読書日記

いろいろな本のレビュー

大韓民国の物語 李榮薫 文藝春秋

2009-06-27 09:25:39 | Weblog

大韓民国の物語 李榮薫 文藝春秋



 韓国の事大主義とそれに伴う小国意識はつとに有名だが、それは時としてナショナリズムの嵐となって表面化する。その韓国の歴史教科書について、批判したのが本書である。現役のソウル大学教授であることが、韓国内に衝撃を与え、猛攻撃を受けた。国賊扱いされたものと思われる。しかし、著者は『朝鮮後期土地所有の基本構造と農民経営』『朝鮮土地調査事業の研究』等、実証主義の経済学者であり、張ったりとは無縁の人物である。自国可愛さのあまり、批判に対して過剰反応するのは韓国の通弊だが、それをものともせず出版したというのは、学者の良心の発露であり、真に国を思う憂国の志士である。
 韓国の歴史教科書の一番の問題点は「近現代史」である。自ら勝ち取った独立ではないという引け目が、解放者である連合軍に対する非難となって描かれる。曰く「直接、我々に光復をもたらしたのは連合軍の勝利だった。連合軍が勝利した結果として光復がもたらされたことは、我が民族が望む方向に新しい国家を建設するのに際し障害となった」と。これは即ち、連合軍による解放が、新しい国家の建設に障害となったということである。著者は言う、「これはいったい何たるお話でしょうか。私はこのような愚にもつかない主張が、政府の検定を通過した教科書に堂々と載せられていることを見ると、率直に言って韓国にもやはり北朝鮮にひけをとらない偽善の知性が跋扈していると考えます」と。まさに正鵠を得た表現で、同感である。日本の教科書の歴史認識は誤っていると批判できる立場にいまだ至らないという感じだ。
 成熟した民主主義国には程遠い苛立ちが、連合国、日本に対する批判として噴出するが、その典型的なものが、「日帝強占下反民族行為真相糾明に関する特別法」である。60年以上も前の親日派を調べ上げ、法律によって彼らの名前を公表しようとするもので、なんとも気の遠くなるような話だが、韓国は真面目にしっかりとやろうとしているのだ。死者の墓を暴いて遺骨を白日のもとに晒そうというすごい法律だ。遺骨も風化した可能性の方が高いのに、この執念。この特別法の「提案理由」に次のようなくだりがある。(著者引用)
 我が国が解放されてから半世紀が過ぎようとしているのに、当時の日本帝国主義に協力した者達が犯した反民族行為に関する真相を明らかにしようとする努力や、実質的な調査が不完全だったため、この間において我が社会の正義というものが翳り、また歪曲された歴史が是正されないなど、多くの弊害が存在しているため云々
 著者はこれについて「死者の亡霊が歴史と宗教の形態で生者を支配しているという、前近代的な思考方式に他ならない」と一刀両断にしている。責任を他者になすりつけるという心性は、事大主義と裏腹の小国意識が悪い形で出たものに他ならない。自国の歴史を客観的に見て、冷静に政治的施策に反映させることが急務だ。贔屓の引き倒しになってはいけない。日本もこれを「他山の石」とすべきだろう。