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Some Like It Hot

お熱いのがお好きな映画ファンtakのつぶやき。
キネマ旬報社主催映画検定2級合格。

許されざる者

2025-04-23 | 映画(や行)


◼️「許されざる者/The Unforgiven」(1959年・アメリカ)

監督=ジョン・ヒューストン
主演=バート・ランカスター オードリー・ヘプバーン リリアン・ギッシュ オーディ・マーフィ

映画に夢中になり始めた頃から、オードリー・ヘプバーン主演作が観られるチャンスは逃さないようにしてきたつもりだ。しかもけっこう映画館で観ている。「ローマの休日」以降の主演作は鑑賞困難な晩年の作品を除くと、あと2本観ればとりあえず完走。今回はその一つ、「許されざる者」に挑むの巻。オードリー出演作の中でも異色な西部劇。しかも監督は男臭い映画の多いジョン・ヒューストン。

オードリーが演ずるのは、牧場を営むザカリー一家に赤ん坊の頃もらわれてきた娘レイチェル。バート・ランカスター演ずるベンら3兄弟、彼らの母マチルダとも仲良く暮らしていた。ある日、レイチェル出生の秘密を知る男がサーベルを片手に現れ、彼女が先住民であると吹聴して回った。先住民カイオワ族が彼女を求めて現れ、彼女に求婚した若者が先住民に殺される事件が起こる。町の人々はレイチェルを追い出せと騒ぎ出すが、ザカリー一家はこれを拒否。家に立てこもって襲ってくるカイオワ族と戦うことを決意する。

ハリウッド製西部劇で先住民は悪役。盛んに制作された当時は今のような人権意識も配慮もない。スッキリしない結末、吹聴してまわる老人を寄ってたかって悪者扱いする場面、先住民に敵意剥き出し、レイチェルがカイオワ族の娘だと知って背を向ける人々の冷酷さ。ザカリー一家の結束も崩れそうになる。オードリー主演作でこんなに胸糞悪い映画は他にない。

だが、先住民への差別描写が当たり前の時代に、差別される側の娘をスター女優が演じることに意義があったとも思う。オードリーがこの映画に出演することで、こうした悲劇や差別に観客が目を向けるきっかけにはなったはずだ。

ジョン・ヒューストン監督が本作の後に撮るのが、同じくトップスターで対極の魅力を持つマリリン・モンローを起用した「荒馬と女」であるのも興味深いところ。

母親を演ずるリリアン・ギッシュが素晴らしい。僕はサイレント映画の名花と讃えられた若い頃と、最晩年の「八月の鯨」くらいしか出演作を観ていない。おそらく同世代はみんなそうだと思う。本作で見せる気丈な母親像と、娘同様に育てたレイチェルへの思いはこの映画の感動ポイント。この熱演の前には、屈強なバート・ランカスターの魅力も、トップスターとしてのオードリーも霞んでしまう。また、サーベルを持った老人を演ずるのが、この後「007」第1作で悪役ドクターノオを演ずるジョセフ・ワイズマンであることもお見逃しなく。

先住民を悪役としているのは当時の西部劇としては普通だが、差別感情が生む悲劇を描いていることは当時としては違った視点。そこはよいけれど、死体だらけのラストシーンはやっぱり観ていて辛い。



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ヤマトよ永遠に REBEL 3199 第3章群青のアステロイド

2025-04-17 | 映画(や行)



ヤマトよ永遠に」リメイク第3章。前章で「古代しっかりしろーっ!😫」と悶々とした僕らが3章で目にするのは、彼の立ち直り途上の姿。

第二章では、デザリアムが未来の地球人だとする主張と、これからの展開の基礎となる複数の流れが示される。反対勢力、地球側の対立関係、囚われた森雪、「地球人のいう愛を知りたい」、連れ去られたサーシャなどなど。それだけに異様に説明過多なものになった。それを吹き飛ばすようなラストのヤマト発進のカッコよさにわくわくした。

第3章はオリジナルにないエピソード、出てこなかったガミラスの面々も登場することになる。一方でいくつもの謎を残して、次章に引っ張っている。なぜサーシャは脱出ポッドで救出されたのか。一緒に捕えられた新見さんはどうなったのか。思わぬ裏切り者の存在。雪の質問には全て答えるというアルフォンの真意は?オリジナルでは昼メロみたいにアルフォンが雪に迫るドロドロの展開になるが、そっちはどうなる?森雪出番が少なかっただけに、次章以降がドキドキ。そして最後の最後に御大登場🤩

オリジナル「永遠に」の本筋がほぼ再現されていない印象も受ける。デザリアムの圧力でガミラスと地球の友好関係の揺らぎ、地球の財界人とデザリアムとの関係など、政治色が異常に濃い面白さ。このあたりは福井晴敏らしいカラーとも思える。また、地球人とデザリアムの子供たちの関係も今後気になるところ。加藤翼少年の父親譲りの男気と母親譲りの優しさに、思わず涙してしまう私🥺。土門と揚羽の関係修復も印象的で、ドラマ部分は同時進行するエピソードそれぞれが濃厚。映画全体として情報量が多い印象を受ける。全体から見ればそういうパートだから仕方ない。でも重要だからついていかねば。

シンプルに楽しめるデザリアムの透明戦艦とヤマトとの戦闘シーンは圧巻。悪環境でも敵の位置を目視できる新システムの活躍。逃げようとする敵艦をアンカー⚓️で繋ぎ止めて主砲の撃ち合い。同盟を反故にされて怒るガミラス将校とヤマトが対峙する場面の緊張感。その対抗策と結末はお見事。このバトルシーンには感激した。

10月公開の次章が待ち遠しい。次はいよいよサーシャが本格的に登場。どんな
👩「おじさまっ♪」
が聞けるのだろう。
(//∇//)
…そこでなぜお前が照れるのだ?(笑)グッズ売り場のサーシャ缶バッジセットに心が揺らぐ。あ、缶バッジ迷彩の痛バッグなんか作りませんよ。いい歳なんだからさっ。

最後に。歌姫TRUEの主題歌「ユーリカ」が素晴らしい。リメイクヤマトのバラード曲では結城アイラの「星が永遠を照らしてる」、水樹奈々の「愛の星」と並ぶ良作。




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ヤングガン2

2025-04-13 | 映画(や行)


◼️「ヤングガン2/Young Guns Ⅱ」(1990年・アメリカ)

監督=ジョフ・マーフィ
主演=エミリオ・エステベス キーファー・サザーランド クリスチャン・スレーター ルー・ダイヤモンド・フィリップス

1作目の「ヤングガン」を観た時は、ちょっと複雑な気持ちだった。1980年代のいわゆるYAスター(死語w)男子たちが、ファッションで出演した西部劇にしか思えなかったのだ。まあクラシック映画かぶれだった当時の生意気な僕だから、そう思うのも仕方ないのかも。この続編も似たようなだと思っていた。その後、社会人になって以前よりもハリウッド映画の新作に寛容になった頃、この続編を観てやたらハートに刺さった。若造がドンパチやってるだけの映画ではない。ビリー・ザ・キッドの最期を描いた、友情と喪失の物語だ。

映画冒頭に現れた老人。彼は自分がビリー・ザ・キッドであると名乗る。老人の回想形式で映し出されるビリーと仲間たちの若き日々。「ヤングガン2」はビリーがパットと組んで牛泥棒をやっていた時代から始まる。袂を分つ決断の後、知事や地主たちからの要請でパットがビリーを追う立場となる成り行きが順を追って登場する。

ビリー・ザ・キッド/21歳の生涯」では、2人が一緒に活動していた時代が描かれないので、2人がどれくらい深い絆なのかは想像するしかない。だが追うパットの心情を感じさせる演出と演技、そしてラストの喪失感が切ない秀作に仕上がっている。

対して「ヤングガン2」は順序立てて観客に示してくれるから、仲間が次々といなくなり喪失感を味わうのはビリーの方。信じていたパットとの別れ、救い出したかつての仲間ドクとチャベスとも悲しい別れをすることになる。

時系列で見ると「ヤングガン2」のラスト20分の出来事が「21才の生涯」で描かれる部分。「ヤングガン」はストーリー重視、「21才の生涯」は登場人物により迫った作品と思えた。

どちらを主役に据えているかの違いでもあるが、「ヤングガン2」はエミリオ・エステベスが強がりなビリーのキャラクターをうまく演じているだけに違った切なさがある。パットと向き合うクライマックスでは、パットが自分を撃ちやすくするために、わざと嫌な言葉を浴びせかけるのだ。「21才の生涯」が西部開拓時代の終わり、「ヤングガン2」は無法者の青春が終わる物語。冒頭の謎めいた導入も含めて、前作よりもかなり丁寧に撮られた映画だと思った。

パットの助手を演ずるのはヴィゴ・モーテンセン。大富豪の地主ジョン・チザムは「21才の生涯」でパット・ギャレットを演じたジェームズ・コバーン。そしてジョン・ボン・ジョヴィの主題歌Blaze Of Gloryが素晴らしい。






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ヤマトよ永遠にREBEL3199第二章赤日の出撃

2024-12-03 | 映画(や行)


◼️「ヤマトよ永遠にREBEL3199第二章赤日の出撃」(2024年・日本)

監督=ヤマトナオミチ
声の出演=小野大輔 桑島法子 大塚芳忠 古川慎

「ヤマトよ永遠に」リメイク第二章。第一章が歯切れの悪い終わり方だったので、今度こそ新生ヤマトが出撃する勇姿が観られる!と期待して劇場へ。デザリアム艦との戦闘シーンは、期待を超えたスピードと迫力で満足した。劇場で観られたことに感謝。

一方、第二章の要はデザリアムが地球に来訪する表向きの理由と真の狙いを明らかにすること。それだけに説明が多い章になっている。ヤマト艦内で話されている内容と、アルフォン少尉が雪に語る内容、さらにデザリアムのスカルダートが地球人に語りかける内容。それぞれの言い分があるので、今後の展開を考えると重要な章だとも言える。「新たなる旅立ち」後編のラストに出てきたアンドロメダ艦の残害の謎も説明される。かなり盛りだくさんなので、説明が多いことを鑑賞の負担に感じてしまう方もあろうかと思う。

オールドファンにとって胸アツなのは、サーシャの登場。しかもボイスキャストがオリジナルの潘恵子から娘潘めぐみに引き継がれること。本作でのサーシャはまだ幼いが、第三章でいよいよ成長した姿で現れる。どんな「おじさまっ♪」が聴けるのだろうw

雪と離ればなれになってしまった古代進が心ここに在らずで、山南司令にヤマトを降りるように言い渡される始末。土門君からも厳しい言葉を浴びせられ、島の声かけにも力ない返事しか返せない。それだけに幽閉状態にされた雪が気丈にアルフォンに立ち向かっている姿が際立っている。うー、この先のドロドロ展開がオリジナル通りならつらいよなぁ。古代!しっかりしろーっ!😖

オリジナルにはない新設定があれこれ詰め込まれているので、4月公開の第三章が楽しみ。地球に残った面々がどう抵抗していくのか。ヤマトに立ちはだかる新たな苦難は。予告編に出てきたあの赤い艦は…🤩

アナライザーのグッズが出ないかとずーっと思っていたので、今回キーホルダーが登場して嬉しい!箱開けたら白でした。どうせなら赤がよかったなぁー😗





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良いおっぱい悪いおっぱい

2024-10-14 | 映画(や行)


◼️「良いおっぱい悪いおっぱい」(1990年・日本)

監督=本田昌弘
主演=嗟山ゆり 中村ゆうじ

初めての出産を控えた夫婦を対象にした保健所の催しに参加したことがある。父親母親教室めいたものだ。
👩🏻‍🦱「妊婦がいかに重たいものを身につけているのか体験してみましょう!はい、じゃあいちばん前のあなた!」
😳「僕ですか?」
👩🏻‍🦱「はい、これをつけてみてくださいね」
有無を言わさず保健所の方は、僕の身体に砂鉄入りのサポーターみたいなものを巻きつけ始めた。
😓何これ、肉じゅばん着た相撲コントみたいじゃん。おっ、重っ…重っ…おっもーっっっ!!!
👩🏻‍🦱「一度しゃがんでみてください」
ただでさえ音がしやすい僕の脚の関節が思いっきり音を立てた。
バキッ🦴
後ろにいた夫婦の男性が声をあげた。
🙀「そ、そんなにっ!」
場を盛り上げてしまった私😓

その経験あってか、僕はそれなりに育児するお父ちゃんでした。はい。

本題。映画「良いおっぱい悪いおっぱい」は、詩人伊藤比呂美さんの子育て日記が原作。ジャーナリストの妻と大学講師の夫が初めての妊娠、出産、育児で経験を積んでいくストーリー。思い悩んだり、喜んだりする日常をほのぼのと描いたハートウォームな作品である。

母となった妻が授乳するのを見ながら、大切なものを失ったような微妙な表情をする夫が笑える。でも同じ気持ちだったのかもw。

妻が仕事に復帰して、育児が夫の仕事に偏っていく後半からが、中村ゆうじのコミカルな持ち味が発揮されて好感。四苦八苦しながら歪んでいた表情が、子供が泣き止んでニタッとほころぶ。下手な台詞がなくても、その表情がすべてを物語る。それは自信につながっているのだ。そして苦労は子供の笑顔で上書きされる。




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欲望

2024-08-19 | 映画(や行)


◼️「欲望」(2005年・日本)

監督=篠原哲雄
主演=板谷由夏 村上淳 高岡早紀 利重剛

かつて同級生だった3人の男女。一人は裕福な夫とのセックスレスに悩み、一人は不倫とされる男女関係にどっぷりの女。そして一人は少年時代の事故が原因で女性と交わることができなくなった男。男の欲望を受け止めてあげたい女の切なさと、抱え込んでいる欲望を吐き出せない男の苦しみが、この映画のクライマックス。

地上波の深夜枠で放送されたもので観たせいか、全体的に暗い映像が残念。ところどころ絵になる場面が心に残るだけになおさら。ラスト近くで、並んで海を見つめる裸の二人を背中から撮る場面が印象深い。

濡れ場は確かにたくさん出てくるのだが、官能的と言うよりも、生々しくて、時に痛々しい。不倫相手の大森南朋が板谷由夏に迫る場面のギラギラした剥き出しの欲望。悩む村上淳に「欲望があるなら私を使って」と抱きしめる板谷由夏。そしてもの言わぬ突然の辛い結末が、物語をいっそう切なくさせる。エロを目的で観ても、この映画には甘美な味わいは皆無。むしろやり場のない気持ちが残るのかも。



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ヤマトよ永遠にREBEL3199 第1章黒の侵略

2024-08-02 | 映画(や行)


◾️「ヤマトよ永遠にREBEL3199 第1章黒の侵略」(2024年・日本)

監督=ヤマトタケシ
声の出演=小野大輔 桑島法子 大塚芳忠 鈴村健一

「ヤマトよ永遠に」のオリジナルが公開された頃、僕は初期のヤマトに思い入れが深い中学生だった。「永遠に」での人物設定に納得できず、続編を連発する製作陣をよく思っていなかったのだ。当時は完全にスルーしていたのだが、大人になってようやく「永遠に」を観た。メロドラマのような愛憎劇とクライマックスの艦隊戦に感動😭。特にサーシャ(潘恵子)の「おじさまっ♪」にキュンキュンきてしまった🥹。大人になったからこそわかることもあるw

さて。リメイク「ヤマト」も遂に「永遠に」までたどり着いた。全7章で公開されるとのことだが、オリジナルにどんなアレンジが加えられているのか楽しみ。「3199」が意味するのは最初の「2199」から1000年後?前作のラストに登場した朽ち果てたアンドロメダ艦は何?そして古代と雪の運命は?そしてサーシャのCVはいったい誰が担当?どんな「おじさまの心には雪さんがいるのね(泣)」が聞けるのか?w

ヤマトシリーズを愛してやまない友達と今回も公開最初の週末に参戦。冒頭からいきなり不穏な空気が漂っている。地球に迫る新たな危機。しかし軍上層部や政府関係者は襲来するのを知っていたかのような態度を示す。地球現れた巨大な黒い物体、ウェルズの「宇宙戦争」を思わせる脚長の巨大メカ。街が破壊される中、政府からは「敵ではありません」というメッセージが流され続ける。一体彼らは何者なのか?そんな中でヤマトの元乗組員たちに集結を促す知らせが届く。

雪が地球に取り残される場面は、オリジナル同様に悲壮感でいっぱい。二人はどうなる!?

それにしても、今回の第1章は冒頭20分くらいが森雪を語り部とした過去作のダイジェストになっている。雪の目線でヤマトのこれまでの航海、そして古代とのこれまでを語ること、さらに本篇最初にプロポーズの練習をする古代を示すことで二人が結ばれることを強く望むように、映画は僕ら観客をリードしていく。

しかし、振り返りまで含む70分の上映時間では、ほんとにプロローグでしかない。せめてヤマトが新たな敵に向けて発進するところまでは…と思わずにはいられなかった。だが「永遠に」は基本メロドラマだと思えば、愛する二人が引き裂かれるところまでで観客を焦らすのは効果的ではあるのかも。

次は11月か…長いなぁ。アルフォン少尉はどんなキャラクターになっているのだろう。ともかく第2章を待つ。





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友情ある説得

2024-06-14 | 映画(や行)


◾️「友情ある説得/Friendly Persuasion」(1956年・アメリカ)

監督=ウィリアム・ワイラー
主演=ゲイリー・クーパー ドロシー・マクガイア アンソニー・パーキンス マージョリー・メイン

本作は、この年のアカデミー賞にノミネートされながら受賞は逃している。他のノミネート作は、「八十日間世界一周」や「十戒」「王様と私」などいかにもスクリーン映えしそうで、非アメリカを舞台とする派手めの作品が目立つ。そんな中で宗教的信条と戦争を描いたクエーカー教徒の人間ドラマは、地味に感じられたのかもしれない。一方で、本作はこの年のカンヌ映画祭パルムドールを受賞している。アメリカ史を振り返り、信条と現実に葛藤するドラマがヨーロッパの好みに合ったのかも。

平和主義で争いを許さず、禁欲的なクエーカー教徒。特にアーミッシュと呼ばれる少数民族で信仰されている宗派である。僕ら世代の映画ファンなら、ハリソン・フォード主演の「刑事ジョン・ブック 目撃者」でアーミッシュを初めて知った方も多いと思う。本作ではクエーカーの教えが他のキリスト教とどう違うのかが丁寧に描かれる。教会での集まりが対比される編集で、オルガンで讃美歌を歌う様子と、静まり返ったクエーカーの集まり。

厳格に教えを守り牧師でもある妻エリザと負けず嫌いで進歩的な夫ジェスも、信じる根本は同じながらも対比される。村の祭りに出かけることや、音楽への興味関心など意見の相違は明らかだ。特に教会に行く道中で馬車の競争をけしかけられる場面は、微笑ましくも、ジェスのキャラクターがにじんでくる名場面。妻には競い合わない馬と交換すると言っておきながら、抜かれるのが嫌いな足の速い馬と交換するエピソードが好き。ゲイリー・クーパーがしてやったり!とニンマリするのが楽しい。「真昼の決闘」「誰が為に鐘は鳴る」の険しい表情が印象深いだけに、このジェス役は人情味があってとても魅力的だ。この数年後にウィリアム・ワイラー監督は、戦車競争シーンで有名な「ベン・ハー」を撮ることを思うと、妙なつながりを感じてしまう。

そんな平和な日々も南北戦争の戦火が迫り、変わっていく。村では銃をとらないクエーカー教徒への反感が高まっていき、長男は従軍したいと言い始める。息子を救いに向かったジェスも、南軍の兵士を前にして葛藤が襲う。「汝殺すなかれ」を戦場で貫く厳しさは、メル・ギブソン監督の「ハクソー・リッジ」ではさらに深刻なビジュアルで描かれているが、本作のゲイリー・クーパーが演ずる心の揺らぎも忘れがたいものになるだろう。

全般的には、牧歌的な冒頭が宗教的な信条をめぐる辛いドラマに変化していく映画。しかし随所に散りばめられたジェスと家族のエピソードは心温まるもの。また、アメリカの歴史をクエーカー教徒の一面から見つめ、少数民族への理解にもつながる作品だ。同じ年の映画が非アメリカに視線が向いていたのとは対照的。今回初めて観て、黄金期のハリウッドだから撮ることができた秀作であることがよくわかった。




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ヨコハマBJブルース

2023-10-09 | 映画(や行)

◼️「ヨコハマBJブルース」(1981年・日本)

監督=工藤栄一
主演=松田優作 辺見マリ 蟹江敬三 田中浩二 内田裕也

大学時代、軽音楽系のサークルに所属して、キーボードを担当していた。鍵盤弾き男子が少なかった時代だったからか、僕は先輩方のセッションに呼ばれることが多く、いろんな経験させてもらった。
😼「柳ジョージ好きだったよな」
🙄「あ、はい。」
😼「「時の流れに」演るから手伝え。カセット渡しとくから」
😀「あの曲いいっすよね。コピーしときまーす。緊張するな。」
😼「2曲目に入ってるやつも演るから。準備しとけな。」
2曲目は松田優作。YOKOHAMA HONKY TONK BLUESだった。

今思うと、どちらも大学生にはなかなか背伸びした選曲だと思う。けれど、あの頃3つ4つ歳上の先輩は、すっごく大人に見えたから、自分が中坊だった頃の大人の音楽を演奏するというだけでも妙にカッコよく見えたものだ。そこにまだ10代だった自分も加わるなんてさ。生意気だ。

YOKOHAMA HONKY TONK BLUESを劇中、松田優作が歌う映画があると後に知った。そりゃカッコいいに決まってるだろ。あれからウン十年。やっと観ることができた。

ブルースシンガーのBJは歌手だけじゃ食べていけないから、探偵の真似事めいた仕事をしている。行方不明の息子を探す依頼を受け、闇社会の"ファミリー"のボスに男娼として囲われていると知る。親友の刑事と会っている最中に刑事は狙撃される。刑事の妻はBJの元カノ。彼とコンビを組んでいた刑事から殺人の疑いをかけられたBJは、暴行混じりの取調べを受ける。やがて事態は麻薬がらみの事件に発展。BJは窮地に立たされる。

けっこう入り組んだ話なのだが、説明になりそうな台詞もない。無言の映像で結末を示す。しかしそれが不親切とは全く思えない。それは絵になるショットの連続と、全編に漂う気怠いムードが実に魅力的だから。クリエイションが演奏する音楽にかすれた優作のボーカル。友人刑事は内田裕也、店のカウンターで渋い顔してる宇崎竜童、ボスの用心棒安岡力也、殺し屋の蟹江敬三、紙を切らしたトイレで絶叫するボス財津一郎、眼鏡屋の殿山泰司まで印象的なキャラクターたち。男娼少年とBJの心の交流も心に残る。

あの曲が流れる場面。

C/E7/Am/C7
F/F♯dim/C/A/D7/G

指がコード進行覚えてた。
これを演ってた若造って、やっぱり生意気だよなぁ😅




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奴らを高く吊るせ!

2023-08-23 | 映画(や行)


◾️「奴らを高く吊るせ!/Hang'em High」(1968年・アメリカ)


監督=テッド・ポスト

主演=クリント・イーストウッド インガー・スティーブンス エド・ベグリー ジェームズ・マッカーサー


マカロニウエスタンで有名になったイーストウッドが、アメリカに戻って撮ったウエスタン。ハリウッド西部劇というと勧善懲悪が基本の娯楽作のイメージが強い。そんな中で注目すべきは、「奴らを高く吊るせ!」が正義というものの脆さを描いている点。それは西部劇の世界で元来最も揺らいではいけないもの。


1880年代のアメリカ、オクラホマ。牛泥棒の濡れ衣を着せられて、縛り首の私刑(リンチ)に遭ったジェド。助けられた彼は判事フェントンに保安官として手伝わないかと提案される。広大な州の犯罪を裁くのに、たったひとつの裁判所とひとりの判事しかいない。合法的な復讐になるとジェドは保安官バッヂを手にする。彼を枝から吊るしたグループを一人一人捕らえていく。しかし犯人の改心など受け付けず、事実だけを理由に法で裁くことに、人情派のジェドは疑問を感じずにはいられなかった。一方、ジェドを吊るした仲間たちは彼を襲撃することを企てる。

死刑判決を受けた犯人たちが町の広場で公開処刑される場面。まるで芝居でも見物するかのように群がる人々。その傍らでは酒が売られ、人の死が見世物になっている。見ていて辛い場面だ。事情や懺悔の言葉も聞かずに吊すだけなら、法の掲げる正義って一体何なのか。そして映画のラストに、判事とジェドはお互いの考えと思いをぶつけ合う。


派手な銃撃戦でスカッとさせる映画ではない。音楽や映像のつくりは、イーストウッドの出世作であるマカロニウエスタンを思わせるが、訴えるものは全く違う。法による秩序の下で、復讐という自力救済が禁じられる世の中になっていく時代を描きながら、正義を貫くことの難しさ、人それぞれの正義について考えさせられる作品。当時の評価は低かったかもしれないが、後のイーストウッド監督作品にも通ずるテーマだけに、今観るとその片鱗を感じることができる。イーストウッドが設立したマルパソプロダクションの第1回作品。






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