![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/36/41/ad2fc386c269670c85d8a4dc96b47f66.jpg?1718311328)
◾️「友情ある説得/Friendly Persuasion」(1956年・アメリカ)
平和主義で争いを許さず、禁欲的なクエーカー教徒。特にアーミッシュと呼ばれる少数民族で信仰されている宗派である。僕ら世代の映画ファンなら、ハリソン・フォード主演の「刑事ジョン・ブック 目撃者」でアーミッシュを初めて知った方も多いと思う。本作ではクエーカーの教えが他のキリスト教とどう違うのかが丁寧に描かれる。教会での集まりが対比される編集で、オルガンで讃美歌を歌う様子と、静まり返ったクエーカーの集まり。
厳格に教えを守り牧師でもある妻エリザと負けず嫌いで進歩的な夫ジェスも、信じる根本は同じながらも対比される。村の祭りに出かけることや、音楽への興味関心など意見の相違は明らかだ。特に教会に行く道中で馬車の競争をけしかけられる場面は、微笑ましくも、ジェスのキャラクターがにじんでくる名場面。妻には競い合わない馬と交換すると言っておきながら、抜かれるのが嫌いな足の速い馬と交換するエピソードが好き。ゲイリー・クーパーがしてやったり!とニンマリするのが楽しい。「真昼の決闘」「誰が為に鐘は鳴る」の険しい表情が印象深いだけに、このジェス役は人情味があってとても魅力的だ。この数年後にウィリアム・ワイラー監督は、戦車競争シーンで有名な「ベン・ハー」を撮ることを思うと、妙なつながりを感じてしまう。
そんな平和な日々も南北戦争の戦火が迫り、変わっていく。村では銃をとらないクエーカー教徒への反感が高まっていき、長男は従軍したいと言い始める。息子を救いに向かったジェスも、南軍の兵士を前にして葛藤が襲う。「汝殺すなかれ」を戦場で貫く厳しさは、メル・ギブソン監督の「ハクソー・リッジ」ではさらに深刻なビジュアルで描かれているが、本作のゲイリー・クーパーが演ずる心の揺らぎも忘れがたいものになるだろう。
全般的には、牧歌的な冒頭が宗教的な信条をめぐる辛いドラマに変化していく映画。しかし随所に散りばめられたジェスと家族のエピソードは心温まるもの。また、アメリカの歴史をクエーカー教徒の一面から見つめ、少数民族への理解にもつながる作品だ。同じ年の映画が非アメリカに視線が向いていたのとは対照的。今回初めて観て、黄金期のハリウッドだから撮ることができた秀作であることがよくわかった。