Some Like It Hot

お熱いのがお好きな映画ファンtakのつぶやき。
キネマ旬報社主催映画検定2級合格。

アメリカ、アメリカ

2018-06-27 | 映画(あ行)

■「アメリカアメリカ/America America」(1964年・アメリカ)

監督=エリア・カザン
主演= スタティス・ヒアレリス フランク・ウォルフ ハリー・デイヴィス グレゴリー・ロザキス ルー・アントニオ

この「アメリカアメリカ」という映画、1964年の日本初公開からリバイバルもDVD化もない。
多くの映画関係書籍で名作として記述はあるものの、なかなか観る機会がなかった。
僕は映画雑誌の付録だった名作映画を紹介する小冊子で、そのタイトルを見たことがあるだけ。
それだけにNHK BSプレミアムが今回「アメリカアメリカ」を放送してくれたのは貴重な機会だった。

映画はエリア・カザン監督自身のナレーションで始まり、
ギリシャ移民である自分が親族から伝え聞いた出来事をベースにした物語である、と語られる。

主人公スタヴロスが暮らす20世紀初めのギリシャは、オスマントルコの圧政下にあった。
アルメニア人の友人からアメリカに渡れば自由になれると聞き、憧れを抱いていた。
父と家族は全財産をスタヴロスに託して首都アンカラに送り出す。
成功したら家族を呼び寄せると約束をして。
ところが道中で知り合った旅人に金づるにされ、財産を失ってしまう。
やっとの思いでたどり着いた伯父、港の荷運び仲間、彼を気に入った豪商とその娘。
様々な出会いを経て、アメリカ行きの客船に乗ることができたスタヴロスだが・・・。

この当時のアメリカが、移民たちにとって人生をリセットできる国だったことが、
この映画を観るとよくわかる。
どんな思いで自由の女神を見上げたのか。
しかしそこに至る道程が簡単なことではないのが、3時間近い上映時間にこれでもかと描かれる。
お人好しだったスタヴロスは、旅を続ける中で人を信用することができなくなり、
自分の野心の為なら手段を選ばない人間になっていく。
ギラギラした眼差しが何よりも心に残る。
それでも人間性を失わずにいられたのは、故郷ギリシャで彼の成功を信じている家族あってのことだ。

結果として人を利用し、愛情や信頼を寄せてくれた人々を裏切ることにもなった。
特にスタヴロスに心を許すアメリカ人富豪の夫人のエピソード、
旅で知り合った男が送還の危機に陥る彼を救うラストは涙を誘う。
人生は誰しもが自分の力だけで生きていける訳じゃない。
アメリカの地にキスをする主人公。
それはハッピーエンドのように見えるけれど、映画の後味は決して爽快なものではない。
むしろ重みを感じるものだ。
エンドクレジットでは、エリア・カザン監督がスタッフの名前を読み上げる。
みんな移民なのである。
今のアメリカがこの映画で描かれたような人々によって成り立ってきた歴史を感じさせる。
公開当時に観た批評家センセイたちが名作と推すだけのことはある。

今、厳しい移民政策を掲げるトランプ大統領がもしこの映画を観たら何を思うだろう。

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007 スペクター

2018-06-23 | 映画(た行)

■「007 スペクター/Spectre」(2015年・イギリス)

●2015年アカデミー賞 歌曲賞
●2015年ゴールデングローブ賞 歌曲賞

監督=サム・メンデス
主演=ダニエル・クレイグ クリストフ・ヴァルツ レア・セドゥ モニカ・ベルッチ

ダニエル・クレイグが演ずるジェームズ・ボンド第4作。
往年の007ファンにはお馴染み悪の結社スペクターが登場。
その首領ブロフェルドは、これまでテリー・サバラス、ドナルド・プリーゼンス、
チャールズ・グレイそしてマックス・フォン・シドーと名優が演じてきたが、
本作では曲者を演じさせたら抜群のクリストフ・ヴァルツが憎たらしい悪役をこなしている。
悪役に存在感があってこそ「007」は楽しくなる。
過去3作品の悪役はみーんなこの配下だったという展開。

でも、昔を知ってるからこそどうも煮え切らない思いが残った。
ダニエル・クレイグの007シリーズは、
ジェームズ・ボンドがいかにしてダブルオー要員となったかを描いた「カジノ・ロワイヤル」から
ボンドの生い立ちに触れた前作「スカイフォール」まで、ボンドの人物像に迫る物語。
そこに加えてブロフェルドとボンドの個人的なつながりという設定にどうしても僕は合点がいかない。
確かに衝撃的な展開だけど、スパイ映画にそんな因縁めいたストーリーが必要?

ただでさえダニエル・クレイグのボンドは私情で行動することが目立つので、
こういう展開も許されるのかなぁ。
ロンドン五輪の開会式くらいしか、
ダニエル=ボンドが女王陛下の忠実な諜報員という姿を見てない気がするのだがww。
人間くさいボンド像は嫌いじゃないけど、
僕がスクリーンで観たいのは過去を思って苦悩するボンドではないんだよなぁ。

そんなダークサイドな部分がありつつも、「スペクター」は一級の娯楽作。
メキシコが舞台のヘリコプターアクションシーンは、これをCGなしでやっているのか!と驚かされる。
雪山でのド派手な飛行機の滑降も圧倒される。
やっぱり映画館で観ておくんだったなぁ(泣)。

さらに往年のファンがニヤリとできるオマージュが散りばめられてるのも嬉しい。
「女王陛下の007」が好きなもんだから、
雪山の頂上にある研究施設とか見るだけでワクワクしてしまう。
そしてモニカ・ベルッチ、レア・セドゥと豪華なボンドガールも素敵。

映画『007 スペクター』最新予告編




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オーソン・ウェルズのフェイク

2018-06-21 | 映画(あ行)

■「オーソン・ウェルズのフェイク/F For Fake」(1975年・イラン=フランス=西ドイツ)

監督=オーソン・ウェルズ
主演=オーソン・ウェルズ オヤ・コダール エルミア・デ・ホーリー クリフォード・アーヴィング

エルミア・ホーリーという贋作画家と、
彼の伝記と大富豪ハワード・ヒューズのニセ伝記で一山あてたアーヴィング。
この2人の"フェイカー"の姿を追いながら、
映画作家である自分自身も贋作(フェイク)を作る人間だと重ね合わせていく。

ラジオドラマ「宇宙戦争」が生んだ伝説の大パニックを、ウェルズ自身が語るのは実に面白い。
刺激的な編集、アイディアに満ちた演出が光る、ウェルズ晩年の秀作。

虚と実を見極めるよりも、それを楽しむかのような視点がここにはある。
ようわからんけど、すげぇ。
この映画にはこの感想こそがふさわしい。

とりあえず、感じろ。

(1998年筆)



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トゥームレイダー ファースト・ミッション

2018-06-19 | 映画(た行)

■「トゥームレイダー ファースト・ミッション/Tomb Raider」(2017年・アメリカ)

監督=ローアル・ユートハウグ
主演=アリシア・ヴィカンダー ドミニク・ウェスト ウォルトン・ゴギンズ

「トゥームレイダー」(2001)のリブート版。
アンジェリーナ・ジョリーの当たり役であるララ・クロフト役は、
「エクスマキナ」で人造人間を演じた北欧美女アリシア・ヴィキャンデル。
トレジャーハンターという本来の設定よりも、
人類征服を企む結社の陰謀阻止というヒロイックアドベンチャーに様変わり。
映画のラストは今後への期待を高めたところで終わる。
アリシアたん頑張ってますが、アンジーの圧倒的な存在感とついつい比べてしまう。

無人島で発見された卑弥呼の墓に秘められた謎。
その封印を解くと人類の危機が訪れる。
父が残したメッセージで、ララは”ヤマタイコク”と呼ばれる絶海の孤島へ向かう。
日本史好きに怒られそうなストーリーはツッコミどころ満載。
都合のいい話だよね・・・などと言わずになーんにも考えずに楽しむのが吉かと。
「インディ・ジョーンズ」や「グーニーズ」みたいなことがやりたかったんだろうなぁ・・・。

『トゥームレイダー ファースト・ミッション』新生ララ・クロフトが飛ぶ!射る!本予告編




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シェイプ・オブ・ウォーター

2018-06-17 | 映画(さ行)

■「シェイプ・オブ・ウォーター/The Shape Of Water」(2017年・アメリカ)

●2017年アカデミー賞 作品賞・監督賞・作曲賞・美術賞
●2017年ヴェネチア映画祭 金獅子賞
●2017年全米批評家協会賞 主演女優賞

監督=ギレルモ・デル・トロ
主演=サリー・ホーキンス マイケル・シャノン リチャード・ジェンキンズ ダグ・ジョーンズ

ギレルモ・デル・トロ監督にまず謝罪。
わたくし、ヲタク監督だと見くびってたかもしれません。
m(_ _)m

でもその嗜好を貫いたからこそたどり着いたのがこの「シェイプ・オブ・ウォーター」だと思う。
元ネタはユニバーサルホラーのクラシック「大アマゾンの半魚人」。
スピルバーグもティム・バートンも実は大好きな元ネタ映画。
ゲーム「メタルギア」の中で、
パラメディックがスネークに「観たことある?」と尋ねる映画のひとつでもあるよね。

舞台は東西冷戦真っ只中のアメリカ。
政府の研究機関で清掃員として働くイライザは口がきけない。
同僚の黒人女性ゼルダが職場での彼女の良き理解者。
家族がいないイライザの唯一の友人は隣人の老画家だけ。
彼女が働く研究施設に、南米で捕らえられた半魚人が持ち込まれる。
拷問まがいの観察実験が繰り返され、彼の存在を政治利用しようとする東西陣営の駆け引きが裏側で進行していた。
イライザは彼と言葉を超えたコミュニケーションをするようになる。
ある日彼を解剖するとの方針が上層部から示される。
イライザは彼を守ろうとある行動に出る…。

「シェイプ・オブ・ウォーター」は独特な造形や美術も素晴らしい。
これまでにない設定や映像だと世間は騒ぐ。
確かに着想は独特だけど、
この映画から得られる感動は「美女と野獣」など"異形なるものとの愛の物語"と何ら変わることはない普遍的なものだ。
それ故に観客に受け入れられたし、批評家からも評価された。

映画の仕掛けが実に巧いと僕は思う。
背景を冷戦の時代としたことで、実は複雑な対立構図が観客にも理解されやすい。
キャスティングも、「スーパーマン」映画でゾッド将軍を演ずるくらい見るからに悪役なマイケル・シャノン、
同僚ゼルダを演ずるオクタヴィア・スペンサーもぽっちゃりした黒人女性=世話好きという
「風と共に去りぬ」から続くアメリカ映画の先入観で観客を安心させてくれる存在。
照明でヒロインだけに焦点を絞り、その心情を描く場面は実に見事。
映画愛も随所に生きている。
半魚人ももったいぶらずに意外とストレートに姿を現す。
スピルバーグなら少しずつ姿を見せていっただろう。
だが、デル・トロ監督の潔さは異形なるものへの恐怖心を取り除いてくれるのだ。

イライザにとって彼は、初めて一人の人間として自分を認めてくれた存在。
障害や偏見、社会的な立場が人間関係に影響する中で、見た目や形にとらわれない関係となるイライザと彼。
普遍的な愛の物語にヲタク趣味のホラー映画のテイストが昇華する。

降り始めた雨がバスの窓で踊る美しい場面。
ついては離れ、雨粒がダンスする。そこで流れるシャンソンに僕は涙した。
それは、セルジュ・ゲンスブールがジュリエット・グレコに捧げた名曲「ラ・ジャヴァネーズ」。
ここで歌われるのは、一曲を踊る短い時間に交わす男と女の愛の物語。
イライザと彼の愛の行方を匂わす憎い選曲だと思う。
これも計算尽くなんだろうな。

Madeleine Peyroux - La Javanaise (The Shape Of Water Soundtrack)


「大アマゾンの半魚人」と同じく、ヒロインを抱きかかえる彼の姿。
オリジナルでは恐怖だった場面が、デル・トロ監督の手でそれは涙に変わった。
参りました。

ギレルモ・デル・トロ描く純粋な愛の世界『シェイプ・オブ・ウォーター』予告編






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ワンダー 君は太陽

2018-06-16 | 映画(わ行)

■「ワンダー 君は太陽/Wonder」(2017年・アメリカ)

監督=スティーブン・チョボスキー
主演=ジュリア・ロバーツ ジェイコブ・トレンブレイ オーウェン・ウィルソン 

冒頭で子供がジャンプする映画ってなんか期待できる・・・
と思うのは大好きな「リトルダンサー」のせいなのかww。

少年オギーは生まれつきの頭蓋骨異常で手術を繰り返し、他の子供とは違う顔をしている。
そのせいで母親と自宅学習を続けてきたが、10歳で初めて学校へ通い始める。
容姿のせいで周囲の反応を気にするオギーだが、やがて彼に親しみを感じる子が現れるようになる。
陰口やいじめ、困難に遭いながらも家族や友達、先生の支えで学校生活を続ける。
その勇気は次第に周りの生徒たちを変えていく。

いい人しか出てこないとか、性善説な映画、とかいろんな感想はあるだろう。
だけど子供目線を貫いた潔さは、
オギーの特殊な状況を越えて誰でも直面するであろう人間関係が描かれることで共感できる。
友人たちの視点が挿入されるのもナイスだけど、
いわゆる難病もの映画で"手のかからない"存在として描かれる兄弟姉妹を、
姉ヴィアの心情が綴られる中盤できっちりすくいあげているのが好感。

これに両親の目線が入っていたら、ここまで爽やかな印象では終わらなかっただろう。
特にジュリア・ロバーツ演ずる母イザベルはオギーに向き合う為にいろんな犠牲を払ってきたはず。
書きかけた論文データがフロッピーディスクに入ってる演出で、
それがいかに長い期間なのかをスマートに見せる。
「うちの家族は息子(サン)を中心した太陽系」は、家族の関係をうまく表現した台詞で印象的だ。
難病の現実的厳しさが描きたい映画ではなく、あくまでも主眼は少年と周囲の人々の成長物語。
多くの人に受け入れられる映画となればと思う。

子役の魅力に頼った映画と毛嫌いする方もあるかもしれないが、
爽やかな感動作を撮るに値する子役が今いることが幸せなことだと思うべきだと思うのね。
だって、子供が可愛らしい時期なんてあっという間。
映画ファンとしてそれを見守るのも、親目線みたいな幸せなんではないだろか。
「スターウォーズ」の小ネタも楽しい。
あと、姉の理解者として登場するおばあちゃん。
「蜘蛛女のキス」で知られるブラジルの名女優ソニア・ブラガを久々に見られたのも嬉しい。

映画『ワンダー 君は太陽』本予告編




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キングスマン:ゴールデン・サークル

2018-06-14 | 映画(か行)

■「キングスマン:ゴールデン・サークル/Kingsman : The Golden Circle」(2017年・イギリス)

監督=マシュー・ヴォーン
主演=コリン・ファース ジュリアン・ムーア タロン・エガートン マーク・ストロング ハル・ベリー

前作以上にパワーアップしたシリーズ第2作鑑賞。
PG-12は当然のエログロ描写も織り交ぜつつ、盛り込まれたエピソードに無駄がない。
人肉ミンチが出てくる映画って、80年代の「エクスタミネーター」以来じゃなかろうか。
マシュー・ヴォーン監督作は偏差値低めなどと言う方もいるけれど、
伏線の活かし方も巧いし、お下劣に見られるのも計算づくなんじゃないだろか。
キャストも映像技術も格段にグレードアップ。
長回しに見えるアクションシーンの編集は見事だし、英国スパイ映画のご本家を意識した場面もチラホラ。
映画ファンにはこういう小ネタも嬉しい。

特に音楽の使い方がセンスよくて好き。
プリンス&ザ・レボリューションが流れるカーアクションは、
同じ曲使ってる羽生結弦の演技の様に激しく華麗。
マーク・ストロングが好きというジョン・デンバー"Annie's Song"、
彼が高らかに歌う"Take Me Home Country Road"は名場面。
そして、悪役ジュリアン・ムーアに誘拐されたエルトン・ジョンご本人の大活躍!
"Saturday Night's All Right For Fighting"のアクションシーンに銀幕のこっち側はノリノリ。
エルトンには珍しいカントリー調の"Jack Rabbit"がエンドクレジット。

最後まで楽しませてくれる。

映画「キングスマン:ゴールデン・サークル」予告B


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北の桜守

2018-06-12 | 映画(か行)

■「北の桜守」(2017年・日本)

監督=滝田洋二郎
主演=吉永小百合 堺雅人 佐藤浩市 阿部寛

かつて日本領だった樺太。
戦争末期、ソ連の侵攻でその地を追われ、過酷な経験をした母と息子が生きる戦後が描かれる。
ビジネスで成功を収めつつある息子の元に役所から電話が入る。
それは一人で暮らす母の様子を伝えるものだった。
一緒に暮らし始めたものの、だんだんとエスカレートしていく母の行動に苛立ちを隠せなくなっていく。
息子夫婦に迷惑をかけまいと、これまで世話になった人のお礼参りを始めると言う母に、
息子は仕事を放り出して寄り添う。
二人がたどる過去、そこに秘められた思いと、忘れたいが忘れられない過去の辛い出来事。
日本の美しい風景を映しながら、映画は旅する二人を丁寧に描いていく。

夫役を阿部寛が演ずる若い頃から、白髪の老婆となるまでを、吉永小百合が一人で演じきる。
長い年月に渡る女一代記ならば、世代の違う女優でダブルキャストにしてしまうところだが、
吉永小百合だと不思議と許せてしまう。
途中舞台劇でストーリーの進行を説明する演出が挟まれるが、
これはスクリーンを通した吉永小百合一座の舞台なのだ。
そう思えば年齢を超越した役柄を座長が演ずるのも、違和感を感じずに済むかもしれない。
エンドクレジットは出演者による歌で飾られる。
そうだ、これはまさに舞台だ。

助演陣では、戦後の主人公を支えた佐藤浩市がいい。
夫がシベリアで亡くなった後、結婚を申し込もうとする無言の回想シーンは、特に印象的。
また、息子の妻を演ずる篠原涼子も大ベテランばかりのキャストの中で大健闘。
吉永小百合の活躍をこれからも観てみたい。
田中絹代のように老婆になっても銀幕にその存在を示して欲しい。

吉永小百合、120本目の出演作 映画『北の桜守』予告編





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胸騒ぎのシチリア

2018-06-11 | 映画(ま行)

■「胸騒ぎのシチリア/A Bigger Splash」(2015年・イタリア=フランス)

監督=ルカ・グァダニーノ
主演=ティルダ・スウィントン レイフ・ファインズ マティアス・スーナールツ ダコタ・ジョンソン

「君の名前で僕を呼んで」のルカ・グァダニーノ監督の旧作「胸騒ぎのシチリア」に挑む。
喉を痛めたロック歌手マリアンは、恋人のポールとイタリアで静養中。
そこにポールの友人にしてマリアンの元カレ、音楽プロデューサーのハリーが娘のペンと一緒に突然やって来た。
陽気に騒ぐことが好きなハリーは次々と友人を招き、マリアンとポールの静かだった生活はかき乱される。
しかしハリーが島を訪れた本当の理由は、
マリアンへの未練だった…。

アラン・ドロン主演の「太陽が知っている」(1968)を現代風にリメイク。
4人の役者がそれぞれの持ち味でいい演技。
特にティルダ・スウィントンは声を出せない役だけに、
ポールとかつての恋人ハリーとの間で揺れる不安な心持ちを見事に演じてみせる。
レイフ・ファインズは他の出演作では見られないハジけっぷり。
しかし、メロドラマとしてはなーんか釈然としない結末。観る側の受け取り方次第なのかな。

「ミラノ、愛に生きる」と同じく、ラブシーンの撮り方が独特で巧い。
全てを脱がずに激しく絡み合う様子や、その間の台詞からも思いの切実さが伝わってくる。
また、ロングショットでシチュエーションを見せた後、相手を見つめる表情をアップで捉える。
何を思っているのか、ミステリアスな印象で観る側を引きつける。
裸が多い映画ではあるが、見せ方は時に気品すら感じる。

ハリーがローリングストーンズと仕事をしたということで、
Emotional Rescueが本編とエンドクレジットで流れる。
登場人物それぞれが抱える寂しさをどうにかしたい切なさが描かれているだけに、"心の救済"とは暗示的。

「胸騒ぎのシチリア」予告編


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若き人妻の秘密

2018-06-10 | 映画(わ行)

■「若き人妻の秘密/Le Roman De Ma Femme」(2011年・フランス)

監督=ジャムシェド・ウスマノフ
主演=レア・セドゥ オリヴィエ・グルメ ジル・コーエン ティボー・ヴァンソン

お気に入りレア・セドゥ嬢主演作。
思わせ振りな邦題で、近所のTSUTAYAでは「エロティック」の棚に置いてあるもんだから、
レアちゃんが大変なことに!?と心配になって思わず手にしたww。
内容から考えてもズルイよ、この邦題。
いっそ「秘密」くらいの方がいろんな意味を含んで意味深で良いと思うのだけど。

弁護士の夫ポールがジョギングに出たまま行方不明になってしまい、
やがて多額の借金があったことも発覚。妻イヴは途方に暮れる。
そこへ夫の恩師で弁護士の先輩でもあるショレ先生が、
借金の肩代わりや当座の生活費まで支援をしてくれた。
「先生は見返りを求めるわ」と一度は断ったイヴだが、
ショレ先生の優しさに次第に心を許すようになる。
ところが、そのショレ先生に疑惑が…。

ひと言で言うなら、レア・セドゥを愛でる映画。
ニコリともしない役だけど、その強い眼差しに引き込まれてしまう。
その表情は真意を観客に見せないことにもなってる訳だ。
ダンスフロアで踊る姿が素敵。

結局、ショレ先生は金で愛を買おうとしたと言われても仕方がないけれど、
持病の薬を切らしてしまったのは故意だったのか、観客に判断を委ねてくる。
結末も歯切れが悪いけれど、まあフランス映画らしい雰囲気に浸るのがよし。
無音の長回しシーンが多いから、苦手な人な睡魔に負けませんように。

「若き人妻の秘密」予告


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