読書日記

いろいろな本のレビュー

中国共産党、その百年 石川禎浩 筑摩選書

2022-04-12 09:43:06 | Weblog
 本書は結党百年を迎えた中国共産党の歴史を描いたのもので、大変面白く読めた。結党時指導を受けたスターリンのソ連共産党(コミンテルン)はすでになく、その後継のプーチン率いるロシアは、ウクライナに侵攻して理不尽な戦争を仕掛けている。共産党国家のなれの果てが、さらなる帝国主義的侵略を企図して西側諸国の反発を招いており、世界は今空前の危機にある。対して親ソの中国はいまのところだんまりを決めて煮え切らない。まあ中国にしてみれば、反西欧の全体主義国家としてそのアイデンティティーを維持するためにはそうたやすくロシアを見捨てることはできないだろう。台湾併合を掲げている手前、今必死に行方を眺めているのだろう。もしプーチンが倒れたら、その衝撃は大きい。習近平は心配で寝付かれないのではないか。

 中国共産党の立役者と言えば毛沢東で、彼の事跡を中心にが書かれているので、わかりやすい。創設当時組織が弱体であったために国民党に付属しながら勢力を伸ばしていったこと。二度目の国共合作で、蒋介石を軟禁した軍閥の首領張学良が敵方の共産党に入党を希望していたこと。これは思想的に共産主義に染まっていたというよりも、共産党員になることで、ソ連からの軍事・経済援助を受けたいという実利目的があったのだが、結局ソ連の反対で実現しなかった。また拘束した蒋介石の命を保証すべしという指令がソ連から張学良に出ていたこと。また孫文夫人の宋慶齢が共産党の秘密党員で、共産党活動の庇護者だったこと。作家の魯迅は共産党員ではなかったが、党との関係は悪くなかった等々、教科書ではわからないことがたくさんあった。

 毛沢東の政治手法は路線闘争というべきもので、これによって反革命を暴き出して打倒していくという手法である。このために会議を頻繁に招集して、記録をきちんと取りこれを毛沢東がチェックするということが行われた。彼は農民の出だが、比較的豊かな家に育ったので、読書するという習慣があり古典にも通じていた。それで、文章を書ける部下を重宝したという。1970年に日中国交回復の調印に時の田中角栄首相が北京に行ったとき、毛沢東は田中首相に『楚辞集註』をプレゼントしたのは有名である。なぜ『楚辞集註』なのか、いまだに謎である。(閑話休題)作者によると「路線」で歴史を語るという毛沢東の思考法は日中戦争の歴史認識にも影響しているという。すなわち、毛沢東の時代には、日本の戦争や侵略の責任が取り立てて強調されなかったが、それは敵方(日本)に対する敵意・憎悪よりも、中国の側が戦争をどう闘ったかの「路線」の方が大きく強調されたせいだということである。実際、毛沢東は日本が戦争を仕掛けてくれたおかげで、共産党は国民党に勝利して権力を握ることができたと言っている。冷厳なリアリストである。

 その「路線」闘争の最悪の結果が「文化大革命」である。すべての旧弊を壊して新しいものを生み出す。「造反有理」の名のもと、紅衛兵が跋扈して大きな悲劇が生まれた。「路線」を強調するあまり、個人の人命が軽視される。これは中国共産党の悪しきDNAである。無謬の共産党が人民を指導する。党に反抗することはご法度。この上意下達の構図が共産党の歴史になっている。ところが昨今のコロナ禍で、地方政府が中央を忖度して実施する都市閉鎖が大きな問題になっている。今、上海は都市封鎖されて人々の生活は脅かされているが、これが失敗すると党の権威は瓦解する。共産党は無敵だがウイルスには負けたということでは洒落にもならない。習近平の喫緊の課題はコロナ対策とウクライナ問題である。それをどう乗り越えるか。目が離せない。自身を毛沢東に擬して終身主席を企んでいるのだから、ここで失敗は許されない。