
◾️「国宝」(2025年・日本)
監督=李相日
主演=吉沢亮 横浜流星 渡辺謙 寺島しのぶ 田中泯
吉沢亮と横浜流星で歌舞伎の映画、しかも女形と聞いて、ファッションで歌舞伎役者を演じるような出来だったら許さねぇぞと思っていた。別に歌舞伎に詳しい訳じゃない。香川照之の市川中車襲名公演を、お詳しい方の指南を受けながら観たことがあるだけだ。そんな僕のような素人目に見ても、歌舞伎は格式と品格と芸に真摯に打ち込むストイックなイメージがある。どんな映画に仕上がっているのか、巷の高評価な感想に背中を押されて映画館へ。
結論。すっげえもんを観せてもらいました。ヘビーな人生のドラマとともに、歌舞伎をスクリーンを通してここまで堪能させてくれる作品は他にない。大掛かりな娯楽作が巷で溢れる中、「映画は芸術だ」と再認識させてくれる希有な作品だ。音楽とバレエを堪能させてくれた「愛と哀しみのボレロ」のように。こんな邦画が観たかった。
近頃の邦画と同様に重たいテーマをや人物設定を含む作品だ。任侠の家に生まれた少年喜久雄が歌舞伎の名家に引き取られ、同い年の御曹司俊介と芸を磨く。名跡を継ぐのは血筋が重要視される世界。だが師匠が自分の名を継ぐ後継者に選んだのは、血筋ではなかった。そこから2人の運命が大きく狂い始める。
吉沢亮演じる喜久雄が世襲ありきの歌舞伎の世界で戦っていくには芸しか頼るものがない。倒れた師匠の代役で舞台に上がる場面のやりとりは象徴的だ。緊張で震えが止まらない喜久雄に、俊介が「芸があるじゃないか」と言うが、喜久雄は「俊ちゃんを守ってくれる血が欲しい」と言う。その「曽根崎心中」の舞台が2人にとって運命のわかれ道になる。
それでも血の力は大きいのが現実だ。「ゴッドファーザー」を観る度に、抗えない血の力を僕らは思い知る。そんな血の力で俊介が再び歌舞伎界での立場を取り戻し、名跡を継いだものの冴えない仕事しかない喜久雄を助けることになる。この物語が面白いのは、2人が次第にかけがえのない存在になっていく過程だ。喜久雄にとって俊介は結婚まで考えた幼馴染の女性を結果として奪った存在。俊介にとって喜久雄は父の名跡を奪った存在。お互い思いは複雑だ。殴り合う場面すら出てくる。しかしお互いの芸を高めるために相手の存在が大切だと気づいていく様子が、映画中盤にジワーッと沁みてくる。
このあたり、「昭和元禄落語心中」の与太郎と菊比古、みよ吉の三角関係とストーリーが大きく重なる。名跡継承や、与太郎復活の為に菊比古が二人会を催すエピソード、そして物語の終わりに名人と称されるまでの物語。いずれにしても、芸事の世界の厳しさは共通ということだろう。
「国宝」最大の魅力は歌舞伎の舞台シーン。いくつもの演目がスクリーンで楽しめて、しかも舞台では見られない表情のアップや衣装早変わりの裏側、役者の視線や手先の繊細な動きまでカメラは克明に捉えてくれる。贅沢な映像だと心底思える映画ってなかなかない。歌舞伎好きには数々の演目を楽しめるだろうし、主演の2人目当てでもが彼らが懸命に取り組んだ舞台は見応え十分。
そしてストーリーを追う映画好きには、演目と彼らの生き様が重なって見える瞬間がたまらない。「曽根崎心中」で徳兵衛がお初に向ける刃物と、喜久雄が父の仇討ちに握っていた長ドス。お初の足先に頬を当てる場面では、俊介の病んだ足先が痛々しくて切なくなる。老いた白虎が喜久雄に手招きしたのは、芸のさらなる高みへの誘い。白虎の名を受け継いだラストで舞う「鷺娘」は圧巻。
助演陣一人一人が深みを与えてくれるいい仕事。白虎を演じた田中泯の美しい化け物っぷり、クライマックスに登場したカメラマン女性。彼女に喜久雄がかけられた言葉に涙した。
長尺だが、映画館で世間を忘れて没頭して観るべき作品。きっと贅沢な時間となるだろう。こんな邦画が観たかった。
「日本一の歌舞伎役者になりたいって悪魔にお願いしたんや。契約成立や」
って台詞。ブルースを極めるために悪魔と契約したと言われたロバート・ジョンソンの名曲クロスロードが頭をよぎったのは私だけでしょか。
結論。すっげえもんを観せてもらいました。ヘビーな人生のドラマとともに、歌舞伎をスクリーンを通してここまで堪能させてくれる作品は他にない。大掛かりな娯楽作が巷で溢れる中、「映画は芸術だ」と再認識させてくれる希有な作品だ。音楽とバレエを堪能させてくれた「愛と哀しみのボレロ」のように。こんな邦画が観たかった。
近頃の邦画と同様に重たいテーマをや人物設定を含む作品だ。任侠の家に生まれた少年喜久雄が歌舞伎の名家に引き取られ、同い年の御曹司俊介と芸を磨く。名跡を継ぐのは血筋が重要視される世界。だが師匠が自分の名を継ぐ後継者に選んだのは、血筋ではなかった。そこから2人の運命が大きく狂い始める。
吉沢亮演じる喜久雄が世襲ありきの歌舞伎の世界で戦っていくには芸しか頼るものがない。倒れた師匠の代役で舞台に上がる場面のやりとりは象徴的だ。緊張で震えが止まらない喜久雄に、俊介が「芸があるじゃないか」と言うが、喜久雄は「俊ちゃんを守ってくれる血が欲しい」と言う。その「曽根崎心中」の舞台が2人にとって運命のわかれ道になる。
それでも血の力は大きいのが現実だ。「ゴッドファーザー」を観る度に、抗えない血の力を僕らは思い知る。そんな血の力で俊介が再び歌舞伎界での立場を取り戻し、名跡を継いだものの冴えない仕事しかない喜久雄を助けることになる。この物語が面白いのは、2人が次第にかけがえのない存在になっていく過程だ。喜久雄にとって俊介は結婚まで考えた幼馴染の女性を結果として奪った存在。俊介にとって喜久雄は父の名跡を奪った存在。お互い思いは複雑だ。殴り合う場面すら出てくる。しかしお互いの芸を高めるために相手の存在が大切だと気づいていく様子が、映画中盤にジワーッと沁みてくる。
このあたり、「昭和元禄落語心中」の与太郎と菊比古、みよ吉の三角関係とストーリーが大きく重なる。名跡継承や、与太郎復活の為に菊比古が二人会を催すエピソード、そして物語の終わりに名人と称されるまでの物語。いずれにしても、芸事の世界の厳しさは共通ということだろう。
「国宝」最大の魅力は歌舞伎の舞台シーン。いくつもの演目がスクリーンで楽しめて、しかも舞台では見られない表情のアップや衣装早変わりの裏側、役者の視線や手先の繊細な動きまでカメラは克明に捉えてくれる。贅沢な映像だと心底思える映画ってなかなかない。歌舞伎好きには数々の演目を楽しめるだろうし、主演の2人目当てでもが彼らが懸命に取り組んだ舞台は見応え十分。
そしてストーリーを追う映画好きには、演目と彼らの生き様が重なって見える瞬間がたまらない。「曽根崎心中」で徳兵衛がお初に向ける刃物と、喜久雄が父の仇討ちに握っていた長ドス。お初の足先に頬を当てる場面では、俊介の病んだ足先が痛々しくて切なくなる。老いた白虎が喜久雄に手招きしたのは、芸のさらなる高みへの誘い。白虎の名を受け継いだラストで舞う「鷺娘」は圧巻。
助演陣一人一人が深みを与えてくれるいい仕事。白虎を演じた田中泯の美しい化け物っぷり、クライマックスに登場したカメラマン女性。彼女に喜久雄がかけられた言葉に涙した。
長尺だが、映画館で世間を忘れて没頭して観るべき作品。きっと贅沢な時間となるだろう。こんな邦画が観たかった。
「日本一の歌舞伎役者になりたいって悪魔にお願いしたんや。契約成立や」
って台詞。ブルースを極めるために悪魔と契約したと言われたロバート・ジョンソンの名曲クロスロードが頭をよぎったのは私だけでしょか。
この映画、観ましたよ〜。
詳しい説明が欲しくて、観劇後、パンフを買いに行ったのですが、売り切れとのこと・・。
そう言えばお客はやたらに女性が多かった・・。
人気俳優の作品と気づかずに行ったので、驚きました。
素晴らしい作品でしたね。
パンフは買えなかったけど、こちらで詳しい説明を読めて助かりました。
また良い映画を観たいものですね。
ご訪問有難うございました。
ご覧になりましたか。見ごたえありましたね。映画館で観るべき映画です。
公式ホームページがけっこう詳しくて、演目の紹介もしてくれてます。うちのレビューでお役に立てたなら何よりです。
ブログのどうされますか?
閉鎖しようかなーとも思いましたが、一部ブログでやりたいこともまだあるので、作業始めました。引っ越し先は改めて記事を出します。