読書日記

いろいろな本のレビュー

鷹と将軍 岡崎寛徳 講談社選書メチエ

2009-07-04 09:22:43 | Weblog

鷹と将軍 岡崎寛徳 講談社選書メチエ



 鷹狩は洋の東西を問わず、王侯貴族の遊びとして存在してきたが、本書は江戸時代の鷹狩に焦点を合わせて、鷹の贈答システムを分析したもの。将軍が鷹を家臣に与えることは家臣にとって非常に名誉なことであって、一部の大名しかその恩恵に与れなかった。鷹を下賜された大名は幕府の傘下に入ったようなもので、反逆の疑心暗鬼から逃れられたということになる。その反面、頂戴した鷹の管理が大変であった。疎略に扱って死なせたりしたら逆に罰を受けることにもなりかねない。そのような例は本書では紹介していないが、かなり多くあったのではないか。
 家康は鷹狩が趣味で、鷹狩三昧の日々を送った。その後綱吉は「生類哀れみの令」で鷹狩を廃止した。お犬様と言われた人だ。鷹狩に使われる犬をお役御免にしたため、狩りができなくなったということだが、このお触書には別の側面もあった。狩りの禁止はそこで使用する鉄砲の使用禁止も意味しており、いわば刀・鉄砲狩りで、非常に大きな政治的意味があったのだ。このことは本書の記述には無いが、大事な点である。その後、吉宗は家康回帰で鷹狩を復活させた。
 そうした将軍たちへの鷹の献上・拝領、大名間の贈答という形で鷹が全国を飛び回った。それは幕府によって張り巡らされたネットワークがあったからであり、三鷹・鴻巣・御殿山など、その名残は全国に散見する。鷹は権威と忠誠のシンボルであり、徳川幕府は鷹狩によって大名支配を文化的な側面で強化したのであった。
 ものを与えるという行為はもらう側の心理を無条件に弛緩させる効果がある。ものをもらうと嬉しいものだ。兼好法師も、友とするによき人の中で、「ものくるる友」と言っている。鷹のスタイル・勇猛性は武士社会のシンボルとしてこれに優るものはない。まさにワン・アンド・オンリーのシンボルとい言える。これを下賜されたときの喜びはいかばかりだっただろうか。最近の政治家はこのものを与えて喜ばすという発想がない。国があるいは地方がささくれ立つ原因はここにある。歴史を学ぶ姿勢が為政者には必須である。