Some Like It Hot

お熱いのがお好きな映画ファンtakのつぶやき。
キネマ旬報社主催映画検定2級合格。

サマータイム・キラー

2023-10-30 | キル・ビルのルーツを探せ!

◼️「サマータイム・キラー/The Summertime Killer」(1973年・フランス=イタリア=スペイン)

監督=アントニオ・イサシ
主演=クリストファー・ミッチャム オリビア・ハッセー カール・マルデン クローディーヌ・オージェ

久しぶりの 「キル・ビルのルーツを探せ!」 カテゴリのレビュー。今回は「サマータイム・キラー」。「キル・ビルvol.2」のクライマックスが迫るあたり、ビルの居所を聞き出したヒロインが、車を走らせ、日本刀を背に部屋に乗り込む場面で、本作の音楽が使われており、サントラにも収録されている。「キル・ビル」は復讐への遠い道程の物語。その結末が迫る場面で、この映画の曲が使われた意図とは。毎度、勝手な考察をしておりまふ。お目汚し失礼。

主人公レイは、幼い頃に父親がマフィアの手で殺されるのを目撃した。成長した彼は次々に父の仇を殺害し、残る一人アルフレディを追って彼のワイン工場があるポルトガルへ。レイはアルフレディの秘書兼愛人に接触し、彼が隙を見せそうな居場所を突き止める。そこへマフィアに雇われた刑事カイリーが現れ、レイは狙撃に失敗してしまう。その場を逃げ切ったレイは、フランスにいるアルフレディの娘を誘拐して彼を追い詰めようと企む。

主人公を演ずるのはクリス・ミッチャム。綺麗なブロンドの髪に、父ロバートを思わせるタレ目の甘いマスク。颯爽とバイクで疾走する姿はかっちょいい。特にクローディヌ・オージェ(ボンドガール女優を見つけると嬉しくなる私⤴️)演ずる秘書が運転するポルシェに、バイクで執拗に迫るカーチェイス(バイクでナンパ?)場面は印象的だ。ヘアピンカーブをショートカットしながら、幾度も前に現れるしつこさに最後はクローディヌ姐さんも参ってしまう。

しかし多くの方がこの映画をセレクトしてるのは、アルフレディの娘を演じたオリビア・ハッセーがお目当てに違いない。DVDの特典映像には、この映画の愛のテーマLike A Playに、この映画のオリビアの映像が散りばめられた動画が収録されている。こればっかり見てる人いるかも!と思える程に可憐♡、きゃわゆい♡。主人公レイは彼女を誘拐、監禁しておきながら、だんだんと好きになっていく。彼女も親元離れた寄宿学校の生活に孤独感を募らせている。二人の距離が少しずつ縮まっていく様子がいい。ビターな結末で、映画としてはクライムアクションだが、青春映画のような後味が残るのはこの二人の魅力あってこそ。

(以下、「キル・ビルvol.2」のネタバレを含みます・注意)

さて。タランティーノ監督が「キル・ビル」で貫いた復讐というテーマ。特にvol.2は、復讐物語が主であるマカロニウエスタンの影響が強い。引用される音楽やオマージュも冷酷な復讐ものを連想させる。トランペットのメロディが次に何が起こるのかドキドキさせてくれるのだ。

ところが、いざ仇を目の前にしてヒロインの心は平穏ではいられない。それはかつて愛した男、殺しの師匠でありながら、復讐の相手であるビルへの複雑な思い。そして二人の間に生まれた子供が、ヒロインの目の前に現れるという思わぬ展開が待っているのだ。

引用された「サマータイム・キラー」の楽曲は、16ビートを刻むハイハットとアルペジオのフレーズがいかにも全体のムードを高めてくれそうなもの。しかし、この曲が鳴り止んだ瞬間、目の前に現れた娘の姿に、ヒロインの高まったテンションは一気に下降する。「サマータイム・キラー」では、主人公レイは親の仇であるアルフレディを前にして、その娘の言葉を思い出して撃つのをためらってしまい、窮地に陥いる展開がある。

vol.1からさんざんマカロニウエスタン楽曲を使って復讐ムードを盛り上げておきながら、土壇場でエッ!?という展開。「サマータイム・キラー」を使ったのは、単にジワジワ盛り上がる楽曲の良さもさることながら、元ネタ映画を知る人に次の展開を匂わせる楽屋落ちみたいなつもりだったのかもしれない。

…というこじつけ考察でございました。お目汚しの長文、失礼しました。それにしてもオリビア・ハッセー、きゃわゆい♡



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怒りのガンマン/銀山の大虐殺

2022-10-30 | キル・ビルのルーツを探せ!

◼️「怒りのガンマン/銀山の大虐殺/The Big Showdown」(1969年・イタリア)
「キル・ビル」のルーツを探せ!(その36)★アニメパートのBGM

監督=ジャンカルロ・サンティ
主演=リー・ヴァン・クリーフ ピーター・オブライエン ジェス・ハーン

リー・ヴァン・クリーフ主演のマカロニウエスタン。3000ドルの賞金首のフィリップを巡って、賞金稼ぎたちが群がる。彼はサクソン兄弟の父を殺害した罪で手配されている。元保安官のクレイトンは町で囲まれていたフィリップを助ける。フィリップは無実で、真犯人は別にいるからだとクレイトンは言う。フィリップはサクソン兄弟への復讐に燃えて、単身町へ乗り込む。

世間の評価は高くないと聞いていた。駅馬車でやってくる人々のユーモラスなやりとり、クレイトン一家に嫁入りする予定の女性が正義感を貫く様子が描かれて、ストーリーを盛り上げる要素は揃っているが、確かに中途半端な印象ではある。邦題になっているマシンガンによる虐殺場面は、遠景が多いのでさほど残虐には見えない。

殺害事件の真犯人をめぐるミステリー要素が面白い。モノクロームで描かれた事件の場面は、機関車の蒸気に隠れた相手との撃ち合い。犯人はシルエットでしか見えない演出がカッコいい。

ルイス・バカロフによる哀愁漂うテーマ曲が印象的。「キル・ビル vol.1」で、オーレン・イシイの生い立ちを語るアニメーションパートで、この曲が使用されている。辛い運命に立ち向かう様子が、メロディにマッチしている。「vol.1」で過去の場面がモノクロになっているのは、この映画の影響なんだろか。


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少林虎鶴拳

2014-02-03 | キル・ビルのルーツを探せ!
少林虎鶴拳 [DVD]
「キル・ビル」のルーツを探せ!(その35)★白眉の老師パイ・メイ

■「少林虎鶴拳/洪煕官(Executioners From Shaolin)」(1978年・香港)

監督=ラウ・カーリョン
主演=チェン・カンタイ ロー・リエ リュー・チャーフィー リリー・リー

 「キル・ビルvol.2」で強烈な印象を残すのが、ユマ・サーマンがカンフーを教わる師匠パイ・メイの存在だろう。鮮やかな身のこなし、華麗なアクション、白刃の上にスラリと降り立つその姿。そしてピントが一瞬乱れる荒っぽいカメラワークまで香港映画そのままだ。演じているのは、「vol.1」でクレイジー88の一員で登場した ゴードン・リュー(リュー・チャーフィ)。当初、タランティーノ監督は、パイ・メイ役をアクション監督を務めるユアン・ウーピンに演じさせるつもりでいた。その後、監督自らがパイ・メイ演じると言い出す・・・。しかし衣装をつけた監督はどう見てもサンタクロース・・・結局ゴードン・リューが演ずることで決着することになった 。が、声はタランティーノ監督が吹き替えている!何たる執着!

 この白眉の老師のモデルは、「少林虎鶴拳」に登場する悪役”白眉道人”。 南派少林故事に伝えられる白蓮教の高僧が原型だと言われる。間接的な続編にもよく似た役柄で登場し、後のカンフー映画の悪役像にも影響を与えたと も言われる重要なキャラクターなのだ。ショウブラザース作品をすべて観たと豪語するタランティーノ監督にはよほどのお気に入りだったのだろうな。

 清朝末期、少林寺の焼き討ちから物語は始まる。主人公洪煕官(チェン・カンタイ)を始めとする少林寺の弟子達は焼き討ちから逃れたのだが、 師匠は白眉道人に殺されてしまう。追っ手に仲間も殺された洪煕官は復讐を誓う。この主人公は少林寺英雄の一人で、虎形拳の使い手。主人公を逃がす為に犠牲になる弟子の一人を演じているのはゴードン・リュー。紅船と呼ばれる旅回りの劇団に身を隠した彼ら は、復讐の機会を伺うのだった。その間に洪煕官は鶴形拳の達人である女性を妻(後に詠春拳の祖となる方詠春)とする。この二人の初夜の場面が面白い。股の力がとても強い妻に対して腕ずくで足を開かせようとする主人公。あきらめて寝室の外で寝たり・・・とコミカルな場面が続く。方詠春を演ずるのはジャッキー・チェンの「ヤング・マスター」にも出演していたリリー・リー。なかなか気丈で美しい。 妻は仇を討つために、自分の鶴形拳を学ぶべきと諭すが、主人公は他派のカンフーは学べないと頑なに虎形拳を極めようとする。二人の間には息子が生まれる。母親の鶴形拳を仕込まれる彼は、「女のカンフーを習ってるヤツ」と友達にバカにされたりしている。男の子に「幽幻道士」のテンテン(懐)のような髪型させてるのが原因だろ!と画面にツッコミいれたくなるのをグッと堪える。

 父親洪煕官は仇パイ・メイにいよいよ挑む。「キング・ボクサー」の主人公だったロー・リエ演ずる白眉道人は白眉白髪の老人とはとても思えぬ血色のよさ(笑)。年老いても衰えぬその腕前で、洪煕官は逃げ帰る。銅人形を相手にした修行の末、再び白眉道人に挑むが逆に殺されてしまう。原題ではタイトルロールである主人公が姿を消した後は、息子洪文定の出番。このあたりからコミックカンフー的な軽い描写が目立ち始める。彼は父親の虎拳と母の鶴拳をミックスした技で仇討ちを果たすのだった。少林寺の師匠の仇討ちが、世代も変わって親の仇討ちになる大河ドラマ的な物語だ。残酷描写は控えめだが、白眉道人の急所を移す技は他の作品では見られない独特の面白さ。特に股間で相手の蹴りを受けとめてそのまま後ろに引きずる技は、「ありえん!」と笑いながらも本編で三度も見せつけられると素直に感動してしまう。少林寺の英雄物語としても面白い本作。この映画の間接的続編が「続・少林虎鶴拳 邪教逆襲(洪文定三破白蓮教)」。こちらは、再びロー・リエが白眉道人を演じ、洪文定と戦うお話なのだ。

Executioners From Shaolin (Hong Xi Guan) Trailer



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怒りの荒野

2014-01-09 | キル・ビルのルーツを探せ!
「キル・ビル」のルーツを探せ!(その34)★マカロニウエスタン

■「怒りの荒野/I Giorni Dell'ira」(1967年・イタリア=西ドイツ)

監督=トニーノ・ヴァレリ
主演=ジュリアーノ・ジェンマ リー・ヴァン・クリーフ アンドレア・ボシック

 「キル・ビル」は主人公の復讐劇であるとともに、師弟対決がクライマックスの大きな要素となっている。タランティーノ監督はマカロニウエスタンに大きな影響を受けている。「キル・ビル」では「vol.1」「vol.2」ともにマカロニウエスタン映画のサントラ楽曲が数多く使われ、ついには「ジャンゴ 繋がれざる者」で西部劇を撮っている。マカロニウエスタンは「キル・ビル」同様に復讐劇が多い印象があるが、今回取りあげる「怒りの荒野」の見どころは師弟対決。イタリア製西部劇の中でも秀作とされる一本だ。

 私生児として生まれたスコット(ジュリアーノ・ジェンマ)は町の人々に虐げられて暮らしていた。銃がものを言う時代から法によって秩序が保たれる時代にさしかかっていた。その町へ凄みのあるガンマン、タルビー(リー・ヴァン・クリーフ)がやってくる。自分を手伝ってくれたスコットをタルビーが酒場でねぎらおうとしたことからトラブルが起こる。タルビーは正当防衛を認められたが、スコットも町に居づらい状況になってしまう。スコットはタルビーを追い、銃を教えてくれと頼み込む。やがてスコットは早撃ちガンマンに成長することになる。次第に町を牛耳るタルビーは判事や保安官ら町の実力者たちともめ始め、ついにはスコットの恩人マーフを殺害。ついにスコットは師であるタルビーと対決することを決意する・・・。

 ブライドとビルは殺し屋の師弟関係にして元恋人。それが殺しあうことになる「vol.2」のクライマックスは、緊張と切なさといろんな感情を握りしめる名場面となっている。「vol.1」の青葉屋の場面では、リズ・オルトラーニが手がけた「怒りの荒野」テーマ曲が使われている。また、この曲は「ジャンゴ 繋がれざる者」でも使用されているだけに、タランティーノ監督はさぞお気に入りなのだろう。

 「怒りの荒野」が面白いのは、タルビーがスコットにガンマンとしての心構えを教えていく様子だ。その1 他人にものを頼むな /その2 決して他人を信用するな/その5 傷を負わせたら殺せ。さもないと自分が殺される・・・といった"教訓"10箇条がひとつずつ語られる。「ベストキッド」のミヤギ翁の教えにしても、「007/死ぬのは奴らだ」でソリティアに施す愛のレッスンにしても"その1""その2"と進むたびにわくわくしてくる。観ている僕らも次は何を教わり、それが映画の展開にどう関わっていくのかが気になり、「怒りの荒野」に引き込まれてしまうのだ。それにつけてもカッコいいのは、リー・ヴァン・クリーフ。馬上から睨みつける登場シーン、見事なガンファイト。冷静さを失わず、自信にあふれ、狡猾で、常に紳士的。町に建てたカジノ付きの酒場は何とも悪趣味で笑えるけれど、そのダサさがまた素敵じゃないか。



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吼えろ!ドラゴン 起て!ジャガー

2013-12-16 | キル・ビルのルーツを探せ!
「キル・ビル」のルーツを探せ!(その33)★88人斬りのルーツはカンフー映画のルーツにあり
吼えろ ! ドラゴン 起て ! ジャガー [DVD]
■「吼えろ!ドラゴン 起て!ジャガー/ 龍虎闘 (The Chinese Boxer)」(1972年・香港)

監督=ジミー・ウォング
主演=ジミー・ウォング ロー・リエ ワン・ピン チャオシュン

 「キル・ビル」で青葉屋に乗り込んだブライドは、オーレン・イシイの手下クレイジー88を相手にたった一人で戦う。 ここでブライドは、斬って斬って斬りまくるのだが、この百人斬りならぬ88人斬りにもルーツがある。ショウブラザースの功夫片「吼えろ!ドラゴン 起て!ジャガー」がそれだ。ある街の中国拳法”国術”を教える道場に、突然空手家が現れる。道場破りを挑むが、年老いた道場の師匠に阻止された。彼は日本人空手家を雇って、再び道場に現れる。ここで黒服に赤帯の空手家が、道場の全員をバッタバッタと血祭りにあげていく場面が登場する。 またこの映画のクライマックスには、主人公ジミー・ウォングが斧まで持って襲いかかる悪党を相手に百人斬り!。ここが「キル・ビル」が引用した場面。刀を手にしたブライドに次々とクレイジー88が襲いかかるところだ。「吼えろ!~」でのこの場面は、血しぶきが飛び、目をつぶされた弟子たちが悲鳴をあげる。こうした残酷描写も「キル・ビル」に影響を与えているのだ。 ちゃんと斧を持ったのも出てくる。

 この戦いで生き残った主人公(ジミー・ウォング)は、街を牛耳ることになった空手家たちに復讐すべく、亡き師匠の言葉を信じて技の稽古を積む。そして、空手家の悪行に怒りがピークに達したとき、復讐のときが訪れる。クライマックスの死闘には、観ているこちらまで思わず力が入ってしまう。 アクションに力が注がれているだけに、ドラマ部分の情感が今ひとつ・・・。だが、その分純粋に拳と拳のぶつかり合いに僕らは心を奪われていく。

 実はこの映画、香港映画史上で転機ともなった重要作なのである。この映画が製作されるまでの香港活劇は、いわゆる”武侠映画”。要は剣劇、チャンバラだ。人が拳で戦うアクション映画は、この映画が登場するまでなかったと言われている。しかも、その後のショウブラザース映画に引き継がれる”異種格闘技”的な物語も面白い。 「日本から武士を呼んでやる」という空手家北島(ロー・リエ)が、呼び寄せたいかにも悪そうな武士二人。何故か手裏剣を使ったりするのだが・・・。こうした面白さが行き着くところまで行っちゃったのが、同じジミー・ウォングの「片腕ドラゴン」なんだろう。また、この映画のアクションを見たブルース・リーが、「俺はこれ以上のアクション映画がやれるゾ!」と宣言。そして「ドラゴン危機一髪」が製作されたという逸話が残っている。「吼えろ!ドラゴン 起て!ジャガー」がなかったら、その後の香港カンフー映画の歩みはなかったのだ。

 「キル・ビル」の撮影中、タランティーノはこの映画を「参考に」とスタッフに見せた。アクション監督ユアン・ウー・ピンが「あ、うちの親父が写ってる」と言う。「酔拳」のユアン・シャオティエン老師の若き日の姿がそこにある。香港映画の歴史を感じさせる作品だ。





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キング・ボクサー/大逆転

2013-12-06 | キル・ビルのルーツを探せ!
「キル・ビル」のルーツを探せ!(その32)★鬼警部アイアンサイドの音楽が使われている訳

■「キング・ボクサー 大逆転/天下第一拳(Five Fingers Of Death)」(1972年・香港)

監督=チェン・チャンホー
主演=ロー・リエ ワン・ティエン・フェン ワン・ピン ナン・クン・スン

 クエンティン・タランティーノ監督の「キル・ビル」で、テレビ番組「鬼警部アイアンサイド」のテーマ曲が使われていた。ユマ・サーマンが怒ると、ピーポーピーポーってサイレン音がしてお馴染みのホーンのフレーズ(日本ではニュース番組でもお馴染みのフレーズ)が流れる。これは功夫映画「キング・ボクサー/大逆転」で無断使用されたのをタランティーノがその劇中の使い方を気に入って「キル・ビル」に取り入れたもの。もちろん、今度は無断使用ではない。

 田舎の道場で武術を学ぶ主人公は、都の別な道場で学び、国術大会に出場することを師匠に勧められる。折しも彼が入る尚武国術館と百勝武館は、近く行われる国術大会をめぐって対立していた。やがて師匠に腕を見込まれた主人公は、秘術の鉄拳を伝授されることになる。物語は道場の対立だけでなく、同じ門下生同士の対立、主人公が助けた女芸人、故郷に残してきた師匠の娘・・・様々な要素が入り交じり息つく間もない。単なる活劇に終わらないとてもよくできたシナリオだ。師匠の娘は幸せな再会を夢見る夢子チャン、一方で女芸人の片思いはとても切なく描かれる。

 主人公が会得した鉄拳は、戦うときに手のひらが赤く染まる。この赤いライトを当てるだけのいたってシンプルな演出だが、これが観ていてこっちまで拳に力が入る。主人公を演ずるロー・リエは、ショウブラザースで悪役もこなしたカンフースタア。どことなく森田健作を思わせる。

 この映画でも悪役に日本人空手家が登場する。その悪役に「まだ中国人を殺したいのか!」と主人公は言う。この映画製作された当時はまだ国交回復されていない。これも国民感情なのかな、と思った。






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唇からナイフ

2013-12-05 | キル・ビルのルーツを探せ!
「キル・ビル」のルーツを探せ!(その31)★何故毒ヘビ暗殺団は黒いセーターを着ているのか

■「唇からナイフ/Modesty Blaise」(1966年・イギリス)

監督=ジョセフ・ロージー
主演=モニカ・ヴィッティ ダーク・ボガード テレンス・スタンプ

 イギリスの小説家ピーター・オドンネルが生み出した女泥棒がモデスティ・ブレイズ。1960年代に新聞マンガで連載されており、小説化された第1作がこの「唇からナイフ」なのだ。空手を使い、「007」みたいな新兵器、女性の魅力も武器に変え活躍する泥棒。これをモニカ・ビッティ主演で映画化したのがこの作品。イギリス政府が中東某国にダイヤを送ることになった。その護衛に雇われたのが他ならぬモデスティ・ブレイズ。ところが別の組織がダイヤを奪ったことから、頼れる相棒と共に組織に立ち向かう・・・というお話。

 ジョセフ・ロージー監督といえば、ジャンヌ・モローの「エヴァの匂い」やジュリー・クリスティの「恋」などしっとりとしたムードの映画を撮る真面目な監督のイメージがあった。正直、この映画を観て「何故ロージーが撮る必要があったの?」と疑問を抱かざるを得ない。残酷非道の悪女の登場も淡々と演出してみせるし、突然ミュージカルまがいの展開になるし、大胆なストーリーと絵になるビジュアル満載なのだが、遅々として話が進まずなーんか観ていて悶々としてくる。いやぁ、この映画はお話を楽しむよりも、純粋に雰囲気と凝った映像を楽しむのが吉ってところでしょう。同じ60年代のスパイ映画、ディーン・マーティン主演の「サイレンサー」シリーズだって理屈で観る映画じゃないですもんね(比べちゃいかんな)。ジョン・ダンクワースの音楽が魅力的。

 「キル・ビル」では、毒ヘビ暗殺団が教会を襲撃する場面で黒ずくめの殺し屋が登場する。殺し屋たちが黒いタートルネックのセーターを着ているのは、モデスティ・ブレイズがルーツ。「唇からナイフ」では部屋に忍び込む場面で、モニカ・ビッティは黒装束で登場する。また、「パルプ・フィクション」の中でジョン・トラボルタがトイレに本を持って行く場面があるが、そこで手にしているのが「モデスティ・ブレイズ」シリーズだったりする。




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修羅雪姫

2013-12-02 | キル・ビルのルーツを探せ!
「キル・ビル」のルーツを探せ!(その30)★これがオーレン石井のルーツ!/修羅の花
修羅雪姫【期間限定プライス版】 [DVD]
■「修羅雪姫/Lady Snowblood」(1973年・日本)

監督=藤田敏八
主演=梶芽衣子 黒沢年男 西村晃

 「キル・ビル」の登場人物たちが着る衣装の中でもひときわ目を引くのが、ルーシー・リュー扮するオーレン石井が着る真っ白な着物姿。撮影当初から白で行く予定だったのだが、青葉屋で着る衣装は白か黒かで二転三転。理由はブライドの黄色いトラックスーツが目立つので、雪に白では沈んでしまう・・・ということ。ところが提案された黒の衣装はルーシー・リューが猛反対。大泣きしたそうだ。最後はルーシーが「お姫様っぽいイメージがいい」と言って白に決定したとか。結果、返り血を浴びていく様がますます緊張感を高めてくれた。そんなオーレン石井のキャラクターにタランティーノが参考にしたのが、梶芽衣子の「修羅雪姫」。小池一夫原作の劇画の映画化で、監督は藤田敏八。母親から託された復讐を果たすべく、ヒロイン鹿島雪が宿敵を追い戦いを挑む壮絶な物語だ。

 時は明治初期。獄中で生まれ”修羅の子”として育ったヒロイン雪は、剣術の手ほどきを受け、立派な刺客として成長する(このあたりもどこかパイ・メイとの修行シーンを思わせる)。復讐リストに従って一人、また一人・・・と復讐を遂げていく様はまさに「キル・ビル」同様の展開。この復讐劇の元となった事件とその時代を描くのに、藤田敏八監督は劇画の引用を用いた。これ自体もアニメパートを挿入した「キル・ビル」にも通ずるところ。随所に「キル・ビル」テイストが感じられる。オーレン石井の生い立ちを描いたアニメパートが登場するが、「修羅雪姫」はこの場面に大きな影響を与えている。幼い頃に両親を殺された少女が、中学生となり仇のやくざをベッドで追いつめる場面。「あたしの顔、誰かに似ちゃぁいないかい?」と凄むところはオリジナルを彷彿とさせる。さらに主題歌である 修羅の花 が日本庭園の場面に引用されている。よっぽど、好きなんだろうね、タランティーノ監督。

 単なるチャンバラやアクションがある復讐劇としてだけでなく、この映画には人としての悲しみや逆らえない宿命の重さがひしひしと画面からにじみ出る。製作時期は「女囚さそり」シリーズの後だけに、70年代の反体制的なムードはやはりこの映画でも健在。政府が欲望と権力をむさぼり、弱者が切り捨てられる・・・そんな様を、映画の前半徴兵制で苦しめられる平民たちの姿として描く。そしてクライマックスの舞台は、不平等条約改正の為とは言いながら、欲望に身を任せる場でしかない鹿鳴館。「因果応報!」(この決め台詞好き!)と雪が切り捨てた宿敵が、血に染まった日本の国旗と共に落下していく様はどうしても印象に残ってしまう。さらに、この映画が深いのは、”復讐はさらなる復讐を呼ぶ”ことをきちんと語っている点だ。黒沢年男の台詞「また修羅の子が増えたか・・・」にはそんな悲しみがあるのだ。このあたり「vol.1」でヴィヴィカ・A・フォックスを殺した後で、娘ニッキーに「大人になって、私を許せなかったら・・・」とブライドが言う場面に通ずるところかな。それにしても、70年代の日本映画って本当に残酷描写の加減を知らん。血しぶき、手が飛ぶのは当たり前、首つり遺体を真っ二つ!なんて怨みの強さを観客の方にまで思い知らせる場面満載。これは「キル・ビル」を愛する者には超重要作。心して観よ。







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サイレント・フルート

2013-11-27 | キル・ビルのルーツを探せ!
「キル・ビル」のルーツを探せ!(その29)★ビルが奏でる楽器のルーツ

■「サイレント・フルート/The Silent Flute」(1977年・アメリカ)

監督=リチャード・ムーア
主演=デビッド・キャラダイン ジェフ・クーパー クリストファー・リー

 「Vol.2」の最初の方で、いよいよビルがその姿を現す。モノクロの画面、ブライドが式を挙げる教会の場面だ。長い横笛を吹きながら教会のベンチに座るビル。
「どうしてここがわかったの?」「お見通しさ」
その横笛を吹く場面はもう一度出てくる。棺桶に閉じこめられたブライドの回想シーン。ビルがブライドに、パイ・メイについて語るたき火のシーン。ビルは弾き語りのように笛の音を挟みながら、”五点掌爆心拳”について語る・・・。どちらも印象に残る場面だ。その横笛はデビッド・キャラダインがかつて主演した映画「サイレント・フルート」撮影時に自作したものである。現在でもステージでその演奏を披露することもあるとか。キャラダインは、「サイレント・フルート」では主人公を導く盲目の達人を演じている。これがビルのイメージにつながっている。このたき火のシーンはまさに「サイレントフルート」の雰囲気だ。

 「サイレント・フルート」はブルース・リーとジェームズ・コバーンらが原案を出した作品で、そもそもはブルース・リーの為に企画されたものだった。単なるアクション映画ではなく、武道の精神面又は哲学的とも言える内容である。武道の試合が行われ、優勝した者は「秘法の書」を取り戻してくる命を負うことになる。相手が倒れた後で殴ってしまったことから、主人公は負けを宣告されるの。諦めきれない彼は試練に挑む勝者を追って旅に出る。猿人と闘う第1の試練、ジプシーのような無国籍な集団で欲望と闘う第2の試練・・・そして迎える「秘法の書」の秘密。武道の、そして人生の奥義がそこにはあった(結末は是非ご覧あれ)。単なるアクションとは違うメンタルな台詞が次々に過ぎていく。

 僕は今回初めて観たのだが、実はかつて映画館で見損ねた映画でもある。地元の大分では2本立てで上映されていた。おじと一緒に行ったのだが、何らかの理由で観ずに帰った。今思えば砂漠で出逢う妖艶な美女との入浴シーンをニキビ面の中学生だった当時に観ていたら・・・生涯忘れ得ぬ映画になっていたかも(笑)。

 結局 「燃えよ!カンフー」と同様に、キャラダインはブルース・リー向けの企画2本で主演をすることになった。笛を手に闘う盲目の達人のモデルは、もちろん”座頭市”である。日本刀(もちろんハットリハンゾウ作)を手にビルは闘うのだが、鞘に収めたままで相手の攻撃をはらったりする様は、「サイレントフルート」の長い笛を振り回す達人であり、仕込み杖を使う市だ。「vol.2」でカットされたのだが、ビルにはアクションシーンがある。これは「vol.2」のDVDに特典映像として収録されているので、是非観て欲しい。ブライドと座ったまま闘うラストと共に影響を与えた部分かな。



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星空の用心棒

2013-11-26 | キル・ビルのルーツを探せ!
「キル・ビル」のルーツを探せ!(その28)★マカロニウエスタン
■「星空の用心棒/I Lunghi Giorni Della Vendetta (Long Days Of Vengeance)」(1967年・イタリア)

監督=スタン・バンス
主演=ジュリアーノ・ジェンマ フランシスコ・ラバル コンラッド・サンマルティン

「キル・ビル」、特に「vol.2」ではマカロニウエスタンの影響が色濃く感じられる。もちろん、復讐劇が多いのもその理由だろう。技法の面では、例えばブライドとエルがトレーラーの中でにらみ合う場面。ここでの”目のアップ”は、セルジオ・レオーネ監督作(「夕陽のガンマン」等々)にそのルーツがある。「vol.2」ではマカロニウエスタンの様々な楽曲があちこちに散りばめられている。「vol.2」のサントラに収録されているのは、「続・夕陽のガンマン 地獄の決闘」・「豹/ジャガー」・「さすらいのガンマン」の3作品、「vol.1」のサントラにも「怒りのガンマン 銀山の大虐殺」が収められている。

「vol.1」のアニメーション場面で、殺し屋プリティ・リキがオーレン・イシイの父親にとどめをさす場面に流れたのが、この「星空の用心棒」の楽曲だ。主演は「荒野の1ドル銀貨」などマカロニウエスタンが生んだスター、ジュリアーノ・ジェンマ。作曲は「黄金の七人」で有名なアルマンド・トロバヨーリ。スキャットを使った都会的な楽曲が持ち味なのだが、ウエスタン向け楽曲を研究したんだろう、トランペットやエレキギターをフィーチャーしてエンニオ・モリコーネ的なスコアに仕上げている。

”復讐への長き道”という原題を持つこの映画をお手軽な低予算マカロニウエスタンと言うなかれ。けっこう充実したメンバーなのだ。無実の罪を着せられた主人公が復讐するお話自体は、アレクサンドル・デュマの「モンテ・クリスト伯」(巌窟王)を翻案したもの。監督のスタン・バンスは1960年にヴェネチア映画祭で新人監督賞を受けたこともあるし、編集は「グレートハンティング」「ポールポジション」など記録映画の監督や「ニュー・シネマ・パラダイス」の編集も担当したマリオ・モッラ。

主人公は銃の名手って訳でもない。奇策と知恵で勇敢に宿敵に立ち向かう。そこが西部劇にありがちな圧倒的に強いヒーロー像とは異なる。父親を殺して鉄道会社を我がものにする悪役は、主人公の恋人だった女性を妻にしている。彼は彼女にも協力を願う。しかしハーバード大卒の医師と名乗るヤブ医者と娘や判事の力を借りて復讐を遂げるのだ。マカロニウエスタンは、単にドンパチで片をつけるハリウッド西部劇の明快さとは違った”間”という緊張感がある。そして妙なアイディアも魅力の一つ。この映画でも指先に糸をつけて引き金を引いたり、保安官バッヂを手裏剣のように投げたり・・・。だが登場人物とストーリーの面白さが、やはりこの映画の魅力かな。それにしてもこの邦題、筋とはなんの関係もない・・・。








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