■「ジャンゴ 繋がれざる者/Django Unchained」(2012年・アメリカ)
●2012年アカデミー賞 助演男優賞・脚本賞
●2012年ゴールデングローブ賞 助演男優賞・脚本賞
監督=クエンティン・タランティーノ
主演=ジェイミー・フォックス クリストフ・ヴァルツ レオナルド・ディカプリオ サミュエル・L・ジャクソン
タランティーノ監督作はどれを観ても過去の映画作品、映画人への愛情と敬意に満ちている。大きな影響を受けていると言われるのがマカロニウエスタン。お若い映画ファンはさすがにご存じないだろうが、ハリウッドで人気のあった西部劇をイタリアが商魂たくましく量産していた時代があったのだ。本家アメリカ作品に見えるように役者の名前も英語ぽく表示したり、アメリカでまだブレイクしていなかったクリント・イーストウッドを主役に起用したりする。だが、やたら暑苦しくて脂ぎった男たちがあまた出演しているし、復讐劇や残酷描写が多く洗練されたカッコよさとはほど遠いので、明らかに本場ハリウッド映画とは違う。しかしその自由奔放な発想(保安官バッヂが手裏剣のように宙を飛び、棺桶に隠されたマシンガンが炸裂するetc)と、大胆な構図のカメラ(目のアップだとか)、独自の美学は多くの観客を熱狂させ、ついにはハリウッドから西部劇スタアが出演するセルジオ・レオーネ監督作「ウエスタン」が製作され、フランコ・ネロやジュリアーノ・ジェンマなどスタアを誕生させるに至るのだ。タランティーノはオールタイムベスト作品にマカロニウエスタンの「続・夕陽のガンマン 地獄の決斗」と本家ハリウッドの「リオ・ブラボー」、2本の西部劇を挙げている。西部劇はタランティーノが撮るべくして撮った題材なのである。
主人公の黒人青年ジャンゴは、公には歯科医を名乗るドイツ人賞金稼ぎシュルツによって束縛された奴隷から自由人となる。ジャンゴには奴隷として売られていった妻ブルームヒルダがいた。シュルツは仕事を手伝ってくれたら、奥さんを探そうと約束する。二人のコンビは次々にお尋ね者を射殺する大活躍。そして探していた妻がムッシュ・キャンディ(レオナルド・ディカプリオ)の屋敷に売られたことを突き止める。二人は黒人奴隷による拳闘(マンディンゴ)のファイターを探す売人と偽ってキャンディに近づく。ジャンゴはヒルダを見つけ出すのだが・・・。
この映画には監督が愛したマカロニウエスタンのテイストが注ぎ込まれている。まず映画冒頭は同名の主人公が登場する名作「続・荒野の用心棒」の主題歌Djangoが、まるでこの映画に書き下ろされたかのように流れる。これを聴くだけで、リアルタイムでそうした映画を観てない僕らでさえ映画の世界に引き込まれる気がする。
Django (Italian Version) Roberto Fia
馬車に乗る医師として登場するシュルツは、「星空の用心棒」へのオマージュだったりする。血しぶきどころか肉片も飛び散る銃撃シーンは、タランティーノ映画らしい描写。しかし、「ジャンゴ 繋がれざる者」のストーリーは、マカロニウエスタンお得意の復讐劇ではない。これは絶体絶命の危機を乗り切って愛する女性を守り抜くラブストーリーであり英雄物語だ。ド派手な爆破シーンからジャンゴが現れるラストシーン、もうこれはアメコミのヒーローのようだった。思えばこれまでのタランティーノ映画は群像劇が多く、一匹狼の主人公は「キル・ビル」や「ジャッキー・ブラウン」など女性ばかりだった。シュルツというバディこそいるが、男性のヒーローが描かれるのはこれが最初だ。また黒人ヒーローが白人の悪党をやっつける物語は、ブラック・スプロイテーションと呼ばれた黒人向けアクション映画も好むタランティーノらしいとも言えるだろう。
だが、この映画でタランティーノは決して南部を支配した白人だけを"悪"と描いた訳ではない。後のKKK団につながる覆面グループや黒人を家畜のように扱う悪役たちは皆白人。これだけで終わればフツーの映画だっただろう。この映画が、他にはない凄みを感じるのは黒人執事スティーブン(サミュエル・L・ジャクソン)の存在だ。差別や悪事に走る白人に与する黒人がいるというポイントだ。この映画が製作された2012年はアメリカ大統領選挙の年だった。オバマ大統領とロムニー候補の対決は、変革と保守の対立、しかも人種対立すら煽りかねない場面すら感じられるものだった。オバマ大統領はこんな白黒つけたがった風潮を何とか収めようとしているようだった。「ジャンゴ」は白人と黒人の対立を描いたものではない。この映画で線が引かれたのは人を人として扱うことができるのかという点での善と悪。暴力的な描写こそあるが根底に流れるのはヒューマニズムなのだ。傑作とされるタランティーノ監督の「パルプ・フィクション」は確かに面白かったが、僕は人の死を軽々しく扱う描写がどうしても好きになれなかった。それと比べたら「ジャンゴ」は映画人としてのタランティーノが、偏った趣味嗜好を表現の手段として用いながら、人間を描ける映画人になったという作品とも思えるのだ。
映画『ジャンゴ 繋がれざる者』日本版予告編
確かにその通りですね。
ジャンゴの印象は薄く周りが圧倒的でした。
次回作も楽しみです。
個性あるキャラが揃ってるもんだから、ジェイミー・フォックスが霞んでるところは随所にありました。でもその分、クライマックスの大活躍が観ていて快感!次は何を撮ってくれるんでしょうねー。
これも良かったです。
私の好みから行くとより初期作品群なのですが・・・
自分の好きな物を好きに撮って楽しませてくれるタラちゃん。
なるほど、そんなタラちゃんも成長しているんですね。
いつも勉強になります。
初期作品、スタイリッシュだし台詞がいいので好きなんですけど、特に「パルプ~」の後半は人の死を軽く扱ってる気がしてですね、はい。
タランティーノ関連映画は小ネタも楽しいから大好きです。出演した「プラネットテラー」の台詞「お前、エヴァ・ガードナーに似てるな!」は映画館で吹き出したし、脚本をリライトした「クリムゾン・タイド」のスタートレックネタは思わずニヤリ。
いきなりあの曲はずるいよー、と笑っちゃった私です。でもそこまでするなら棺桶にマシンガンやろ!次回作は是非やって!