Some Like It Hot

お熱いのがお好きな映画ファンtakのつぶやき。
キネマ旬報社主催映画検定2級合格。

飛ぶ夢をしばらく見ない

2023-04-21 | 読書


細川俊之と石田えり主演で製作された映画を観たのは20代の頃。石田えり目当てで観たくせに、少女を見送るラストの悲しさが忘れられなくて。今の年齢でもう一度観たい映画の一つ。でも今の目線だと児童ポルノだと騒がれそうな場面もあるからテレビ放送は難しいし、映像ソフトは高額になっている。

そこで原作に挑んでみた。山田太一作品というとドラマばかりが思い浮かぶ世代だけに、本で読むのはこれが初めてかも。

虚しい日々を送っていた50歳手前の主人公田浦が、会うたびに若返っていく女性睦子と出会う、大人のファンタジー。映画では口数の少ない男でしかなかった主人公。小説で読むと、彼がどれだけ生きることに投げやりになっていたのかがすごく伝わってくる。彼の年齢よりも上になってしまった今の自分だからだろう。

睦子に心惹かれて、幾度かの濃密な逢瀬にのめり込んでいく様子は、映画だとアダルトなお伽話に見えたのが、ものすごく切なく感じる。「歳とって女にのぼせると狂うぞ」とむかし身近なある人が言っていた。その頃はふーんと受け流していた。だが、大人になって谷崎潤一郎作品あたりに触れると頭のどこかでまた声がするのだ。「わかっただろ。狂うぞ」と。「飛ぶ夢をしばらく見ない」の主人公の不思議な体験は、ファンタジックではあるものの、女性に溺れていく過程が生々しくて、彼女以外何も見えなくなる主人公の心情が刺さってくる。逢瀬の場面はほぼ会話劇。ドラマを見ているような錯覚に陥いる。こんなに刺さるのは、この年齢で読んだせいかもしれない。

睦子が若返るのは一方で死に近づいていくことでもある。その怖さと焦りが映画よりも強く感じられる。それだけに主人公に向けられる台詞の一つ一つが重くて激しい。映画ではこんなこと言ってたっけ?。きっと脚本で引用されなかった場面なんだろう。辛い心情と別れを少女が口にするラストがたまらなく悲しい。映像ソフトで映画を振り返られないのが残念だけど、細川俊之が少女の背中を見送ってへたり込むラストシーンが、鮮明によみがえってきた。





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首のたるみが気になるの

2020-09-02 | 読書






監督作「めぐり逢えたら」、脚本を手がけた「恋人たちの予感」などで知られるノーラ・エフロンのエッセイ集。邦訳が阿川佐和子というのがまた魅力で、ただでさえユーモア満載の文章が佐和子節でさらに軽妙になる。

バッグの中の整理が嫌い、容姿を保つための努力はどこまで頑張るか、住まいへのこだわり、大好きな料理、過去の恋愛や夫たちへの苦言、エトセトラ。女性読者は共感してウンウンうなづくところだろうし、男性読者は男への視線の厳しさにヒヤヒヤしながらもニヤニヤできる楽しさ。ケネディ大統領時代のホワイトハウスで研修生として働いていたのに、彼は私に手を出さなかった…には爆笑。

できるなら代表作はおさえた上で読んで欲しい。特に料理好きな二人のヒロインの物語「ジュリー&ジュリア」を観ておくと、料理のエピソードが楽しくなること必至。


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木根さんの1人でキネマ

2019-08-11 | 読書


何気なく手にしてしまったのだけど…面白い!
ひとり映画が趣味の独身OLの主人公の日々。いやいや、これがフリーク級映画ファン、いやそれ程でなくても、あるある満載でたまらん。

映画好きになるきっかけが語られる第2話、
映画館で観る理由に触れる熱き第3話、
「スターウォーズ」の観る順論争の第4話、
ゾンビ映画の真面目な分析に爆笑の第5話。

ヒロインの行動を「バカだねー」と笑いつつも、ページをめくると「オレも経験ある…」と心の片隅で冷や汗がにじむ。

そして"ひとり映画館派"を気取る人々の琴線に触れる第6話。

実際、僕のネット見知りの映画友達も代替わりしている。みんな他にいろいろあるんだと思うのね。好きで観てはいるけど、マメに感想あげられないとか。実際、僕だって昔ほどたくさん観てる訳じゃない。リアルの映画友達もたくさんいるけど、最近その一人が「一人で浸りたいんだよね」と言い出して、交流が途切れ途切れになってきてる。それがあったせいなのか、好きなことを語り合える相手の大切さが描かれる第6話はジーンとくる。泣くかと思った💧

木根さんの1人でキネマ 1 (ジェッツコミックス)
アサイ
白泉社
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騎士団長殺し

2018-07-18 | 読書


遅ればせながら感想を。
世間では村上春樹ワールドの集大成だの、最高傑作だの言う感想もあれば、
なんで同じ話を書き続けるのか、盛り上がらなくて残念、と賛否両論。
正直なところ、
いつもなら村上作品なら一気に読んじゃう僕でさえ途中でやや萎えて時間がかかった。
それは過去の村上春樹作品と通ずる"既視感"。

多くの人が感じている通り、過去の作品の焼き直し?と思える描写が随所にある。
「ねじまき鳥」みたいに主人公は突然妻が去られてしまい、
「海辺のカフカ」みたいに喧騒から離れた場所に一人で住み、
異世界に通ずる道みたいなものがあり、得体の知れない存在が出てきて、
「トニー滝谷」のようにクローゼットには過去の女性の衣類が詰まっていて、
会話はまたもオウム返し。

もちろん文学の表現として傑出したことを含めて、
旧作をイメージさせる部分を肯定的に捉えるなら集大成になるだろうし、
否定的には捉えるなら同じ話になる。
どちらかと言うと読み始めた頃は僕も後者に近かった。
また身綺麗に一人で暮らす、女に不自由しない男か・・・と
嫉妬にも似た(笑)気持ちにすぐになってしまった。
さらに「夜一人で読んでると怖いのよ」という友達のひと言も影響あったかもww

読み進める中で、これまでの村上春樹作品と決定的に違うことに気づいた。
会話と会話の行間が長いのだ。
気の利いた台詞が多い村上作品だから、
僕は台詞の行は味わうように、間はサラッと読み進めていたように思う。
ところが「騎士団長殺し」はそれを許してくれなかった。
画家である主人公が目で見たものを克明に描写するからだ。
これまでの村上作品なら、「〜のように」と読者のイメージを導いてくれる比喩が多かったが、
「騎士団長殺し」では人物の髪型から服装まで丁寧に描写するので、
読者がどうイメージするかに委ねられているのだ。
気の利いた台詞でテンポよく読者をのせてリードしてくれていたのが、
読み手にイメージさせることで小説が描く世界の深みに誘ってくれているようだ。

もう一つ、大きな変化がある。
村上春樹の作品に共通するのは"喪失感"だと思う。
例えば短編集「女のいない男たち」や「ノルウェイの森」に代表される
男女の片方が欠けている寂しさや、満たされない気持ち。
これまで欠けている存在として「妻」はあっても「子供」は出てこなかった。
短編集「東京奇譚集」に収められた「ハナレイベイ」でサーファーの息子を失う母親が出てくるくらいかな。
「騎士団長殺し」では、自分の子供かもしれない少女に執着する免色氏
(ちょっと「華麗なるギャツビー」を思わせるキャラ)が登場するとともに、
主人公は出て行った妻が他の男との間に子供ができたことで心が乱されている。
救いのない結末になるかと思って読み進めると、これはこれで一応のハッピーエンド(?)にたどり着く。

神出鬼没な騎士団長と、絵画教室の生徒である人妻のキャラが好き。
よくわからない部分や非現実的な部分が解明されないまま終わるけれど、
それはこれまでの作品にもあったことだし。

騎士団長殺し :第1部 顕れるイデア編 騎士団長殺し :第2部 遷ろうメタファー編

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衛宮さんちの今日のごはん

2018-07-01 | 読書

Fateシリーズは、長男ルークに勧められてアニメの「Zero」「stay night」「unlimited blade works」を見た。元世界史担当としては、授業ネタにしたくなる魅力的なサーヴァントたちを毎回ワクワクしながら見たし、魔術を身につけた若者たちの成長物語もいい。数々のスピンオフや外伝、バリエーションにどっぷり浸るほどではないけれど。

しかし、このコミックには手を出さずにおられんかった。カドカワの商魂が生んだ二次創作だなどと批判する向きはあろうが、「長門有希ちゃんの消失」と同じくこれはこれで独自の世界観がいい。料理好きの衛宮士郎を中心にしたほんわかしたスピンオフ作品。Fate本編の血なまぐさくて、おどろおどろしい聖杯戦争の緊張感を逆手に取った温かさにホッとする。

食でつながるほんわかした日常って、幸せなことなのだなぁ…という気持ちにさせてくれる。第2話のサーモンのホイル焼きは作っちゃったから、次は何に挑もうかな。


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ウルトラ怪獣擬人化計画

2017-12-12 | 読書


えー、恥ずかしながら
コミック「ウルトラ怪獣擬人化計画」に今さらどハマり。

ウルトラマンとの戦いに敗れた怪獣たちが、
"怪獣墓場"に送られる。
彼らはそこで女子高生の姿になって蘇り、
ゆるーいスクールライフを送っている。
主人公メフィラス星人は、悪質宇宙人という呼び名と、
唯一ウルトラマンに負けて去っていないことから、
クラスメートから特別視される存在になっていた。
テンペラー星人やレッドキング、メトロン星人など、
次第に仲間を増やしたメフィラスは
再び地球侵略に挑もうとする…
アイドルグループを隠れ蓑にして♡

…てなお話(秋田書店版の方ね)。

随所に散りばめられたオリジナルへのオマージュが、
おじさん世代にはたまらん、たまらん。
エレキングちゃんが
「アイスラッガーで斬られるのって、快感♡」とか
ジャミラちゃんが相変わらず水が苦手だったりとか。

いや、これいいっす。




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キネマ探偵カレイドミステリー

2017-10-04 | 読書


引きこもりの映画フリーク大学生と、
彼の社会復帰を教授に頼まれた単位取得危機の主人公。
二人が映画にちなんだ事件に巻き込まれ、引きこもり探偵がその謎を解く、
電撃小説大賞受賞作たるライトノベル。

ストーリーになーんとなく映画の断片が散りばめられるだけの
お気軽ライトノベルだろうとタカをくくっていたのだが、
なかなかハイレベルな映画の知識と愛がなければ書けないお話やん。

クラシックが引用されないのが残念なところではあるが、
「BTTF」や「ニューシネマパラダイス」など、
ラノベ世代にも通じる名作たちが引用される。
特に「セブン」を思わせる連続猟奇殺人に巻き込まれる第4話は、
映画ポスター好きなら文章だけで「あー、わかるわかる!」と共感すること必至。
映画の知識が深くなくても楽しめるお話だけど、
わかる奴にはもっとわかる、という楽しさがある。

続編をちょっとだけ期待しておこう。




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アイネクライネナハトムジーク

2015-05-06 | 読書


職場の斉藤和義信者女子が貸してくれてた、
伊坂幸太郎「アイネクライネナハトムジーク」読了。

伊坂幸太郎が歌詞の代わりに斉藤和義に提供した短編が、
名曲ベリーベリーストロングとなるのだが、
僕はこの曲を聴く度になーんか胸が熱くなるのだ。

斉藤和義 - ベリーベリーストロング~アイネクライネ


その短編の世界から発展した
"絆の話"たちがこの短編集に収められている。

トラブルの仲裁に入る不思議な言葉、
100円で一曲聴かせてくれる斉藤さんのエピソードが面白い。

世代を超えた因果の物語は伊坂文学の得意とするところだが、
それを読んでいて心地よいのは、
僕が近頃人恋しくなってるからだろか。

アイネクライネナハトムジークアイネクライネナハトムジーク
伊坂 幸太郎

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オーケンの散歩マン旅マン

2015-04-26 | 読書

大槻ケンちゃんのエッセイ集「散歩マン旅マン」読了。

バンド活動の理想と現実、
不思議な女友達タロー子との交友録、
映画や格闘技やUFOへの偏愛。

ブースカのぬいぐるみのエピソードにバカ笑いし、
ガン闘病中の友人とのエピソードに涙する。

「気づかう、というのは生きていく上で、すべての人にとっそれは重要なことなのだとオレは確信した。」
その一文に僕も大きくうなづいたよ、ケンちゃん。




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行きそで行かないところへ行こう

2014-11-22 | 読書
■「行きそで行かないところへ行こう」/大槻ケンヂ



大槻ケンちゃんとは同世代だけに、
彼の文章に引用される様々なネタにはいつも「そうーだよなぁ、ウンウン」とうなづいてしまう。
今回はタイトル通りに、行きそうで行かないところへ出かけていって思ったことを綴る企画。

尾道で大林映画の面影を追い、
日光江戸村で苦手を克服、
浅草ロック座で女性賛美、
カレー屋「Q」で感慨に浸る。

でも単なるお出かけルポではない。
惚れた女の子を勇気づける曲を書こう温泉宿に行って、現実から逃げてる自分に気づくエピソードは、
ケンちゃんの交友録として楽しいし、気弱だけど人に優しい彼の人柄が伝わってくる。
失踪したマネージャーと再会するエピソードには慈悲の心すら感ずる。
ストリップを見ながら女性の素晴らしさに涙する。
そんな彼の人柄こそが魅力。


"ストリップの退屈さはピンク・フロイドに似ている"には大笑い。
「Q」のゴールドカレー玉子入り、ちょっと食べてみたいよなぁ、というよりそのおじいちゃんの「・・・ですね」が聞いてみたい。
 


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