副題は「インドネシア民主化と地方政治の安定」。インドネシアは人口2億3000万人で世界第四位。世界最大のムスリム人口を有する国家だ。最近ニュースで首都ジャカルタの人口集中を分散するため首都移転を打ち出した。ジョコ・ウイドド大統領の手腕が問われるところだ。そのジョコ大統領は5年前地方政治家から当選して、民主化の定着と安定の象徴として話題になった。しかしその民主化は非民主的な勢力の暴力支配によって安定したという逆説的現象を現地でのフイールドワークによって実証したものである。
スカルノ大統領のあとを襲ったスハルト軍事政権は共産党を解体して成立した。その際、陸軍のみならず、陸軍の支援を受けた社会組織、イスラム組織が共産党員狩りをして、死者は100万ともいわれる。その暴力組織はジャワラと言われる無法者の集団である。
本書に紹介されている、かつてスハルト政権下で共産党員狩りに参加したジャワラの系譜のパンチャシラ青年団の元幹部がその罪を裁かれずに、逆に英雄として日常を平穏に過ごしている中で、「あなたが行なった虐殺をもう一度演じてみませんか?」というキャッチコピーのもと作られた映画「アクト・オブ・キリング」は衝撃的だ。私もこの映画を見たが、そのインタビューの中で、彼は1000人ほど殺したが、血を流さず針金で絞殺する方法を実演していた。しかも彼はこの殺人をまったく悪いと思っておらず、正しい行為だったと自分に言い聞かせている感じだった。
暴力集団が権力側と癒着して人民を支配するというのは、発展途上国によく見られる現象だが、インドネシアも例外ではない。インフオーマルな集団の脅しによって民情が安定するということは統治の不安定な国家においては必要悪の面もあるだろう。インドネシアの場合、地方に行くとこれがかなり浸透している。ジャワラのメンバーは勇敢さ、男らしさを尊び、拳術や呪術に長け、自尊心を傷つけた相手への暴力の行使をためらわず、語り口は粗野であけすけである。
それとこれを補完する存在としてウラマーがある。彼らはコーランへの造詣が深く呪力を持つとされ、イスラム寄宿塾プサントレンを所有しているイスラム指導者である。この二つがインドネシアの地方政治を語る上で欠かせない。
著者はバンテン州におけるジャワラの実相を、ハサン・ソヒブという人物を例にあげて、彼の一族が暴力的言動でいかに政治権力を手に入れて、利権を獲得していくのかを描いている。著者の方法はフイールドワークであるから、実際にジャワラのメンバーと接しなければならない。素人記者が暴力団の事務所にインタビューに行くようなものである。
しかし著者は恐れず飛びこんでいく。地元ジャワラ主宰の交流会で、インドネシア固有のムード歌謡のダントットにあわせて4人の若い女性歌手と舞台で踊る写真を見て、著者の本気度がよくわかった。実力者ハサン・ソヒブは亡くなったが、娘のアトットが州知事になっており、ジャワラの支配は終わらない。
民主主義とはいえ、これだけの民族と言語と島を含んだ国を安定的に治めて行くのは並大抵ではない。今後はジャワラといかに折り合いをつけて安定した政治を行なうのかが、中央政権並びに地方政権の課題だろう。話題の首都移転にはまたジャワラが暗躍するのだろう。
スカルノ大統領のあとを襲ったスハルト軍事政権は共産党を解体して成立した。その際、陸軍のみならず、陸軍の支援を受けた社会組織、イスラム組織が共産党員狩りをして、死者は100万ともいわれる。その暴力組織はジャワラと言われる無法者の集団である。
本書に紹介されている、かつてスハルト政権下で共産党員狩りに参加したジャワラの系譜のパンチャシラ青年団の元幹部がその罪を裁かれずに、逆に英雄として日常を平穏に過ごしている中で、「あなたが行なった虐殺をもう一度演じてみませんか?」というキャッチコピーのもと作られた映画「アクト・オブ・キリング」は衝撃的だ。私もこの映画を見たが、そのインタビューの中で、彼は1000人ほど殺したが、血を流さず針金で絞殺する方法を実演していた。しかも彼はこの殺人をまったく悪いと思っておらず、正しい行為だったと自分に言い聞かせている感じだった。
暴力集団が権力側と癒着して人民を支配するというのは、発展途上国によく見られる現象だが、インドネシアも例外ではない。インフオーマルな集団の脅しによって民情が安定するということは統治の不安定な国家においては必要悪の面もあるだろう。インドネシアの場合、地方に行くとこれがかなり浸透している。ジャワラのメンバーは勇敢さ、男らしさを尊び、拳術や呪術に長け、自尊心を傷つけた相手への暴力の行使をためらわず、語り口は粗野であけすけである。
それとこれを補完する存在としてウラマーがある。彼らはコーランへの造詣が深く呪力を持つとされ、イスラム寄宿塾プサントレンを所有しているイスラム指導者である。この二つがインドネシアの地方政治を語る上で欠かせない。
著者はバンテン州におけるジャワラの実相を、ハサン・ソヒブという人物を例にあげて、彼の一族が暴力的言動でいかに政治権力を手に入れて、利権を獲得していくのかを描いている。著者の方法はフイールドワークであるから、実際にジャワラのメンバーと接しなければならない。素人記者が暴力団の事務所にインタビューに行くようなものである。
しかし著者は恐れず飛びこんでいく。地元ジャワラ主宰の交流会で、インドネシア固有のムード歌謡のダントットにあわせて4人の若い女性歌手と舞台で踊る写真を見て、著者の本気度がよくわかった。実力者ハサン・ソヒブは亡くなったが、娘のアトットが州知事になっており、ジャワラの支配は終わらない。
民主主義とはいえ、これだけの民族と言語と島を含んだ国を安定的に治めて行くのは並大抵ではない。今後はジャワラといかに折り合いをつけて安定した政治を行なうのかが、中央政権並びに地方政権の課題だろう。話題の首都移転にはまたジャワラが暗躍するのだろう。