Some Like It Hot

お熱いのがお好きな映画ファンtakのつぶやき。
キネマ旬報社主催映画検定2級合格。

魔女の宅急便

2020-03-28 | 映画(ま行)


◾️「魔女の宅急便/Kiki's Delivery Service」(1989年・日本)

監督=宮崎駿
声の出演=高山みなみ 佐久間レイ 戸田恵子 山口勝平

社会人になって最初の盆休み。その頃、僕は学生時代に描いていた社会人生活と現実とのギャップで、やや落ち込んでいた。
「オレっていったい何ができるんだろう?」
思い上がっていた訳じゃないけど、仕事は思ったようには進まないし、うまくいかない。他の人とは比較されるし、同期に先に成果をあげた子が出たもんだから、周囲まで焦り出して。"これだけ"しかできない自分を腹立たしく思い、さらにこれから先の自分が不安で仕方なかった。
「このままでいいんだろか、オレ」

そんな盆休みの最終日に、今はなくなった映画館で「魔女の宅急便」を観た。笑っちゃうだろ?ブルーな気分の男子が一人でジブリアニメだなんて。

魔女と普通の父親との間に生まれた主人公キキ。魔女の世界のしきたりで13歳になったら自立するために旅に出なければならない。キキは海の見える街にお供の黒猫ジジを連れてやって来た。飛ぶことしか能のないキキは、空飛ぶ宅急便屋さんとして働くことになる。人々とのふれあいや様々な経験をして成長していく様子が鮮やかに描かれていく。

それまでのいわゆる「魔女っ子アニメ」の主人公が使う魔法は、他の人と違って"何でもできる"能力だった。それをいかに良いことに使えるかを学んで、成長するのが物語の基軸。そんな魔法は彼女たちを視聴者憧れのヒロインとするのに不可欠な要素だった。ところがキキは飛ぶことしかできない。しかも物語の途上でその力さえ失ってしまう。

それでも頑張ろうとするキキ。普通に暮らしている僕らが「これしかできないから」と健気に頑張る姿と何ら変わらない。キキの懸命さに、僕はいつの間にか"これだけ"しかできない自分を重ねていた。そして元気に立ち直るラストに心の中で拍手した。今の自分をこれ以上励ましてくれる映画があるだろか。映画館でわんわん泣いた。ダサいよなー、男子が一人ジブリアニメ観て泣いてるなんて。

今でもユーミンの「やさしさに包まれたなら」を聴くと、あの時映画館で感じた気持ちを思い出す。そして社会人デビュー物語を描いた映画に弱いのも、この「魔女の宅急便」がルーツにある。2016年の年間ベストワンに僕は「ブルックリン」を挙げた。だけど、いまだにレビューが書けずにいる。社会人デビュー物語は、いろいろ思い出しちゃって書けなくなる。

「ジブリアニメ何が好き?」と聞かれると、恥ずかしながら「魔女の宅急便」と答えてしまう。いい歳こいたおいさんなんだし、ロリコンと思われるかもしれないから、もっと大人向けな宮崎駿の後の作品挙げればいいのに。でも「魔女の宅急便」は、あの時の自分を支えてくれた映画。その思いはずっと変わらない。

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アメリカの友人

2020-03-27 | 映画(あ行)





◾️「アメリカの友人/Der amerikanische Freund」(1977年・西ドイツ=フランス)

監督=ヴィム・ヴェンダース
主演=ブルーノ・ガンツ デニス・ホッパー ジェラール・ブラン リサ・クロイツァー

パトリシア・ハイスミスの小説「リプレーのゲーム」を原作に、ヴィム・ヴェンダースが撮った秀作サスペンス。「太陽がいっぱい」でアラン・ドロンが演じたトム・リプレー役は、デニス・ホッパー。

贋作絵画を売りさばく詐欺師リプレーは、あるオークション会場で額縁職人ヨナタンと出会う。ヨナタンが血液の病気で余命わずかだと知ったリプレーは彼を殺し屋に推薦する。妻と子供に金を遺したいヨナタンは、迷いながらもこの申し出を受ける。しかし二度目の殺人が依頼されたと聞いたリプレーは、彼を守ろうと動き出す。

この作品を観たフランシス・F・コッポラが、ヴェンダースをハリウッドに招いた。印象的な独特の色彩、橙色のフォルクスワーゲン、少ない台詞で人物を描ききるセンス。なるほどコッポラが気に入ったのもうなづける。地下鉄、列車、車と主人公たちが移動を始めると、物語が大きく動く。特に列車での殺人シーンは息詰まる名場面。

初めて観たのは1996年。映画生活の中でもヨーロッパ映画に狂ってた頃だったかな。同じハイスミス原作で列車がからむサスペンス映画といえば、ヒッチコックの「見知らぬ乗客」がある。これも見直したくなる。



『アメリカの友人』日本版劇場予告編



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野性の呼び声

2020-03-24 | 映画(や行)



◾️「野性の呼び声/The Call Of The Wild」(2020年・アメリカ)


監督=クリス・サンダース

主演=ハリソン・フォード ダン・スティーヴンス オマール・シー カレン・ギラン


原作は幼い頃に読んだ記憶がある。今回で6回目の映画化だとか。物語が語り継がれるのはいいことだし、今の映像技術で描かれたことで主人公である名犬バック目線のストーリーも作り込まれているのが特徴。


どうせCG犬の映画でしょ?、と甘く見ていたのだが、アラスカの自然の美しさ、それを撮るヤヌス・カミンスキーのカメラがまた素晴らしく、気づくと仕事疲れで映画館にいることを忘れていた。前半はオマール・シーの明るいキャラクターが場を盛り上げてくれて、後半は渋味を増したハリソン・フォードとバックの素敵な関係に心を打たれる。やっぱりハリソン・フォードには毛むくじゃらの相棒が似合うよねww


監督は「リロ&スティッチ」のクリス・サンダース。「Mr.インクレディブル」のブラット・バート監督もそうだけど、アニメ出身監督が撮る実写は、画面の隅々まで作り込まれて絵になる場面が多い印象がある。森に惹かれていくバックが狼たちの住処にやってくる場面にしても、初めてアラスカの地を踏むバックが泥だらけの地面を歩いた後で雪に触れる場面にしても、美しさだけでなく物語の展開もからむ大事な場面。凍った川で彼らが陥る危機一髪の場面も心に残る名場面。観てよかった。ヒゲ面のハリソン・フォードと昔からの文学作品の映画化。いつかこの人で「老人と海」撮ってくれんだろうか、とちょっと思った。

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パーフェクトワールド

2020-03-16 | 映画(は行)


◾️「パーフェクトワールド/A Perfect World」(1993年・アメリカ)

監督=クリント・イーストウッド
主演=ケビン・コスナー クリント・イーストウッド ローラ・ダーン T・J・ローサー

ケビン・コスナーとクリント・イーストウッドの共演が話題になった本作。ケネディ大統領暗殺直前の1963年のテキサスを舞台に、脱獄犯と人質の少年の心の交流を描いたロードムービーである。50年代、60年代のノスタルジックなアメリカを振り返る作品は数々あるが、「パーフェクト・ワールド」が他と違うのは、変わりゆく時代を描きながら、病める現代社会の姿が見え隠れすることだ。

ローラ・ダーン扮する女性犯罪学者とチームを組まされるのは、昔気質の警察署長クリント・イーストウッド。経験と腕っぷしで犯罪に立ち向かった警察官と、多発する冷酷な犯罪を分析する学者という相入れないペア。時代の変化がそこには暗示される。また、スクリーンのこちら側の僕らは、大統領が銃撃される事件がその後起こることを知っているから、イーストウッドがますます過去の人に見えて対比が際立ってくるのだ。僕ら世代は、2001年の同時多発テロという大事件、2011年の東日本大震災がどれだけ大きな影響を現実社会にも銀幕の中にも与えたのかを知っている。アメリカにとっての1963年も、そんな年なのだ。

さらに現代に通ずる様々なエピソードが散りばめられている。FBI捜査官がローラ・ダーンにしつこく迫る場面はセクシャルハラスメント、いや21世紀の目線なら、#Me Tooと騒がれたまさに今を思い浮かべる方もあるだろう。少年が宗教上の理由でハロウィンに参加できないエピソードは、信条や価値観の多様化。さらに主人公が息子を殴る農夫に銃を突きつけて「愛していると言ってやれ!」と言う涙を誘う場面。胸を締め付けられるような事件報道が続く今を感じずにはいられない。

完璧な世界なんてありはしない、とイーストウッドは映画の中で語るが、その後発展を続けていくアメリカと言う国も、パーフェクトワールドとはなり得なかった。映画で描かれた時代とその後、そして今の世界を考えると、ラストに感じる切なさは、さらに深いものになるだろう。

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映画検定のご報告。

2020-03-08 | 映画・ビデオ
2019年キネマ旬報社主催映画検定、1級を2月に受験しまして、不合格でした。2級は合格したので、当初の目標は達成。

まあとにかくヘヴィな内容で正答率は51%。全国で4人しか合格してない難関なんでしゃーないと思うが、これに向けてこれまで避けがちだった邦画クラシックに挑んだし、なによりも好きなことについて学ぶ時間が取れたことはとっても楽しかった。

出題された年代別の正答状況は、写真のレーダーチャート。上が1級、下が2級。ともかく自分が1980年代の知識に長けていることがよーーくわかった。やっぱり僕は80年代映画の語り部を目指すべきなのかな(笑)。80年代映画主題歌記事(80's Movie Hits !)を復活させようかな、と思った。そういえば、「トップガン」の全曲解説を試みて挫折したままなんだよねーww



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僕のニューヨークライフ

2020-03-01 | 映画(は行)

◾️「僕のニューヨークライフ/Anything Else」(2003年・アリメカ=オランダ=フランス=イギリス)


監督=ウディ・アレン

主演=ジェイソン・ビッグス クリスティーナ・リッチ ウディ・アレン ストッカード・チャニング ダニー・デヴィート


レンタル店で探すけどなかなかないよな、と思ってたらレンタル落ちのセール品を本屋で発見。

ウィットと皮肉が効いた会話は確かに面白い。それはウディ・アレン映画らしいとも思う。しかし。秀作とされる他のアレン映画なら、気の利いた台詞は流れていくストーリーの中でピリッとスパイスを効かせていて、僕らを物語に引き込んでくれていた。「僕のニューヨークライフ」にも素敵な響きを持つ台詞はあるし、普段より多いくらいだ。若い小説家と初老の舞台作家が主人公だから、会話の中にいい台詞があって当然と言えば当然なのだが、ストーリーの展開に大してつながることもなく、いい台詞だなと思っても、「名言格言集」のページをめくっているように、目の前を通り過ぎていくように感じた。アレンらしいと言えばらしいのだけれど、アレン作品を観続けているファンの期待にはちと及ばない。

とは言え、主人公ジェリーが周囲の人々に翻弄される様子は面白い。彼のアドバイザーでもある、ウディ・アレン演ずるドーベルの助言が、いちいち的外れなのがおかしい。「「そうですね」と言って好きに生きたらいい」と言っていながら、強引にカリフォルニア行きを勧めてジェリーを振り回す結果に。大人になったお化け一家のお嬢ちゃんクリスティーナ・リッチが、ジェリーを振り回す奔放なヒロイン、アマンダ役。一緒に楽しめる趣味のベクトルがあるのは素敵なことだと、僕は常々思っているだけに、二人の出会いからレコードショップのキスシーンまでの流れは「わかるなぁー」と思って観ていた。それだけに二人のセックス騒動ばかりになっていく後半は、男と女を考えさせる他のアレン映画と違って物足りなさが。しゃーないな、主人公を悩ますものが、この映画にはいっぱい出てくるんだもの。

ジャズピアニストで歌手のダイアナ・クラールのライブを観ながら意気投合する場面は、こっちまでドキドキする素敵な場面。映画には、ビリー・ホリデイの楽曲が数曲セレクトされている。そう言えば友達からビリー・ホリデイのCDをもらってたのがあったよなと思い出したので、今夜は久々に聴いてみようかな。セントラルパークの風景がとにかく素敵。



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