Some Like It Hot

お熱いのがお好きな映画ファンtakのつぶやき。
キネマ旬報社主催映画検定2級合格。

7月のBGM

2014-07-31 | 音楽
2014年7月に聴いていた愛すべき音楽たち。

■The Swingin' Sixties/the brilliant green
60年代のロックサウンドを念頭に、抑えめのアレンジで旧作を焼き直したセルフカヴァーアルバム。歌とメロディが引き立つように、グルーヴ感を抑えられているだけに曲そのものの魅力がストレートに伝わってくる。初期作品が多く選ばれているのも嬉しい。ブリグリはギターのひずみ方ひとつにもこだわりがある。本作はとにかくアレンジにこだわった作品集。
THE SWINGIN’ SIXTIES

■ザ・バイブル/FLYNG KIDS
大きくなったら、胸のチャイム、君とサザンとポートレート、恋の瞬間といった人気曲を収めたアルバム。浜崎貴司は同世代だけに応援しているミュージシャン。妙に仰々しくて気恥ずかしくなる曲もあるけれど、そのダサかっこよさもまたこのバンドの魅力。ラストを飾る幸せであるようにのライヴヴァージョンがまた胸に染みる。このバンドの夏うたは、心に心地よい風を送ってくれる。
ザ・バイブル

■Earth,Wind & Fire:Greatest Hits/Earth, Wind & Fire
ブクオフで250円でゲット。時々無性に聴きたくなるんすよ、ディスコ世代としては。Boogie Wonderlandがフロアに流れた瞬間に、「まだこの曲で踊ってんのかっ!」と叫んだDJさんがいたなぁ。でも世代を超えて人々を踊らせる曲ってそんなにないよ。EW&Fが偉大なのはそれを成し遂げていること。
Greatest Hits

■Greatest/Duran Duran
同じくDuran Duranもベスト盤を引っ張り出して聴いていた7月。収録曲はどれもヒットシングル。息が長いバンドって素敵だ。ジョン・テイラーの自己主張あるベースが今聴くとかっちょいいね。ついでにカジャグーグーのニック・ベッグスのベースを聴きたい衝動に駆られる。
グレイテスト

■渚・モデラート/高中正義
高中の曲でも特に好きだった渚・モデラート。昼休みにiPhoneアプリのPocket Guitarでちょっとだけメロディーを弾いてみる。キーボード弾きの心をもくすぐるソロのかっちょよさ。
サウンズ・オブ・サマー~ザ・ヴェリー・ベスト・オブ・高中正義~

Masayoshi Takanaka ~ Nagisa Moderato ~ 高中正義 - 渚・モデラート

ギターの弦切れてるんだけど・・・かっけー。

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トニー滝谷

2014-07-26 | 映画(た行)

■「トニー滝谷」(2004年・日本)

監督=市川準
主演=イッセー尾形 宮沢りえ 西島秀俊(ナレーション)

●2004年ロカルノ国際映画祭 審査員特別賞・国際批評家連盟賞・ヤング審査員賞

 原作と映画化を比較してしまうことは、映画ファンの立場としてよくあることだ。コミックでも小説でも、原作に思い入れがあればある程、やれキャスティングがイメージ違うとか、原作の改変が納得できないとか言いがち。人気作ならばなおさらのこと。村上春樹の小説も映像化するのが困難だとよく言われる(羊男が出てくる時点でコントになる危険がある為か?)。デビュー作の映画化はファンの間では酷評されているし、あの大ヒット作の映画化は、僕は残念な気持でエンドクレジットが始まると早々に帰り支度を始めたっけ。村上春樹作品を語る上で外せないキーワードは「喪失」だ。突然何かを失った主人公が、必死で探したり、欠落した部分を埋めようと懸命になる姿が描かれる。行間に漂う何とも言い難いセンチメンタルな雰囲気は、読者の心に静かに訴えかけてくる。あのおセンチなムードに浸りたくなって読み返すことだってある。

 市川準監督が撮ったこの「トニー滝谷」を今回初めて観た。ちょっと短い75分の上映時間はまさしく村上春樹小説のムードだった。付け加えられた、すれ違いのラストシーン(蛇足だと言う人も多いようだけど)を除いて、ストーリーはほぼ小説のままである。しかし、この映画が原作好きの僕の気持ちを裏切らなかった理由はそれだけではない。村上作品の「喪失」感が見事に映像になっているからなのだ。

部屋いっぱいにあった亡き妻の洋服。それを前にして女性が泣き出してしまう場面は、強い印象を残してくれる。主人公が妻を失った空虚な気持ちを受け止めきれなくて、妻と同じような体型の女性をアシスタントに雇おうとする場面。妻がいなくなったことを受け止めるために遺した服を着て欲しいと言うが、それは主人公が失ったものを埋めようとしている行動に他ならない。そしてその服を処分した後の空っぽの部屋。父が形見で遺した古いレコードと、それを処分した後の空っぽの部屋。印象的な短い場面の多用、ナレーションを突然キャストがしゃべる唐突な演出、大事な宝物のように扱われる短い台詞たち、ナレーションに俳優を据えたことにも言葉を大切にしている気持ちが伝わってくる。CM出身の市川監督だからこその演出だと思えた。「気持ちよさそうに服を着こなしている人って、初めてだよ。」とポツリとつぶやく場面、そこからしばらく続く宮沢りえの美しい横顔と笑顔を主人公と一緒に僕らは見つめる。彼女を失ってから淡い色彩が多くなる後半。何度もこの雰囲気に浸りたい人はいるだろうな、と思った。それは村上春樹のこの短編小説を繰り返し読んでしまうみたいに。



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今日の映画台詞・「私の頭の中の消しゴム」(2004)

2014-07-22 | 今日の映画台詞
今日の映画台詞◆

「材木の木目を見て材料のせいにするのが悪い大工。節だらけの材木でもそれを活かすのがいい大工。お前は節だらけだが。」

「私の頭の中の消しゴム」(2004)◆

主役二人の台詞にもグッとくるものがたくさんあるけれど、義父が”いい大工”について語る場面のこの台詞も忘れがたい。 記憶をなくしていくことで、愛する気持ちも消えてしまうのか・・・その現実に懸命に立ち向かおうとするヒロイン(麗しのソン・イェジン)が書いた手紙。それを読んで号泣するチョン・ウソンの姿。もう力業で泣かされちゃう映画だ。

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ハナ 奇跡の46日間

2014-07-21 | 映画(は行)

■「ハナ 奇跡の46日間/Korea」(2012年・韓国)

監督=ムン・ヒョンソン
主演=ハ・ジウォン ペ・ドゥナ ハン・イェリ チェ・ユニョン

 1991年に開催された卓球の世界選手権に、韓国と北朝鮮が統一チームで出場したという事実に基づく人間ドラマ。最初は仲違いを繰り返していた両国の代表選手たち。だが、次第に互いを認め合い、真にひとつのチームになって中国代表に挑む姿を感動的に描かれている。この統一チームはその後再び組織されることはなく、友情で結ばれた選手たちは93年の試合以降、再会を果たせていない、という現実がエンドクレジット前に示される。しかしこの映画を観た後で、胸に残るのは民族分断の悲しみよりも、人は理解し合うことができるのだ、という爽やかな感動。この映画が訴えるメッセージも国境を超えるものであって欲しい。

 突然組織されることとなった統一チームに南北の選手たちがとまどう姿が描かれる。隊列を組んで行動するような北の選手たちに対して、自由奔放な言動の南の選手たち。北の選手たちは外部との関わりを厳しく禁じられている。両国の違いを対比させて描写している前半は、人と人を隔てる壁を取り払おうとする努力が描かれる。統一チームを成功させたい政治的な事情もあり、両国の監督やコーチは選手たちを近づけようと努力する。二人三脚めいたことをやったり、バスや食事の席をシャッフルしたりして選手同士の結束を固めようとする姿はおかしくもあり涙ぐましくもある。そして選手たちは次第にお互いを認め合うようになり、こっそり酒を酌み交わしたり、淡い恋心も芽生え始める。ところが、それを再び隔ててしまうのも政治的な事情。韓国選手が渡した品物が問題視されたり、韓国選手の友人であるフランスチームコーチと接触したことが、亡命への行動だと疑われてしまったり、女子選手の恋心は国境という壁につぶされてしまう。準決勝に進んだ統一チームだが、政治的な圧力で北朝鮮選手がホテルから出られなくなり、韓国選手だけで戦うことになってしまう。ここで終わらせるわけにいかない、と奮起する選手たち。それまで冴えなかった選手の大活躍で、いよいよ強敵中国との決勝へ。しかし北の選手たちはいまだに動けずにいた・・・。

 決勝戦へ向かう前、韓国選手たちが雨の中座り込みをする場面。強く意志を伝える手段としては、わかりやすい行動だし自然かなとは思うのだが、韓国時代劇で王宮殿前で座り込みする場面をよく目にするだけにどうしても重なってしまう。手に汗握る決勝戦は最大の見どころだ。代表選手の傍若無人ぶりや、審判と中国チームの不正が盛り込まれたり、中国はかなりステレオタイプの悪役。「チェオクの剣」と「恋する神父」以来僕のお気に入りハ・ジウォンは、アクションもこなせる女優さん。スポーツ選手役はまさにイメージのままで素敵だ。北朝鮮のエースを演じたペ・ドゥナは、ニコリともしない無愛想な役柄なのだが、次第に心を開いていく様子が実にうまい。統一チーム優勝から2年後の世界選手権で対戦する場面、二人の表情が何よりも印象的だ。それは選手としてお互いの人と実力を認め合った二人が、卓球台を挟んで試合と再会を楽しんでいる気持が伝わってくるからだ。演出もかなり直球でベタな映画という感想もあるだろうが、これくらいストレートに描かないと、人はお互い認めあえるというせっかくのメッセージと、小さな統一が成し遂げられたという感動が薄れてしまうのかもしれない。

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今日の映画台詞・「ダイ・ハード」(1988)

2014-07-21 | 今日の映画台詞
今日の映画台詞◆

「カウボーイ、今回はジョン・ウェインとグレース・ケリーがそろって帰る訳にはいかないのさ。」
「それを言うならゲイリー・クーパーだろ。」

「ダイ・ハード」(1988)◆

久しぶりに「ダイ・ハード」1作目を観た。公開された頃は、ハリウッド大作や活劇を避けてて、アート系好きのミニシアターかぶれ、硬派を気取ってた僕だった。だけどこれだけは別格、好きな映画。高所恐怖症の僕、今回も手のひらぐっしょり・・・、初めて観た時は映画館の椅子にへばりついたっけ。

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海辺のカフカ

2014-07-20 | Weblog
チケットが高額なだけに、日頃演劇を観ることはなかなかない。しかし、村上春樹の「海辺のカフカ」を蜷川幸雄が演出、宮沢りえと藤木直人が出演、しかも地元の大劇場での公演・・・ときたら、もう行くしかないでしょ。生で有名人が出演する舞台を観るのは初めて。改めて原作を読み直してストーリーの記憶を呼び戻して、いざ当日。



はぁー。
いい脚本(ほん)といい役者といい演出。僕にとっては至福の時間だった。

ハードカバー上下巻の原作の中で、主人公田村カフカくんの成長物語的な部分を切り取った脚本。舞台での表現が困難な部分(例えばクライマックスに登場する軟体動物系のクリーチャー)を排除して、ストーリー上反復になりそうな部分(高知県の山小屋に行くエピソード)を簡略化することになったが、その分だけ原作の核心部分を味わうことができている。その一方でジョニー・ウォーカーの猫殺しの場面は原作に忠実でショッキングな描写、演出が冴えまくって、ナカタさんだけでなく、観客も精神的に追い詰められるかのようだ。

原作で僕が感じていた主人公田村カフカくんのイメージは、年齢のわりに強きで自信たっぷりな男の子。漱石や哲学を語り倒したり、佐伯さんに大人びた言葉で会話できたり、どうトレーニングすれば筋肉は鍛えられるのかを熟知していたり、とても世間一般の15歳の少年とは思えない。困っている状況をそれでもなんとかしちゃう強さがあった。だって「世界でいちばんタフな15歳」だもの。しかし、舞台のカフカ少年は、極度の人間嫌いと感じられる、自信のなさそうな少年に思える。図書館で大島さんと本について語るところでも饒舌に持論を語ることもなく、思い悩んでいる場面ばかりが印象に残る。ただ、成長物語として「海辺のカフカ」を見たならば、不思議な経験をして次第に"タフな15歳になっていく"舞台のカフカ少年はふさわしいのかもしれない。新人の古畑新之は、時に感情を無理に抑えたようなカフカ少年の長い台詞もこなし、大健闘だと思う。

それにしても目を引くのはセット。黒子が押して次々と舞台に現れるのは、台車が取り付けられたショウケースのようなセット。図書館、佐伯さんの執務室、ジョニー・ウォーカーの書斎、サービスエリア、神社の境内、森の中、ラブホテルが次々に現れ、その間を役者たちが別世界に迷い込んだように現れる。15歳の佐伯さんを演ずる宮沢りえは、まさにショウケースの中に入って現れて強い印象を残す。その台車セットが交差する演出は、観客席の僕らも異世界に連れ込まれたような気持にさせてくれる。ラストで佐伯さんとの別れの場面。セットに乗った宮沢りえが視界から遠ざかっていく演出は素晴らしかった。実はいちばん大変だったのは、セットを移動させる黒子さんたちだったのではないだろうか。きっと舞台稽古でも蜷川氏からも厳しい指示が飛んでいたのに違いない。

有名人が演ずる舞台を観たのは実は初めて。映画ファンである僕は、銀幕という二次元(笑)に恋し続けているだけに、リアルで観る役者さんたちの迫力に圧倒された。宮沢りえはアイドル時代から好きだけど、今回演じた佐伯さんは50歳という設定。終始見せる堅い表情と、細身のスーツ姿、落ち着いているけれど強い舞台調のしゃべり。それだけにカーテンコールで見せた笑顔がたまらなく素敵だった。藤木直人は中性的な役柄で、首までボタンをとめたシャツに細身のパンツ。普段の僕ならきっと思わないのだが、それが妙にかっこよく見える。こういう役者を生で観られることに感激。また舞台を観たい、という気持ちにさせてくれた時間でした。

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今日の映画台詞・「コクリコ坂から」(2011)

2014-07-04 | 今日の映画台詞
今日の映画台詞◆

「僕は毎朝君の旗を見ていた」

「コクリコ坂から」(2011)◆

技術で作り込まれた実写もいいかもしれないが、「コクリコ坂から」が狙ったのはノスタルジーという名のファンタジー。若い子にとっては、今どきこんな恋はしないと思っちゃうだろう。でも、「コクリコ坂から」は現代とは違う時代に連れて行ってくれて、こんな恋もアリかもしれないと思わせてくれる。これも立派なファンタジーなんではないだろか。




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今日の映画台詞・「風が強く吹いている」(2009)

2014-07-03 | 今日の映画台詞
今日の映画台詞◆

「マンガと同じように走ること好きになればいいじゃないですか。」

「風が強く吹いている」(2009)◆

三浦しをんは日本映画界を元気にしてくれる作家だ、と最近思う。日頃、駅伝のテレビ中継なんぞ観ない僕が、こんなに真剣に人が走る映像を、見続けるなんて奇跡。それは走ってるそれぞれがどんな思いを抱いて地面を蹴っているかを理解したからだ。愛すべき秀作。

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『風が強く吹いている』特報


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今日の映画台詞・「運命の女」(2002)

2014-07-02 | 今日の映画台詞
今日の映画台詞◆

「私にはあなただけよ。目が覚めると頭の中にはあなたのことしかない。目が覚める前から。」

「運命の女」(2002)◆

エイドリアン・ライン監督らしい!と久々に思える、センセーショナルでスリリングな映画だった。恋におちるドキドキと、バレるかもしれないドキドキ。ダイアン・レインがオリビエ・マルティネスに身を任せる前の、ためらいと官能の入り乱れた表情は忘れられない。ここまで相手に思われるってすごい。夢中にさせちゃった彼がいけない?夢中になっちゃった彼女がいけない?

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Unfaithful - Movie Trailer


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重力ピエロ

2014-07-01 | 映画(さ行)

■「重力ピエロ」(2009年・日本)

監督=森淳一
主演=加瀬亮 岡田将生 小日向文世 鈴木京香 渡部篤郎

 伊坂幸太郎の映画化はなかなか難しいのだろうか。僕も多くを観ている訳ではないし、多くを読んでいる訳ではないのだが、小説の評価は高いのに映像化してしまった途端に「なんか違う」と言われるのをよく聞く。しかし、それは小説として人気作故だ。特に伊坂作品は、読んでいて脳内でイメージがものすごく膨らんでくる。「重力ピエロ」は僕も読んだが、冒頭の「春が降ってきた。」から、放火現場近くに残された壁のグラフィティアート、亡き母親と父親の出会う雪道まで、僕らは妄想に近いイメージを膨らませる。伊坂幸太郎の文章は、簡潔な言葉で妄想をかき立ててくれる。「オーデュポンの祈り」では舞台となった場所を僕らは頭の中で形作ったし、「ゴールデンスランバー」ではビートルズのあの曲を口ずさむ主人公たちを思い浮かべた。しかし、文章はじっくりそれを味わう余裕を与えず、テンポよく物語は綴られていく。読み進めることは、活字の上を転げ回るような快感。これはエンターテイメントだ。

 人気作の映画作品は難しい。映像化された作品が読者が抱いた妄想通りである期待と、それを超える期待がある。しかも過剰に。しかも「重力ピエロ」は母親の死という出来事を背景にした、父と息子二人の物語。出生の秘密と連続放火事件が絡んでいく展開は引きつけられるのだけれど、小説とは印象が大きく異なる。もちろん解釈の違いもあるだろうし、原作通りの映画脚本なんて面白くないという方もあるだろう。でも映画と原作が最も異なるのはテンポだ。現場に残されたメッセージからひとつひとつ謎が解けていく展開には、次のページをめくる原動力になった。だが、映画はミステリーじみた矢継ぎ早の展開よりも登場人物を丁寧に描写することを選んだ。時に凶暴性を発揮する岡田将生はイメージに近いとしても、主人公の大学院生は加瀬亮が演じたことで一層頼りなさそうな印象に。原作を読んでいたときに、僕らがイメージした「オレたちは最強の家族だ」という台詞は、きっと小日向文世の裏返ったような声ではなかっただろう。抱くイメージは人それぞれだが、このキャスティングはおそらく多くの読者の期待とは違うものだったのではなかろうか。"夏子"さんだってもっとブスをイメージしてたし、映画の葛城は原作をデフォルメしたような極悪人だ。登場人物たちが謎と秘密を前に彼らが葛藤する姿は、原作で僕らをノセてくれたあの感覚とは違う。映像化され、不幸な出来事が明確に描かれることで、悲劇感が増幅しているのも理由のひとつだろう。

 だが、このキャストだったがためにじんわり心に響いたことがある。それは一緒に生きる"家族"に焦点がシフトしたことだ。「オレに似て嘘が下手だ」という小日向文世がにっこりとして言うひとこと、そして改めて言う「オレたちは最強の家族だ」が、原作よりもずっと心に残る。最初はヅラ被って年齢を演じわけるのがギャグのように思えて、どうもノレなかったのだが、ボディブローのようにじわじわと"この父親像もアリだよな"と納得させられてくる。そして何事もなかったかのような穏やかなラスト。遺伝という親子を結ぶ関係を超越した人間のつながりの大切さが心に残る映画だ。それは原作の読後感とはちょっと趣が違う。地味な後味な映画だが、原作よりもじっくり味わえる家族の物語としての魅力を備えているように思う。僕は映画化された「ゴールデンスランバー」はエンターテイメントとしては好きな方だ。だが一方で、"once there was a way,・・・"と歌う姿にちょっと無理を感じていた。だって歌い回し(譜割り?)が難しいあの出だしを格好良くこなす登場人物たちに、それはリアルじゃないと思えたからだ。映画化された「重力ピエロ」は血の通った暖かさと等身大で無理のない人物像を僕らの心に残してくれる。

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