Some Like It Hot

お熱いのがお好きな映画ファンtakのつぶやき。
キネマ旬報社主催映画検定2級合格。

ユダヤ人を救った動物園〜アントニーナが愛した命〜

2018-07-29 | 映画(や行)

■「ユダヤ人を救った動物園~アントニーナが愛した命~/The Zookeeper's Wife」(2017年・チェコ=イギリス=アメリカ)

監督=ニキ・カーロ
主演=ジェシカ・チャステイン ヨハン・ヘルデンベルグ ダニエル・ブリュール

ソビエトの侵攻やナチスドイツの支配と、ポーランドは他国に踏みにじられてきた。
この映画はそんな時代に300人ものユダヤ人を救った夫婦の物語。
1939年、ワルシャワ動物園を営むヤンとアントニーナ夫妻は、
爆撃や猛獣の殺傷で動物たちが次々と命を落とすのを耐え忍んでいた。
やがてユダヤ人の排斥が厳しくなり、ワルシャワ市内のゲットーに夫妻の友人たちも収容されてしまう。
夫ヤンは動物園にユダヤ人を匿って逃す計画を妻に提案する。
アントニーナは最初反対するが、命を守りたい一心から園内で匿い、日々の世話をする役割になる。
しかし、園内はドイツ軍の弾薬庫としても使われるため日中は兵士が常駐、
しかも動物学者でもあるドイツ将校がアントニーナに言い寄ってくる。
そんな状況で、二人は多くのユダヤ人を守り通した、実話に基づく映画である。

アントニーナを演ずるのは「ゼロ・ダーク・サーティ」のジェシカ・チャステイン。
この映画のプロデュースも兼任している。
気丈で人情に厚いヒロインを演じている。
家で匿われているユダヤ人たちは気づかれないために物音を立てることもできない。
危うくドイツ将校にバレそうになるのを、彼に気があるような振りをして難を逃れたり、
そんな状況から夫ヤンから誤解されてしまったり。
映画全編に漂う緊張感に目が離せない。
これまで製作されたホロコースト映画はドイツの非道ぶりを徹底的に描くことが多かったが、
この映画ではないそれ程でもない。
それよりもいかにユダヤ人が生き延びたかを丁寧に情感豊かに描いていく。
特にドイツ兵に乱暴されて心を閉ざした少女をヤンが救い出し、
アントニーナと息子そしてウサギが彼女の心を癒していく様は印象的だ。

また、ゲットーで収容されている人々の中に、
アンジェイ・ワイダ監督が伝記映画「コルチャック先生」(90)を撮った
ヤヌシュ・コルチャックが出てくることは、是非注目して欲しいポイント。
苦境に立たされる子供たちに手を差し伸べる活動で社会的に評価された先生は、
ゲットー収容時に恩赦されたが、子供たちと共にガス室送りになって最期を遂げている。
映画ではその列車に乗り込む直前、ヤンが先生を逃がそうとするのを断る場面が出てくる。
「コルチャック先生」の悲しくも幻想的なラストシーンが思い出されて、涙なくして観られなかった。

ポーランドの厳しい歴史をスクリーンに刻み続けたワイダ監督亡き今、
こうしたテーマが広く観られることになるだろう英語脚本の作品として製作されたことは、
とても意義あることだと思うのだ。
何度も観たい映画でなくてもいい。
でもオスカー・シンドラーや杉浦千畝だけでなく、
こうした尊い行為で命を救った人々がいたということは語り継がれるべきだ。

スクリーンの外側の事実で泣かせる映画はズルいとか言うなかれ。
そこに脚色があったとしても、歴史を刻むことは映画がもつ偉大な使命なのだから。




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70年代の好きな映画ベストテン

2018-07-28 | 映画・ビデオ


「キネマ旬報」の1970年代ベストテン特集。巷の映画ファンの間で話題になっている。70年代、僕はまだお子ちゃまだったからなぁ・・・、外国映画はまだしも日本映画はあんまり観てない・・・と思いつつ僕も選出してみた。

【外国映画】
スターウォーズ(ジョージ・ルーカス)
ブリキの太鼓(フォルカー・シュレンドルフ)
ひまわり(ビットリオ・デ・シーカ)
未知との遭遇(スティーブン・スピルバーグ)
ゴッドファーザー(フランシス・F・コッポラ)
タクシードライバー(マーチン・スコセッシ)
ウエストワールド(マイケル・クライトン)
燃えよドラゴン(ロバート・クローズ)
ディア・ハンター(マイケル・チミノ)
スリーパー(ウディ・アレン)

お子様だったからか、SF映画の比率が高くなる。当然後追いも多いけど、繰り返し観ているものばかり。特に「ウエストワールド」はトラウマ映画のひとつ。

【日本映画】
ルパン三世カリオストロの城(宮崎駿)
犬神家の一族(市川崑)
新幹線大爆破(佐藤純彌)
砂の器(野村芳太郎)
修羅雪姫(藤田敏八)
太陽を盗んだ男(長谷川和彦)
柳生一族の陰謀(深作欣二)
男はつらいよ寅次郎わが道をゆく(山田洋次)
子連れ狼三途の川の乳母車(三隅研次)
トラック野郎度胸一番星(鈴木則文)

ヤクザ映画を苦手としているし、なにせお子様だったから、角川が台頭する70年代末期に偏りがち。まだまだ不勉強かも。「戦国自衛隊」が捨てがたい。

キネ旬では12月に80年代ベストテンをやるそうだ。80年代は絞りきれないぞ、多分。
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ハン・ソロ/スターウォーズ・ストーリー

2018-07-24 | 映画(は行)

■「ハン・ソロ/スターウォーズ・ストーリー/Solo : A Star Wars Story」(2018年・アメリカ)

監督=ロン・ハワード
主演=オールデン・エアエンライク ウディ・ハレルソン エミリア・クラーク ドナルド・グローヴァー

SWというシリーズへの愛ゆえに、厳しいことを言わせていただく。長文お許しを。
※結末に触れている部分があります。

アメリカでコケたと言う報道で不安もあったが、期待もあった。
だって脚本にはEP4〜6に関わったローレンス・カスダンの名前が連なってるし、
ジョージ・ルーカスの「アメリカン・グラフィティ」に出演したロン・ハワードが監督することなんて、
縁以上のものだ。
そう思って劇場へ足を運んだ。

でもね。
残念ながら、なーんかワクワクしない。
まず一つ、薄暗いアクション場面や逆光の室内撮影が気になった。
そこで何が起こっているのか緊迫感は伝わっても、登場人物の表情が見えない。
かつてのシリーズなら、ルークが銃座で撃墜に興奮したり、ソロが銃口を向けて不敵に笑ったりする姿があった。
それは僕らも一緒に冒険しているような一体感。
ロン・ハワード監督は見せ方が下手な人ではない。
ヘルメットで顔が見えない「ラッシュ プライドと友情」や「アポロ13」でもその緊張感を見事に描けた人だ。
それなのに。
製作途中から登板されただけに本領発揮とはいかなかったように思える。
チャラいランド・カルリシアンも、エミリア・クラークも、
魅力的なドロイドも、登場人物は決して悪くないのに。

もう一つは、シリーズ本編とのつながりだ。
同じスピンオフ作品である「ローグワン」が熱烈に受け入れられたのは、
あのデススターの設計図をどうやって手に入れたのか、というEP4につながる"始まりの物語"があったからだ。
往年のファンはそのルーツに触れる楽しみが、新たなファンもここから楽しめる、
両方の満足を得られる作品だった。
企画の段階でファンの心を掴めるものだったと思える。

往年のファンには、スカイウォーカーの血筋をめぐる物語こそがSWだと思う頑なな人もいる。
それは狭義のSWストーリーであって、
もう少し広げるならジェダイの"スピリット"が受け継がれていく物語がSWの世界観でもある。
「ハン・ソロ」で感じる物足りなさ、SWじゃなくてもいいアクション映画、
と感じてしまう気持ちはジェダイやシスが登場しないからだろう。
「ローグワン」にもジェダイは登場しない。
しかし、フォースの偉大さを伝える盲目のチアルート・イムウェの存在がそのスピリットを伝えてくれている。
派手な銃撃戦が中心に思える「クローンウォーズ」でもアナキンとアソーカの子弟関係があったし、
「反乱者たち」にもケイナンというジェダイが主人公を導いた。

「ハン・ソロ」のラストにホログラムで登場するダースモール。
それはナンバリングされた本編とのつながりを感じさせる場面のひとつだ。
しかし、EPでナンバリングされた本編しか観ていない観客は、EP1で死んだはずと混乱してしまう。
実はモールはオビワンによって胴体真っ二つにされた後復活を遂げる。
そして惑星タトウィーンでオビワンと因縁の対決をするというサイドストーリーが存在する。
それを前提とした場面なのだろう。
しかしここでは、ライトセーバーを申し訳程度に見せるためだけにダースモールが出てきた印象すらある。
それは一部の人に"「ハン・ソロ」はEP1につながる話"だというミスリードをさせはしないか。
そこはシリーズ本編の脚本に関わってるローレンス・カスダンがいたはずなのに、
どこか残念に思える。

EP4でダースベイダーは「フォースを侮っていはいけませんぞ」と言うが、
「ハン・ソロ」は、ディズニーがフォースを侮った映画なのではないか。
でもこの煮え切らない感想も、スターウォーズへの愛あればこそである。

I hate you.
I know.
のやりとりは嬉しかった。

映画『ハン・ソロ/スター・ウォーズ・ストーリー』日本版特報



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騎士団長殺し

2018-07-18 | 読書


遅ればせながら感想を。
世間では村上春樹ワールドの集大成だの、最高傑作だの言う感想もあれば、
なんで同じ話を書き続けるのか、盛り上がらなくて残念、と賛否両論。
正直なところ、
いつもなら村上作品なら一気に読んじゃう僕でさえ途中でやや萎えて時間がかかった。
それは過去の村上春樹作品と通ずる"既視感"。

多くの人が感じている通り、過去の作品の焼き直し?と思える描写が随所にある。
「ねじまき鳥」みたいに主人公は突然妻が去られてしまい、
「海辺のカフカ」みたいに喧騒から離れた場所に一人で住み、
異世界に通ずる道みたいなものがあり、得体の知れない存在が出てきて、
「トニー滝谷」のようにクローゼットには過去の女性の衣類が詰まっていて、
会話はまたもオウム返し。

もちろん文学の表現として傑出したことを含めて、
旧作をイメージさせる部分を肯定的に捉えるなら集大成になるだろうし、
否定的には捉えるなら同じ話になる。
どちらかと言うと読み始めた頃は僕も後者に近かった。
また身綺麗に一人で暮らす、女に不自由しない男か・・・と
嫉妬にも似た(笑)気持ちにすぐになってしまった。
さらに「夜一人で読んでると怖いのよ」という友達のひと言も影響あったかもww

読み進める中で、これまでの村上春樹作品と決定的に違うことに気づいた。
会話と会話の行間が長いのだ。
気の利いた台詞が多い村上作品だから、
僕は台詞の行は味わうように、間はサラッと読み進めていたように思う。
ところが「騎士団長殺し」はそれを許してくれなかった。
画家である主人公が目で見たものを克明に描写するからだ。
これまでの村上作品なら、「〜のように」と読者のイメージを導いてくれる比喩が多かったが、
「騎士団長殺し」では人物の髪型から服装まで丁寧に描写するので、
読者がどうイメージするかに委ねられているのだ。
気の利いた台詞でテンポよく読者をのせてリードしてくれていたのが、
読み手にイメージさせることで小説が描く世界の深みに誘ってくれているようだ。

もう一つ、大きな変化がある。
村上春樹の作品に共通するのは"喪失感"だと思う。
例えば短編集「女のいない男たち」や「ノルウェイの森」に代表される
男女の片方が欠けている寂しさや、満たされない気持ち。
これまで欠けている存在として「妻」はあっても「子供」は出てこなかった。
短編集「東京奇譚集」に収められた「ハナレイベイ」でサーファーの息子を失う母親が出てくるくらいかな。
「騎士団長殺し」では、自分の子供かもしれない少女に執着する免色氏
(ちょっと「華麗なるギャツビー」を思わせるキャラ)が登場するとともに、
主人公は出て行った妻が他の男との間に子供ができたことで心が乱されている。
救いのない結末になるかと思って読み進めると、これはこれで一応のハッピーエンド(?)にたどり着く。

神出鬼没な騎士団長と、絵画教室の生徒である人妻のキャラが好き。
よくわからない部分や非現実的な部分が解明されないまま終わるけれど、
それはこれまでの作品にもあったことだし。

騎士団長殺し :第1部 顕れるイデア編 騎士団長殺し :第2部 遷ろうメタファー編

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ダーリン・イン・ザ・フランキス

2018-07-14 | テレビ・アニメ


アニメ「ダーリン・イン・ザ・フランキス」全24話鑑賞。
始まった頃は、管理された未来社会のディストピアなお話、と思っていたが
意外にもこんな感動的で壮大なお話になるとは想像していなかった。
長女レイアは「火の鳥宇宙編」級のエンディングに呆然。
「今日はもう他のアニメ見られない。すっごい感動した。」と言って余韻に浸っている。

一方、僕はいろんなSF作品を見たり読んだりしてこの年齢になってるおっきい子供なもんだから(恥)、
近頃は何を観ても作品に既視感を感じることが多い。

だけど「ダリフラ」はそれを見事に裏切り続け、
例えば「あぁ、ここエヴァっぽい。ここはグレンラガンぽい。」と感じる部分があっても、
そう言わせないオリジナリティーがある。
スタッフの努力を感じる。

中島美嘉×HYDEのOP主題歌、
女性キャストによるアイドルユニット的なED曲(最初の「トリカゴ」は特に素晴らしい)も魅力的だった。
謎の美少女ゼロツーを演ずる戸松遥の名演。
時にファンタジーであり、時に青春群像劇であり、時にグロテスクなまでのハードな近未来SF。
なかなかの良作である。

公式サイト:https://darli-fra.jp/

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プリティ・イン・ピンク - 80's Movie Hits ! -

2018-07-09 | 80's Movie Hits !

■「プリティ・イン・ピンク 恋人たちの街角/Pretty In Pink」(1986年・アメリカ)

監督=ハワード・ドイッチ
主演=モリー・リングウォルド ジョン・クライヤー アンドリュー・マッカーシー

- 80's Movie Hits! - 目次はこちら

 人生においては見るべき時期に見ておくべき映画がある。ジョン・ヒューズが監督・製作・脚本を担当した青春映画の数々は、そうした映画だと思う。80年代青春映画の中でも根強いファンが多い。

 モリー・リングウォルドのスネたような表情、ジョン・クライヤーのツッパリ頭、あの頃のイケメン代表アンドリュー・マッカーシー、あの頃の悪ガキ代表ジェームズ・スペイダー、あの頃のダメ親父の代表ハリー・ディーン・スタントン・・・僕らがそれぞれのスタアたちに抱くイメージがそのまんま反映されているような、納得がいく役柄。同じような役者で、今同じような映画を撮ろうにも、きっと彼ら以上にピッタリの役者をキャスティングすることは難しい。数多くの過去の作品達がリメイクされる現代だが、ジョン・ヒューズもののリメイクに手を出したら、きっとそれはオリジナルを損ねるものにしかなり得まい。それはあの時期だからこそ輝きを放つ要素がいっぱいにつまっているからだ。

 その要素のひとつは、何よりも、アメリカのカレッジ・ラジオでいかにも流れていそうな挿入歌たち。サイケデリック・ファーズ、ニュー・オーダー、インエクセス、OMD、スミス・・・。86年当時、音楽シーンにはホイットニー・ヒューストンが登場、チャート上位に君臨していた頃だ。そうした流行を嫌い、通を気取る子たちが「いいよね」と聴いていた(であろう)音楽が、このサントラには収められているのだ。

 今ドキの若き映画ファンたちはこの頃のジョン・ヒューズものを観てどう思うだろう。やっぱり古くさいと思うのだろうか?。所得格差が大きくなり二極化が進む・・・と言われ続けている現代ニッポン。この映画で描かれる「貧富の差と恋愛」というテーマは、近い将来きっと日本映画でも扱われるテーマなのかもしれない。でもプロムっていいよな、あんなのが日本にあったらいいのにさ・・・と思う純粋な気持ちは、世代を越えてきっと同じだと思うのだけれど。ちがうか。


 ★

1.Pretty In Pink/The Psychedelic Furs

 サイケデリック・ファーズは、ヴォーカルのリチャード・バトラー中心に結成された、イギリスのニューウェイブバンドである。80年にスティーブ・リリー・ホワイト(U2で有名ね)がプロデュースを務めたアルバム「The Psychedelic Furs」でデビュー。映画で使われた Pretty In Pink のオリジナルは、彼らの2枚目のアルバム「Talk Talk Talk」に収録されている。ヒロインを演じたモリー・リングウォルドがこの曲が好きで、タイトルチューンに選ばれ、このサントラのために再録することになったというエピソードが残っている。初期の作品はヴェルヴェット・アンダーグラウンドなどの影響を色濃く受けており、どちらかというと暗い。しかし、ジョルジオ・モロダー一家のキース・フォーシーをプロデューサーに迎えた84年の「Mirror Moves」からはポップ、ダンサブルなサウンドに変身。その後一時期解散していたが、2000年には再結成。エコー&ザ・バニーメンなどと共にツアーも行った。2006年には、リチャード・バトラーがソロ名義のアルバムをリリースしている。

 映画の冒頭。清掃車が街を走る朝、ヒロインのアンディー(モリー・リングウォルド)が身支度をしている。ストッキングを履く足をなめるように撮るカメラ。この場面に流れる Pretty In Pink の躍動感は、僕らをビートにのせてこの映画の世界に入り込ませていく。ベッドで寝ている失業中の親父を起こす娘。ヒロインの家庭環境と、貧しいながらも好きな服を器用に自作してオシャレを楽しんでいる健気なヒロイン。そうしたシチュエーションや人物像を一気に見せてしまう演出は見事。そして舞台はヒロインが「面白くない」という学校へと移ったところで、この曲は終わる。学校の休み時間にアンドリュー・マッカーシーがヒロインをデートに誘う場面で、再びこの曲がインストロメンタルで流れる。

※The Psychedelic Fursの歌が流れる80年代の主な映画
1983年・「ヴァレー・ガール」 = Love My Way
1986年・「プリティ・イン・ピンク 恋人たちの街角」 = Pretty In Pink


2.Wouldn't It Be Good/Danny Hutton Hitters

 舞台は変わって、ヒロインがバイトするレコードショップ。パンクファッションの先輩が店の飾り付けをしている。その場面に切り替わるとき、印象的なシンセのフレーズが流れる。この曲が Wouldn't It Be Good。歌は流れず、イントロのフレーズだけという不幸は使われ方ではある。ミディアムテンポのどこか哀愁を感じさせるメロディー。この曲は、ニック・カーショウ84年の大ヒット曲のカヴァーヴァージョンである。ニック・カーショウは、当時ハワード・ジョーンズやポール・ヤングとともにアイドル的な注目のされ方をしていたアーティストだ。

 元来ニック・カーショウはギター弾き。70年代にはジャズ・ファンクバンドでギタリストとして活動、83年に I Won't Let The Sun Go Down On Me でソロデビューした。チャートではふるわなかったのだが、Wouldn't It Be Good(恋はせつなく) が84年に全英4位の大ヒットを記録、一躍大注目を浴びることになる。再発された I Won't Let ~ は全英2位を記録する熱狂ぶり。ちなみに84年の The Riddle は、小泉今日子の 木枯らしに抱かれて の元ネタだと言われている名曲。


シングルヒットが低迷する時期も、ギタープレイヤーとしての彼は多くのミュージシャンに評価されていた。エルトン・ジョンはその一人で、アルバム「アイス・オン・ファイヤー」に参加、ツアーでもエルトンをサポートしている。

※Nik Kershawの歌が流れる80年代の主な映画
1985年・「ガッチャ!」 = Wouldn't It Be Good
1985年・「シャイなラブレター」 = You Might
1985年・「スラッガーズ・ワイフ」 = Human Racing
1986年・「プリティ・イン・ピンク 恋人たちの街角」 = Wouldn't It Be Good (Danny Hutton Hitters)


3.Love/John Lennon

 ダッキー(ジョン・クライヤー)がアンディーの部屋で歴史のレポートを手伝ってもらう場面。彼女への思いをうまく表現できないダッキーは、アンディーがいなくなった後、一人、部屋で歌う。それがジョン・レノンの ♪Love。オリジナルは流れず、ジョン・クライヤーのアカペラのみ。サントラにも未収録。


4.Try A Little Tenderness/Otis Redding

 ダッキーはアンディーの幼なじみ。アンディーの力になりたいとも思うが、思いは空回りしっぱなし。アンディーの父親(ハリー・ディーン・スタントン)にもその思いを伝える。離婚を経験している父親には「アンディーが受け入れるかはわからいゾ」と言われる。アンディーがバイトするレコード店に、閉店間際にやってきたダッキーは、店に流れていたオーティス・レディングに合わせて踊り狂う。ガキっぽい行動なんだけど、彼なりの表現なんだろうか。冷めた視線で見つめるアンディーと共に、印象に残る場面だ。悪い子ぶっていないで、この歌詞のように”ちょっとやさしさを試して”みればいいのにね。ダッキーのキャスティングは当初マイケル・J・フォックスにオファーされたそうだ。どちらかというと”いい子”イメージのMJFではやっぱり似合わなかっただろうね。

 店で流れるのは Try A Little Tenderness。オーティス・レディングの代表曲としてよく知られており、多くのミュージシャンに歌われている名曲だ(「プリティ・イン・ピンク」のサントラには未収録)。オーティス・レディングは60年代ソウルミュージックの代表格にして、黒人音楽が”ソウル”というジャンルで呼ばれ始めた頃の先駆的存在だ。ギターのスティーブ・クロッパー、ベースのドナルド・ダック・ダンらバックバンド、いわゆるブッカー・T&ザ・MGズとのコンビネーション振りのよさは有名。名曲 (Sittin' On) The Dock Of The Bay などスティーブ・クロッパーと共作した楽曲では、白人音楽のよさも吸収して、多くの人々に愛された。67年に飛行機事故で死去している。

※Otis Reddingの歌が流れる80年代の主な映画
1980年・「ブルース・ブラザース」 = I Can't Turn You Loose (The Blues Brothers Band)
1985年・「パニック・スクール/冒涜少年団」(劇場未公開) = I've Been Loving You
1985年・「セント・エルモス・ファイアー」 = Respect (Aretha Franklin)
1986年・「トップガン」 = (Sittin' On) The Dock Of The Bay
1986年・「プラトーン」 = (Sittin' On) The Dock Of The Bay , Respect
1986年・「プリティ・イン・ピンク 恋人たちの街角」 = Try A Little Tenderness
1987年・「ダーティ・ダンシング」 =Love Man , These Arms of Mine
1987年・「エディー・マーフィ/ロウ」 = (Sittin' On) The Dock Of The Bay , Respect
1987年・「ティンメン/事の起こりはキャデラック」(劇場未公開) = Try a Little Tenderness
1988年・「ストーミー・マンデー」 = I've Been Loving You Too Long
1988年・「エイリアン・ネイション」 = (Sittin' On) The Dock Of The Bay (Michael Bolton)
1989年・「ミステリー・トレイン」 = Pain In My Heart
1989年・「ドリーム・ドリーム」 = Dreams To Remember
1989年・「ロードハウス/孤独の街」 = These Arms of Mine
1989年・「今ひとたび」 = Love Man


5.Get To Know Ya/Jesse Johnson
6.Round, Round/Belouis Some

 アンディーはいよいよブレーン(アンドリュー・マッカーシー)と初デート。レコード店までお迎えに来たブレーン。しかし店には先述のオーティス・レディングを踊り狂った後のダッキーが。電機メーカーの御曹司と失業中の親父の娘のデート。幼なじみのダッキーとしては「行くな」と止める。
「ヤツの仲間は君のことを見下しているんだ!」
「彼は金持ちだけど、私は卑屈になりたくないの。」
ダッキーの心配をよそにアンディーはブレーンの車に乗って、パーティをやっているという友人宅へ。ダッキーは雨に打たれながら壁にもたれている。壁画が印象的な、チラシの画像ですな。壁のピエロの絵は、誰を笑っているのだろう。降り出した雨は、道化師が心で流す”道化の涙”なのかもしれない。車に向かうアンディーとブレーン。十分に着飾ってきたつもりのアンディーに、ブレーンは一言。
「着替える?」
”貧富の差”はこうした会話にも現れてくる。そしてパーティやってる邸宅に入っていく場面で流れるのが、ジェシー・ジョンソンの Get To Know Ya。さらに下着姿で踊る連中を見てアンディーが来たことを後悔する場面で、短いけれど Round, Round が流れている。

 ジェシー・ジョンソンは、モリス・デイ率いるファンクバンド、ザ・タイムのギタリストだった人物。いわゆるプリンスファミリーの一員だった訳ですな。映画「パープルレイン」では Jungle Love を演奏しているザ・タイムが登場するが、その頃がちょうど絶頂期。プリンスとモリス・デイの不仲?が原因でバンドは解散してしまう。ジェシー・ジョンソンは85年にソロデビューを果たしている。90年代にプリンスの映画「グラフィティ・ブリッジ」のためにザ・タイムが再結成されるが、そこにはジェシーの姿もあった。Belouis Someなるアーティストだが(カタカナで表記したいけど読めない・・・)、日本ではどうもこの曲くらいしか紹介されていないようだ。ネットで検索すると外国の80sものコンピ盤に、Imagination なる曲でクレジットされている。情報お持ちの方、教えて。

 映画「プリティ・イン・ピンク」では Get To Know Ya が流れた後、アンディーとブレーンが親しくなっていく場面へと続く。

※Jesse Johnson関連の曲が流れる80年代の主な映画
1984年・「パープル・レイン」 = Jungle Love , The Bird (The Time)
1985年・「ブレックファスト・クラブ」 = Heart Too Hot To Hold (Jesse Johnson & Stephanie Sprull)
1986年・「プリティ・イン・ピンク 恋人たちの街角」 = Get To Know Ya
1988年・「アクション・ジャクソン」 = Faraway Eyes (Vanity)


7.Shell Shock/New Order
8.Thieves Like Us/New Order

 ブレーン君との初めてのデートはアンディーにとって苦いものでもあった。リッチな人々の乱れたパーティで幻滅、ダッキーとは絶交される。しかし、ブレーン君と分かり合えたし、別れ間際「プロムは一緒に」と言われる。ヘッドライトの逆光の中、二人はキスを交わす。父親にきちんと報告するアンディー。そんな娘に父親は言う。「こんな話をパパしか聞いてやれなくてすまない。」・・・なんか泣けるなぁ。昔観たときにはそんなこと思わなかったのに。

 その翌日。アンディーが車で出かけるのを自転車に乗ってやって来たダッキーが切なく見る場面。ここで流れるのが、ニュー・オーダーの Shell Shock。これまたイントロしか流れないのだが、独特のシンセ音が強く印象に残る。ニュー・オーダーはこの映画に楽曲提供を依頼され、Shell Shock を用意するのだが、製作者たちは Thieves Like Us や Eligula を使いたがっていた。しかし、結局 Shell Shock は採用され、ニュー・オーダーは3曲もこの映画にクレジットされることになったのだった。

 ・・・物語のその後。アンディーは急にブレーン君に冷たくされてしまう。金持ち仲間がアンディーのことを好ましく思わないことに流されているのだ。ブレーン君も彼女の気持ちに気づいてあげられない鈍さがいかんな。大人の視線で観るとどうもこのあたりはじれったい。友人から譲ってもらったピンクのドレスを手直しするアンディー。それぞれがぞれぞれの思いを抱きながら、プロムの夜が近づいてくる。Thieves Like Us は、そんな場面に流れる。映画では歌が流れることはないが、ひたすら"Love"を連呼するこの歌。彼らの抱く愛情のゆくえは・・・。

※New Order関連の曲が流れる80年代の主な映画
1986年・「プリティ・イン・ピンク 恋人たちの街角」 = Thieves Like Us , Shell-Shock
1986年・「サムシング・ワイルド」 = Temptation
1988年・「再会の街 ブライト・ライツ・ビッグ・シティ」 = True Faith


9.If You Leave/Orchestral Manoeuvres In The Dark

何べんきいてもこのグループ名は覚えられなかったなぁ。この際だ。みんなもきちんと覚えておくれ。オーケストラル・マヌーヴァーズ・イン・ザ・ダークというんだ。クラフトワークやYMOの影響を受けてテクノポップ道を突っ走ったグループ。初期には単なるテクノポップではなく、社会性ある楽曲があることも特筆すべきところ。広島に原爆を投下した戦闘機エノラ・ゲイをテーマにした Enola Gay(エノラ・ゲイの悲劇) がそれだ。80年代半ばからはポップ路線に傾き、初期の暗さは薄れていく。アメリカのチャートにも顔を出すようになるが、本国での評価は下がっていくことにも・・・。僕はこの頃の Secret や So In Love はけっこう好きだったけど。

 実はこの映画のオリジナルのエンディングは、我々が目にする完成版とは異なるものだった。それはダッキーがアンディーの愛を勝ち取るように描写されたものだった。ところが試写で観た人々から不評を買う。みんなブレーンがアンディーと結ばれる方を望み、それにジョン・ヒューズもオリジナルの編集では、”貧しい者とリッチな者は共存できない”と観客が理解してしまうのでは、と心配した。そしてラストは変更され、再度撮影された。アンドリュー・マッカーシーは舞台で演ずる役のために、体重も落として髪も剃ったばかりだった。カツラをつけて撮影したが、他の場面と比べてアンドリューがやつれて見えるのはそのせいなんだそうである。

 ラストが変更されたことで、当初用意されたOMDの Goddess Of Love は合わなくなってしまった。そして映画のために書き下ろされたのが、この If You Leave である。本編では最も盛り上がるプロムの場面で流れる。しかし、前述のように撮影後にこの曲が書き下ろされたので、撮影中に出演者たちは実際には別な曲で踊っていた(それは「ブレックファスト・クラブ」の主題歌である Don't You (Forget About Me) だったとか)。そして If You Leave はOMDにとって最大のヒット曲となるのだった。

※OMDの曲が流れる80年代の主な映画
1986年・「高卒物語」 = We Love You
1986年・「プリティ・イン・ピンク 恋人たちの街角」 = If You Leave
1988年・「ミスター・アーサー2」 = Secret

Pretty in Pink (1986) Official Trailer - Molly Ringwald Movie




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衛宮さんちの今日のごはん

2018-07-01 | 読書

Fateシリーズは、長男ルークに勧められてアニメの「Zero」「stay night」「unlimited blade works」を見た。元世界史担当としては、授業ネタにしたくなる魅力的なサーヴァントたちを毎回ワクワクしながら見たし、魔術を身につけた若者たちの成長物語もいい。数々のスピンオフや外伝、バリエーションにどっぷり浸るほどではないけれど。

しかし、このコミックには手を出さずにおられんかった。カドカワの商魂が生んだ二次創作だなどと批判する向きはあろうが、「長門有希ちゃんの消失」と同じくこれはこれで独自の世界観がいい。料理好きの衛宮士郎を中心にしたほんわかしたスピンオフ作品。Fate本編の血なまぐさくて、おどろおどろしい聖杯戦争の緊張感を逆手に取った温かさにホッとする。

食でつながるほんわかした日常って、幸せなことなのだなぁ…という気持ちにさせてくれる。第2話のサーモンのホイル焼きは作っちゃったから、次は何に挑もうかな。


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