Some Like It Hot

お熱いのがお好きな映画ファンtakのつぶやき。
キネマ旬報社主催映画検定2級合格。

声優夫婦の甘くない生活

2021-01-29 | 映画(さ行)





◾️「声優夫婦の甘くない生活/Golden Voices」(2019年・イスラエル)

監督=エフゲニー・ルーマン
主演=マリア・ベルキン ヴラディミール・フリードマン

「映画は豊かな世界だ。声優はその案内人だ」
主人公ヴィクトルが、スター声優だった誇りと自信から口にする台詞。ソビエト連邦からイスラエルへの移住後、仕事もない状況になっている元スター声優が、違法なロシア語吹替映画のビデオを作る片棒を担ぐ場面に出てくる。映画では、その誇りから吹替の仕事に固執する彼を表現しているのだが、この言葉だけ切り取ると、まさにその通りだと思う。言葉の壁は簡単に乗り越えられない。

外国映画の吹替版をテレビで観て、僕らは映画に夢中になった。そこには声優さんたちの素晴らしい仕事があった。若山弦蔵のショーン・コネリーが、山田康雄のクリント・イーストウッドが、羽佐間道夫のウディ・アレンが、池田昌子のオードリー・ヘプバーンが、石丸博也のジャッキー・チェンがいた。

ヴィクトルとラヤの声優夫婦もソビエトではそんな存在だった。しかし移住した当時のイスラエルには声の仕事なんて皆無なのだ。やっとヴィクトルに来た声の仕事は、緊急事態を告げるアナウンスの録音で報酬のない奉仕活動。

生活のため、妻ラヤはテレフォンセックスという夫にはちょっと言いづらい声の仕事にありつく。ところがこれが夫婦に亀裂を生じさせることになる。二人の関係の行方がこの映画のクライマックス。軽いタッチだが、当時のイスラエルが置かれた政治状況がさりげなく上手にからめられていて面白い人情喜劇になっている。イスラエルの映画って、観るのは初めてかもしれない。

失業夫婦のお話と言えば思い出すのは、アキ・カウリスマキ監督の「浮き雲」。あんなにスタイリッシュな映像でもないし、あんな寡黙な夫婦ではない。感情は露わにするし、ヴィクトルもラヤも不器用な人間だ。だからこそ、愛すべきキャラクター。

「クレイマー、クレイマー」「スパルタカス」など数々の映画が話題にのぼる。特にフェデリコ・フェリーニ監督作への愛がひしひしと感じられる。「8 1/2」上映のエピソード、夫婦が共演した「カビリアの夜」。そして映画のクライマックスでは、1990年のフェリーニ最後の長編「ボイス・オブ・ムーン」が登場する。この映画館の場面がすっごくいいんだけど、ネタバレ防止のため詳細は省略します。

この映画の邦題「甘くない生活」。僕は、ストーリーを説明する系のよくあるお節介な邦題だと思っていた。だけど、映画館を出る時にはたと気づいた。フェリーニの「甘い生活」をもじってるのか!グッジョブ!




フェリーニにオマージュ!スター声優夫婦の秘密描く『声優夫婦の甘くない生活』予告編


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ベイビー・オブ・マコン

2021-01-24 | 映画(は行)


◾️「ベイビー・オブ・マコン/The Baby Of Macon」(1993年・イギリス=ドイツ=フランス)

監督=ピーター・グリーナウェイ
主演=ジュリア・オーモンド レイフ・ファインズ フィリップ・ストーン ジョナサン・レイシー

ピーター・グリーナウェイ監督作を立て続けに観ていたのは、社会人になってしばらくの間。「コックと泥棒、その妻と愛人」に圧倒されて、ジャン・ポール・ゴルチェが担当した衣装の展示会も観に行った。旧作もあれこれ観た。それからしばらく観てなかったので、「ベイビー・オブ・マコン」に挑む。観るのに覚悟がいる、と聞いていたのでとほんとに挑む気持ちで。

醜い老婆から生まれた美しい赤ちゃん。これは奇跡だと周囲が騒いだことから、老婆の娘は自分が処女懐胎した母親だと偽る。その赤子の容姿や一家がついた嘘から、赤子は庶民の信仰の対象となっていく。面白くないのはそれまで信仰と寄進を集めていた教会関係者。司祭の息子は赤ちゃんの母と名乗る娘に近づいて嘘を暴こうとする。

…という舞台劇を観ている現場を演じている舞台劇を撮った映画、という多重構造。三幕構成の物語で、鑑賞する貴族達が着用する衣装も赤→白→黒と変わっていく凝りよう。また一つずつ着衣を増やしながら赤子が祭り上げられていく様子は、反復される台詞が添えられる。その韻を踏んだような反復が単調なようで変なリズムを生む。この変化を伴った台詞の反復は随所に見られ、飽きるどころか催眠術のように映画の深みに誘っていく。そして映画のクライマックスでは、赤子の着衣が一つ一つ減っていく呼応が見られ、これ以上ない悲劇的な結末に僕らは戦慄することになる。

グリーナウェイ監督作はこれまでもグロテスクな描写はたくさんあった。しかし、「ベイビー・オブ・マコン」でのエログロ絵巻は、芸術と呼べるギリギリの線を保ちながら、鑑賞する僕らの精神に訴えてくる。目の前で展開される流血や死。それよりももっと醜くて正視できないのは、この映画で描かれる人間の欲望が残酷なまでの醜いさま。児童虐待の物語でもあるし、金儲けのためなら手段を選ばない底知れない欲望の物語。それは赤子を祭り上げた一家だけでなく、教会も同じ。そして不都合なことの為なら残酷な裁きさえも迷わない人間の冷酷さ。

僕らの視線を手繰り寄せるような長回しのカメラワークや芸術的な陶酔感で、観ている僕らを酔わせつつ、そこで見せつけられるのは醜悪で血塗られた物語。映画芸術の絢爛たる美しさで彩られた、残酷な物語。好きかと問われたら「嫌い」と答えるけど、こんな力作はグリーナウェイ以外の誰にも撮れない。赤子が身につけたガラスの首飾りのように「価値なし」とはとても言えない。でも観終わった後は、不快感と嫌悪感と、良質な舞台劇を観た後の満足感が入り混じる、不思議な気持ちになる。但し、人によってはトラウマ級の衝撃だと思われるので要注意です。

ジュリア・オーモンドって、不評だった「麗しのサブリナ」のリメイクくらいでしか名前を知らない女優だったけど、鬼気迫る熱演。若きレイフ・ファインズも、「胸騒ぎのシチリア」同様に全てを隠さない大熱演。

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お知らせ。

2021-01-21 | 映画・ビデオ
Filmarksにアップしたレビューが1,000本突破。


このブログにアップしている記事以外の映画レビューもあり。
のぞいてみてくださいませ(^^)

https://filmarks.com/users/tak_skywalker
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セザンヌと過ごした時間

2021-01-19 | 映画(さ行)


◾️「セザンヌと過ごした時間/Cézanne et moi」(2016年・フランス)

監督=ダニエル・トンプソン
主演=ギョーム・カネ ギョーム・ガリエンヌ アリス・ポール デボラ・フランソワ

画家が登場人物の映画に知的好奇心をくすぐられるのは何故だろう。観終わってその画家の作品を改めて観たくなる。画家はどんな思いでキャンバスに向かっていたのだろう、と再び映画のシーンを反芻する。絵画を挟んで映画の鑑賞者たる僕らは、その画家の思いと対峙するのだ。そんな想像をかきたててくれた映画は秀作と呼んでいい。逆に実在の画家が出てくるのに、その作品に触れたいと思わなかったら、その映画はどこか足りないのだろうし、観る人の興味が別のところにあるのだろう。

作家エミール・ゾラと画家ポール・セザンヌの長年に渡る友情の物語。ゾラが画家を主人公にした小説「制作」を書いたことでセザンヌが怒って疎遠になったと言われるが、ダニエル・トンプソンの脚本はその史実の後、セザンヌが再びゾラに会いに行くと言うストーリーになっている。実際にそうした手紙が最近発見されたとか。同じ画家にまつわる映画「永遠の門 ゴッホの見た未来」でも、死の新説が反映されているように、脚色とはいえより人物に迫る内容になっているのだ。

気性が荒くて人間関係を築くのが苦手なセザンヌと、不器用ながらも小説家としての成功を積み重ねていくゾラ。お互いに言いたいことを言い合ってきた仲なのだが、ゾラはセザンヌの才能に、セザンヌはゾラの成功に、互いに嫉妬がある間柄。そもそも銀行家の息子として裕福な家に生まれたセザンヌ。映画前半では、小鳥を捕まえて食糧にするような貧しい生活をしていたゾラの元に、酒瓶持って女連れで現れるような状況だった。それが、ゾラが成功を納めてからは、親から仕送りを止められ生活費にも困るセザンヌをゾラが支援する様子が描かれる。

お互いを罵るようなやり取りが続く後半では、観ていてキツい場面も続く。芸術家仲間からも避けられる中、セザンヌを認めているゾラの母とのやり取りは印象深い。モデルを長く務める女性に、「絵の女しか見ていない。私を見て。」と詰め寄られる場面の痛々しさ。

晩年はピカソなど若い画家にも支持されて、世間からも評価されるセザンヌだが、そうした場面はあまり詳しく描かれない。そのため映画を通じてセザンヌの印象はどちらかと言うとよくない。しかしダニエル・トンプソン監督は、「太陽のないアトリエでかいた絵なんて!花には香り、木には風、人には性器、それが自然だ。」と叫ぶセザンヌで、彼が何を大事にしたのかをうまく表現している。また、映像でもセザンヌが見つめてキャンバスに刻みつけてきたプロヴァンスの自然をしっかりと映し出す。代表作のサント・ヴィクトワール山の実写と絵画が重なるエンドクレジットの美しさは心に残る。これ映画館で観たかったなあ。

主人公を演ずる男優二人のなりきり振りに引き込まれる。僕がこの映画をセレクトしたお目当ては、セザンヌのモデルで後に妻となる役を演じたデボラ・フランソワ。「タイピスト!」で惚れて以来、大好きな女優さん。そんな興味で観た僕が、セザンヌについてあれこれ考えられたのだから、冒頭に書いたとおり、これは秀作なのだ。




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ケンタッキー・フライド・ムービー

2021-01-17 | 映画(か行)


◾️「ケンタッキー・フライド・ムービー/The Kentucky Fried Movie」(1977年・アメリカ)

監督=ジョン・ランディス
主演=ジョージ・レーゼンビー ドナルド・サザーランド ヘンリー・ギブソン

映画チラシを集め始めた頃に手に入れたジョン・ランディス監督作「アニマルハウス」のデザインは、当時お気に入りだった。同じ頃にランディス監督作で手に入れたのがこの「ケンタッキー・フライド・ムービー」。ハチャメチャなオムニバスムービーと聞いたけど、「女王陛下の007」のジョージ・レーゼンビーが出演してしているとか。どんなんだろう?と昔から興味があった。初鑑賞。

この映画のプロデュースは、「フライング・ハイ」「裸の銃を持つ男」などで知られるザッカー兄弟とジム・エイブラハムズ。彼らはケンタッキー・フライド・シアターと名付けた芝居小屋で、ナンセンスコメディ芝居をやっていた。そのセンスを活かして映像化したのが本作。監督は後に「ブルース・ブラザース」を撮るジョン・ランディス。

細切れのギャグと、映画やテレビ番組パロディが散りばめられた怪作。ニュース番組中にゴリラが暴れ出したり、架空のポルノ映画CM、コント、「燃えよドラゴン」「大地震」「オズの魔法使い」のパロディ短編などなど、クスッとさせるものもあれば、くだらなさに呆れるようなものもある。それらがこれでもかと繋がれるバラエティ。

ともかく。くだらないです。でも頭空っぽにしてくれます。そこがいいです。レーゼンビーは、「大地震」のパロディ番組に登場。アップの場面が少ないので彼だと言われないとわからなかったかも。

本編には関係ないけど。
80年代に替え歌で一世を風靡したアル・ヤンコビックが、「パロディ放送局U.H.F.」という映画に主演している。これにもパロディ映画の予告編や替え歌MTVが流れる。こっちもお試しくださいな。




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モンスターズ・インク

2021-01-14 | 映画(ま行)



◾️「モンスターズ・インク/Monsters, Inc.」(2001年・アメリカ)

監督=ピート・ドクター
声の出演=ジョン・グッドマン ビリー・クリスタル メアリー・ギブス スティーブ・ブシェミ

2004年に書いたレビューです。

   ◆

「トイ・ストーリー」と並んでうちの子のお気に入りだった。脚本がいい。サリーとマイクのバディムービー的面白さと、ブーとサリーの心の交流をきれいにまとめた好編。それぞれのキャラクターが個性的で生き生きしているのがまた楽しい。マイクがデートする寿司屋がストップモーションアニメの巨匠の名前「ハリー・ハウゼン」ってのがいいね!。

お話としてはちょっと都合よすぎる?と思えるところも多々あるけれど、まぁファミリームービーなので堅いことは言わずにおきませう。それでもラストの「にゃんにゃん!」には泣けるんだよね、これが。

異文化とのコミュニケーションや遭遇は、「ターザン」や「ポカホンタス」、「リロ&スティッチ」など90年代以降のディズニーアニメでしばしば題材とされてきたテーマだ。モンスターと人間とではあるが、この物語もまさにそれ。人間の子供を怖がらせてエネルギーを得てきたモンスターの世界が、笑い声でエネルギーを得るように変化する。

恐怖でなくて笑顔を。この映画が製作されたのは、アメリカ同時多発テロの年。その後数年経ったタイミングで観ると、国際社会のあるべきコミュニケーションもこうあるべきなのでは、なんてことを考える。武力を誇示して他国に踏み込み、罪のない一般市民を巻き添えにしたところでなーんの解決にもならない。体制の維持のために手段を選ばないウォーター・ヌース社長はさしずめ好戦的などっかの大統領ってところか?。ピクサー作品を観ながらそんなことを考えてしまうような世界情勢だったということを、刻んでおいたってことで。いずれにしても9・11後の殺伐とした空気を、少し和らげてくれる。そんな素敵な映画です。



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愛と喝采の日々

2021-01-11 | 映画(あ行)





◾️「愛と喝采の日々/The Turning Point」(1977年・アメリカ)

監督=ハーバート・ロス
主演=シャーリー・マクレーン アン・バンクロフト トム・スケリット

映画に興味を持ち始めた中坊の頃。母が読んでいた婦人雑誌に「女の生き方を映画で考える」みたいなオールカラーの記事が載っていた。取り上げられた作品は2本。一つはダイアン・キートン主演の「ミスター・グッドバーを探して」。もう一つがこの「愛と喝采の日々」。その記事を目にしてから40年近く経って、やっと「愛と喝采の日々」を観た。

バレエを辞めて家庭に入り、3人の子供の母となった女性ディーディー(シャーリー・マクレーン)と、結婚せずにトッププリマとしてバレエ界で活躍を続けているエマ(アン・バンクロフト)が主人公。ディーディーとエマはかつて「アンナ・カレーニナ」の主役を競っていたライバルでもあった。再会を果たした二人は、これまでの人生が幸せだったかと尋ね合う。しかし二人の心の内には嫉妬があった。

バレエの才能があり美しく成長したディーディーの長女エミリアを、名付け親でもあるエマは娘のようにかわいがる。エミリアは同じバレエ団に所属するロシア人ユーリと恋仲になるのだが、妊娠でバレエを諦めた母ディーディーは心配もあって娘に厳しくあたり、母と娘の気持ちはすれ違う。一方でエミリアは恋のトラブルから泥酔して劇場へ現れる。そのミスをカバーして支えたエマにエミリアはますます頼るようになっていく。3人の女性の過去と現在が絡み合う。

なるほど。対比が分かりやすく、それぞれの人物の心情も丁寧に描かれているので、雑誌が女の生き方テーマで取り上げるのも納得できる。二人がため込んできた感情を爆発させ、叩き合って喧嘩するクライマックス。初めて知る本当の気持ち。ラストは美しく感動的だ。オスカー10部門ノミネートされたが、「アニー・ホール」に敗れて無冠に終わった作品だと聞く。

監督したハーバート・ロスは、「グッバイガール」の印象が強いので、ロマコメ映画のイメージがあった。この映画のバレエ場面は、アメリカン・バレエ・カンパニーによって演じられており、きちんとバレエを魅せる映画としても素晴らしい。「リトル・ダンサー」や「ブラック・スワン」などバレエが出てくる映画はあるが、映画の題材や物語の舞台として見せるのではなく、プロのダンスをきちんと堪能させてくれる映画だ。特にコンサート形式のガラ公演シーンは、それぞれの演目についても字幕で紹介が入る丁寧な扱い。観客と同じ目線で正面から見せるだけでなく、トゥシューズのつま先の動き、回転(ピルエットって呼ぶんでしたっけ?)する躍動感、女性をリフトするシルエットを美しくフィルムに焼き付けている。ロス監督は、この数年後にMTV世代映画の代表作「フットルース」を手がけるのだが、ダンスの魅力を上手に撮るのは実は実績があったのだと再認識。

「ホワイト・ナイツ 白夜」のミハイル・バリシニコフがチャラくて憎たらしいw。






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華麗なる週末

2021-01-09 | 映画(か行)






◾️「華麗なる週末/The Reivers」(1969年・アメリカ)

監督=マーク・ライデル
主演=スティーブ・マックイーン シャロン・ファレル ミッチ・ヴォーゲル

マーク・ライデル監督作を観たことがあるのは今のところ5本。「黄昏」「フォー・ザ・ボーイズ」「ローズ」は特にお気に入りだ。どれも心の隅で大事に思い続けたい映画たち。

スティーブ・マックイーンが非アクション映画で主演したライデル監督作「華麗なる週末」を初めて観たのは、マックイーンが亡くなった1980年だったと記憶している。テレビでは追悼番組が組まれ、主演作が次々と放送された。「ゲッタウェイ」や「ブリット」「華麗なる賭け」などはもちろん素晴らしいのだが、「華麗なる週末」は少年の成長物語であるせいか、当時の僕の心に強い印象を残した。レンタル店で旧作を漁っていて再会。ウン十年ぶりの再鑑賞である。

20世紀の初め、まだ自動車が珍しかった時代。主人公はミシシッピに住む少年ルーシャス。祖父は、町で最初に自動車を購入した大富豪。葬儀で数日大人たちが不在となり、一家の使用人ブーンからメンフィスに車で旅行しようと誘われる。ブーンの悪友である黒人青年ネッドも一緒に、いざメンフィスへ。ブーンがなじみの娼館に泊まることになったルーシャス。そこへネッドがやって来て、「車を馬と交換した。草競馬に勝って取り戻そう」と言い出す。しかし手に入れた黒馬はちっとも走らない。ブーンの彼女コニーも巻き込んで、彼らをめぐる騒ぎはエスカレートしていく。

11歳のええとこの坊っちゃんが、男と女、人種偏見、大人の事情などなど、世の中のままならない部分を知ることで、ひとつ成長する4日間の物語。娼館で裸婦像を見つめる様子、素敵な人だなと思ったコニーが娼婦だと教えられて「そんなことあるかっ!」と殴りかかるピュアな気持ち、そして現実を知って落ち込む少年。彼を指南する役割のブーンも中途半端な大人だが、彼もこの4日間を通じて生き方を変えることになる。

クライマックスの競馬シーン、身勝手な大人たちの振る舞いにイライラするがそれを吹き飛ばす少年の活躍。彼は自分の周囲の期待と、その中で自分の役割を果たす喜びを初めて知った。少年時代を回想するナレーションは、「ロッキー」の老トレーナー、バージェス・メレディス。音楽はジョン・ウィリアムズ。





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tak's Movie Awards 2020

2021-01-02 | tak's Movie Awards
2020年は、新型コロナウィルス感染拡大で映画生活にも大きな影響があった。大作は次々と公開延期となり、大手メジャーは配信のみの対応をとる事態に発展。映画館はしばらく閉めてしまったり、再開しても間引きで観客を入れざるを得なかったり。「野生の呼び声」はシネコンの大劇場に僕一人。淋しかったな。しかしながらメジャー作が姿を消した分だけ、愛すべき映画に出会えた収穫もあった年。

いち映画ファンとしての年中行事、2020年の年間ベストを発表します。1年間にわたくしtakが観たオールタイムの映画からセレクトしてますので、公開年にタイムリーになってません。特に今年は旧作を観る機会が多かったので、そこはご理解を。

tak's Movie Awards 2020

◆作品賞
「燃ゆる女の肖像」(セリーヌ・シアマ/2019年・フランス)


今年の10本
「劇場版ヴァイオレット・エヴァーガーデン」
「海辺の映画館 キネマの玉手箱」
「男と女 人生最良の日々」
「COLD WAR あの歌、2つの心」
「シェルブールの雨傘」
「スウィング・キッズ」
「TENET テネット」
「パラサイト 半地下の家族」
「燃ゆる女の肖像」
「レイニーデイ・イン・ニューヨーク」

◆アニメーション作品賞
「劇場版ヴァイオレット・エヴァーガーデン」




◆監督賞
大林宣彦「海辺の映画館 キネマの玉手箱」(2019)




今年の10人
アキ・カウリスマキ「浮き雲」
ウディ・アレン「レイニーデイ・イン・ニューヨーク」
大林宣彦「海辺の映画館 キネマの玉手箱」
クリストファー・ノーラン「TENET テネット」
ジャック・ドゥミ「シェルブールの雨傘」
スタンリー・ドーネン「無分別」
セリーヌ・シアマ「燃ゆる女の肖像」
フランソワ・オゾン「グレース・オブ・ゴッド 告発の時」
ポン・ジュノ「パラサイト 半地下の家族」
溝口健二「西鶴一代女」

◆主演男優賞
ソン・ガンホ「パラサイト 半地下の家族」


今年の10人
大杉漣「ライフ・オン・ザ・ロングボード」
カリ・ヴァーナネン「浮き雲」
クリスチャン・ベイル「フォードvs.フェラーリ」
ケビン・コスナー「JFK」
ジャン・ルイ・トランティニャン「男と女 人生最良の日々」
ソン・ガンホ「パラサイト 半地下の家族」
D.O.「スウィング・キッズ」
ティモシー・シャラメ「レイニーデイ・イン・ニューヨーク」
ブルーノ・ガンツ「アメリカの友人」
マット・デイモン「フォードvs.フェラーリ」

◆主演女優賞
キーラ・ナイトレイ「コレット」


今年の10人
アデル・エネル「燃ゆる女の肖像」
アヌーク・エーメ「男と女 人生最良の日々」
エル・ファニング「レイニーデイ・イン・ニューヨーク」
カトリーヌ・ドヌーヴ「シェルブールの雨傘」
キーラ・ナイトレイ「コレット」
コリンヌ・クレリー「ホテル」
田中絹代「西鶴一代女」
二階堂ふみ「ばるぼら」
吉岡里帆「見えない目撃者」
レニー・ゼルウィガー「ジュディ 虹の彼方に」

◆助演男優賞
アーミル・カーン「シークレット・スーパースター」


今年の10人
アーミル・カーン「シークレット・スーパースター」
アンドレ・デュソリエ「愛を弾く女」
ケネス・ブラナー「TENET テネット」
サム・ロックウェル「ジョジョ・ラビット」
ジャレッド・グライムス「スウィング・キッズ」
ジュード・ロウ「レイニーデイ・イン・ニューヨーク」
デニス・ホッパー「アメリカの友人」
ドナルド・サザーランド「プライドと偏見」
原田芳雄「キスより簡単」
F・マーリー・エイブラハム「薔薇の名前」

◆助演女優賞
パク・ヘス「スウィング・キッズ」


今年の10人
アン・ハサウェイ「オーシャンズ8」
ヴァレリア・ゴリノ「燃ゆる女の肖像」
エリザベス・デビッキ「TENET テネット」
オルガ・キュリレンコ「9人の翻訳家 囚われたベストセラー」
スカーレット・ヨハンソン「ジョジョ・ラビット」
パク・ソダム「パラサイト 半地下の家族」
パク・ヘス「スウィング・キッズ」
マデリン・ストー「12モンキーズ」
ロザムンド・パイク「プライドと偏見」
吉田玲「海辺の映画館 キネマの玉手箱」

◆音楽賞
「真夏の夜のジャズ」(1959年・アメリカ)







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