Some Like It Hot

お熱いのがお好きな映画ファンtakのつぶやき。
キネマ旬報社主催映画検定2級合格。

渚にて

2019-06-30 | 映画(な行)
◾️「渚にて/On The Beach」(1959年・アメリカ)
 
監督=スタンリー・クレイマー
主演=グレゴリー・ペック エヴァ・ガードナー フレッド・アステア アンソニー・パーキンス
 
社会派映画監督であるスタンリー・クレイマー作品には、これまで何度も心をを揺さぶられてきた。人種差別を扱った「招かれざる客」「手錠のままの脱獄」、人を裁くことの難しさを思い知った「ニュールンベルグ裁判」、進化論をめぐる裁判劇で劇場未公開の「聖書への反逆」(現在のタイトルは「風の遺産」)。核戦争を扱った「渚にて」は未見だったのだが、今回初めて鑑賞。
 
核戦争後のオーストラリア。世界は核汚染が広がり、オーストラリアにもその危機が迫ろうとしていた。それまでの普通の生活が送られているように見えるけれど、人類が地球上からいなくなる日は確実に近づいている。アメリカ海軍の潜水艦艦長ドワイトはパーティでモイラと出会う。妻子を戦争で失ったドワイトと寂しさを抱えていたモイラは、葛藤がありながらも次第に惹かれ合う。その悲恋を物語の軸にしながら、終末に向買う人々の心情が語られる。幼い子供を抱えた若い軍人を演じたアンソニー・パーキンスも、学者を演じた踊らないフレッド・アステアも名演。
 
60年前に製作されたこの映画が静かに訴える核への警鐘。今の視点で観ても同じことが起こらないとは到底言い切れない。残された400樽の酒と向き合って、生きていることを確認するかのように自動車レースに興じる人々。誰もいないサンフランシスコの風景にゾッとした僕らは、映画のラスト無人の街に背筋が凍る。広場で祈りを捧げていた集会会場に残された横断幕。「兄弟よ、まだ時間はある」のひと言は、切なくて恐ろしくて。製作当時から時は流れて、冷戦の終結も経た現在。それでも核爆弾は廃棄どころか作られ続けている。60年経っても人類は何も変わっちゃいないのだ。それが何よりも恐ろしい。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

マイ・ブックショップ

2019-06-26 | 映画(ま行)
◾️「マイ・ブックショップ/The Bookshop」(2017年・イギリス=スペイン=ドイツ)
 
監督=イザベル・コイシェ
 
主演=エミリー・モーティマー ビル・ナイ パトリシア・クラークソン ハンター・トレイメン
 
夫の死後、彼との夢だった書店を開くことをフローレンスは決意する。時は1959年。彼女は、イギリスの田舎町にあるオールドハウスと呼ばれる中古物件を購入し、準備を進めていた。ところが、地元の実力者ガマート夫人はオールドハウスを拠点に文化センターを作る構想を持っていた。その町に書店は長い間なかったので多くの人が訪れるが、ガマート夫人の嫌がらせは執拗に続く。味方は店を手伝ってくれる少女と、屋敷に何十年もこもって読書に没頭する老人ブランデッシュだけ。推薦本を送ってほしいというオーダーをきっかけに、彼女はブランデッシュと親交を深めていく。
 
エンドクレジットが流れる中で、こんなに悔しくて涙があふれそうになった映画はない。実現のためなら法も動かし、人も抱き込むガマート夫人のやり口に追い詰められていくフローレンス。映画の最後に救いはあるのだが、その直前に黙って町を去るフローレンスの姿で胸いっぱいになったばかりなので、その救いに胸をなでおろす余裕がなかった。「世の中には滅ぼす者と滅ぼされる者がいる」とナレーションが劇中流れるけれど、現実ってヤツはほんとに厳しい。イザベル・コイシェ監督作の代表作「死ぬまでにしたい10のこと」でも、主人公が向き合う過酷な現実の中に小さな幸せが灯るラストに涙を誘われた。ずっとフローレンスを"彼女"と呼んでいたナレーションの謎解き。とても素敵なラストシーン。なのにただ悔しくて。それだけ僕はこの物語に引き込まれていたということだろう。
 
本屋に行くのが好きだ。表紙を眺めるだけでも、知的好奇心を高めてくれたり、今の自分を戒めてくれたり。センスのいい気の利いた異性と本屋でデートできたら最高だ、と昔から思ってきた。本との出会いは人と人をつなぐことでもある。ブランデッシュ翁の心を開いたのもまさに本の魅力であり、それをチョィスするフローレンスの心遣いあってのもの。本屋のなかったあの町にフローレンスの書店は、活字文化の発信地となった。それだけに、センセーショナルなナボコフの「ロリータ」を店に置くことをフローレンスが迷ったのも納得できる。
 
ブランデッシュ翁に薦めたのがレイ・ブラッドベリというのがまた素敵。ブラッドベリの「華氏451」は、思想統制の下で書物が焼却される未来社会の物語。過酷な状況の中で、物語や知識が受け継がれていく人々が出てくるクライマックスには感動した。そして、トリュフォー 監督による映画化でヒロインを演じたのが、この「マイ・ブックショップ」でナレーションを担当したジュリー・クリスティーなんだもの。フローレンスのスピリットが受け継がれる「マイ・ブックショップ」のラストは、「華氏451」の継承であり偉大な作家たちへのリスペクト。



コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ニューヨーク 最高の訳あり物件

2019-06-22 | 映画(な行)
◾️「ニューヨーク最高の訳あり物件/Forget About Nick」(2017年・ドイツ)
 
監督=マルガレーテ・フォン・トロッタ
主演=イングリッド・ボルゾ・ベルダル カッチャ・リーマン ハルク・ビルギナー フレドリック・ワーグナー
 
オンライン試写会にて鑑賞。地元の映画館では上映予定にないので、貴重な機会に感謝。
 
売れっ子モデルだったジェイドは、デザイナーとしてのデビューに向けて準備していた矢先に、出資者でもある夫ニックから離婚を言い渡される。彼女が住むマンハッタンの高級マンションに、ニックの元妻マリアがやって来て部屋の半分の権利は自分にあると主張し、奇妙な同居生活が始まる。よりを戻す戻さない、部屋を売る売らないから始まってトラブルの連続。そこへマリアとニックとの間に生まれた娘が子供を連れてやってくる
 
同じ男性を愛したという共通点だけで、性格も理想も違う二人。この映画では、幸せの形があれこれ示される。愛する男性との間に子供をもつ幸せ、愛する人に支えられて仕事に励む幸せ、子供と一緒にいられることの幸せ。世間が認める成功という幸せ、お金と成功だけが幸せではないという選択。次第にお互いを理解する様子が、時にじれったく時に胸を打つ。
 
ジェイドとマリアのライフスタイルの違いを絵画や絵皿、積み上げられた詩集など小道具をうまく使っているのは面白い。コミカルな描写もあるけれど、ライトな人間ドラマとして楽しめる。ドイツ映画だからって身構えずに観て欲しい。舞台はアメリカだし脚本も一部を除いて英語。シンプルだけどオシャレなタイトルバックも素敵。映画の終わりには、離れ業のハッピーエンドとほっこりした幸せ感があなたを待っていることだろう。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

EVA エヴァ

2019-06-21 | 映画(あ行)
◾️EVA エヴァ/Eva」(2018年・フランス=ベルギー)
 
監督=ブノワ・ジャコー
主演=イザベル・ユペール ギャスパー・ウリエル ジュリア・ロイ リシャール・ベリ
 
他人の戯曲を自作だと偽って発表したベルトラン。出資者から第2作の催促がくるのを受け流しながら、のらりくらりと日々を送っていた。ある日、恋人の親が所有する別荘に、吹雪で立往生したカップルが忍び込んでくつろいでいるのに出くわす。そこで出会った娼婦エヴァに強く心を惹かれるベルトラン。彼女をモデルにして2作目を書こうと考えた彼はエヴァの元に通うが、逆に「入れあげないで」と冷たくあしらわれてしまう。エヴァとの関係を続けたいベルトランは、「友達なりたい」と持ちかけ、はぐらかしたエヴァも「旅行付き合ってもいいわ」と答えたり、押したり引いたりの二人の関係。ベルトランの婚約者カロリーヌも巻き込んで、絡み合った人間模様が描かれる。
 
エヴァが口にするひと言ひと言がベルトランの心に響き、彼はそれを戯曲の台詞にそのまま使ってしまいたいのだが、それを物語につむぎあげる術を残念ながら彼は身につけていない。自分にない魅力やスキルを身につけたエヴァに惹かれただけ。舞台の仕事のパートナーでもあるカロリーヌからも、次第に実力を見透かされそうになる。そりゃ、エヴァとも脚本遺してバスタブで死んだ老人とも重ねてきた人生のスキルが違いすぎる。ベルトランにまったく同情すること気持ちにもなれないまま、ドラマは結末へと突っ走る。ラストシーンのイザベル・ユペールの眼差しの力。ベルトランを黙らせるだけでなく、銀幕のこっち側の僕らにも、この映画が彼女あってのものだと思い知らせる。
 
ギャスパー・ウリエル君は歳上女性に惹かれる役柄のイメージが僕にはある。きっと新人の頃の「かげろう」でエマニュエル・べアールの相手役だったのを、僕が妬ましく思っていたからだろう(笑)。それにブノワ・ジャコー監督は「マリー・アントワネットに別れを告げて」で、まさに憧れの存在に翻弄される若者を描いた人だから、この題材に起用されたことも納得。変に先入観もって映画観てはいかんと思いつつも、いろいろ映画観ていると、こういう予備知識が勝手なつながりを脳内に形作ってしまう。それは時に邪魔なことだけど、この映画に関しては僕の勝手なイメージを損なうことはなかったので、それほど退屈することもなくエンドロールを迎えられた。ただリシャール・ベリが演じた出資者が、エヴァと会ってどう感じたのかが読み取れないのは残念に思うのだけれど。
 
かわいそうな役柄だったカロリーヌを演じたジュリア・ロイ。ちょっと気になる。ジャコー監督の前作では脚本も書いた女優さんらしいから、この役柄は自然にも見えたのかな。
エヴァ [DVD]
イザベル・ユペール,ギャスパー・ウリエル,リシャール・ベリ
Happinet
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

きみと、波にのれたら

2019-06-16 | 映画(か行)
◾️「きみと、波にのれたら」(2019年・日本)
 
監督=湯浅政明
声の出演=片寄涼太 川栄李奈 松本穂香 伊藤健太郎
 
湯浅政明監督のアニメは、まだ「ピンポン THE ANIMATION」と「夜は短し歩けよ乙女」の2作しか見てないけど、未見作の評判や絵の感じを見る限り、どうも相性がいいように思える。タイミングよく新作「きみと、波にのれたら」の試写会をゲットできたので行ってきた。ふーん、フジテレビ資本なのか。プロ声優は使わずに、EXILEにアコ姫、ナイス松本さんに若君か(「アシガール」好きなんで許してください)。オレみたいなおじさんが観ても大丈夫だろか。
 
その予感、的中。
 
サーフィンが上手な女子大生ひな子は、消防士の港と恋に落ちる。幸せな日々の最中、港は溺れそうな人を救助する際に命を落としてしまう。悲しみに暮れるひな子。そんな時、港との思い出の歌を歌うと、彼の姿が水の中に見える不思議な現象が起こる…。
 
挫折を乗り越えて成長するヒロインや周囲の人々の姿は、ラストには爽やかな印象を残してはくれる。でもところどころに「くどい」と思える。水の中の港がひな子に「次の波にそなえるんだ」と繰り返し言って、死んだ自分に拘らずに前を向かせようと懸命になる。意固地になってるひな子になかなか通じないのはわかるけど、スクリーンのこっち側にもその台詞の真意が伝わらない人が多いと思っているんだろか。映画前半、恋人ふたりのベタベタ、イチャイチャ、リア充ぶりがこれまたくどい。そんな幸せがあってこそ映画後半の落差が生きるのはわかるのだけど、「食事の時も手をつないでいたいから、左手で食べられるように練習したんだ」のひと言はさすがに冷めた。顎関節症のはずなのに、ポカーンと口開けている自分がいたもん。でも、かつての自分を重ねて気恥ずかしくなる僕ら世代の方もあるのではww。
 
リピートされるのがくどいのは、何よりも主題歌。港が水の中に現れるきっかけになるから仕方ないのだけれど、あれだけ繰り返されるとエンドクレジットではもうお腹いっぱい。開演前に流してた映画館もあるだろうからもう刷り込みです。湯浅政明監督らしさを感じたのは、水の表現。形が定まらない不安定さ、包み込んでくれる感じがうまく表現されている。クライマックスの超常現象場面の躍動感はアニメならではの表現で好印象。これまでの日本アニメにも、大きく水が動く時にドラマも動く秀作がたくさんある。「千と千尋の神隠し」「カリオストロの城」も「思い出のマーニー」だってそうだ。水を通して再会する二人の姿に、外国映画好きは「シェイプ・オブ・ウォーター」を重ねる方もあるだろう。
 
湯浅政明監督のマニアックな路線を期待すると肩透かしだけど、不思議な人の縁とか、成長物語としては見どころもある。脚本がいいんだろな。でもおじさんが観てると映画館ではかなり目立つかも。僕は明るくなる前にシアターを出たもんね(笑)。



コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

夜は短し歩けよ乙女

2019-06-15 | 映画(や行)
◾️「夜は短し歩けよ乙女」(2017年・日本)
 
監督=湯浅政明
声の出演=星野源 花澤香菜 神谷浩史 秋山竜次
 
楽しい飲み会にお開きの時間が迫ると、「あーもう、この楽しい時間がずっーっと続けばいいのになぁ」と思ったことはないだろうか。この「夜は短し歩けよ乙女」は、お酒の嗜みと楽しさを知った大学生"黒髪の乙女"ちゃんと彼女に恋する先輩を軸に、一夜の酒宴から深夜の古書市、学園祭、謎の風邪蔓延と春夏秋冬のエピソードが続く。大学時代という楽しき日々と、覚めないでほしい夢心地に浸る上映時間は、愉楽のモラトリアム。
 
森見登美彦の原作は読んだ。とにかくアルコールを摂取し続けるどんちゃん騒ぎが延々と綴られる前半に、だんだんと僕のイマジネーションも酩酊状態になっていき、どんな場面を想像したらよいのか混乱しながらページを読み進めた。しかしこの映画化で示された世界は、中村祐介のイラストから自由に広がっていくイメージがとても魅力的なのだ。酒場のカウンターの背後にズラっと並ぶ真っ赤なダルマ。それはアニメセルというフィルターを外すとダルマやらタヌキと呼ばれたサントリーオールドが並んでいる様子なんだろうし、10代の頃から大好きだった(コホン)赤玉ポートワインの黄色と白のラベルが並ぶ素敵な風景もなーんか嬉しい。
 
欲しかったものと出会えるかもしれない古書市にしても、学園祭実行委員との追いかけっこにしても、美少女が風邪の見舞いに来てくれることにしても、とにかく"ずっとこの楽しい時間が続けばいいのに"と思えるエピソードたち。理屈を追っていけばなんだかわからない話。だけどこの自由な映像と、粋な台詞の数々、ラストを飾るアジカンの主題歌までをあるがままに受け止めて楽しめたら、この上映時間はあなたにとって、世知辛い現実社会に戻るまでの素敵なモラトリアムとなるに違いない。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ワンダーストラック

2019-06-10 | 映画(わ行)
◾️「ワンダーストラック/Wonderstruck」(2017年・アメリカ)
 
監督=トッド・ヘインズ
主演=オークス・フェグリー ジュリアン・ムーア ミシェル・ウィリアムズ ミリセント・シモンズ
 
トッド・ヘインズ監督は時代の空気をスクリーンの中に再現する名手だ。「エデンより彼方に」にしても「キャロル」にしても、風景だけでなく道行く人に至るまで時代の様子を垣間見ることができる。「ワンダーストラック」は1927年と1977年の二つの物語が並走する構成だけに、その手腕は見事に発揮されている。27年のローズの物語はモノクロとサイレントで、77年のベンの物語は赤みがかったカラー映像に個性ある音楽が重なる。話は交互に映されるのだが、頻繁に画面は転換し、しかも同じような危機に陥ったり、自然史博物館で同じものを見ていたりと対比が面白い。そして二つの物語がどう融合するのか、ドキドキさせられる。
 
ヘインズ監督作品では、社会的な少数者に向けられた視点もよく見られる。今回は聴覚障害者が主人公。特にローズのパートはサイレント映画の演出なので、文字として示される数少ない場面があまりに雄弁。憧れの女優の映画を観て映画館を出たら、トーキーに移り変わることを伝える幕が張られる。聴覚障害があっても、好きな映画だけは他の人々と同じように楽しめていたのが、決定的なハンディを負う残酷さ。また彼女らが筆談することで示される紙に記された台詞が、観客に初めて人間関係や新事実を突きつけるから目が離せない。
 
ラストですべての謎が解き明かされる場面。ジオラマの手作り感が素敵で想像していた展開ではなかったから感動的。しかし、映画冒頭、壁にピンナップされた文章についてその後語られることはないし、デビット・ボウイのSpace Odittyももっと意味ある使われ方をしているのかと想像していた。ほっこりした気持ちで迎えるラストは心地よいけれど、ちょっと物足りなさは残るかなぁ。


コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

レオン

2019-06-05 | 映画(ら行)
◾️「レオン/Leon」(1994年・フランス=アメリカ)
 
監督=リュック・ベッソン
主演=ジャン・レノ ナタリー・ポートマン ゲイリー・オールドマン ダニー・アイエロ
 
アルフレッド・ヒッチコックの「レベッカ」にしても、ピーター・ウィアーの「刑事ジョン・ブック/目撃者」にしても、非アメリカ人監督のハリウッド進出第1作は、不思議と共通したものがある。それは"異邦人の孤独"だ。リッュク・ベッソン監督がフランスを飛び出してアメリカを舞台に撮った「レオン」もまた然り。「レオン」で登場人物たちが抱える孤独は、他に頼るべきものがない状況に象徴されている。
 
殺し屋レオンは一匹狼で、仕事や世話を焼いてくれるイタリア系アメリカ人と、部屋の観葉植物にしか心を開かない。親を殺された少女は、まさに頼るべきものがないが、周囲の同年代とはかけ離れた感性の持ち主だということも孤独の一因となっている。ニューヨークという大都市で孤立している主人公二人が次第に心を通わせていく様子は、時に温かく描かれたりもするが、その姿には常に哀愁が寄り添う。それ故に
 
レオンが彼女を守るための、ラストの選択が感動的に映る。その物語の終わりに、ベッソン監督はスティングが悲しげに歌うShape of My Heartを流した。スティングもまた、Englishman In New Yorkで異邦人の孤独を表現した人だ。Shape of My Heartで歌われるのは、答えを求めてカードを見つめる孤独な男が、そこに自分の心の形を見出せないでいる姿。それはまさにレオンだ。日々の生活の中で、自分の居場所に疑問を抱いたり、居心地の悪さを感じている僕らも、レオンに自分を見る。そして心の内で涙するのだ。
レオン 完全版 [Blu-ray]
ジャン・レノ,ナタリー・ポートマン,ゲイリー・オールドマン,ダニー・アイエロ,ピーター・アペル
パラマウント ホーム エンタテインメント ジャパン
 
マイ・ファ二ー・ヴァレンタイン ~スティング・アット・ザ・ムーヴィーズ
ユニバーサルミュージック
ユニバーサルミュージック
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする