読書日記

いろいろな本のレビュー

〈宗教化〉する現代思想 仲正昌樹 光文社新書

2008-07-24 10:40:27 | Weblog

〈宗教化〉する現代思想 仲正昌樹 光文社新書


 著者はかつて十一年間統一教会に入信した経験があり、現在は金沢大学教授。統一教会といえば、文鮮明を教祖とするキリスト教の一派で、信者の合同結婚式は有名。もとアイドルの桜田淳子もこれで話題になった。本書の眼目は、現代日本の思想界が擬似宗教化していることを批判するもので、統一教会信者の体験が役立っている。ご承知の通り、統一教会は反共産主義を標榜しており、勢いマルクス・レーニン主義批判という形態をとる。敵の思想を徹底的に研究して批判するという体験が本書にも随所に現れる。精神と物質の二元論のあいまいさ、真理を追究するというが、真理はアプリオリなものとして存在するのか、等々。宗教、特にキリスト教における、告白と共感と回心というプロセスは左翼思想集団にも共通して存在するという指摘は興味深い。思想を信奉するということは、宗教を信じることと似通ったメンタリティを持つことはよく理解できる。
 本書では現代思想に特に強い影響を与えたハイデガー、アーレント、デリダなどの論考が披瀝されているが、これがなかなか面白い。特にアーレントの「革命について」(1963)を引用して、ロベスピエール等のフランス革命の指導者たちがルソーの自然状態論の影響を受けて「哀れみ」という感情的な要素を「政治」の中に持ち込んだことが、大量虐殺の「恐怖政治」が引き起こされた原因だと指摘している。「哀れみ」が「同情しない人」の殺害を正当化する逆説が生まれてきた。「哀れみ」の政治の人たちは、自分たちの人類浄化計画を遂行し切れば、「歴史」が進歩し(「自然状態」のように)ピユアな人たちだけからなる理想の共同体が出来上がると信じているので、少々の暴力を行使することも許されると思ってしまうというのはジェノサイドのメカニズムの一面を言い当てていて興味深い。政治が宗教化するときに悲劇がおこる可能性がある。