業平朝臣

原文 奴礼川々曽志為天於利川留止之乃宇知尓者留者以久可毛安良之止於毛部八
定家 ぬれつゝそしゐておりつる年の内に春はいくかもあらしと思へは
解釈 濡れつつぞしひて折りつる年のうちに春はいく日もあらじと思へば

歌番号一三四
天以之為无乃宇多安者世乃者留乃者天乃宇多
亭子院の哥合のはるのはてのうた
亭子院の哥合の春の果ての哥

美川子
みつね
凡河内躬恒

原文 遣不乃美止者留遠於毛八奴止幾多尓毛多川己止也寸幾者那乃可計加者
定家 けふのみと春をおもはぬ時たにも立ことやすき花のかけかは
解釈 今日のみと春を思はぬ時だにも立つことやすき花の蔭かは
コメント
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