読書日記

いろいろな本のレビュー

消費増税亡国論 植草一秀 飛鳥新社

2012-08-12 12:14:20 | Weblog
 消費増税法案が参議院を通過して、社会保障と税の一体改革案が可決された。野田首相が政治生命をかけると強調していたものである。本書は元民主党のブレーンで小沢一郎支持者の著者が、増税反対の立場から、野田政権を批判したものである。著者は民主主義を踏みにじる三つの過ちとして以下の三点を挙げている。一、マニフエスト違反の官僚利権(天下り)擁護。二、日本財政が真正危機にあるとの風説の流布。三、社会保障制度改革なき「単なる増税」の推進。小沢派を自任しているだけあって、言っていることは小沢一郎と同じである。野田首相は財務省の操り人形であり、従ってシロアリ退治は不可能。シロアリ退治なき消費税増税はおかしいという一点で、批判の正義は批判者にあるが、マニフエスト違反を承知で不退転の決意でこの法案を通したことは、諸外国向けに財政改革に取り組む姿勢をを見せたことになり、海外の特派員からは好評のようである。内向きの議論も大事だが、外向きのもこれまた重要で、今回の法案成立は案外効果があるかもしれない。
 今後の日本の課題は福島原発の処理問題、沖縄の基地問題、とりわけオスプレイ配置問題。TPP問題。領土問題。(折しも韓国の李大統領が竹島に上陸した。)これらの問題にどう対処するかが注目の的だ。首相がころころ変わるようでは足元を見られることは明白。ここは大同団結で乗り切るしかない。アメリカにしっかり物申すということでなければ、なめられることは明白。野田首相には、アメリカの操り人形と言われないよに頑張ってもらうしかない。自民党もこの辺の事情をよく斟酌すべきで、選挙したら勝てるなどと早計に判断すべきではない。
 著者は以前隠し撮りの容疑で逮捕され、早稲田の教授のポストを棒に振った人物だが、この件については権力側の謀略だと言っている。なかなかすぐには信じがたい話だが、一読して、学者としての才能は発揮されている。どちらかと言うと、権力側にはめられたという、その辺の事情の方が、興味津津だ。

人を殺すとはどういうことか 美達大和 新潮社

2012-08-12 11:29:29 | Weblog
 前掲『刑務所で死ぬということ』での疑問点は次の二点であった。①無期懲役囚がどうして本を出版出来たのか。②二件の殺人事件はどのようにして行なわれたのか。
 ①については、本書の前書きに、著者自身から出版社宛てに直接原稿が送られてきたと書かれている。新潮社が出版に値すると判断したのだろう。②については著者が暴力団に居た頃の犯罪だと自身で説明している。借金の取り立て等の中で、被害者との軋轢が殺人に発展した模様。二人は同時にではなく、時間差がある。それにしても二人を殺すとは重大犯罪で、本人は死刑を覚悟していたようだが、幸か不幸か無期懲役になり、現在に至っている。
 出自についての言及があり、著者によれば父は韓国人、母が日本人で、父は粗暴な性格ながら商売を手広くやって、幼少期は非常に恵まれた経済状況の中で育ち、学校の成績もよかった。読書をする習慣はその頃からあったようだ。その後、父が愛人を作って家を出た頃から商売も斜陽になり、著者自身の転落も始まった。
 本書は『刑務所で死ぬということ』の前に書かれたもので、内容に共通する部分もあるが、囚人たちの無反省ぶりがここでも強調されている。著者本人は真摯に罪を反省しているようだが、そういう人間は殆ど存在しないと書かれている。最近の裁判の判決で、できるだけ長く刑務所においておいた方がいいという判断で、検察の求刑よりも重い判決が出ることがあるが、これに対して被告の人権無視という抗議が起こっている。著者によれば、出所しても再犯で帰ってくるものが殆どだという証言もこの際、しっかり考える必要がある。
 人間の悪なる部分を真に矯正できるのかどうか、なかなか難しい問題だ。後半、著者が房内の囚人にインタビューを行なっているが、なかなか面白い。ヤクザでも最近は堅気に迷惑をかけないという任侠道を実践している者は珍しいことがわかる。これは一般人の最近のレベルを見れば、ある程度予測がつく。
 最近、二名の死刑囚が死刑を執行されたというニュースが流れた。滝法務大臣の命令である。生前、一人はできれば生きて償いをしたいと言い、一人は死刑囚の精神的不安感は並大抵ではないので、そこが苦しいというコメントをしていた。絞首刑の残酷さを改めるべきだという議論もある。死刑については課題が山積している。